book(2017)

覆面作家
(大沢在昌)

図書館54(282)
56
『新宿鮫』の著者・大沢在昌の、作家(私)を主人公に八つの話しを集めたミステリアスな短編集。
「デビューしてまもなく文学賞の候補になる実力の持ち主の覆面作家が、私のファンだという表題作の『覆面作家』、正体不明の男が語る内容を小説にして欲しいと言う『幽霊』、携帯が圏外になり思いもよらぬ人物が集うある村の秘密『村』、キャバクラの勤め終わりの女性を、家まで車で送り届けるドライバーは殺し屋?『確認』など」魅力あるお話しばかりです。作家を主人公にしているので、著者の思いがいっぱい詰まっていて事実なのではなかろうかと思う場面もたくさんあります。気軽な感じで読めて面白かったです。
たゆたえども沈まず
(原田マハ)

図書館53(281)55
“たゆたえども沈まず”とは、フランス-パリ市の標語で、『揺れはするが、沈没はしない』 と言う意味です、『哀しみも、苦しみも、やるせなさも、すべて涙の川に流してしまえばいい』。失意の中37歳で自殺したゴッホの名作誕生の秘話と言ってもいいでしょうか。ゴッホは知っていてもどんな人生を送ってきたのかは知りませんでした「売れない画家のフィンセント・ファン・ゴッホは、パリにいる画商の弟テオドルスの家に転がり込んでいた。そんな二人の前に、浮世絵を売りさばく日本が現れる・・」まるでゴッホの絵を見ているようです、いかに浮世絵の影響を受けたかもよく分かります。それにしても切ない! 美術館を訪れて、鑑賞したくなりました。
蜜蜂と遠雷
(恩田陸)

図書館52(280)
54
ピアノコンクールを競い合う天才4人を中心に書かれた作品で本屋大賞、直木賞を受賞しています。読んでいてクラッシック音楽が聞こえてくるような錯覚におちいります。何てすごい小説なんだろう、クラッシックに全く疎い私でも初めから引き込まれていきます。「4人の天才=養蜂家の息子風間塵、かつての天才少女栄伝亜夜、全米随一の音楽大学、ジュリアードでもっとも人気かつ実力が高いピアニスト、マサル・カルロス・レヴィ・アナトール、図抜けた天才少年ではなくコンクールからは長いこと離れていた高島明石28歳」。この4人が一次予選から三次予選、本選と目指して演奏していくお話です。文句なしに面白い!
屍人荘の殺人
(今村昌弘)

図書館51(279)
53
第27回鮎川哲也賞受賞作品、選考委員が全員Aをつけたそうです。本格推理の王道クローズドサークルという状態での殺人事件。クローズドサークルになってしまう原因の定番は天気や弧島などだが今回はなんとゾンビなのです。話しは「曰く付きの映画研究部の夏合宿でペンション紫湛荘を訪れた大学ミステリ愛好会の葉村と会長の明智。そこで想像しなかった事態に遭遇することに・・。そんな状態の中起きる連続殺人・・・」 。出だしは、単に学生の夏合宿で始まるホラーかと思わせますが、話しの展開が思わぬ方向に進み謎解きとしては満足させられます。軽い感じで読みやすいのですが、ゾンビが出てくるので要注意!密室ものとしても凝っています。
転生の魔
(笠井潔)

図書館50(278)
52
『本格ミステリ+ハードボイルド+社会問題+思想闘争』とあれば、読みたくなる。ところがどっこいかなり手強かったです。この著者は初読でした、内容は“活動家の末路”かな?。「43年前、二重密室から消えた幻の女が、当時とまったく同じ容姿のまま、国会前でデモをする群衆の中にいた? 謎の女の捜索依頼を受けた私立探偵飛鳥井は・・・」 1970年の安保闘争(日本史上空前の規模の反政府、反米運動、政治闘争)、それに2016年の戦争法反対の時代が絡みます。謎解きもさることながら、活動家の過去から現代までを見ることに・・・。『どの時代にも一定数存在するラディカルな若者たちが、左翼からイスラム教に流れ込む先を変えた。要するに過激派がイスラムかしたのだ』 。
街と山のあいだ
(若菜晃子)

図書館49(277)
51
著者は大卒後『山と渓谷社』で15年間勤務のあとフリーの編集者として活躍。山の喜びが伝わってくるエッセー集です、“人生はやはりすばらしい。人生に山があってよかった”と、そんな言葉でこの本は終わります。登山歴のなかった彼女が入社して始めて登った山が立山三山から剣岳(でも、前剣でダウン)、淡々とした静かな文章から自然を愛する心がよく伝わります。山で自分が感じたことと同じようなことが綴られていて、思わず『そうそう』と言いたくなります。約50の山が登場しますが登っていてもいなくても自然の大きさ(人間のちっぽけさ)、素晴らしさがジーンと胸に迫ってきます。手元に置いておきたい一冊です。挿絵も著者が書いています。
狐火の家
(貴志祐介)

図書館48(276)
50
『硝子のハンマー』に続く防犯探偵シリーズ第2作目、と言っても今回は四つの短編です。表題作の“狐火の家”は「長野県の平和な農村で殺人事件が発生。一家が松本の親戚宅に出かけている間、一人残った中学3年の長女が鍵のかかった自宅で殺害されたのだ・・・」 あとの3編も密室ものです。“黒い牙”(毒蜘蛛を使った殺人)“盤端の迷宮“(将棋の世界)”“犬のみぞ知る”(変人揃いの劇団が舞台)と、それなりに読めます。この人の本は本シリーズ以外に3冊読んでいます。ホラーがかったりしていて少し怖いのですが、このシリーズは安心して読めます。 以前にテレビドラマ化されていたのですね、知らなかった。

R帝国
(中村文則)

