book(2001)


インストール

(綿矢りさ)
最年少の17歳で第38回文藝賞を受賞した作品です。「17歳の女子高生と12歳の小学生が風俗チャットでひと儲け、押入れのコンピューターからふたりが覗いた”オトナの世界”とは・・・」というものです。
もちろん17歳の才能にはビックリしますが、今時の高校生の方が私なんかよりはるかに世の中のことを知っているのにショックを受けました。なかなかのものです。
「(小学生の継母親に対して)・・・でも悪気はないにしろ、この派手なブラジャーに苦しめられて逆上、幼いながらエロの世界に足を踏み入れた人だっているのだから無神経にこんなブラをつけてはいけない。やぱっり、不器用は罪なのだ。同情という言葉で彼らに甘えて、安心してはいけないと思った。・・」
冷静と情熱のあいだ・Blu
(辻仁成)
「海峡の光」で芥川賞を受賞した辻仁成です。舞台は東京からミラノ、フィレンツェへと。
”あのとき交わした、たわいもない約束。十年経った今、君はまだ覚えているだろうか”男の視点から描かれています。
「その人は・・・夏の光は、永遠ではなく儚い、そしてどうしてこんなに臆面もなく無垢でいられるのか。夏が来るたび、その明るさに目のやりばを失い、つい日陰を歩いてしまう。それがぼくのこれまでの生き方だった」

「彼女とはそういう人だった。冷静の中に情熱を押し隠して持ち歩いているような・・・」
「次から次に人は出会っていく。そして次から次に人は別れていく。裏切り、卒業、転校、旅立ち、死別。その理由はいくらでも挙げられるが、人間は別れるために生まれてきたようなもの。・・でも・・・・」感動のラストへ・・・
冷静と情熱のあいだ・Rosso
(江國香織)
同じタイトルの違う作家による二冊の本の一冊です。今映画で評判ですが、江國香織が女性側、辻仁成が男の側から書いて二冊で一つの小説になっています。
”どんな恋も、一人の持ち分は二分の一である・・・”これはあおい(彼女)の物語です。あおいとあおいの人生の。そして、恋に関する限り、すべての半分の物語です。あとの半分、あおいの知らない順正
(彼・じゅんせい)と、あおいの知らないあおい自身とが別な小説に閉じこめられています。(作者のあとがきより)
「十年前の雨の日に、失ってしまった何よりも大事な人、順正。・・・けれど今はこの想いすら届かない」永遠に忘れられない恋を女性に視点で描いています。切ない珠玉のラブストーリー。
プラトニック・セックス

(飯島愛)
Tバックで一世を風靡した飯島愛のいわゆる暴露本です。中学生の頃から非行に走り、家出と補導を繰り返し14歳で家を飛び出し9年間家族とも音信不通。墜ちてAVビデオ女優に・・・。ホントにこんな人生もあるんだな〜(?)と思いますが、読んだ人の感じ方と思います。(TV、映画にも)
「人は、寂しかったりすると、誰かに重心をあずけて寄りかかりたくなる。この人だったら一生優しくしてくれる。この人といたら寂しくならない」「お母さんが私を生んだ年になって、初めてわかった」。母の日記から「止めようとする私に”てめえ、どけっていってるのが、わからねえのかよ!ぶっ殺すぞ”と机の上に足をのせてゆするようにする。殺されることなど何も恐くない私は”殺したかったら殺しなさい”と答える。本当にこの子が自分の育てた子だと思うと、残念」「これからはあの子自身が自分の進路、大切な人生の進路を決めるでしょう。墜ちてしまう人生も自分が選んだ道だ」
ミスキャスト

(林真理子)
「一回離婚して再婚したのに、女房以外の女とまた深い関係になった。その女のために彼はもう一度家庭を捨てようとしている。しかも女房は妊娠中だというのに・・・・」と、こういうサイテーの男が主人公です。
読みながら女性だからこんな物語が書けるのかな〜と思ったりもしました。作者は”男も女も結婚したあと、この相手は違うと後悔する瞬間があるはず。失敗を恐れず再婚した人間のその先を描いてみました”と言っていますが、あまりしっくりくる物語ではありません。
「男って言うのは、いや、女もそうだろうけど、この夫は違う、この妻は違うじゃないかってしょっちゅう後悔している。ちょうど芝居の中で、ミスキャストに気付いたようなもんさ。・・・・」主人公の吐くセリフですが男のご都合主義満載です。
オー・マイ・ガアッ!

