book(2018)

その先の・・(中村文則)
図書館74(356)76
著者の最新作『その先の道に消える』。「アパートの一室で発見されたある“緊縛師”の死体。重要参考人として名前があがる桐田麻衣子は、刑事・富樫が惹かれていた女性だった」 単なる刑事物ではありません。映像化は難しいでしょう、R-18指定されるような内容です。しかし、絶対的な悪と、性と、信仰と、生きることの意味。天皇に、右翼、左翼、政治、生きていくことへの責任と重みなど、テーマは深いです。『右派、保守それは俗にまみれていました。韓国や中国の悪口ばかり。原発に賛成、アメリカの基地に賛成、左翼は馬鹿であり、リベラルの知識人は幼稚である。そんなことばかり書かれていた』 こんな日本人が増えているのです。
シンドローム・下(真山仁)
図書館73(355)75-2
『官邸、政府、そして東電の度重なる失態によって、原発事故は拡大し国民は今なお恐怖に戦く日々を送っています。』 と (当時の)「民主党政権のだらしなさ、政治家、官僚誰一人責任を取ろうとしない、まして東電幹部は自己保身に走り政府や銀行に金を無心、事故の原因さえ追求しようとしなっかた」その実態がよく分かります。自民党は、政権政党でないことを幸いに原発を推進したにもかかわらず、知らん振り・・・。」これにハゲタカが目をつけないはずがありません。“国内に原発50基以上も抱えるのに、なぜ事故に対する手法・組織がなかったのか。大きなショックだった”とも作中で語られています。騙されるのはいつも国民!
シンドローム・上(真山仁)
図書館72(354)75-1
『ハゲタカシリーズ』5作目、“電力事業ほど儲かるビジネスはない。国から特別待遇を与えれ、『絶対に損をしない』収益構造を持つ電力業界に狙いを定めた・・・、ハゲタカ ” 「2009年、原子力発電所を建設する民営会社の買収に失敗。財・政・官がもつれあう、権力構造の怪奇さを思い知る。その2年後、総本山“首都電力”に買収を仕掛けようとした矢先の2011年3月。東北大震災が発生・・・」 事故後の東電関係者に実際に取材し、数々の証言や調査に基づいて書いただけあって場面描写は生々しいです。著者が『ライバルがいない、コストが上がれば(電気代に)のせる。やりたい放題。だからハゲタカにとってはおいしい企業ですよ』と語っています。(下巻に続く)
鏡の背面(篠田節子)
図書館71(353)74
「暴力や薬物依存に苦しんだ女性が駆け込むシェルターで発生した火災。“先生”呼ばれる尚子は入居者を助け、死亡。しかし、遺体は別人のものだと・・・」 聖母として神格化されていた女が連続殺人を疑われた女とすりかわっていた?聖母と毒婦、この2人をつなぐものは何なのか。人は、自分を偽ったり、また開き直ったり、神を信じたりと他人には理解できない葛藤の中で生きています。現実にこのような環境に苦しんでいる女性がいると思うと心が痛みます。『この国の政府も上流の人間も、教会の上の聖職者たちも、金持ちをもっと儲けさせることしか考えていない』 『人は生き直すことがができる、と信じたいです』 と。
アイネクライネ・・・(伊坂幸太郎)
図書館70(352)73
タイトルは“アイネクライネナハトムジーク”。いつもの伊坂ものと違い泥棒や殺し屋、超能力者などは出てこなくて『人との出合い』にまつわるもので読みやすかったです。「奥さんに愛想を尽かされたサラリーマン、他力本願で恋をしようとする青年、元いじめっこへの復讐を企てるOL…」 6つの連作短編です、読み進めていくと19年前、10年前、現代と舞台が代わり登場人物も少しずつ繋がりが出てきて『えっ、この人は誰だったけ?』 と、人の名前を覚えながら読むのは大変(相関図必要)ですが、心温まる爽快感が残る伊坂作品としては珍しい本でした。『この子がどなたの娘か、ご存知ですか?』というトラブル時の撃退法が傑作!