図書館47(275)
49
近未来の架空の世界舞台。ネットで繫がっていなければ不安でならないその依存性を巧みに利用して政権が思うがままに人々を操る、現実に起こりそうな怖い世界を描いています。著者が『ディストピア小説なんですが、資本主義で民主主義で経済大国でありながら、全体主義で独裁国家になってしまった国を書くとした時点で、政治的なことが含まれるので覚悟は必要でした』と語っています。話しは「R帝国は、議会はR党という与党が99パーセントを占め、残り1パーセントは形だけの野党という国。国民はHP(ヒューマン・ホーン、持ち主に合わせて人工知能を発達させる進化したスマホ)を常に持参。他国からの難民、移民を最下級労働者とみなして蔑ましている。そんな国が戦争をしかけ、他国の資源を奪おうとしている・・・、国民は情報操作され真実は知らない」 これから話はどんな風に進むのでしょう。『人々が欲しいのは、真実ではなく半径5メートルの幸福なのだ』 『人々は、立派であることに、知性に、自立に、善に、共存に、人間にとってハードルの高いことに疲れたのだ』 著者の忖度しないケンカ越しの姿勢がいい、右傾化している現在にぜひ読んでもらいたい本です。ふふふ!面白いのは読売新聞に連載されていたことです。 “ディストピア”とは、反理想郷。公平に分配が行き渡るように国家や指導部がその国民や下部の者に対し徹底した管理をする社会のこと。
弧狼の血
(柚木裕子)

図書館46(274)
48
『日本ミステリ史に残る、今世紀最高の悪徳警官小説』 などと評され“第69回日本推理作家協会賞”を受賞。“慈雨”の著者ですが、女性でこんな本が書けるのですね。「昭和63年、広島。捜査二課の新人・日岡は、ヤクザとの癒着が噂される刑事・大上のもと、暴力団系列の金融会社社員失踪事件の捜査に着手。違法捜査も辞さない大上に戸惑いながらも、経験を積んでいく・・・」 各章の冒頭の『日誌』の削除部分が鍵です。全く目が離せないくらいにはまります、でもラストが痛々しい。人間の生き様がしっかり描かれ、ホントの正義とは?考えさせられます。“ゴッドファーザー”“仁義なき戦い”に通じるものがあります。来年5月映画化されます。
ST プロフェッション
(今野敏)
図書館45(273)
47
警察小説“ST 警視庁科学特捜班」シリーズ”で累計200万部を突破しているそうです。知らなかった、初めて読みました。「事件は、3件立て続けに発生した誘拐事件で解放された被害者たちが、皆“呪い”をかけられたと訴え、その後原因不明の急病に・・・。そこでST(Scientific Taskforce、科学特捜班)の出番。メンバーはいつも常識では解決できない事件を解決していきます」 個性豊かなと言うか変人の5人が面白い!隠蔽捜査シリーズとは趣を異にしています、テレビドラマと映画化されているそうです。謎解きも結構面白いし、肩の凝らない一冊です。秋の夜長にどうぞ!
豆の上で眠る
(湊かなえ)

図書館44(272)
46
アンデルセンの“えんどう豆の上に寝たお姫様”をヒントに書かれています。と言っても優しいお話しでないことは、この著者ですから想像つくと思います。わけのわからないままに読み進めていくのですが終盤近くになりようやく、わかりかけてきます。「13年前に起こった姉の失踪事件。失踪後2年経って帰って来た姉に、大学生になった今でも、妹の私の心には“お姉ちゃんは、本物なの?”というわだかまりがが残り続けている。誰も私には真相を話してくれない・・・」 家族とは、姉妹とは、人間とは、読み終わって主人公がかわいそうになりました。終わり方も、うーん、モヤモヤするな!という感じ、でも一気読みの面白さがあります。
硝子のハンマー
(貴志祐介)

図書館43(271)
45
2005年日本推理作家協会賞を受賞した本格ミステリー。“防犯探偵・榎本シリー”第1作で、二部構成になっています、前半の第一部は榎本と弁護士・純子があらゆる可能性を模索しながらトリックに辿り着くまでを、後半の第二部は事件の真犯人が犯行を実行するに至った背景と模様が描かれています。「エレベータに暗証番号、廊下に監視カメラ、隣室に役員。厳重なセキュリティ網を破り、社長は撲殺された。凶器は。殺害方法は。弁護士純子は、逮捕された専務の無実を信じ・・・」 防犯コンサルタント榎本と密室殺人の謎に挑みます。防犯に関する私たちの考えが根底から覆されます。鍵って何のためにあるの?もっと関心を持たなくては、怖いですね。長いけど面白いです。
たんぽぽ団地
(重松清)

図書館42(270)
44
心温まるファンタジーと言っていいでしょう。この著者らしいです。「1970年代、団地を舞台にした時空警察物語の主人公だった子が、現在はパッとしない映画監督。その団地が取り壊されると知って、物語の続編を撮る?。当時と現在の小学生が時空を越え出会うことで起きる奇跡・・・」子供目線で描かれ、元気な小学6年生の女の子が出会う不思議な物語。(本文より)『生きていれば、みんな、思い通りにならないならないことも、うまくいかないことも、失敗することも、誰かに負けてしまうことも、あきらめることも・・・たくさんある。“でも終わるな”』 『すごなとあらためて思う。家族をつくって、働いて、歳をとって・・・生きていくことは、すごいんだな』 読後感ほんわか!

淳子のてっぺん
(唯川恵)


