book(2007)



ホームレス中学生
(田村裕)
お笑いコンビ『麒麟』も著者も知りませんでしたが、ミーハーで読みました。「東京タワー」のリリー・フランキーのように文章がうまいわけではありませんが、内容がわかりやすく、自分の気持ちを素直につづっているところがいいです。特に母親をひたむきに愛し続ける気持ちには感動します。3ヶ月で100万部売れたとか・・、衝撃的なタイトルですが家なしの時期はそう長くはありません。むしろひたすらに生きることに今の自分達の生き方を考えさせられます。
『会えなくなってからもできる親孝行・・・。お母さんのように周りの人間の役に立ち、周りの人間に力を与え、周りの人間を楽しくさせること。それが何よりも親孝行なのだと気付いた』
龍の棲む家
(玄侑宋久)
作者は慶応大学中国文学科卒で臨済宗のお寺の副住職です。2001年に『中陰の花』で芥川賞を受賞しています。母に先立たれた父が呆けたとき、その家族は・・。物語は「兄から父が呆けたと聞かされた弟が仕事を辞めて実家に帰って来て、父の面倒を見ることになる。記憶が行ったり来たりする父と出かけた公園で介護のプロ・佳代子と出会う。父の記憶に付き合ううちに、いつしか二人は・・」といったものです。二人の会話に『どうして人は呆けるんでしょうね』 『今の自分が、自分らしいと思えないからからでしょう』と言った言葉が出てきます。介護という立場に立ったことはありませんがその人の心に合わせることだとこの本は言っていいるように思えます。
中原の虹三
(浅田次郎)
西太后亡き後、相次ぐ革命勢力の蜂起に一度は追放した袁世凱を呼び戻した皇族。満州では張作霖が、まったく独自の勢力を形成していく。新しい時代が、強き者の手で拓かれるのか?
『銀花は生きてはならぬ自分の生きる理由を見つけた。約束を果たすまではけっして死なない。その日が明日であろうが、五十年先であろうが必ずその通りにすると銀花は誓ったのだった。だから生きなければならない。何もかも忘れなければならない』混沌とした大きな歴史の動きの中で懸命に自分を見つめて生る人がいます。人間それぞれに生きる道を模索している姿が胸を打ちます。英雄もいいですが、時代に翻弄されない人間に魅力を感じます。
求めない

(加島祥造)
人生を豊かにする「求めない」で始まる詩集。「求めない――すると、本当に必要なものが見えてくる」「求めない――すると自由になる」。詩人、アメリカ文学者であり墨彩画家の加島祥造が日々書きとめてきた、すべてが「求めない」で始まることばの詩です。
私たちの日常において、まず配偶者にそして親に子供に、上司に同僚に部下に、友達に、近所のお隣さんに・・・求め続けている事がよくわかり愕然とします。
ただ、「求めない」ことは簡単ではありません。「できれば野原にあおむけにねころぶ。できれば海に大の字に浮いてみる・・・すると君は体が命のままに生きていると知る。求めないで放っておいても体はゆったり生きていると知る」 花を咲かせた花は静かに次の変化を待つのです。すると何かが変わります。
星の巡礼
(パウロ・コエーリョ)
黛まどかさんが歩いた「サンチャゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路」を歩く話です。物語は「主人公パウロが奇跡の剣を求めてピレネー山脈からサンチャゴへと続くスペイン巡礼の道を歩く中で様々な試練が課せられる。しかし、それは人生の道標を見つけるための偉大な旅であった・・・」というものです。解説で黛まどかさんが「サンチャゴ巡礼(夢へとつづく道)は、屈強な人々にだけ許されているものではなく年老いていても、病床にあっても、夢を見出し、追求しようとする誰にも拓かれている・・」と書いています。宗教を押しつけるものではありません、心にずしんと響く言葉に感動の連続です。cinemaで紹介した『サン・ジャックへの道』と同じ道です。是非、一読を!
倫敦暗殺塔
(高橋克彦)
20年以上前に『写楽殺人事件』で江戸川乱歩賞を受賞した高橋克彦の作品です。何気なく本屋で手に取った本でしたが,これが面白かったです。明治18年舞台はロンドン、日本人村を中心に物語は進みます。明治の元勲井上馨、山縣有朋、伊藤博文などが人間臭さを出して絡んでくるのも見物です。「時の明治政府が日本という国を世界に認めさせるために密謀を画策、そんな時、日本人村が好評を博しているロンドンで日本軍人が殺される・」明治という時代の面白さ!「今の日本を見て彼は・。表ばかりは浮かれていても裏にまわれば相変わらず舵の取れていない日本をすぐ見抜くはずだ。繁栄は見せかけじゃ、それが辛いぞ・・」今の時代も同じ!
月島慕情
(浅田次郎)
”月島に行ったら、幸せになれる・・。やっと手に入れた吉原の太夫・ミノは、愛する男の住む夢の島へ思いを馳せるが・・”切ない香りに満ちた表題作ほか七つの珠玉の物語です。
『読んだあとに「生きよう」と思える不思議なエネルギーがぎゅっとつまっている短編集』とありましたが、まさにこれぞ浅田次郎という名人芸の技です。すぐさまもう一回読みたいと思う本です。どの物語の登場人物も自分が自分でない人を思う優しさがあります。