ざんねんなスパイ(一條次郎)
図書館69(351)72
伊坂幸太郎が推薦していた初読みの作家の本です。何ともまぁ~、私の読解力なさなのかハチャメチャ過ぎて何を言いたいのかわかりませんでした。「物語の舞台はニホーン、スパイ養成の孤児院で育てられた73歳の主人公が50年続けた清掃作業員の仕事を終えて初めて与えられたスパイらしい仕事は独立を目論む市長を暗殺することに・・・、ところがその彼と友だちになってしまう」 さぁ~、どうなるでしょう?今の日本(世界も)を皮肉っていることは分かりますがちょいと脈絡がなさすぎです。著者が『自分はまじめなことをまじめに書けないみたいです。まじめに書いているとなんか悲しくなってくるので』と言っています。


NOでは足りない
ートランプショックに対処する方法ー
(ナオミ・クライン)

図書館68(350)71
かつてキング牧師は、アメリカ市民が克服すべき主義として人種主義、物質主義、軍国主義の三つをあげた。トランプがこれらの主義を忠実に体現していることに疑う余地はない。白人至上主義を勢いづかせ、黒人、イスラム教徒やヒスパニック系移民への中傷を繰り返す。パリ協定からは就任早々離脱し、企業活動への規制を取り払う。そして、ただでさえ異常なまでに膨らんでいる軍事予算の増額を進めている。2016年、まさかのトランプ大統領『アメリカにおける人種差別や女性蔑視の根深さを前々からわかってはいたがまさか・・』というショック。著者は70年カナダ生まれのジャーナリスト・作家・活動家です。トランプ政権はイラン核合意から離脱し、原油の高止まりをもたらした。原油価格が上がれば化石燃料への需要が増え、掘削や輸送、販売に利権を持つ者を潤す。同様に、世界市場にショックを与える紛争や戦争それに災害は利益をもたらす格好の手段になる。「惨事便乗型資本主義政権」 この政権にはオイル、軍需産業の利益代表者ばかり。世界ではこんな事が起きています“民間請負業者”が戦争、災害などあらゆることで莫大な利益を得ている(しかし、下請けの末端にはわずかな金しか届かない)、民営化とは企業に儲けさせることなのです。世界の指導者も右寄りが台頭しているようですが、一方女性、若者たちが目覚めショックから立ち直り行動を起こしています。ラストにNOだけではく思想を巡る闘いも必要だ、私たちは何をなすべきか?と、市民たちがまとめた“リーブ・マニュフェスト”が掲載されています。『人間と地球を使い捨てにしない、思いやりと再生に基づく社会、お互いがケアしあう社会への移行』と。日本でも今の政権を見ていると人ごとではないと思います。日本人は自分に不都合なことが起きないと動かないのでしょうか?
『拝金主義の不動産王にして、あからさまな性的・人種的・宗教的な差別発言を連発してはばからない厚顔無恥なトランプのような人間が、世界最強の国の最高権力者になるなど悪夢以外の何物でもない』 あ~あ!
ミッドナイト・ジャーナル(本城雅人)図書館67(349)70 ある経済評論家が『職業柄、堅い本を読むことが多いが、それでは心の栄養が偏る。糖分が欲しいなと思ったとき、小説で魅力的な人間に会いたい、それを充たしてくれた一冊』と。前出の“傍流の記者”よりこちらが面白かった。「7年前に児童誘拐事件で大誤報を打って地方に飛ばされた記者の赴任先で、女児連れ去り未遂事件が起きる。過去の事件との関連を疑った記者たちの闘い」 新聞社内部の権力争い、警官との駆け引き、それに事件関係者の思いなど記者がひとつの記事をあげるまでの苦労がよく描かれていて、責任の伴わないネット配信ではなく、大きな責任を背負って書かれる新聞の重みをしっかりと感じます。ラストまで報われない主人公、でも生き様がいい!
傍流の記者(本城雅人)
図書館66(348)69
2018年上期の直木賞候補になった作品です。著者は産経新聞社、サンケイスポーツ記者を経験しています。話しは同期の記者6人にそれぞれスポットを当てた連作短編「社会部のエース記者5人が、日夜スクープを追いかけたり、部下や家族との関係に苦悩しつつも、激しい出世レースを繰り広げる。組織の中でどう動くのか、出世か、家族か、組織か、保身か、正義か、嘘か・・・」 ある評に『主流には与しない。長いものには巻かれないで踏みとどまるという強い思いを感じた』と。今どき、このような骨のある記者がいますかね?今の政権を思わせるシーンもたくさん出てきます、こんな強い姿勢のメディアが欲しい!