図書館41(269)
43
『“淳子のてっぺん”は頂上じゃないからな。ここだよ、必ず、無事に俺のところに帰ってくるんだ』 と夫の言葉、そうです無事に家に帰ってこそ・・・です。2016年10月20日に亡くなった田部井淳子さんをモデルに女性としてどのように生き、どのように山に魅入られたのか、その物語です。涙無しには読めません。「“女なんかに登れるもんか” そんな男の言葉に 女性だけで頂きを目指し、8848メートルに立った淳子。夫のサポートや家族の支えなど、一方、目の前で亡くした友人たちとの別れや、最後のアタックメンバーを決めるまでの人間関係の軋みまで」生々しく描かれています。 すべての女性の背中を優しく押してくれるとありましたが、女性だけのパーティは気が滅入りそう? (本文より)『みんなの未来は可能性に溢れているんだ。やりたいことがあるなら、何にでも挑戦するといい、何もしないで諦めることだけはしちゃいけないよ』 『山から教えてもらったことは数え切れないほどあるけど、何より、生きていることを実感させてもらったことだな』 『登った者、登れなかった者、ひとりひとりに葛藤があり、悔しさがあり、喜びがあった。その思いを吐露することで、得られる何かがあるのではないか』 『成功は体力と技術だけでは成し遂げられない。自然を味方につけてこそ結果を出せる。何人もの登山家がそれで涙をのんできた。不条理ではあるが、それが山というものだ』 『“何故山に登るんですか?” なぜ生きるのかってことと同じだよ。なぜ生きるかを知るために、人は生きる。なぜ山に登るかを知るために、山屋は登る』
騎士団長殺し・第2部(村上春樹)
図書館40(268)
42-2
第2部『遷(うつ)ろうメタファー編』 「日本画と石室・鈴を解放したことでイデアが顕れ、さまざまな事象が連鎖する不思議な出来事へと巻き込まれていく・・・」 現実か幻想がわからない事象や登場人物に囲まれていきます。この人の本を読んでどれくらいの人が、理解できるのか?あまりつじつまもを考えながら読むと頭がこんがらかってきます。もちろん、そこが村上春樹なんでしょうけどね。話しは面白くてスイスイ進むのですが『アレッ!何だったんだろう?』て振り返ることもしばしば、誰かと感想を語り合ってみたいです。 タイトルを理解するのも難儀、『メタファー=暗喩』。
果たして第3部が出るのか?
騎士団長殺し・第1部(村上春樹)
図書館39(267)
42-1
第1部『顕(あらわ)れるイデア編』(1部2部合わせて1000ページを超える)。4年ぶりの長編、今回も春樹ワールド満載です。話しは“私"が妻と別居してから元の鞘に戻るまでの9カ月間の物語になっています。「私は36歳の画家で、ある日妻から離婚を言い渡され、いたたまれなくなり車で北海道と東北を放浪したあと、小田原の山中にある孤高の日本画家・雨田具彦の家に仮住むことに。そこのアトリエの屋根裏に隠されていた未発表の大作『騎士団長殺し』を発見する・・・」。様々な不思議と出合いながら話は進みます。もちろん、自動車に音楽、料理…をはべらせながら。なお、『ナチスと南京事件』 が語られることも意味ありげに感じられます。『イデア=観念、概念』  (第2部へ続く)
晩鐘
(佐藤愛子)

図書館38(266)
41
“生”に対する人生観が変わりました。著者が『これが最後の作品』と思い88歳で書き始めた本です、「一生懸命に掘れば現実生活で見えなかった真実が見えてくる、そう思って書いたが、何も変わらなかった。わかったことは理解する必要はない、ただ黙って『受け入れる』それでいいということでした」と語っています。最近のエッセー『九十歳。何がめでたい』 その心境がよく分かります。「老作家のもとに届いた元夫の訃報から物語は始まる、文学青年、金に頓着しない事業家、詐欺師・・・とんでもない元夫。彼はいったい何者だったのか」 すさまじいほどの人生が語れます。『幸福も、不幸と同じように、人をして自分を見失わせるものなのですね』 『長寿がめでたいとはどこの能天気が言い出したことでしょう。思い出が増えることはもうありません。引き摺っているのは遠い過去の思い出だけです』 と。
見上げれば星は天に満ちて
(浅田次郎篇)

40
文春文庫が2005年に庫創刊30周年記念企画として出したものです。浅田次郎の心に深く残ったという13篇を収録 (日本文学秀作選)『森 鴎外「百物語」 谷崎潤一郎「秘密」 芥川龍之介「疑惑」 川端康成「死体紹介人」 中島 敦「山月記」 中島敦 「狐憑」 山本周五郎「ひとごろし」 永井龍男「青梅雨」 井上靖「補陀落渡海記」 松本清張「西郷札」 梅崎春生「赤い駱駝」 立原正秋「手」 小泉八雲「耳なし芳一のはなし」』 興味深く読んだのは“死体紹介人”“ひとごろし”(二回目)“補陀落渡海記”“西郷札”それに谷崎の“秘密”はエーッという感じで、さすがです。文豪たちの珠玉の名作、いい小説を読むと至福のひとときを味わえるそんな一冊でした。
暗闇のアリア
(真保裕一)

図書館37(265)
39
夫が自殺。状況から自殺は間違いないと思われる中か、妻だけは信じられず調べ始める。永年連れ添った者のとして納得のいかない妻・・・」 読み始めは面白かった。ところが話しが広がり、海外に飛び、登場人物が増えていき、複雑に。疑問が解決されないまま(少しは匂わせるが)終わるところも消化不良です。ただ、北アフリカの国々の実情、大国の思惑が見え隠れするところはすごく面白い。『戦闘での費用対効果が問題なのだ。アメリカは共産ゲリラを叩くために資金を提供し、ロシアはまた別の組織を背後から支援する』 『思想と宗教を道連れにした椅子取り合戦は終わりを見せない』 犠牲になるのはいつも罪なき気市民なんです。
剱岳殺人山行
(梓林太郎)


38
軽い軽い山岳推理小説です。舞台は北アルプス・剱岳、2011年に登った時の山小屋やルートが同じところですのでしっかりと想像しながら読めます。「剱岳で持ち主不明のザックが見つかったことから事件は始まる、北ア南部山岳遭難救助隊員の紫門一鬼は救助訓練中に“拾われたザック”に不信感を抱く。滑落事故で死亡した人物と一緒だった男の会話の内容も気になり、滑落事故も調査することに。調査中、さらに行方不明者が出てきて・・・」 タイ人女性の哀しい境遇も絡み話は進んでいきます。推理小説ファンの私としては真ん中くらいで、からくりがほとんど分かってきましたが、時には肩の凝らないこんなお話しもいいです。
悪寒
(伊岡瞬)

図書館36(264)
37
初読みの作家です、『ページを繰る手を休ませない、実に上質なミステリー』との感想がありましたがまさにその通り、イヤー面白かった!連載時のタイトルは『驟雨の森』だったとそうですが、替えない方がしっくりきます。「左遷の憂き目にあい、不遇をかこつ主人公のもとに届いた妻からの意味不明なメール。かつての上司が殺され、その犯人は自分の妻だという。奈落の底に突き落とされた一人のサラリーマンが、会社の上司、刑事、それに家族にも振り回され、戸惑いながらも徐々に事件の真相に迫っていく」 というもの。主人公が“ダメすぎじゃない?”と思いながら読み進むのですが、何ともここが味のあるところです。二転三転して最後まで飽きさせません。
怪談
(小池真理子)