「この世にきれいごとなんてひとつもないんだって、よくわかったの。だったら、あたしがそのきれいごとをこしらえるのも、悪かないなって思ったのよ」電車の中など人前では読めない本です。
中原の虹二
(浅田次郎)
「偉大なる母、西太后死す。」たった一人で清朝を支えた西太后の壮絶な最期。そしてラストエンペラー(溥儀)が王座に座ります。第二巻は張作霖からヌルハチ、西太后と舞台と年代が広がっていきます。「西欧、日本などと違い・・・我が国の歴史に、植民地的な搾取ばかりを目的とした王朝は、ただの一つもありません。秦の始皇帝、フビライハーン、光武帝、ヌルハチ・・・。みんな野望のためではなく、民の平和のために兵を挙げたのです」
西太后は「私は悪者になりますそうでなければ、この国の民の中から新しい力はわいてこないから・・・。洋人憎めず、亡国の鬼女(この私を)思うさま憎めばいい・・」と言いこの世を去ります。
中原の虹一
(浅田次郎)
『蒼穹の昴』から10年、壮大なスケールで描く中国歴史小説。春児、西太后が還ってきました。
「汝、満洲の覇者となれ」と予言を受けた貧しき青年、張作霖。のちに満洲馬賊の長となるその男は・・、隠された王者の証『龍王』をめぐる物語が始まります。
全四巻の物語の第一巻、読むほどにはまってきます。『正義は数の多寡で決まるものじゃあるめえ銭のあるなしでもなかろう。たった一人で世界中を敵に回したって正義は正義だ。無学だろうが無一文だろうが正義は正義だぜ』
浅田ワールド満開、”蒼穹の昴”の感動よ再び!です。
翳りゆく夏
(赤井三尋)
第49回(’03年)江戸川乱歩賞をもらった作品です。この人(現在フジテレビ局報道部勤務)の本は初めて読みましたがかなり面白かったです。
物語は「20年前に起きた誘拐事件、その犯人の娘が大手新聞社の記者に内定。それを週刊誌がスクープ記事に・・。調査依頼を受けた窓際族の記者が”封印されていた真実”を突き止める」というものです。こんなにうまくいくかなと思うところもありますが中盤以降は目が離せません。
ミステリー要素の他にも「目の不自由な人の気持ちは目を閉じただけではわからない・。人の気持ちや立場は他人にはうかがい知れないものがある」と・・。まさにそのとおりです。
ビタミンF
(重松清)
2001年直木賞を取った作品です、「えっ、何で今頃」と思われるかもしれませんが理由はありません。読みたくて安かったからです。『ビタミンF』というのは、ビタミンの種類は十五種類、ABCなど知られたものはありますがFはないそうです。だからカルシウムや炭水化物とは違い、人の心にビタミンのようにはたらく小説があっていいのではという思いから生まれた七つのエピソード!「38歳、いつの間にか『昔』や『若い頃』といった言葉に抵抗感がなくなた。一瞬の輝きを失い人生の中途半端に差し掛かった人たちに送るエール」とあります。
40歳なんてまだ洟垂れ小僧、夢を失わずに人生を楽しみましょう!人生って楽しいですよ。
手紙
(東野圭吾)
映画になりましたが観ていません。大好きな東野圭吾の作品です。「強盗殺人」を犯した兄を持つ弟の苦悩を描いています『名作』と思います。
「兄弟二人貧しいが故、弟のために強盗殺人を犯した兄。その弟のもとに獄中から毎月手紙が届く・・・。しかし、進学、恋愛、就職と幸せをつかもうとする度に”強盗殺人犯の弟”という運命と立ち向かわねばならない」読んでいて切ないです。犯罪加害者の家族を真正面から描いています。『差別や偏見のない世界。そんなものは想像の産物でしかない。人間というものは、そういうものとも付き合っていかなきゃならない生き物なんだ』
月の扉
(石持浅海)
2004年版「このミス」8位、「本格ミステリ」3位になった本です。もちろんこの人の本は初めて読みました(作者は九大理学部卒)。「ミステリーというジャンルの新たな地平を拓くこの著者に注目!」に惹かれました。何となく荒削りな感じというか「えっ、何で?」という場面はありますがエンターテインメントとしては面白いです。物語は「那覇空港で、乗客240名を乗せた旅客機がハイジャックされる。犯行グループの目的とは別に機内のトイレで乗客の一人が死体で発見、閉鎖状況の中での犯人捜しなど・・・」ですが、まあまあかというところでしょうか。
「他人からの悪意に耐えられるということは、他人への悪意を持つことができる・・・」
月下の恋人
(浅田次郎)
浅田次郎が5年かかって書きためた短編11の物語です。『人を想い、過去を引きずり、日々を暮らす。そんなあなたを優しく包む』”不器用だけど生きてゆく”とこれだけでどんな話かわかりますね。こんな話は一晩に一遍ずつ読み余韻に浸りながら寝るに限ります。
「男はんの恋は奪うものやけど、女の恋は捧げるものやし、わかってへんのやねえ、女心いうもんを」 「人はみな、やや子のようにまっさらな気持ちで、たしかな一歩を踏まなあかん。その一歩一歩が人生や。恨みつらみも愛すればゆえ、恩も情けも愛するがゆえ、片っぽを流してもうて片っぽをうまくせき止めるような都合のええしがらみなんぞ、あるもんかいな」 「柵(しがらみ)」