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凍(とう)
(沢木耕太郎) |
こんな凄い山岳小説(ノンフィクション?)は初めてでした。背筋が凍るようなまさに『凍』の世界です。帯に「クライマー・山野井夫妻が挑んだ、ギャチュンカン。雪崩による一瞬の魔は、氷壁を死の壁に変えた。宙吊りになった妻の頭上で生きて帰るために迫られた後戻りできない選択とは・・」に魅せられて読みました。夫婦共に世界的なクライマーです(泰史37歳、妙子46歳)特に妻の妙子はギャチュンカンに登るときにはすでに手の指を第2関節から10本総てと、足の指8本、鼻の頭を凍傷で失っています。それでも『18本の指を失ったことは悲観的にさせることはなかった、好きなことをして失っただけなのだ誰を恨んだり後悔する必要があるだろう。戻らないものは仕方がない。大事なのはこの手でどのように生きていくかということだけだ」と・。ううん〜! |
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さりぎわの歩き方
(中山智幸) |
第101回文学界新人賞を受賞した作品です。作者はよしさんの長男です。
話は『29歳という年齢が”青春”とおさらばするときの揺れ動く感情』を少し神経質な目でとらえています。選評を読むといろいろ辛口もありますけど、これは仕方のないことでしょう。その中で私の大好きな川上弘美さんが推薦してくれているのが嬉しかったです。そのことだけでもどんな物語かは想像がつくと思います(ただし、選者が言っている”春樹チルドレン”には気をつけてね)。今回は紹介だけにしておきます、作者を赤ちゃんの時から知っているだけに、いろんなことを思いながら読ませてもらいました。次回作を楽しみにしています。
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憑神
(浅田次郎) |
浅田次郎久々の新刊です、「婿入り先から追い出され、職を失い、すがった相手は神は神でも人に仇なす疫病神。時は幕末、動乱の世に、貧乏旗本彦四郎の選んだ真実の生きる道とは?」とありました。今の時代に読んでもらいたい本です。
『まこと世も末である。ご政道がきちんとしてさえいれば、たとえ不運は免れずとも不運によってもたらされる不幸は救済できるはずであった。大水は天災だが人々のその後の苦労はご政道のもたらした人災というほかはなかった』まさにご政道を考えさせられます。あ〜あ!
ラストは何となく『ドン・キホーテ』を想像してしまいます、作者は意識していたか聞きたいです。 |
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99%の誘拐
(岡嶋二人) |
1989年、吉川英治文学新人賞を受賞、2005年版「この文庫がすごい!ミステリー&エンターテインメント部門」第1位になった本です。
初めて読んだ作家ですが、なかなかのものでした。書かれた時代からするとハイテクを使っての誘拐劇にビックリします。物語は『末期ガンに冒された男が8年前に息子をさらわれたときの手記を残して生涯を終えた。それから12年後、その事件に端を発する新たな誘拐がコンピューターを使って行われる・・・。前代未聞の完全犯罪?』
もちろん本格ミステリーです、読み始めたらやめられない面白さがあります。 |
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ホテル上下
(アーサー・ヘイリー)
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福中退職後、メルパルク再就職の大先輩が、その当時読んだ本で凄く勉強になりプロパーに負けない会館運営が出来たとのことで、今回私の就職に際してプレゼントして頂いた本です。
物語は「ニューオリンズ最大のホテル、あらゆる融資を拒否され苦悩する頑固な老経営者と若き精力的な副総支配人。やがて買収をもくろむチェーンホテルの総帥が乗り込んでくる・・・」大きな組織の内部をえぐると共に人間ドラマになっています。もちろん、接客業の神髄もいたる所に出てきます。なかなか読み応えがあり勉強になりました。(1965年に書かれた本です)
『人間の一生には、自分の望むことよりも信ずることを選ばなければならないときがある』 |
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殺らててたまるか!
(浅田次郎) |
「私はいずれ有名中学から高校へと進み、東大卒業と共に華々しく文壇にデビューするはずであった。だがしかし、なぜが予定が狂った。予定どおり有名中学に入った私はそのとたん、ドロドロの不良少年に変貌し、すさまじい勢いでドロップアウトしてしまったのである」と・・。浅田次郎が20代に体験した嘘のような本当の日々を顧みる懺悔録です。
『銀行強盗の手口:まず郵便局、これは意外と簡単でした。郊外に行けばへんぴな場所、それと半分は郵便業務ですから金融機関に比べるとずっと警戒心が薄い・・それに第一お客はほとんど女です・・』などなど、傑作です。 |
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動機
(横山秀夫) |
前回に引き続き「横山秀夫」です、この人の本はほとんど期待を裏切られることがありません。本作は53回日本推理作家協会賞(2000年)を受賞した作品です。
「刑事も職場を離れれば一個人であるべきだ。そうした主張から警察手帳の一括保管を提唱したJ県警本部警務課企画調査官貝瀬正幸。しかし実施されて間もなく、30冊の手帳が紛失した。犯人は内部か、外部か・・・」捜査が進むうちに警察内部の思惑がぶつかり合うことになります。男のエゴのぶつかり合い?