36
新聞の書評で文芸評論家の池上冬樹が文庫新刊でお薦めしていた小池真理子の怪奇幻想短編集です。(衣服の持ち主を探しているうちに現実感覚を失う)『カーディガン』(病死した妻を想う)『ぬばたまの』(息子の結婚式で出会った男は?)『還る』など七篇が収められています。池上氏はこの三作が特にみごとと書いてますが私は(明るい性格のわたしが公園で貧相な老人に会う)『幸福の家』 が好きでした、これは最後に視線の逆転が待ち受けていてとても印象に残りました。恋愛小説の名手がホラー小説の名手でもあると言うこと。生者と死者が向き合うホラーであっても、何故か懐かしくやるせない気持ちにさせます。この幻想小説集、3ヶ月連続刊行されるそうです。
慈雨
(柚月裕子)

図書館35(263)
35
“慈雨”の意味は、『干天のおりの、恵みの雨』。 「定年退職した元刑事と妻が、四国八十八カ所の遍路巡礼を2ヶ月かかって歩く。その間、部下だった刑事を通じて少女誘拐殺人の事件に関わるが、実は彼には16年前に起こった少女殺人への悔恨が重く滞っていた・・・」 長編ミステリーとうたっているが、後悔を抱えた人が巡礼で出会う人たちから何かを得ながら再生していく物語です。お遍路が舞台になっていると言うことを知らずに読み始めたのですが、自分が歩いた道中を思い出しながら懐かしく読めました。一緒に歩く妻が素晴らしい、彼女がいたからこそ彼はここまで来られたのだろう、男とはこういうもの・・・。果たしてこの刑事のような潔い考え方ができるだろうか?
みかづき
(森絵都)
図書館34(262)
34
この著者のものは2作目(2008年『いつかパラソルの下で:』)。戦後から現代までの教育の在り方を3世代の家族の物語として描いています。教育行政がどんな風に歪められ変わってきたか・・・。登場人物が個性的で魅力があります。戦後『軍事教育のおろかしさを骨身に刻めばこそ、この国は死にものぐるいで民主教育の礎を築いたんです』 それが 『民主主義教育(お国のためではなく、子供のため)。その大前提が近年ではまた覆されようとしている』 と、そして『混迷を極めた教育改革の終着点は、結局、能力主義と国家主義だ』  教育とは『不条理に抗う力、たやすくコントロールされないための力を授けるためにあるんだ・・・』 どう思います?
i(アイ)
(西加奈子)

図書館33(261)
33
『サラバ!』から2年、テヘラン生まれの著者が今回書いたのは「シリア生まれの子が(アメリカ人と日本人の夫婦の)養子となり、日本にやって来る。“この世界にアイは存在しません”高校入学式の翌日、数学教師は言われ。その言葉にアイ(主人公の名前はワイルド曽田アイ)に衝撃を与え、彼女の胸に居座り続けることになる。安全な場所から世界を想うことの罪悪感など・・・」 と言う話し。今起きている事件・事故(阪神淡路大震災、シリアの内戦、9.11、ハイチの地震、世界中の悲劇を・・・) 私達はアイのように真剣に考えたことはありません。アイの叫びをしっかりと聞き取って欲しい。中村文則が『この小説は、この世界に絶対に存在しなければならない』 と言っています。
竜宮城と七夕さま
(浅田次郎)

図書館32(260)
32
JAL機内誌連載のエッセイを単行本化したものです。”浦島太郎が食べたご馳走と、滅多に会えない織姫と彦星の恋の行方が気になる”表題作を含め全40編を掲載。それぞれがフムフムと納得してしまう 『加速する人生』 年齢が重なるほど光陰矢のごとしになってしまうということ、なるほど! 他に『機械と対話している若者をみるにつけ安易な情報を知と錯誤して、責任を負う必要のない発言の応酬を、議論だと感じる世の中になった』と、 全く同感ですインターネット上にはびこっている根拠のない、責任も持たない書き込みをみると何とも情けなくなります。それを利用して世間を欺そうとする輩もいますからね・・・。著者が思うこと、気になっていることなどをそのまま書いています。
安倍首相の「歴史観」を問う
(保阪正康)
図書館31(259)
31
『「軍服を着た首相」への危惧。安倍首相はかつての軍事指導者に酷似している』 と帯にあります。歴史修正主義と権力が一体化しつつある現在、“戦間期”の思想(第一次世界大戦後次の戦争への復讐を考えた期間)をもつ安倍に怖さを感じます。『憲法改正、集団的自衛権、教育現場への介入、NHKへの私的交際の人を送り込んでの報道機関の私有化』など“戦後民主主義”の全否定へと進んでいるのです。一方、今の国会審議の横暴の原因は国民の思考の劣化も影響していることは間違いないのです。「日本をとりもどす」というのは戦間期の思想のことなんですね。最後に、従軍慰安婦問題に関しても、軍隊と性という大きなテーマを無視して朝日新聞の誤報のみにクローズアップされている不可思議さにも焦点を当てています。
逆流
(笹本稜平)

図書館30(258)
30
『越境捜査』シリーズです。「10年前の死体遺棄事件と12年前に消えた死体。ふたつの未解決事件を繋ぐひとりの人物。捜査に乗り出す鷺沼と宮野を待ち受けるのは強大な権力・・・」 話しの筋立てはいいのですが、どうも軽すぎて私には今一でした(ちょっとあり得そうもないことが多い)。しかし、時の権力者(もちろん政治家)やヤクザを相手に正義を貫くのは爽快です、現実の世界もこうだったらいいのにと思います。『政治が金で動くのは今も昔も変わらない。政治資金規正法なんて、暴対法のとどっこいどっこいのザル法で、たまたま摘発されるのは、政敵を倒すために誰かがチクった場合だけだ』 ホントそうです。
後悔と真実の色
(貫井徳郎)

図書館29(257)
29
警察小説です、指を切断する連続猟奇殺人犯を警察組織のそれぞれの立場で捜査するミステリー。でも、山本周五郎賞受賞作だけあって単なる警察ものではなく、犯人探しよりも警察内部の人間関係から生じる悲劇がひとつの柱となっています。「人指し指を切り取る連続殺人魔が社会を震撼させている。警察は、ネットでの殺人予告、殺害の実況中継など犯人の不気味なパフォーマンスに翻弄され、足がかりさえ見えない・・・。捜査一課のエース西條は、捜査に没頭するあまり一線を越えてしまう」 犯人探しだけではない面白さがあります。西條の今後が気になる、切ないです。文庫で600ページ超える長編ですが一気に読めます。
ヤマンタカ
(夢枕獏)