天子蒙塵第四巻(浅田次郎)
図書館65(347)68
『蒼穹の昴』(00)『珍妃の井戸』(00)『中原の虹』(07)『マンチュリアン・リポート』(10)と続いて第五部でシリーズで完結とのこと。「春児との出会い・清朝末期から満州国建国にかけての物語は、いったん締め括られる?西太后、張作霖、張学良、溥儀ら実在の人物が繰り広げる中国史を背景に、李春雲、梁文秀、李春雷ら架空の人物が中国人の魂を伝えてくれた壮大な物語」 青空よりなお青い蒼穹のもと満州の首都新京(現・長春)でラスト・エンペラー・溥儀は皇帝に即位、物語の終りは満州国建国・・・。「駆け落ちした女性と憲兵隊将校が脱走しパリへ向かう、満洲に生きる道を見いだそうとする二人の少年の運命は・・・」やはり続きがありそう。『満ち足りて驕り昂ぶる者は損失を蒙り、謙虚な者はおのずと利益を得る。これは天の道理である』 。“蒼穹の昴”から通しで読み直してみたい。
作家たちのオリンピック(浅田次郎ほか)
図書館64(346)67
『五輪小説傑作選』として7人の作家がオリンピックを真正面からまたは背景として描いたアンソロジー。 城山三郎(硫黄島に死す)浅田次郎(ひなまつり)奥田英朗(名古屋オリンピック)赤瀬川隼(ブラック・ジャパン)小川洋子(肉詰めピーマンとマットレス)海堂尊(平和的祭典北京五輪)額賀澪(オリンピックを知らない僕たちへ)の七編。オリンピックが題材というわけではなく、作品の中にオリンピックが出てくるのです。浅田次郎は相変わらずいい、城山三郎もなかなかです。あと、オリンピックが平和の祭典であることを利用し開催中は国際紛争を自粛すべきとし3年間も継続(その間紛争は起きない)して開催されている話し・・。など風刺的なものまで、面白い!
花筵(山本周五郎)

66-2
『おたふく物語』と同じ3巻に収録されています。こちらは武家の妻が主人公、「藩の重職の恵まれて育ったお市が、藩政改革を目指す陸田家に嫁入りしてから短い月日の間に襲った事件を通して妻として、嫁として、母として女として成長する姿」を描いています。昭和23年に刊行、脱稿するまで1年かかったそうです。クライマックスで『水害で流されようとしている姑と子供を前にして、彼女はどちらをを選び助けるのか。泣き叫ぶ子供の声を耳にしながら・・・』 何とも心の痛くなるシーンです、“人生の生き方の選択と瞬時の迷いを乗り越える信念”けなげでたくましい女の生き方・・・、今の時代に通用するか?
おたふく物語・三部作(山本周五郎)

66-1
昭和57年から59年にかけて刊行された全集(全30巻)です。本棚に眠っていたのでこれから再読も兼ねて全作品に挑戦したいと思っています。まず手始めは著者の二番目の奥さんがモデルと言われる『おたふく物語』です。江戸の下町もので“妹の縁談”“湯治””おたふく”の三部作、「美貌でありながら、自分をおたふくと思い込み、何事に対しても謙虚で、私欲がなく、明るく大らかな女性」が主人公.。善意の固まりのような主人公おしず、『みんながおしずさんのようだったら、世の中はもっと住みやすくなるわねぇ』というシーンが出てきます、理想の人間像です。心洗われる、まさに周五郎ワールドです。
「君たちはどう生きるか」池上彰図書館63(345)65 別冊NHK100分de名著 読書の学校 池上彰 特別授業 『君たちはどう生きるか』 武蔵高等学校中学校で行われた講演会が本になりました。本編を先に読んで今回こちらを読みましたが、入門書としては最高です。当時の時代背景から入り「・豊かさについて、・友だちについて、・歴史について、・どう生きるかについて」 と四つに分けて生徒達に問いながら解説していきます。『時代は違っても、この作品には、今読んでも心にしみるエピソードがちりばめられています。そうしたエピソードの一つ一つが人として肝心なこと、おろそかにしてはいけないことを教えてくれています』 それと、本を読むことの素晴らしさも生徒に語っています。