ほかに、「逆転の夏」「密室の人」など四編の短編集ですがどれも面白いです。 |
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影の季節
(横山秀夫) |
『半落ち』『クライマーズハイ』の横山秀夫の第5回松本清張賞受賞作品です。文庫本で読みましたが四編の短編すべてが面白いです。
D県警シリーズの第1弾、人事担当の警務課調査官を主人公に天下りポストも巡っての攻防ですが県警管理部門で働く者の悲哀もしっかり描いて興味深いものがたくさんあります。
天下りポストに固執する大物OBの説得を軸に物語は展開、その中である未解決事件が浮かび上がってきます・・・。『警察組織の管理部門にいる人間は、組織そのものを守らなければならない、それが仕事だ・・・』との考え、どこの世界も同じだなぁ〜! |
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草原からの使者
(浅田次郎) |
2002年版に続き沙高楼綺譚の第2弾です。南青山の秘密倶楽部『沙高楼』に集う各階の名士達が、その人生の秘密を暴露しあうお話です。四つの話が入っています。
「人間の実力のうちでもっとも物を言うのは何か?”努力もしくは忍耐” ”能力” ”誠実” ちがう人生は運だ、能力ある人間がいかに努力をし、忍耐を重ね、かつ誠実に生きようと、運がなければ話にならん。・・・ツキのある人間は無敵だ、強運にまさる才能など、この世に何一つとしてない。戦をした人間なら誰もが知っている」
相変わらず面白いです。特に第一話「宰相の器」はなかなか読ませます。 |
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秘密
(東野圭吾) |
以前、紹介しました「片想い」「白夜行」に続く東野圭吾の作品です、99年日本推理作家協会賞を受賞しています。と言っても殺人が出てくる推理ものとは違います。
『妻と小学5年生の娘を乗せたバスが崖から転落。妻の葬儀の後、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの妻だった・・・』 最後になり<秘密>とは何かと言うことがわかりますが、切なすぎます。思わず涙しました。
「世の中には素晴らしいものが本当にたくさんあるのよね。そんなにお金をかけなくても幸せになれるものだとか、世界観が変わっちゃうものだとか」広末涼子で映画化されているそうです。 |
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冬の運動会
(向田邦子) |
志村喬、木村功、加藤治子、大滝秀治、市原悦子そして若い根津甚八、いしだあゆみ、30歳の藤田弓子のメンバーで28年前にTVドラマ化されたものです。それが今年の正月3時間ドラマで復活したそうです(残念ながら観ていません)。
人間・家族を鋭い目で見つめている作者です、さすがに読み応えがあります(涙でした)。藤田弓子が解説で書いています「向田邦子さんが書き続けてくださって(もう書けないので)いたならば、この国の人たちは、もっと深く、ものを見たり考えたりすることが出来ていたんじゃないかと思ってしまう。もっと賢く、優しい人間になれたんじゃないかと思ってしまう」と・。同感です。 |
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天使の卵
(村山由佳) |
94年1月に刊行された本で小説すばる新人賞を受けた作品です。村山由佳という作家はせつない恋愛を描き若い世代に支持されています。
最近続編の「天使の梯子」が出たとのことですが10年前に出た「卵」を文庫本で読みました。
「19歳の予備校生の”僕”が8歳年上の精神科医に一目惚れ、ところが彼女は高校生時代のガールフレンドの姉さんということがわかる、後ろめたさを感じながらも気持ちは止められない・・・」 最近の純愛ブームに乗って映画化の予定もあるとか・。
続編の「天使の梯子」は10年前の泪がどう変わっているのだろうかとあります。楽しみです。 |
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ぼんくら上下
(宮部みゆき) |
最近本が高いので文庫本になるのを待って買いました(先日続編みたいな”日暮らし”が単行本で出ました)。
この物語は変わった構成になっています、最初はいわゆる下町人情ものふうに五つの話があり次に『長い影』という物語全体の三分の二をしめる話につながっていきます。前の話はすべてこれの序章ということがわかります。主人公平四郎がなかなかいいです、本所深川の同心だが怠け者で、物覚えが悪く人の名前や顔を覚えるのは苦手しかも込み入ったことはなお苦手ときている。その平四郎と甥の美少年弓之助が事件に挑むというものです。面白いです! |
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60歳のラブレターC |
本社出張で住友信託銀行に投資信託の現状視察に行ったときにこの本をいただきました。今まで郵便の仕事をしていながらこの手の本は読んでいませんでした。今年、私もタイトルの年齢です、寝る前の眠り薬にと思って読んだら涙涙の二晩でした。
『ラブレター』というより『自分のわがままへの反省、パートナーへの感謝、生、死・・』と半世紀以上生きて来た人たちが今までの生き様をふり返り次へのステップの踏み台を一枚のハガキに託した、というところでしょうか。
これからの人生への不安、自分だけではない、と生きる勇気のわいてくる本です。 |
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火の粉
(雫井修介) |
この作家のものを初めて読みましたが結構面白かったです。
幼い子供を含む一家殺害事件の法廷場面から物語は始まります。「隣人の笑顔を信じてもいいのか?善意の隣人なのか?」『元裁判官の隣家に、自分が無罪判決を下した男が引っ越してきた。愛嬌ある笑顔、気の利いた贈り物、老人介護の手伝い・・・、日に日に家族の心をつかんでいく。しかし一方次々に不可解な事件が』起こっていきます。
この手の物語はよくある話ですが、読んでいくうちに引き込まれてしまいます。映画、テレビ化もされるそうです。肩のこらないサスペンス、気軽に読めます。 |
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霧笛荘夜話
(浅田次郎) |
「運河のほとり、古アパート『霧笛荘』で暮らす七人の住人たちが教えてくれる人生の真実とは・・・?生きていくことが少しだけ楽になる、比類ない優しさに満ちた七つの物語」です。
毎晩一つずついろんな人生を読み、寝るときは涙でした。「たった1%の幸せでも懸命に生きた人たちがいる。心の中に大事なものを芽生えさせてくれた気がします」という評がありました。
『不幸の分だけ幸せは、ちゃんとあるのよ。どっちかが先に片寄っているだけさ』
『人生は運不運じゃありませんよ。それを言うなら幸か不幸でしょう。・・そうさ、運だの不運だのは力の至らなかった人間が口にするセリフなんだ』 久しぶりの浅田節、最高です。 |