book(2008)



古道具中野商店
(川上弘美)
何ともまあ、気持ちの優しくなる物語です。「東京近郊で小さな古道具屋でアルパイとをしている20代後半のワタシ、ダメ男・店主の中野さん、その姉、それから少し気になるタケオと古道具屋に絡むいろんなお客」達が織りなす人生模様です。
『俺はさあ、悲しいよ。どうして・・。だって冬だし、寒いし、金はないし』
『(想っている人)のこと感じるのって、面倒くさいな、生きているのって、ほんと、めんどくさいな、と思った。恋愛、もうしたくないな』等と思いながら生きている彼ら、なのに人生っていいものだと感じさせてくれます。この人の本は『センセイの鞄』もそうでしたが気持ちがホワッとします。
なつのひかり

(江國香織)
不思議な物語でした。ウエイトレスとバーの歌手という二つのアルバイトをしている20歳の女の子が主人公です。現実と幻想(?)が交錯していてホントに不思議な気持ちになります。
作者(1964年生まれ)が20代の終わりだった頃の作品だそうですが読み終わって何となく幸せな気持ちになります、やはりファンタジーかな?

物語は、主人公栞(しおり)に三つ違いの兄がいて、その兄には美しい妻と3歳の娘と50代の愛人がいます。そんな設定の中「ある朝、逃げたヤドカリを隣の男の子が捜しに来る」ところから不思議な物語が始まります。時には、こんなホンワカしたお話もいいかなと思います。
患者よ、がんと闘うな

(近藤誠)
60歳を過ぎると健康が大変気になります、ドックで数値が高かったりで・・・。作者は慶応大学医学部を卒業、現在慶応病院放射線科の医師です。『手術は危険、ほとんどのがんに抗がん剤は効かない、がん検診は百害あって一利なし、がんという病名を本人に知らせるべき、がん検診を拒否せよ、早期発見理論のまやかし』など、常識を覆す話しがいっぱいです。文藝春秋連載当時から話題を振りまき、単行本となりベストセラーとなりました。もちろん反対意見も盛んです。この話しを信じるかどうかは読む人の気持ちでしょう。全臓器のがんの三分の一はタバコ、三分の一は食事、三分の一は大気汚染、とのこと。何と言っても食と水が基本と思います。
長い家の殺人

(歌野晶午)
以前紹介した「葉桜の季節に君を想うこと」の作家のデビュー作品です。1988年初版ですからかなり前のものですが今回新装版として出ました。島田荘司が絶賛しています。
どちらかというと謎解きの話しです「消えた死体が、また元に戻る、”密室”と”アリバイ”をどう解くか?学生バンドのメンバーに起こる連続殺人事件・・・。謎が謎を生みます」
島田荘司に推理小説を書きたいと言って、弟子入りした時はほとんど文章を書いたこともなかったとのこと。初めて書いたのがこの物語・・・。今から振り返るとまだまだかなという感じがしますが結構面白く読めました。
月の裏側

(恩田陸)
ふっと本屋で恩田陸の本を手に取ってしまいました。これが又不思議な物語で『郷愁の傑作ホラー』なんて解説の人が書いていますが・・・。これと似たような(?)話しを映画か何かで観た記憶がありますが物語としては結構面白かったです。
地名は変えてありますが水郷柳川が舞台です「ここで三件の失踪事件が起こります消えたのは老女、ところが不思議なことに記憶を喪失してひょこり帰って来た。真相はどこに・・」。宇宙人による誘拐か?新興宗教か?今ここに存在している人間は果たして本物か?
何となく怖〜い物語です。この作家の想像力には改めて感心します。
ありったけの話し

(中山智幸)
ついに出ました初めての『書き下ろし長編』。偶然、この前に『ノルウェイの森』を読んでいたので何となく対比してしまいましたが、智幸君独自の世界が確立されてきたような気がします。
物語は「6年前に別れた恋人静佳との距離を縮めたいと願っているユキヒロに、雪山の事故で台湾人の父を亡くした甥が預けられてくる。それに静佳との思い出がいっぱいの同級生二人が絡み、少しずつ前に進むことが・・・」というもので、再生の物語です。ラストで救われます。
『節目からスタートした物事は長続きしない。・・・思い立ったら行動。それが最善の道』
熊本が舞台になっているので背景を想像しながら読むのも楽しいです。
ノルウェイの森(上下)