図書館28(256)
28
サブタイトルが『大菩薩峠 血風録』と付いています。未完に終わった『大菩薩峠』(全20巻)を下敷きにした剣豪小説。あと書きで著者は『机龍之介は民衆なんですよ、民衆は怒っている。放射性物質はばらまかれるわ、それを我々には知らさないで世の中ひどいことになっている』 と書いています。「御岳の社での奉納試合。“音無しの構え”で知られる机竜之助や甲源一刀流の宇津木文之丞ら、実力者たちが集う。土方歳三はこれに出場するため天然理心流に入門し、自分の強さを見極めようとする・・・」 ページをめくるのがもどかしいほどに面白いです。550ページの長編もあっと間に読んでしまいます。 なお、ヤマンタカとは『閻魔大王をも殺す最凶の菩薩』のことだそうです。
戦友たち・・
(森村誠一)

図書館27(255)
27
タイトルは『戦友たちの祭典(フェスティバル)』、太平洋戦争を生き延びた90代半ばの男たちの闘いを描いています。2014年から15年にかけて書かれた本作。当時、安全保障関連法案をめぐる議論が高まっていた。著者は新聞の読者欄に投稿し、時の政権を批判した。『日本が永久不戦を世界に宣言した事実を忘れ、国民の反対を押し切って、最高法規の憲法に平然と違反することをしようとしている』 と・・。「穏やかな余生を送る老人の元へ、かつての仲間が現れる。戦友の遺言に導かれ、修羅の巷へ向かうのだった―。太平洋戦争を生き抜いた男たちが集結。無限の夢を抱えて逝った友の無念を晴らす」 戦争で人の命を奪ったからこそ、人の命の大切さを訴えています。
魂でもいいから・
(奥野修司)
図書館26(254)
26
タイトルは『魂でもいいからそばにいて』、サブタイトルが=3.11後の霊体験を聞く=となっています。東日本大震災をテーマにした本はいくつもありますが、本書は霊体験をまとめたノンフィクションです。『死者・行方不明者1万8千人、この人達にも1万8千通りの物語が、また遺された人にもそれ以上の物語があったはずだ。不思議な体験もこの物語とつながっている』 と著者が言っています「“亡き妻があらわれて語った〈待っている〉という言葉が唯一の生きる希望”“兄の死亡届を書いている時〈ありがとう〉と兄のメールが届いた”“夫が霊になっても抱いてほしかった”など、愛する者が逝き、絶望の淵にあった人びとの心を救ったのは不思議でかけがえのない体験のだった」 涙無しでは読めません。
不発弾
(相場英雄)

図書館25(253)
25
80年代から90年代『バブルとその崩壊』の時代“財テク、にぎり(利回り保証)、損失補てん、飛ばし、仕組債”・・から現代の東芝(をモデル)の『不適切会計』に至るまで現実に起きたことをモチーフにした経済小説。闇に葬られた『粉飾決済』の裏側が描かれています。残念ながら私にはわからない経済用語が多く理解できないところもありますが、東芝の訳のわからない決着の仕方に納得がいきました。政治と経済、すごく怖いものを感じます。「三田電機は巨額の粉飾決算が発覚。警視庁キャリアの小堀は巨額の粉飾があったにも関わらず上場廃止にならないことに疑惑を持つ。そして金融コンサルタントの存在を掴む。しかし、その男が仕込んだ不発弾はこの国を蝕んでいた・・・」

百年の孤独
(G.ガルシア・マルケス)


図書館24(252)
24

“20世紀文学の最高傑作のひとつ”といわれ、ヤマザキマリさんが百回は読んだそうです。そこで挑戦しました、わが人生で最高と言えるほど読み応えのある本でした。彼女が『自分の想像力と感性を総動員しないと、とても味わいきれないような豊穣な世界がそこに広がっていました。初めて読んだ時には、まるで右脳をフル回転させて読んだ感じがしました』 と言っています。1967年に発表され世界中にラテンアメリカ文学ブームをもたらした、もちろん日本でも・・(村上春樹にも影響が見られる)。内容は(BOOKデータベースより)「蜃気楼の村マコンド。その草創、隆盛、衰退、ついには廃墟と化すまでのめくるめく百年を通じて、村の開拓者一族ブエンディア家の、一人からまた一人へと受け継がれる運命にあった底なしの孤独は、絶望と野望、苦悶と悦楽、現実と幻想、死と生、すなわち人間であることの葛藤をことごとく呑み尽しながら…」というものです。百年にわたるのだから、登場人物を覚えられない(出てくる男性人物のほとんどは「アルカディオ」か「アウレリャノ」という名前)、最初は難儀しましたが、どうも読者に記憶力を要請しないようです、読んでいくうちにわかります。この本には“章題も索引もない”のです、これはどのページを読んでもそれぞれの物語があると言うことにつながっているようです。『趣味を読書とする者に、本作は避けては通れない一冊である』との評がありました。本好きの方はぜひ!
ガルシアは1982年にノーベル文学賞を受賞し、本作は「世界傑作文学100」に選ばれています。
国境のない生き方
(ヤマザキマリ)

図書館23(251)
23
「14歳で1か月間、欧州を一人旅。17歳でイタリアに留学し、どん底のビンボー生活も経験。様々な艱難辛苦を経験しながらも、明るく強く生きてこられたのは、本と旅、人との出会いのおかげ!」 『テルマエ・ロマエ』の著者ヤマザキさんの半生が語られています。フィレンツェで美術を学んだ後住んだ国はシリア、ポルトガル、アメリカを経て現在イタリアに在住。特にお母さんがすごい、こんな親になれなかった自分を反省。『親がメディアや業者に洗脳され、子どもにいろんな選択肢や可能性があっても“これしかない”という判断になってしまう』 子どもが伸びるはずがありません。最後に『持っている地図のサイズを変えてみたらいい、基本にする尺度を変える。地球サイズで生きよう』  面白くて勇気が湧き出る体験的人生論です!
分水嶺
(笹本稜平)

図書館22(250)
22
「幻のエゾオオカミを探しに人生をかけた仮釈放中の男。父の遺志を継いで再出発した山岳写真家。真冬の大雪山で出会った二人・・・」大規模リゾートに絡んだ殺人事件、自然に対しては何もできない人間の愚かさ・・・。グイグイ引き込まれていきます。『科学技術が進歩すれば・・・。ところが心のレベルで不幸になる一方だ。自然という故郷に通じる道を、人間は自らの手で断ち切った』 『本当に崖っぷちに立ったとき、そこに張られた希望という一本の綱を怖がることなく渡れるかどうか。そこが勝負の分かれ目だよ』  心が自然に通じたときに奇跡が起こります、”送り狼”の本当の意味を知ることになる。厳冬期の大雪山の描写も素晴らしい!
回帰
(今野敏)