(浅田次郎)
Oh, My God!のことです。舞台はラスベガス。日本史上最大のお気楽男・大前剛(オオマエゴウ)47歳。元キャリア・ウーマン、現ラスベガスのコール・ガール梶野理沙32歳。ベトナム戦争末期の鬼軍曹・今は飲んだくれの退役軍人ジョン・キングスレイ・・・の3人がスロットマシンで史上最高のジャック・ポットを出した!だが・・・。謎の老婆に若き石油王、元マフィア父子にヒットマンetc.人生はルーレットのごとく回転します。
”勇気百倍正調喜劇”と謳いながら、どうしてどうして笑いと涙の中に人生、政治、民族問題などなど盛りだくさんです。
「ラスベガスに女房を帯同するのは愚の骨頂といえる。なぜならば、女房こそわれらが内なる富国強兵思想の権化であり、”遊びは罪悪・勤労は美徳”というスローガンを掲げる、日常と常識の化け物だからである」  
ラスベガスに行きたい!
時の渚


(笹本稜平)
サントリーミステリー大賞と読者賞のダブル受賞です。選考委員に浅田次郎、藤原伊織、林真理子など好きな作家が並んでいます。だから買ったというわけではありませんが面白かったです。
元刑事の私立探偵茜沢は死期迫る老人から、昔生き別れになった息子を探し出すよう依頼される。しかし、その中で明らかになる”血”の因縁・・。ラストは意外な結末。「私立探偵」「人探し」というテーマはもはやハンディでしかないと選考委員の評にあったがそれを楽々とクリアーしています。
「都会の人間て他人に対して無関心だとか、自己中心だとかよく言われるでしょ。でもそれって、きっと身を守るための殻なんですよ。その殻を取り外しちゃうと魂が圧力に押し潰されちゃう。孤独という殻が都会で生きてる人間の魂を守っている」
センセイの鞄

(川上弘美)
「ここ数年来、こんな素敵な小説を読んだことがない」と書評にあった。ホントに素敵な小説でした。
四十歳前の独身女性ツキコさんと、高校時代の国語の教師だったセンセイとの淡い恋を描いたこの小説、谷崎賞を受賞しています。以前この人の小説で芥川賞をもらった「蛇を踏む」を読んだときはあまりよく解らなかったけど今回はまったく違います。淡々と語られていく中に「はかない」「せつない」といった感じが胸を打ちます。
十数年ぶりに再会した二人(年齢差は30歳以上)、キノコ狩りや花見に出かけ、島を旅し、酒の杯を重ねるごとに頑固で堅物のはずの二人の距離が緩やかに縮まり、やがてセンセイは言う「ツキコさん、デートをいたしましょう」。舞台は絵空事なのに、微妙な心の動きが描かれて、目をそらすことができません。
 「川上弘美の最高傑作」とも・・・。
ハリー・ポッターとアズカバンの囚人
(J.K.ローリング)
第三巻です。どうしようかなと思いながら買ってしまいました、このシリーズは以前にも紹介しましたが一年に一冊出版さ
れて七卷で完結予定です。しかも巻を追う毎にページ数が増えていきます。「子供の本としては長すぎる。子供は長編は
読まない」といわれたそうですが、その常識をすべて覆したとのことです。
今回、ハリーポッター13歳。「脱獄不能のアズカバンから脱走した囚人がハリーの命を狙っているという。新任のルーピ
ン先生を迎えたホグワーツ校で、ハリーは魔法使いとしても、人間としてもひとまわりたくましく成長していく」。
ハリーは烈しさと、やさしさと、思慮深さを備えた少年になっていきます。後半になって面白くなります。

「ハリーポッター友の会」のホームページです(覗いてみてください)。 http://www.harrypotterfan.net   
勇気凛々ルリの色・福音について
(浅田次郎)
人生に疲れたら(?)この痛快エッセイを読むことにしている。シリーズ第三弾です。以前”四十肩と恋愛”を紹介しました。
「週刊現代」に1994年9月から連載されたものをまとめてあります。次の第四弾(満天の星)が1998年までという息の
長いエッセイ集です。
この仕事を引き受けたとき「私は小説家と自称することすら憚られるほどの、全くの無名の物書きであった。・・・この連載
エッセイは、無名の物書きが小説家になるまでのサクセス・レポートにしよう」と考えたとのこと。
相変わらず、筆の運びは冴えています。人の喜怒哀楽を、ときに格調高く(?)そしてときに下品に綴った記録。他人の弱
点を笑い飛ばし、自らの身を嘆息したり。
50編のエッセイが詰まっています。
R.P.G.