(村上春樹)
村上春樹の大ベストセラー(430万部)で今から20年以上前の作品を今頃読みました(外国で映画化されるとのこと)。正直、村上春樹はちょいと苦手意識がありましたがこれには参りました、三学年下の1949年1月生まれということもあり、この物語の時代背景などいたいほどよくわかります。「学生運動の時代を背景として、主人公『僕」と、自殺した友人の恋人『直子』を軸に、さまざまな思春期の葛藤や人間模様、恋愛、喪失感など」が描かれています。村上春樹ブームが起き、国民的作家と目されるようになったのがこの作品とのこと。読後『直子、緑、レイコさん、ハツミさん、永沢さん、突撃隊』など魅力ある登場人物が頭から離れません。
三月は深き紅の淵を

(恩田陸)
講談社文庫の「完全無敵のミステリーズ」の中からタイトルに惹かれて買ってしまいました。
恩田陸、『夜のピクニック』の作者です。この人のものを初めて読みましたが何とも不思議な本でした。物語は「三月は深き紅の淵を」という本を狂言回し(?)に4部構成となっていますが四つの物語が独立して描かれていて最後には?という感じが残りました。まだ、読解力がないのかもしれません。第一章は、幻の本探し。変わった趣向の三月のお茶会に招かれた主人公が本がどこにあるかを推理することを求められる・・・、第二章は幻の本の作者を求めて出雲に出かける二人の女性編集者・・、第三章は虹と雲と鳥と・・、第四章は回転木馬というお話です。
夕凪の街  桜の国

(こうの史代
昨年のcinemaで紹介した物語の原作本です。bookでマンガを紹介するのは初めてです。かおやんが映画も良かったでしょうと言ってこの本を送ってくれました。原作を読むと映画を思い出し、また涙しながら読みました。内容はcinemaをご覧いただいたらいいいいと思います。
広島・長崎の事実がありながら核軍縮が進まないのは何故でしょうか?北朝鮮みたいに『たかり』の道具として使うなんて信じられません。私達人間の愚かさが身にしみます。

『実に漫画界この10年の最大の収穫・・。多くの記録文学を凌いでいます。マンガ史にまた一つ宝石が増えました』とある評がありました、読んでみてください。
さまよう刃

(東野圭吾)
何気なく本屋で手に取った本ですが、やはり東野圭吾は面白いです。
物語は「一人娘を、未成年グループに殺された父親が法では裁かれない犯人に対して復讐を挑んでいく・・・」というものです。”現代の法では犯人の人権はいろいろと配慮されているが果たして被害者(家族)は・・・”という重いテーマに取り組んでいますが、一気に読ませます。
『犯人は未成年です・・。アルコールや薬の影響で正常な判断力が損なわれていたなどと弁護士が主張すれば刑罰とはとても言えないような判決が下されるおそれがあります。未成年者の更正を優先すべきだ、というような被害者側の人間の気持ちを全く無視したことも・・・』
いつかパラソルの下で
(森絵都)
かおやんの推薦で読みました、児童文学の作品が多い森絵都が大人の世界を描いた本です。
「主人公野々は気ままに生きる25歳独身女性、厳格な父の教育に嫌気がさし20歳の時に家を飛び出していた。その父も亡くなり四十九日の法要を迎えようとしていた時生前の父と関係があったという女性から連絡が入る。その後兄妹3人で父親のルーツを探るべく旅に出るのだが・・・」自分ができないことダメなことを父親のせいにして逃げてきた生き方を野々達は取り戻していきます。『親父のせいで俺の人生が狂ったとかぐちぐち言ってたら、いい年こいて自分の人生を親のせいにすんな、二十代の半ばを過ぎたら自分のケツは自分でぬぐえ、って』Good!
隠蔽捜査