図書館21(249)
21
『隠蔽捜査』シリーズとは別の『樋口(警部補』)シリーズ5作目です。掴み所がなく前半は話が進まずちょっと退屈します。『法律は守らなくてはいけない』『全ての人間の人権が尊重されるべき』という主人公がテロ事件の捜査担当、少し甘いような気がします。当然反対派もいますが、刑事と公安との絡みも他の警察物とは違うお話になってます。「ある大学の門近くで自動車の爆発事故が起こった。死者と怪我人を出したこの爆発は、やがて爆弾によるものだったことが判明する。宗教テロが疑われる中、警視庁刑事部と公安部が動き出す・・・』 国際テロ組織に入ったと噂される元同僚なども絡み筋立てはいいが、やはり甘すぎる。
春に散る・下
(沢木耕太郎)

図書館20(248)
20-2
下巻では、届かなかった老人達の夢を託す青年との交流を中心に話が進みます「昔のボクシング仲間4人と一度挫折した若いボクサー、それに不思議な若い女性との6人の共同生活。その中で見えてくるそれぞれの人生・・・」 。沢木耕太郎はノンフィクション、映画、旅、登山と幅広いものを書いています、今回はボクシングに題材を採っていますが人生とは何かを考えされられます。タイトルから結末は想像つきますが、タイトル通りの展開は辛すぎるものがありました。映画にしても面白そうです。ボクシングに興味がない私でも、とても面白く読めました。『残された人生で何が成せるか? 夢を見るときに人は強くなる・・・』 いいですね~!
春に散る・上
(沢木耕太郎)

図書館19(247)
20-1
2015年4月から16年8月まで朝日新聞に連載されたのが単行本として刊行されました。知りませんでしたが年配女性に反響があったそうです。文章は読みやすくスイスイと進みます。「40年ぶりにアメリカから帰国した一人の男。かつてボクシングの世界で共に頂点を目指した仲間と再会して―。俺たちにはまだ、やり残したことがある・・・」 60代後半にさしかかった男たちの生き方、哀切や悔恨、様々な思いが胸に迫って来ます。早く下巻が読みたい。『老いをどのように生きたらいいのか。つまりどのように死んだらいいのか。たぶんそれは、どのように人生にケリをつけたらいいのかにつながるのだろう・・・』 (下巻へ続く)
バラ色の未来
(真山仁)

図書館18(246)
19
著者が社会派ミステリーとは『政治や国家が、国益のために個人を見殺しにする物語』と言ってます。これははまさにその通り、「IRを誘致し町おこしをと気炎を上げていた町長がホームレスとなり東京で死んだ。日本初のIRは、5年前土壇場で総理大臣のお膝元に持って行かれていた。元町長を破滅に追いやった誘致失敗の裏に何があったのか?東西新聞の編集局次長・結城洋子は、調査報道特別班を組み、IRやカジノの問題を徹底的に追及しようとする」 IR法が通る前からこの話しは連載されていたそうです。利権に群がる政治家、企業、広告代理店、外圧など、一方、良心ある新聞記者も見逃せません『新聞記者の存在意義とは、すなわち権力の監視』
継続捜査ゼミ
(今野敏)

図書館17(245)
18
今野敏ということで期待したのですが、女子大のゼミで教材として事件を解決するお話しで今一迫力に欠けます。「元ノンキャリ刑事の大学教授とイマドキ女子大生が挑むのは、継続捜査案件(未解決事件)。15年前の殺人事件やキャンパスで起こる事件などをゼミの中で推理していく」 のですが、出てくる現職刑事も何となくのんびり屋さんで拍子抜けします。『新感覚の警察小説』とか『今野氏、新たなネタ発見』 とかありましたが際立つ物がなく物足りない感でした。ただ、犯人を捕まえるための操作方法、考え方など面白く読めました。
木足の猿
(戸南浩平)

図書館16(244)
17
木足とは義足、猿は西洋人から見た日本人の蔑視。日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作です。「時は侍の時代が終わった明治9年、侍で左足が義足ながら居合の達人奧井が刎頸の友・水口の仇を追う。そんな中、連続して英国人が殺害され生首が晒されるという事件が発生。事件の背景には友の仇敵の影が見え、謎究明と共に仇討ちのために奔走する」 最初は少し話があちこちしますが、侍崩れや忍者崩れ、イギリス人に中国人。伏線を散りばめ、最後にどんでん返し・・・。ラストは最高でした。 『我が国で強盗に殺人、強姦とやりたい放題やったクズの白人を捕まえ母国に渡しても、証拠不十分で何のおとがめもない・・』。
カブールの園
(宮内悠介)

図書館15(243)
16
日本人のアイデンティティを問う、二つの物語が収録されています。
『カブールの園』(芥川賞候補にもなった):「サンフランシスコで暮らす日系三世のレイ、複雑な親子関係、幼少期のいじめによるトラウマ、米国社会からの疎外・・・」 何とも哀しい。
『半地下』:「幼少期に、ニューヨークに不法移住した少年がプロレスラーの姉と暮らしながら成長する様」が描かれています。これも切ない。
二篇とも日本人とは、日本語とは何かを問いただしています。異なる文化で生活することの大変さが実感できます。
月と太陽の盤
(宮内悠介)

図書館14(242)
15
新聞の書評に著者は『ミステリーも純文学も人類の課題を問う』とあり、本著と”カブールの園”を照会してありました。本著は碁盤師が探偵役の連作ミステリーです。碁盤師なるものを初めて知りましたが、こんなにもこだわって碁盤は出来ているのですね。「放浪の碁盤師・吉井利仙と彼を慕う少年棋士が出会う囲碁を巡る六つの事件」 なかなか新鮮な感じで読みました、じんわりと胸に広がる話しの進め方がとてもいいです。碁盤と碁石、宇宙と星に見立てられること、特殊な木材を使うこと、呪術にも使われていた歴史など・・・囲碁にあまり知識のない人のも面白く読めます。 次は純文学”カブールの園”を読んでみます。
社長室の冬
(堂場瞬一)