生きがいについて(神谷美恵子)図書館62(344)64 『100分 de 名著』で紹介されました。少し難解なところがあり後半は飛ばし読みしましたが心にずしんと響く名著です。「“生きがいとは何か”から始まり、生きがいを求める心、生きがいをうばうもの、新しい生きがいの発見」というふうに話は進みます。著者43歳のとき精神科医として働いた、岡山県のハンセン病療養施設“長島愛生園”で『生きがい』という問題に直面したと言います。社会的に弱い者に寄り添いながら、生きがいにつての考察を7年掛けて完成した本です。NHKのプロデューサーが「苦海浄土」と「生きがいについて」は、深いところで言葉同士が呼び合っているという直観を抱いたと言っています、同感です。
歪んだ波紋(塩田武士)
図書館61(343)63
著者は元神戸新聞の記者、それだけに話しがリアルです。“誤報”にまつわる5つの物語、最後にはすべてが絡まっていきます。「締め切りに追われて捏造記事を書いてしまったり、誤報記事によって人生を台無しにされてしまったり、権力者にとって都合の悪い記事が握りつぶされたり」 と、売れるためには誤報も厭わない。メイクニュースとフェイクニュース、よく読まれているヤフーニュースなども、結局は下請けが売れそうなニュースを書いているだけ。ネットより新聞、テレビがまだましではあるが何を信じていいのか分からなくなります。 誤報を仕向ける勢力もあり、恐ろしい世の中になりました。でも新聞よ終わらないで欲しい!
引火点(笹本稜平)
図書館60(342)62
犯罪収益の資金洗浄を取り締まる組織犯罪対策部マネーロンダリング対策室、今話題のビットコインの取引所を舞台に話は進む。仮想通貨の危うさがよく分かります「捜査対象だった仮想通貨取引所・ビットスポットのCEOに、脅迫状が届く。自作自演か、それとも別にいるのか─。警察を嘲笑うかのようにネット上を自在に飛び回る犯人・・・」 聞き慣れない言葉も出てくるが、いい勉強にはなります。ラストにFBIやCIAが出てくるのは飛びすぎるきもしますが、国境のない犯罪を扱うにはこんな事も起きるのでしょうね。『ビットコインが世界のブラックマネーの蓄積場所となり犯罪やテロリズムの温床となる・・・』 。この世界、今後どうなるんだろう?
すぐ死ぬんだから(内館牧子)
図書館59(341)61
「78歳のハナは、60代の頃実年齢より上に見られ一念発起。“人は中身より外見を磨かないと”と、店も息子に譲り仲のいい夫と二人幸せな老後だった。ところが夫が倒れたことから思いがない事実を知ることに・・・」 高齢者にとっての免罪符“すぐ死ぬんだから”と言うセリフ、周りの者に仕方ないかと思われ、自分は惰性で楽な方へと流れて生きやすい。『“すぐ死ぬんだから”と自分に手をかけずに外見を放りっぱなしという生き方は“セルフネグレクト”なのではないか、。つまり自分を放棄することである』 『後期高齢者の先はないのだ。終期高齢者、晩期高齢者か?末期高齢者か?その先は終末高齢者で、ついには臨死高齢者だろう』
四人組がいた。(高村薫)
図書館58(340)60
『社会派作家の中でも飛び切り硬派で反骨的な視線を持つ作者』と言われる著者がこんな創作落語のようなお話を書くとは・・・。「元村長、元助役、郵便局長、そしてキクエ小母さん。儲け話と、食い物に目のない老人四人組は、郵便局兼集会所に集まっては、日がな一日茶飲み話を。だがそこへ、いろんな珍客がやってくる・・・」 キャベツの大行進、四十八匹の子ダヌキで結成されたTNB48など・・・、十二の話が収められているが、読み進むほどにホラの度合いが増していき、ほんとなのか嘘なのか、謎だらけの話が続きます。底なしのブラックユーモア、そこには怒れる庶民たちの姿があるのです。
インジョーカー(深町秋生)
図書館57(339)59