(宮部みゆき)
「R.P.G.」ロール・プレーイング、ゲームのことです。単行本にするには少し枚数が短く、中短編集に入れるには独立性が強すぎて収まりが悪いとのことで、初の書き下ろし文庫となったそうです。
ネット上の疑似家族の「お父さん」が殺された・・・。というところから物語は始まります。面白い!
主人公の刑事に「模倣犯」の武上刑事、「クロスファイヤー」の石津ちか子刑事というのもなかなか魅力があります。
「ネット上のお父さんが殺された三日前に絞殺された若い女性と遺留品が共通している。合同捜査の過程で出会った二人の刑事が事件の謎を追う・・・。」 これからの展開ががなかなかユニーク!
まるで舞台劇を見ているような設定の中、物語は進んでいきます。宮部みゆきのすごさに感心します。
白い犬とワルツを

(テリー・ケイ)
これはアメリカの小説です。妻を亡くした八十一歳の老人が不思議な「白い犬」を相手に余生を生き抜き、ついに自らも癌に倒れるまでの心意気を描いた、さわやかな物語です。
アメリカでTVドラマ化され、日本でもNHKで1995年に放映されたとのことですが知りませんでした。
「妻の死後どこからともなく現れた白い犬と・・・。しかし犬は老人サム以外の人間の前にはなかなか姿も見せず、声も立てない。」 真実の愛(家族愛、人間愛・・・)の姿を美しくホントにさわやかに描いています。
キャッチフレーズ”あなたには白い犬が見えますか?”

善意と誠実とに満ちた大人のメルヘンといえます。「白い犬」が見えるような生涯を送りましょう。
王妃の館
(浅田次郎)
上・下
浅田次郎、久しぶりの長編です。ベルサイユ、パリを舞台にルイ十四世時代のお話しと現代・日本人観光ツアーの一行が繰り広げるドタバタ劇とが奇妙なバランスで書かれています。
「倒産寸前の旅行会社が企てたとんでもないプラン。150万円の贅沢三昧ツアーと19万8千円の格安ツアー人生の”光”と”影”ともいうべき二つのツアー客を、パリの超高級ホテル「王妃の館」に同宿させる<料金二重取り>プランだった」
浅田次郎がパリという町に感じたものが、私のほんのちょっぴりのパリ体験と重なる部分に感動しました。
「何だって新しいものがいい、とりわけアメリカ文化はすばらしい、そういう物の考え方はよくないと思った。少なくとも二千年かけてこしらえてきた日本の常識を、たった五十年か六十年でくつがえしてしまうのは罪ですよ。むろんまちがいですよ」
もちろん人情もの「愛されようとするな。愛するのだ」「世の中ってね・・・不幸のかたちはどれもべつべつなの・・」

証拠死体
(P.コーンウェル)
久しぶりの外国・ミステリーものです。パトリシア・コーンウェル「検死官」シリーズに第二弾。前作が面白かったので何となく手にしました。もちろん謎に挑戦するのは、お馴染み女性検死局長ケイ・スカーペッタ。
前作同様綿密な科学捜査の実体が克明に描かれている。殺害現場や被害者の体から採取された、微細な証拠類が犯罪科学研究所に持ち込まれ一つ一つ分析されていくというもの。著者は警察担当記者、バージニア州検察局のコンピュタープログラマーの経歴をもつだけあって真に迫っています。
物語は「美貌の人気女女流作家がリッチモンドの自宅で殺される。彼女は数ヶ月前から何者かに脅迫されキイ・ウエストに逃げていた。そして帰ったその夜に襲われたのだ。脅迫におびえ用心深くなっていた彼女がなぜ犯人を家に入れたのか」
陰陽師