図書館13(241)
14
メディア三部作の完結編です。「ネットに押され、新聞のメディアとしての重要性が希薄になっていく中、『日本新報』は存続の危機に陥っている」。紙の新聞とネット・・・。ネットでは過去の記事も削除されたりするし、いくらでも修正がきき、誰が書いた記事かもわからない。一方新聞紙媒体は決して消せない、訂正も削除もできない。ネットメディアを便利に思っている私でもネットでの発言信憑性に疑問を感じています。情報過多の今、受け取る側の難しさも考えされられました。ネットと新聞のせめぎ合いは面白いです。ただ、落ちが何となく消化不良という感じでした。WOWOWでテレビドラマ化されるようです。
草花たちの・・(宮本輝)
図書館12(240)
13
タイトルは『草花たちの静かな誓い』。いつもの宮本作品のように。”人の心”をしっかりと読ませてくれます。「アメリカ西海岸の豪邸に住んでいた叔母の死。甥に託された莫大な遺産、きえた一人娘の行方・・・』 謎が謎を呼び引き込まれていきます。母親として人間としての強さが、伝わってきます。 草花の清らかな美しさと、アメリカ西海岸のリラックスした雰囲気が心地よく、行ったこともないのに情景が頭に浮かびます。読みやすく頭にスーと入ってくるような文章で、ゆっくりとページをめくれます。人間の幸福とは何か?『気に病んでもどうにもならないことを気に病む人がいる。不幸というものはそこから生まれるのかもしれない』 。
天子蒙塵第二巻
(浅田次郎)

図書館11(239)
12-2
「張作霖爆殺事件から3年、息子・張学良は無抵抗将軍となり、清朝最後の皇帝・溥儀は玉座を追われたなか、関東軍に一人反抗を続ける満洲の野に放たれた男・馬占山。馬は同じ張作霖側近であった張景恵の説得を受け一度は日本に従うが・・・」 満州建国を急ぐ日本、それに目を光らせる国際連盟、その狭間で苦悩する溥儀。日中の思惑が激突します。関東軍がどんな軍隊だったのかよくわかります。『千人の男を殺すよりも、一人の女を行かす方が難しかった』 義と信に生きる男たちがしのぎを削る。『人間の不幸の多くは、法律の不備に起因します』 蒼穹の昴からの登場人物がよみがえってきます。(第三巻へ続く)
天子蒙塵第一巻
(浅田次郎)

図書館10(238)
12-1
『蒼穹の昴』(1996年)から『珍妃の井戸』(1997年)、『中原の虹』(2006年)、『マンチュリアン・リポート』(2010年)に続くシリーズ第五部『天子蒙塵』の始まりです。「1924年、クーデターにより紫禁城を追われたラス・トエンペラー溥儀とその家族(正妃・婉容と側妃・文繡)、エンペラーの立場を利用しようとさまざまな思惑が渦巻くなか、日本の庇護下におかれ北京から天津へ・・・」。なお本巻では『家族とは何なのか、自由とは何だろうか』と問いかけると共に、運命に逆らって生きる人間の姿を感動的に描いています。『天子蒙塵』とは”天子、つまり王がほこりまみれになって逃げるという”意味だそうです。 (第二巻へ続く)
見てる、知ってる、考えてる
中島 芭旺

11
10歳の男の子が書いた自己啓発本。小学校には通っておらず、現在は自宅で『自分で選択する学習』『好きな人から学ぶ』をモットーに勉学に励んでいるらしいのです。読んでみてビックリ、天才なのか?私には及びもつかないような言葉がずらり。どんな大人になるのかちょいと心配にもなります。野山を駆け巡り笑ってるような子供の方がいいのか? 「おかもとたろう記念館にいった。僕の好きな言葉がたくさん落ちていた。僕が選んだ言葉は”やろうとしないから やれないんだ”という言葉だった。ほんとうに全ては”やる”って決めるだけだから」 「僕は不登校はひとつの才能だと思っています。それは不登校するという決断を出来るという才能。自分を信頼できるという才能」
人魚の眠る家
(東野圭吾)

図書館9(237)
10
作家デビュー30周年記念作品です、図書館で1年待ちやっと回ってきました。『脳死』と『臓器提供』、人の死を扱った重いテーマですが、ぐいぐいひっぱられて2日で読み終えました。『脳死』という判定が臓器提供の意思表示をした場合のみと言うことは知りませんでした。「娘の小学校受験が終わったら離婚する。そう約束した仮面夫婦の二人。その彼等に悲報が届いた。娘がプールで溺れた―。病院に駆けつけた二人を待っていたのは残酷な現実。そして医師からは、思いもよらない選択を迫られる。過酷な運命に苦悩する母親・・・」。母親の狂気にも似た強さに心を打たれます。自分がこのような立葉に立たされたとき、どうするか?。
サイレント・ブレス
(南杏子)
図書館8(236)
9
著者は現役の女医、終末期医療のあり方を問う感動の物語です。6人の患者の最後が描かれます「①45歳女性 乳癌末期:延命治療を頑に拒否 ②22歳男性 筋ジストロフィー:介護が必要な息子を置いて、母親は家を出てしまう ③84歳女性 老衰:一度は胃瘻を拒否し、穏やかな最期を選んだが・・・ ④推定10歳女性 言語障害:高尾山に捨てられていた美少女・花子 ⑤72歳男性 膵臓癌:消化器癌の権威・自らが末期の膵臓癌に侵されたが、積極的な延命治療を拒絶 ⑥78歳男性 脳梗塞:8年前に脳梗塞で寝たきりになった主人公の父、今は一切意思の疎通が図れない。」 ”サイレント・ブレス”とは静けさに満ちた日常の中で、穏やかな終末期を迎えることをイメージする言葉です(著者)。でも、死だけではなくいかに生きるかも問いかけていて考えされられます。(ミステリー仕立てなのも面白い)
『医療にはおのずと限界があるが、多くの医師は闘いをやめることを敗北と勘違いしている。戦うだけではいずれたち行かなくなる瞬間が来る。その時に求められるのは別の医療だ。死までの残された時間、ゆったりと寄り添うような治療がいかに大事か・・・』。
火村英生の推理 Ⅰ
(有栖川有栖)