『アウトバーン』(2011年紹介)以来の八神瑛子シリーズ。「ヤクザの金融機関に押し込み強盗。中国人、ベトナム人等々の混合部隊での集団。その裏には暴力団の勢力争いが・・・。 警視庁上野署刑事,矢神瑛子が外国人技能実習生を利用した中国人の裏組織と暴力団の抗争に挑む。そんな中彼女に伸びる監察の手,迫る刑事生命の危機。夫の復讐を果たした彼女はどこへ…」。終盤の闘いは壮絶です。権力に立ち向かう姿はやはり気持ちいい。警察組織の権力争いも見物だし、ハラハラしながら先へ先へと進み一日で読み終える面白さです。映像化したら主役は黒木メイサあたりがいいかなという感じ。
ポイズンドーター・ホーリーマザー(湊かなえ)図書館56(338)58 155回直木賞候補作ともなったイヤミス短編集(六編)。見る角度が異なれば、それらは成功であり幸福でもある、人生も人間もある一面だけで判断してはならないと・・・。姉と妹『マイディアレスト』 友だち『ベストフレンド』 男と女『罪深き女』 『優しい人』 そして母と娘を描いた『゚ポイズンドーター』 『ホーリーマザー』 (この二作は連続している)が傑作です。母を“毒親”と思い、呪縛から逃れることのできなかった娘とホントは子供思いだった母親との思いのかけ違いが生む悲劇、ラストでのつぶやき“バカじゃないの。母とか、娘とか・・・”。ほかの四編も執念、嫉妬、不安など人の心に迫っていく。『正しさ』 とは?人間の業を深く抉る作品ばかりです。
老後の資金がありません(垣谷美雨)図書館55(337)57 主役は50代のパート勤務主婦 「娘が派手婚に何と600万円もかかるというのだ。また、夫の父が亡くなり、葬式代300万円にお墓代が発生、それに姑の生活費の負担(毎月)9万円、さらには夫婦ともに職を失い、1200万円の老後資金はみるみる減ってゆく」さぁ~、あなたならどうする?主人公の篤子さん、夫のふがいなさに振り回されながらも自分自身の見栄っ張りにも気づき、身の丈の暮らしを手に入れようと努力するのです。 でも、この夫婦はまだ若い、私たちのように老後に足を踏み入れているものは、とにかく支出を抑えるしかないのです。お金より自分らしい人生を選ぶ・・・最初暗い話だと思っていたが、後半は痛快です。身の丈にあった暮らしを心掛けよう!
検事の死命
(柚月裕子)

図書館54(336)
56
『最後の証人』 『検事の本懐』に続く佐方貞人シリーズ第3弾。今回は四つの短編、三話・四話は続きです。郵便物紛失事件の謎に迫る佐方が、手紙に託された老夫婦の心を救う『心を掬う』。獄死した佐方の父の謎が明かされる『業をおろす』。大物国会議員、地検トップまで敵に回しても検事としての筋を通す『死命を賭ける』と、絶対に負けられない裁判の『死命を決する』の4話です。第一話は郵政監察官と一緒に事件を解決するというもの、郵便物抜き取り事件を扱っていて、うなずけるものがありました。話しとしては三話・四話が面白い。『秋霜烈日の白バッジを与えられている俺たちが、権力に屈したらどうなる。世の中は一体何を信じればいい』 大阪地検特捜部に言わせたい。
空飛ぶタイヤ
(池井戸潤)

図書館53(335)
55
2002年に発覚した三菱自動車のリコール隠し事件が題材。「走行中のトレーラーから外れたタイヤが通りがかりの母子に直撃、死傷事故が起きる。タイヤが飛んだ原因は整備不良かそれとも…。」大企業対町の運送屋の闘い、 相手は財閥系の企業(自動車、銀行)、後手に回った警察、マスコミも押さえらる。これでもかこれでもかの試練に耐えながら、立ち向かっていく運送屋の社長、諦めず、信念を曲げない姿に感動です。最後は胸がすく話だろうとは思いつつも先が読みたくて700ページを超える長編でも一気読みでした。『会社とは利益追求を第一義とする集団であり、ルールを遵守する姿を見せても、それでは金は儲からない』と企業の論理。 (実際には運送屋は廃業)。
未来のミライ
(細田守)

図書館52(334)
54