(今野敏)
読む順序が逆でしたが、第一弾をこちらも一気に読みました。大森警察署長に左遷される前の物語です。主人公竜崎伸也キャリアの超エリート、最初は言動が鼻につきます。しかし、読み進むうちに「自分ならどうする?人間生きていく上で何が大事なのか?」等々・・。読み出したら途中でやめられません。『燕や雀には鴻鵠の志理解できないというのが、世の理だ』という主人公が組織を揺るがす連続殺人事件と『家庭のことは妻の仕事である』という信念の中にあることが起こります・・・。この二つの問題に”キャリア官僚の主人公は正義を貫けるか?”ネタばれになったらいけません、あとは読んでのお楽しみです。
果断
隠蔽捜査2

(今野敏)
山本周五郎賞、日本推理作家協会賞とダブル受賞をしています。物語は「息子の不祥事で警察庁から大森警察署長に左遷されたキャリアの竜崎伸也。管内で拳銃を持った強盗犯の立て籠もり事件が発生、竜崎は現場で指揮を執る。人質に危機が迫る中、現場で対立する捜査一課特殊班とSAT、事件は解決したが・・」というものです。第一弾「隠蔽捜査」が吉川英治文学新人賞を受賞しています(これから読みます)一気に読ませるくらい面白いです。山本周五郎賞をもらっているところからこの物語が単なる警察ものでないことがわかります。
『本当の権力には媚びへつらい、地道に働く公務員のあら探しをやる。それが今の新聞だ』
南極で考えたこと

(立松和平)
南極観測50周年に、今井通子さん、毛利衛さんらと南極を訪れた際の見聞録です。『厳しい南極で活動する人達の姿を通し、人間と地球と宇宙のいのちを模索する感動の書』とありましたが、まさに感動の書です。地球の淡水の90%が南極にあるといわれ、南極の氷(最大の暑さは4千m、平均でも1856m)は海とは切り離された水分であることから地球全体に対する影響力は計り知れないものがあります。 『人間のなした地球温暖化など、地球にとっては取るに足りないことではないかと思われる。地球はあまりにも壮大で、地球は地球を生きているだけなのである。人間のために地球が存在するなどということは絶対にないのだ』(サイン入り)必読!
ナポリ 魔の風

(高樹のぶ子)
3月「平和の日の集い」に別府で高樹のぶ子さんのサイン入りの本を買ったのがこの本です。
『ルオータ』 『カストラート』が何か知っていますか?(知らない人は管理人までどうぞ)
物語は「ヒロイン恵美子はナポリで舞台美術家・ドニ鈴木という男を紹介される。これが250年前のオペラ歌手と称して妖しく強烈な精気を放ち・・・。その魔力に翻弄されてしまう恵美子と恵美子の恋人。性も時空も超えた官能へと・・・。」というもですが、何とも不思議な気持ちになる本です。作家というのは一つのことからいろんなことを想像できるものだと感心します。ナポリに行ってみたくなります。
(左のサインが高樹さんの直筆です)
そうか、もう君はいないのか
(城山三郎)
『官僚達の夏』の城山三郎の遺稿です。「母が逝ってから7年間父は半身を削がれたまま生きていた」と次女の紀子さんが書いています。”夫婦の絆とかけがえのない家族の物語”です、この本のラストを病院の待合室で読んでいて涙が止まらずどうしようもありませんでした。
『五十億の中でただ一人「おい」と呼べる妻へ・・』『癌とわかった妻へ・・。私は言葉が出なかった。かわりに両手をひろげ、その中へ飛び込んできた容子を抱きしめた「大丈夫だ、大丈夫。おれがついている」何が大丈夫かわからぬまま・・・』
79歳でなくなった作者のバラバラの原稿を一編にまとめた「愛の回想記」です。
夢をかなえるゾウ
(水野敬也)
何ともへんてこな本?『夢をなくしたサラリーマンと関西弁のゾウの神様が繰り広げる、「笑えて」「泣けて」「タメになる」全く新しいエンターテェインメント小説』という言葉とベストセラーという宣伝に負けて買いました。実際に面白いし、タメにもなるのですがどうも心に残りません。物語はガネーシャという人間の体と像の頭と四本の腕を持ったインドの大衆神がしがないサラリーマンにいろんな訓辞を与えていくものです。一日一つの課題を与えられそれを実行したら人間変われると諭されます。例えば『毎日靴を磨く』『コンビニでお釣りを募金する』『トイレを掃除する』『夢を楽しく想像する』『毎日感謝する』など当たり前のことですがこれがなかなかできない・・。
しゃぼん玉
(乃南アサ)
「凍える牙」で直木賞(H.8)を受賞した乃南アサの心理サスペンスといわれるものです。「通り魔を繰り返し自堕落な生活を送っていた青年が、逃亡の果てに宮崎の椎場村で、老婆と出会う、正体を知らぬ村人達は彼を歓待するが・・・。卑劣な魂と美しい魂との出合い」ラストは涙です。タイトルの”しゃぼん玉”とは『こういう一生は、きっと最後の最後まで、このままなのだ。どこかで弾けて消えるまでの間だけ、ふわふわと漂っているより仕方ない。いずれにせよ、そう長いことではない。何分も漂っていられるしゃぼん玉がないのと同じように』と考える主人公がしゃぼん玉でなくなるまでを描いています。感動物です。
星の旅人