8
92年から現在まで続く火村英生&作家アリスシリーズの第一作目がよみがえりました。タイトルは『臨床犯罪学者・火村英生の推理Ⅰ・46番目の密室』です。内容はそれなりの推理で面白いのですが挿絵(麻麻原絵里依)が少女漫画風で作品自体が軽くなった感じで残念です。「推理作家・有栖川有栖は、大御所推理作家・真壁聖一の自宅に招かれる。折しもクリスマス、場所は雪の軽井沢。親友で気鋭の犯罪学者・火村英生と軽井沢に赴いたアリスだが、なんと真壁自身が密室で殺される事件が起きる・・・」 92年に刊行されたもので小道具などは古めかしいが謎解きには面白いです。この著者は『鍵の掛かった男(16年)以来2冊目です。
沈黙法廷
(佐々木譲)

図書館7(235)
7
新しい感覚のミステリー、警察小説と法廷小説が融合!「連続する不審死、捜査線上に浮上した家事代行業の女性。無罪を主張する被告は証言台で突然口を閉ざした・・・。有罪に代えても守るべき何かが彼女にあるのか?」 557ページに及ぶ長編です。舞台は東京都北区赤羽、埼玉県と隣接する東京の下町。地図を広げて場所を確認しなくてはならないようなところが読んでいて少し面倒くさいけど(著者は土地へのこだわりが強い)、後半法廷シーンになると俄然面白くなります。相変わらずの、プライバシーを越えた愉快さを煽り偏ったマスコミ報道。現代社会に一石を投じています、色々と考えさせられる本でした。
羊と鋼の森
(宮下奈都)

図書館6(234)
6
『ピアノの基準音となるラの音は学校のピアノなら440ヘルツと決められている。赤ん坊の産声は世界共通で440ヘルツなのだそうだ』 音楽に疎い私は知らないことばかりの本でした。 「ピアノの調律に魅せられた一人の青年。彼が調律師として、人として成長する姿」を温かく描いた、心温まる小説です。 2016年 本屋大賞、2016年 キノベス! 第1位、2015年 ブランチブックアワード大賞の三冠を受賞しています。こんなお話を読むと心がホンワカと暖かくなります。因みにタイトルの『羊と鋼の森』には意味があります(羊:ピアノの弦を叩くハンマーに付いている羊毛を圧縮したフェルト、鋼:ピアノの弦、森:ピアノの材質の木材)。2018年映画化されるそうです。
警察サツ回りの夏
(堂場瞬一)

図書館5(233)
5
『蛮政の秋』の前の一作目です。はるかにこちらの方が面白かった「幼い姉妹二人の殺害事件が発生。盗みの形跡はなく、母親は消息不明。マスコミは”虐待の末の殺人では”と報道を過熱させていく。日本新報甲府支局のサツ回り担当の南は、この事件を本社栄転のチャンスにしようと取材を続けていた。しかし、そこには大きな罠が・・・」 報道の使命とは何か?ネットの世界では言いたい放題、どうなるこれからのメディアは?『権力とメディアの駆け引き-最近は権力側の一方的勝利と言っていい。向こうの意図通りに原稿を書かされ、都合の悪い事実は隠され・・・』 現実にこの通りです。三作目(完結編)は『社長室の冬』 待ち遠しいです。
獅子吼
(浅田次郎)

図書館4(232)
4
『あの時、あの場所にいなければ…時代と過酷な運命に翻弄されながらも立ち向かい受け入れる、名もなき人々の美しい魂を描く』浅田次郎の短篇集です。イヤァ~、やっぱり上手い。六つの短編からなりますが表題作の”獅子吼”ライオンと兵隊の葛藤・・・・グッときます。他に「帰り道」「九泉閣へようこそ」「うきよご」「流離人」「ブルー・ブルー・スカイ」と」 特に” 帰り道”と ”うきよご” の切なさは浅田次郎の真骨頂。『人間の取り柄と言えば知性だけであるのに、その知性を磨き上げる学校を閉めて子供らを働かせた。そんなことをしたら戦争に勝とうが負けようが、先の世の中が保てまい』 『恨み憎しみもない相手に”敵”と言う名を付けて殺すのが戦争ではないか』 いいな~!
終わった人
(内館牧子)

図書館3(231)
3
『シニア世代の今日的問題であり、現役世代にとっても将来避けられない普遍的テーマを描いた』話題の本です。「主人公は東大でのエリート。仕事一筋の男だったため、友達もいないし、趣味もない。やりたいこともない。やりたいのは仕事なのだ。しかし、来る日も来る日も何とか時間をつぶさなければならず、見たくもない映画を見に行ったり、スポーツジムに入ったり、カルチャースクールに通ったりする。それでも”自分は終わった人ではない”という・・・」こんな男に妻や娘も困り果てる。『自分で決めたのに本当に女々しいんだから。愚痴と暗さを周囲に振りまかないで』とか『ああ、しゃらくさい。思い出と戦ってもかてねんだよッ』 必読の書です。
蛮政の秋
(堂場瞬一)

図書館2(230)
2
メディア三部作の二作目です(一作目は読んでいません)。虚実入り乱れる情報社会を捉えた長編、読み応えがあります。「日本新報の新聞記者・南のもとに届いた一通のメール。そこには大手IT企業”JPソフト”から民自党議員への献金を記したリストが添付されていた。”メディア規制法案”に関わる政界工作だと踏んだ南は真偽を確かめるため調査に乗り出すが・・・」 政権政党の傲慢さ、野党のだらしなさ、それに何も出来ないメディアと、今の日本をそのまま描いています。『政治家にスキャンダルがあれば、マスコミは”説明責任”と言うじゃないですか、でも最近は政治家は必ず逃げる。逃げ切る。マスコミの追及が甘いからですよ』
広域警察極秘捜査班BUG(福田和代)図書館1(229) 1 この著者のものは『迎撃せよ』(2011)に続き2冊目です。現代クライシス・ノベルの旗手といわれるだけあって、最後まで目が離せません。また前職がシステムエンジニアと言うこともあり、なかなかよく書けています。「16歳の天才ハッカー、水城陸。航空機墜落事故の犯人として死刑判決を受けるも、10年後その高すぎる能力ゆえ、命と引き換えに名前と経歴を変え、警察の極秘捜査班に参加させられる。捜査するうちに冤罪事件のからくりが見えてくる・・・」 途中、少し何?と思うところもありますが、ネットの世界はすすみが速くて本当にこんなことが出来そうで、ちょっと怖くなります。これからの世界、どうなっていくのでしょう?