現在公開中の映画、細田守監督の原作小説です。「甘えんでわがままなくんちゃんのもとに生まれたばかりの妹がやってくる。両親の愛情を奪われ、戸惑うばかり。そこに未来からきた妹ミライちゃん(中学生)に会ます」 そこから物語は始まり、過去から未来へ、ひいじいじ、幼い頃のパパとママそして将来の僕と不思議な出合いを重ねていきながら4歳のくんちゃんが成長する姿を描いています。映画は観ていませんがどんな風に描いているのだろう?『気が遠くなるほど果てしなく過去は連なり、また、気が遠くなるほど果てしなく未が来は連なる。そこから見ると、今という場所はそのわずかな一点でしかないということがよくわかる。喜びも悲しみも怒りもその一点の今の中にある』 と・・。
臨床心理
(柚月裕子)
図書館51(333)
53
2012年に読んだものの再読です。最近忘れっぽくなりました、4~50ページ読んだときに『あれっ、これ読んだ』 と気づきました。骨組みだけは覚えていても話の展開を忘れていたのでそれなりに面白く読めました。内容は2012年のbookにも書いていますが、臨床心理士と共感覚を持つ青年が、失語症の少女の自殺の真相を追うというものです。「このミス」大賞選考の歳、委員の意見が真っ二つに割れ議論の末、ダブル受賞となったそうです。それだけ、評価が分かれるということですが、再読でも、これが新人かと思わせるくらい、いい出来だと思います。『声に色が見えることで人の心がわかるという』設定がなかなかのものです。でも、そんなだったら生きにくいだろうなぁ~。




面従腹背
(前川喜平)


図書館50(332)
52
前文科相事務次官の前川さんの38年間の公務員生活を振り返り『公務員は“全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない”本当の意味で、全体の奉仕者になるためには、一個人であり一国民である自分自身に正直でなければならい。組織に適応しようと努力もしたが・・。面従腹背しながら進むことになる』 内容は、教員免許更新制や八重山教科書問題、教育基本法改正問題や道徳教育問題など、かかわったきた事柄について、個人的には反対なのに、権力を持つ与党の政治家や政府とどう対峙してきたかなどが描かれている。最後に『加計学園問題の全貌を激白』(毎日新聞編集委員、京都造形芸術大学教授との座談会)とTwitter『ほぼ独り言の腹背発言集』 も掲載されていて興味深く読めます。多くの公務員やメディアがこのように事実をちゃんと表に出してくれたら、いまのような政治にはなっていないのにと思います。 役人生活の間には①『やりたかった仕事ができた』 ②『やりたかった仕事ができなかった』 ③『やりたくなかった仕事をさせられた』の3つのことがあったとも。
・やりたくなかったユネスコ憲章改正 『ユネスコの政治化』(著者がユネスコ常駐代表部に勤務時):執行委員を日本の発案で個人から国の代表に変えてしまった。
・教員免許更新制をめぐる政策の変遷は文科省が政治家の思い込みに翻弄された姿を表している。
・八重山教科書問題:義家文科政務官が竹富町に『育鵬社の教科書を使え』と迫ったと。やくざの言いがかりに等しい蛮行だ。
・旭川学力テスト事件の最高裁判決:多数決原理に基づく政治による教育への関与は抑制的でなければならない。
・教育基本法の改正についても、道徳の教科化についても、多様な民意の反映と政治的中立性の確保は、国の教育行政においてはかろうじて審議会がその担保となったいた。しかし、安倍政権下の下で形骸化が進んでいるのである・・、それでは政治権力の介入に歯止めがきかなくなる。
・個人より国家を優位におこうとする教育基本法の改正:『国家とは民族的共同体のことであり、その構成員となるよう人間を教化することが真の教育』という精神は、森喜朗、安倍晋三といった為政者に引き継がれている。
・立憲主義の下、国が教育課程の基準として設定できる道徳的価値は、憲法が立脚する『個人の尊厳』とという根本的な価値の上に立てられた『基本的人権の尊重』 『平和主義』 『国民主権』の原則に沿ったものでなければならない。
・国家戦略特区の仕掛けを造り上げ、『岩盤規制の突破』という大義名分のもとを、人獣共通感染症対策などを口実にして、お友達(加計孝太郎とその息子)のために、いやがる文科省に無理矢理「1校限りの獣医学部新設」という特別扱いを認めさせたのも、国家権力私物化の極みである。