(夢枕獏)
「おんみょうじ」と読みます。わかりやすく言うなら、占い師または幻術師、拝み屋。方位も観れば、幻術を使ったりもする。
平安時代。闇が闇として残り、人も、鬼も、もののけも、同じ都の暗がりの中に、息をひそめて一緒に住んでいた。安倍晴明(あべのせいめい)・陰陽師。死霊や生霊、鬼などの妖しのものを相手に、親友の源博雅と力を合わせこの世ならぬ不可思議な難事件に挑んでいきます。
「春も、夏も、秋も、同じように草におおわれているだけの庭のように見えるがその季節その季節で、違う。季節によって、目立つ草、目立たぬ草がある。・・・すでに散ってどこにあったかわからなくなった花、かわりにそれまでどこにあったかわからなかったような花が見えてくる・・」
。   夢枕獏の代表作。NHK/BSでTV化、それとこの秋東宝で映画化されます。
龍は眠る

(宮部みゆき)
1992年、日本推理作家協会賞・受賞作品です。文庫ですので既に読んでいる人もいると思いますが面白いです。
スティーブン・キングのような作品を書きたいといっていた、宮部作品!超常能力者の少年を軸に物語は展開します。
「嵐の夜に、高校生と出会うところから始まる。彼は通常の人には見えないものを読み取る能力が備わっていると・。他人が考えていることや過去の記憶のみならず、物に存在する記憶すらわかるという・。やがて大きな事件につながっていく」
”事故や、病気や、あるいはただ歳をとっていくだけでも人は弱くなる。生きていく上でさまざまな支えを必要とするようになる・。電気仕掛けで卵を泡立てる機械を作れる国なのだから、なぜ、もっと、本当に<便利さを必要としている>人間のためになるように、その技術を生かすことを考えないのか・・。”
 ホラー・ファンタジーの中にもやさしさいっぱいです。
長い腕

(川崎草志)
作者は、京都大学理学部動物学科卒、セガ、三菱電機を経て現在ゲーム制作会社勤務。このような経歴の人が書いた本作品が第21回横溝正史ミステリー大賞を受賞しています。
?と思いながら買いました。物語は「東京近郊のゲーム制作会社で起こった転落心中事件と、四国の田舎町で発生した女子中学生による猟銃射殺事件。一見無関係に思える二つの事件には、驚くべき共通点が隠されていた。閉塞状況から生まれる精神的な歪みと、人間の深層心理に影響を及ぼす物質的(建築物)な歪み。そこから新たな恐怖が・・・」
コンピュターや、インターネットを初めとする現代的な道具立ての中に、ドロドロした横溝正史の世界が繰り広げられます。
小説の完成度としては何となく荒削りの感じがしますが、コンピュターゲームと推理小説の好きな人は必読です。
バターはどこへ溶けた?
(D・リップルウッド)
やっぱり読んだか、と思わないでください。「チーズはどこへ消えたか?」のパロディかそうでないかは読んだ人の感想。
「チーズは・・・」が”変化に対応できたら人生が変わる”といって走らされたのに対してこちらは”走るのに、いや、走らされるのに疲れたら、休めばいいのである。時間を気にせずにゆっくり眠って、晴れていたら鳥の声で目をさまし、雨だったら雨音で目をさまし、新聞も読まず、テレビも見ず何もしないでいるといい。”というお話。
「ほんとうの宝は、勝ち取るものではない出会うものなのだ」
「かけがえのないもの・・ ほんとうにつらいときに、 なにもなくなったときに、 だれもいなくなったときに、 心に浮かぶあたたかいもの」などなど・・    あなたは、チーズ派それともバター派?  
片想い

(東野圭吾)
以前紹介した「白夜行」の東野圭吾の作品です。作家というのはいろんなアイデアを持っているものと感心します。
今回は、性同一障害がテーマになっています。”片想い”も男が女を、女が男を想うのとは意味が違います。
「帝都大アメフト部のOB西脇哲朗は十年ぶりにかつての女子マネージャー日浦美月に再会し、ある「秘密」を告白される・・・・。過ぎ去った青春の日々を裏切るまいとする仲間達を描くミステリー」とある。
”・・・悲しいことに今の社会は、男はこうあるもの、女はこうあるものという決め事に満ちています。姿形にしてもね。・・・”