(黛まどか)
黛まどかさんが歩いた900k近い「サンチャゴへの道」の旅の記録です、来年歩こうと思っている私にはガイドブックになります。しかし、ただの紀行物ではなく、何故歩くのか?人それぞれに人生を考えるに素晴らしい本です(『それぞれが、自らのうちに歩くべき道を見い出し・・・』)。『カミーノ(道)は、は誰にでも拓かれています。あなたがこの道を歩いてみたいと思った日から、道は終点サンチャゴへと向かって延びていきます。あなたの心が、この道の出発地なのです。どうか黄色い矢印(道標)に従って歩き継いでください』世界最古の巡礼道であり、世界文化遺産にも登録されています。絶対に歩くぞ〜!
名残り火

(藤原伊織)
名作「テロリストのパラソル」(H7.江戸川乱歩賞、H.8直木賞受賞)の藤原伊織(昨年5月逝去)の遺作です。最後までこの作品の加筆・改稿に取り組んでいたとのことです。この人の作品には何か引かれるものがあります、今回もラストの壮絶さが涙腺を刺激します。物語は「かつての同僚で無二の親友だった男が殺された。主人公は真相究明に動き出す。だんだん見えてきた恐るべき陰謀、そこには流通業界(コンビニ界)に横たわる多きな闇が見えてくる・・・」舞台は十数年前のニューヨークから現代の東京まで、一気に読んでしまいます(コンビニ業界の裏も見えてきます)。私より3歳若い作者ですが、早死には残念です。
中原の虹四
(浅田次郎)
ついに完結です(でも、続編が2年後に・・)。「蒼穹の昴」から通すと大長編になりますが皇帝から一兵卒まで歴史上悪名高い人物や埋もれた人物を独自の解釈で描いています(西太后、張作霖、孫文、袁世凱等々・・)。その中で、際だつのは、国民党幹部宋教仁という人物31歳で凶弾に倒れますが『名誉は何もいらない。私が勲とするところは、ひとえに民の平安である』日本の政治家に聞かせたいです。『幸福をおのが天恵とのみ信ずるは罪である。罪にはやがて罰が下る。おのが不幸を嘆くばかりも罪である。さように愚かなる者は不幸を覆すことができぬ』宦官の春児と、馬賊の春雷、妹の玲玲、極貧の中で生き別れになった兄妹がついに再会。
空で歌う

(中山智幸)
第138回芥川龍之介賞候補作品です。2005年11月文学界新人賞を獲得した頃より、ますますうまくなっている気がします(素人の見方ですが・・)。特にヒロインの心の動きがよくわかり切なさを感じさせるとところが好きです。しかも舞台が鹿児島に向かう高速道路、フェリー、種子島と懐かしい場所が一緒に旅をしているようなところも個人的にはいいです。それにしても、2年ちょっと前に新人賞、今度は芥川賞候補と成長ぶりにはビックリです。映画『続・三丁目の夕日』を思い出しますが、候補になるだけでも我がことのように嬉しいです。賞の結果はどうあれ、これからもいい作品を期待してます。作品は『群像8月号』掲載