悪と仮面・・(中村文則)
図書館49(331)
51
タイトルは『悪と仮面のルール』。「邪の家系に生まれた少年は、少女を守るために父の殺害を決意する。大人になった彼は、顔を変え、他人の身分を手に入れて、再び動き出す」 悪の連鎖、ラストは再生へと繋がり少しはホッとします。また、テロや戦争のことも描かれているが、本当に世界は危うい糸の上に成り立っていることを感じます。『国際協力の名の下に、政治家や官僚や民営会社などが結託し、自国の税金と小国の資源を奪い取っているのだ』 『武器輸出の禁止事項が撤廃されれば、自国の兵器を海外に売ることができる。そうなれば、戦争が勃発るすたびに我々には莫大な利益が手に入る』 映画化されています。米国“The Wall Street Journal”2013ミステリーベスト10にも選出。
泣きかたをわすれていた(落合恵子)図書館48(330)50 著者は私と同じ1945年生まれ、同年代だからよく分かります。でも、若い人にも読んでもらいたい。読後は爽やかな風が通り抜けていきます。「母親を介護の末に見送ってから10年。72歳の冬子、過去に恋人を亡くし、友人たちが先立つ姿を見て自らの死とも向かい合っていく・・・」 著者=冬子です。テーマは“どう生きるか”そして“その向こうにある死とどう向き合うか”と著者が語っています。『反原発や改憲に反対するデモに加わるいまも、私の中には、母を介護していた当時、心の片隅で見ていたのと同様の明るい絶望を見るのだった』 シングルマザーで冬子を産み、差別と偏見に苦しみながらも自分の道を進み娘を育てた母。その思いを知る娘、二人の生き様が胸を打ちます。
朽ちないサクラ
(柚月裕子)
図書館47(329)49
『狂犬の眼』より先に刊行(2015年)されています。ちょいと異色の警察小説です、主人公は県警広報広聴課の事務職員の女性 「殺人にまで発展したストーカー事件、その被害届を受理するのが遅れたことが発覚。その理由は警察担当部署の慰安旅行だった。警察内部の混乱と情報漏洩、新聞記者の不審死、そしてその記者と会ったと思われる者もまた・・・、次々と起こる事件に主人公は翻弄されていく」 結末には少し物足りなさを感じました(あと一歩、何かが欲しかった)が今後このヒロインが警察官になって活躍することになれば面白くなりそう。サクラとは公安を指す隠語なのです、公安の守るべき未来という信念と理想とは?人一人の命の軽いこと・・・。
凶犬の眼
(柚月裕子)

図書館46(328)48
『孤狼の血』の続編、やはり不倫話しよりも男臭い話しの方が断然面白い。前作から2年「田舎の駐在所に異動となった日岡秀一は、穏やかな毎日に虚しさを感じていた。そんななか、懇意のヤクザから建設会社の社長だと紹介された男が、敵対する組長を暗殺して指名手配中の国光寛郎だと確信する・・・」前作で新人だった日岡がだんだんと大上そっくりの手法でヤクザと対峙していく。男気溢れる国光の魅力、刑事とヤクザの因縁を越えた信頼関係、実際にこんなことがあるのだろうか?ラストはやはり嵌められたという感じです、喪失感が漂います。前作みたいなギラギラ感はありませんが、仁義なき戦いの血は流れています。
ロンリネス
(桐野夏生)

図書館45(327)47
『ハピネス』の続編です。が、読後感はあまりよろしくありません。延々と続くW不倫、夫との不仲それに相変わらずのママ友との腹の探り合い・・・。イャ~、参りました、登場人物(女にも男にも)まったく感情移入できません。「タワマンに住む有紗は、夫とのトラブルを乗り越えたかに見えたが再びぎくしゃくしている。そんななか、同じマンションに住む女たらしの男によろめいていく、ママ友でW不倫中の美雨ママに相談をするうちに・・・」 こんな話が現実にあるのかわかりませんが、子供達が可哀想です。『強引に、自分の思うようにふるまえば、必ずや傷つく人がいて、誰もが幸せになれない』 嫌気が差しつつも読みきれたのは桐野作品だからこそでしょうか?