”俺にとって、あいつは女なんだ。あの頃も、そして今も。”
ラストは、何となく切ないですが、面白いです。
十二番目の天使
(オグ・マンディーノ)
「毎日、毎日、あらゆる面で、僕はどんどん良くなっている!」 「あきらめるな!あきらめるな!絶対!絶対!あきらめるな!」。”この世でもっとも多くの読者を持つ人生哲学書作家”といわれているオグ・マンディーノの作品ですが「人生とはこう生きるべきだ」と決して述べているのではありません。こんなに泣けた本は久しぶりです。
物語は絶頂期にある一人の男が最愛の妻と息子を交通事故で亡くし、自殺を考えるところから始まります・・・次第に小さな少年との心温まる物語として展開していきます。
書評に「この感動的な作品を通じて、彼は私達に、人生とは、自分に与えられているものがどんなものであれ、それを用いて精一杯生きるためのものである、ということを教えている」とある。読み終えたときに心がサーッと洗われるような本です。
上海ベイビー

(衛慧)
ウェイホェイ、1973年中国生まれの女流作家。ポルノか新人類文学か?中国で発禁処分を受けた問題作とあった。
正直言ってなぜ発禁処分を受けたかよくわかわからなかったが、あとがきには「奔放な性やドラッグを描いているからではなく、ヒロインがとても自己愛が強く、我が儘だからということもあるからだろう」と書いていた。私は
この程度の性描写や風俗に今更何をと思いましたけど、お国の違いでしょうか。映画化の話もあるそうです。
それより、作者がたくさん本を読み映画が大好きなためあまりにいろんな事を網羅しすぎている感じがしました。
「ココは25歳の大卒。ウエートレスのかたわら小説を書いている。同棲中の恋人とのセックスはうまくいかず、自分の生き方を自問自答しつつ上海の夜を彷徨う。あるパーティーで会った妻子あるドイツ人と結ばれ、激しく満たされていくが・・」
模倣犯

(宮部みゆき)
上・下
イヤーすごく長かった!「天国への階段」も長いと思ったのに丁度2倍の量でした、ハードカバー1400ページ余(2段組)。
3週間かかって読み終えましたが下巻には1週間もかかりませんでした。週刊誌に3年あまり連載のあと加筆改稿に2年を費やし5年がかりの仕事だったとの作者の話がありました。
物語は「公園のゴミ箱から発見された女性の右腕。それは”人間狩り”という快楽に憑かれた犯人からのメッセージだった・・・」という出だし。一つの事件の中に、人を殺す者、殺される人、被害者の家族、警察、マスコミ、野次馬など・・・今の世の中が全て詰まっています。  「嘘をつくのは易しい。難しいのは嘘をついたことを覚えておくことだ・・・」
今、浅田次郎の次に好きな宮部みゆきです。宮部ワールド花盛りといった小説です。
歩兵の本領

(浅田次郎)
先日サインをもらった本です、楽しんでゆっくり読もうと思ったのにあっという間に読み終えてしまいました。
「つれづれ日記」でも紹介しましたが、「世界一奇妙な軍隊ー自衛隊。だが、この心地よさは、いったい何なのだろう。」
何も自衛隊(軍隊)を奨励する話ではありません。今の時代私達が失ったもの・男の生き方といったものが雄々しく時には切なく描かれています。
1970年当時の自衛隊を舞台に若者達の生き方が九つの短編にまとめてあります。
「勇気を持たねばならないと思った。(教えられたものは)・・・勇気を出せ。元気のまちがいではない。勇気を出せと・・・」
「変わりゆく時代の中で、反動と呼ばれようが偏屈ものと罵られようが、かつて軍人であった誇りを捨ててはならなっかた」
山の郵便配達

(彭見明)
先日「おまけのページ」紹介した中国の作家・ポン・ヂェンミンのさわやかの短編集です。
「山の郵便配達」「沢国(たんこく)」「南を避ける」「過ぎし日は語らず」「愛情」「振り返って見れば」の六編です。
「山の郵便配達」は数々の賞を受賞し映画も中国アカデミ賞を受賞している作品です。
”山をゆく、川を渡る。歩いて、さらに山を越える。愛犬だけをお供に、数日がかりで重い郵袋を背に村から村へと手紙を届けてきた老郵便配達。彼にも引退の時が来て、初めて息子をつれて最後の旅に出る。・・・美しい自然の中、仕事と人生と親子の愛情の深さをしみじみ伝える感動の道行きです”
極端な刺激はないが読み終えてぐっと感動が拡がります。「ここには懐かしい、日本人の原風景がある」
天国への階段

(白川道)
上・下
ハードカバー上下2冊、800ページに及ぶ長い小説です。「永遠の仔」を出した”幻冬舎”の創立七周年記念特別作品!
帯封に”飢えればこそ、愛を信じた者たちの奇蹟をを描く現代版<レ・ミゼラブル>”とある。
物語は「26年前、北の大地に蒔かれた悲劇の種子。家業の牧場をだまし取られ非業の死を遂げた父、最愛の女性にも裏切られ孤独と絶望だけを抱え19才の夏に上京・・・。罪を礎に巨大な財力を築き上げ政財界注目の若き実業家となっていく。しかし、運命の歯車が狂い、ひとりひとりの人生が軋み出す・・。退職間際のひとりの刑事が執念の捜査を開始。」
悲しき情愛の小説です、その中に描かれる”人間の救いとは?罪とは?”長くちょっと重いけど一気に読ませてくれます。
幻冬舎の社長が「買わなくてもいいから読んで欲しい」と言った本です。
焚火の終わり

(宮本輝)
上・下
宮本輝といえば「泥の河」「螢川」「道頓堀川」など知っている人は多いと思います。久しぶりに読んだ宮本作品です。
独特の雰囲気があります、切なさの中に人を想うやさしさがあり読み終わったとき何とも言えない感情が残ります。
兄と妹の近親相姦、男同士の愛など微妙な愛の形をテーマとしているがいやらしさはない。
「島根県の岬の町に住む美花と茂樹は異母兄妹である。しかし、父が死に母も祖母も死んだとき自分たちの出生の秘密は・・・。茂樹の母の残したノートの謎のメモ、美花の家に残された1枚の写真。本当に自分たちは兄妹なのだろうか?二人はいつしか一線を越えてしまう。」
日本のすばらしい風景の中に描かれる愛の物語です。
ハンニバル

(トマス・ハリス)
上・下
「羊たちの沈黙」から7年・・・、怪物レクター博士が帰ってきた。FBI捜査官となったクラリスとの戦いは?
小説の出だしがいい「クラリス・スターリングのマスタングは、轟音と共にマサチューセッツ・アヴェニューに面したATF本部への進入路を駆け上がった」、まさに映画を観ているようなこのシーンにわくわくしながら物語は始まります。
前作は凶悪な連続殺人犯をFBIが追いつめるといストーリーだったが今回は復習劇のサスペンスとなっている。
二つの悪が対決する壮絶な戦い、期待通りの面白さです。でも、映画になったら恐いだろな〜〜。

映画は4月に公開されますがクラリス役のジョディ・フォスターはあまりのすごさにこの役を辞退したとか。レクターはもちろんアンソニー・ホプキンスです。 果たしてアカデミー賞五部門を受賞した前作を超えられるでしょうか?
チーズはどこへ消えた?
(S・ジョンソン)
”この物語があなたの人生を変える!”全米で2年間にわたってベストセラー・トップを独走・・だって。
「新しい方向に進めば新しいチーズが見つかる」この物語に登場するのは、2匹のネズミと2人の小人。彼らは迷路の中に住み、チーズを探します。えっ、何!。と思われるでしょう。一言でいうと、変化に対応できたら人生が変わるというお話し。
”変化に早く対応すること。遅れれば適応できなくなるかもしれない。最大の障害は自分自身の中にある。自分が変わらなければ好転しない・・・。”
※変化は起きる!変化を予期せよ!変化を探知せよ!変化にすばやく適応せよ!変わろう!変化を楽しもう!進んですばやく変わり再びそれを楽しもう!  やさしいけど難しいのかな?100ページ足らずの本です。
姫椿


(浅田次郎)
浅田次郎最新刊!ペットに死なれた独身OL、不況で自殺を考える経営者、妻に先立たれた大学助教授・・・・凍てついた心を抱える人々に、冬の公園の日だまりにも似た微かなぬくもり。魂をゆさぶる八編。と帯封にあった。
まさに浅田次郎ワールドです、読んでいて胸が苦しくなるくらいの切なさの中にやさしさがにじんできます。
「不幸は自分を泣かせなかったのに、幸福が涙を流させるなんておかしいと思った」
「不器用な大工って最悪なんだぜ。病弱な医者とかよ、ブスのモデルとかよ、口下手なアナウンサーとかよ、陽気な葬儀屋とかよ、ともかく、いくら努力したってだめなんだ」
”忘れないで誰かがあなたを見守っている”人間のホントのやさしさを味わってください。
みんな山が大好きだった
(山際淳司)
「なぜ山に登るのか?そこに山があるからだ」エベレストに消えたマロリーの言葉。
加藤保男、森田勝、長谷川恒夫、ロジェ・デュプラ、芳野満彦、松濤明、加藤文太郎などなど
尖鋭的アルピニストがどうして山に消えたか・・・。”もしかある日、おれが 山で死んだら・・・”というデュプラの詩、”山はロマンチストでなければ上れません”と言った松濤明。彼らはきわどい吊り橋を渡るように雪煙を求めて氷壁に立ち向かっていった。
彼らの生きざま死にざまが読む人にホントの人生を教えてくれる気がします、かといって堅苦しい本ではありません。
何日もかけて岩場にとりついているときのウンコのしかたなど・・・ために(?)なる話もあります。
また、以前紹介した「神々の山頂」をドキュメントで見るような面白さもあります。
脳男


(首藤瓜於)
作者の名前は「しゅどう・うりお」と読みます。始めて聞く名前だという人が多いと思います、私も始めて読みました。
変なタイトルで内容も”オヤッ!”という感じですがなかなか面白かった。
第46回(2000年度)江戸川乱歩賞受賞作で、ある本では本年度ミステリー部門の第一位になっていました。
「連続爆弾魔のアジトで見つかった心を持たない男。謎だらけの存在が犯人を追いつめパニックが加速していく・・・。」 これ以上の内容は書きにくい。選考委員の一人は”この作者にはテーマを追求する粘着力と、ストーリーテリングの才能が過不足なく備わっている”と言っています。
主人公の生い立ちから人間形成の面白さ!作家っていろんなことを考えつくものとびっくりします(上智大・法卒)。
Mr.
クイン

(シェイマス・スミス)
「このミステリーがすごい!2001年版」の海外編第2位。
犯罪小説の世界に、またひとり、魅力的な悪のヒーローが登場したーー。とんでも無い!血みどろのサイコスリラーではありません。でも、読んでいてむかつくこと甚だしい。そもそも、憎めない悪党や魅力的な悪党というのは悪いことはしないーあるいは極悪人でも、弱いものいじめはしない、というのが必要条件だろうが、この悪のヒーローはその一線を軽々と越えている。「麻薬王のブレーンとして完璧な犯罪を立てる・・・犯罪を売るだけ、実行はしない。今度の仕事は大物だった。裕福な不動産業者の一家を事故に見せかけて殺し、全財産を乗っ取るのだ。全ては順調だった。義理の姉の新聞記者に尻尾をつかまれそうになるまでは・・・・。」   すごく面白いけど、やっぱり勧善懲悪がいい。
ライディング・ザ・ブレット
(S・キング)
この本は、e-Booksと呼ばれる電子出版のみでインターネット経由で発売され、3日たらずで50万部以上ダウンロードされたそうです。書籍での翻訳出版ができたのは日本、ドイツ、イタリア、オランダのみとのことです。
母親が急病で倒れたという連絡を受けた大学生アランはヒッチハイクで遠く離れた病院に向かう。この一夜の経験が人生観を変えてしまう。日が暮れ、空には凶凶しい月がかかり、アランは夜中の墓地で果たして何を経験することに・・・。
「そんな母でも、ぼくは愛していた。いやそんな母だからこそ愛していた部分もあった。母に殴られた時でも、キスをされたときと同じくらい母を愛していた」  これ以上書くとこれから読む人が面白くないのでここまでにします。
ホラーの出だしですがファンタジーともいえるものです。スティーブン・キングの物語の作り方には舌を巻きます。
城崎殺人事件

(内田康夫)
今年の最初はミステリーになりました。ちょっと古いですが、浅見光彦の1992年の事件です。
マザコン探偵浅見光彦のお母さん雪江未亡人が志賀直哉の「城の崎にて」 「暗夜行路」を読んで息子をお供に城崎に旅行を企てる。
だが、浅見の行くところ必ず事件あり。城崎の通称「幽霊ビル」で奇怪な事件が起こっていた。以前、首吊り、服毒死と変死事件が続き、今度で三回目。興味を持った我が浅見探偵は『旅と歴史』の取材、母親のおもりをしながら、城崎、出石、豊岡・・・と事件の謎に挑んでいきます。
年末年始は肩の凝らないミステリーがいいですね。(いつも肩の凝らないものばかりですけど・・・)