君たちはどう生きるか(吉野源三郎)図書館44(326)46 (漫画版ではありません)軍国主義の勃興とともに、言論や出版の自由が制限されていた1937年に刊行された本です。何回かの手直しを経て1967年に今のスタイルになっています。80年も前の本が何故今も読み継がれるのか?内容は2年前にお父さんを亡くした中学1年生のコペル君が考え体験することを叔父との交流を通じて成長していく姿を描いています。「・ものの見方について・いじめにどう対応するか・人間同士のつながりについて・貧乏について・偉大な人間とは・友人への裏切りについて・これからの生き方について」七つのポイントに絞って話は展開していきます。コペル君の世代はもちろんですが、今の親に読んでもらいたい本と思います。こんな気持ちの大人が少ないですね。
ののはな通信(三浦しをん)
図書館43(325)
45
二人の女性の27年間にわたる交流を往復書簡だけで綴っています。初めは少女の百合のお話しと思い、やめそうになりましたが、読み進めるうちに愛と憎しみ、死と生、信仰と信念、罪と赦し、戦争などのテーマがずっしりとのしかかってきます。「お嬢様学校に通う、野々原茜(のの)と牧田はな。庶民的な家庭で育ち、頭脳明晰なののと、外交官の家に生まれ、天真爛漫なはな。二人はなぜか気が合い、かけがえのない親友同士となる・・・」。人生を真っ直ぐに見つめて生きていく二人、この後どうなるんだろうなぁ~。『この世界で起っているほとんど全てのことが、神の意志なんかとは全く関係のないのよ。全部全部人間が引き起こしたこと。争いも理不尽も憎しみもおよそ醜いものはすべて』
天子蒙塵第三巻(浅田次郎)
図書館42(324)
44
第2巻を読んでから1年半、始めは前巻までの記憶がよみがえらず少し苦労しました。ラス・トエンペラー溥儀と張学良はもちろん話しの主軸ですが今回は日本を飛び出した少年二人、駆け落ちと思われる妙齢の美男美女、それに満洲の怪人・甘糟正彦、男装の麗人・川島芳子らが加わり話は展開します。 『張作霖亡き後、息子の張学良は阿片に溺れ東北を去りヨーロッパへ、そこへ馬占山が現れる。ヨーロッパを周遊するうち、決心が生まれた張学良は中国へ。 そして、満州国の帝となる予定の溥儀は・・・」ムッソリーニ、ココ・シャネルも登場、創造された人物と実在の人物も絡み面白い。日中戦争直前の暗い時代を興味深く知ることができます。四巻が待ち遠しい!
臥龍
(今野敏)

図書館41(323)
43
「“横浜みなとみらい署暴対係”の係長諸橋(ハマの用心棒)たちは居酒屋で暴れまわった半グレたちを検挙する。大陸訛りがあることから、東京の下町あたりを縄張りとする中国残留日本人二世や三世らが横浜に進出してきたのではと危惧する中、関西系の組長羽田野が殺害される・・・」 シリーズ4作目ですがこのシリーズは初めてでした。県警捜査一課の方針に全く納得できない諸橋達は独自に捜査を始める、県警対所轄、監察官の出現、それにヤクザ、半グレ、チャイニーズマフィアも絡み話しは進みます。『俺は頭の固い本部のやつらや、やたらと悪党を作りたがる検察とは違う』 暴力団と日々接している現場刑事の意気込みに胸がスカッとします。
定年オヤジ・・・
(垣谷美雨)

図書館40(322)
42
タイトルは『定年オヤジ改造計画』です。「一流企業を定年退職。夢にまで見た定年生活のはずが、良妻賢母だった妻は“夫源病”を患い、娘からはアンタ呼ばわり。気が付けば、暇と孤独だけが友達に。そんなある日、息子夫婦から孫二人の保育園のお迎えを頼まれる・・・」 何でこんなことにと、家事育児は全て女の仕事オレが苦労して家族を養ってきたのに・・・。前半はあまりにも古い考えのオヤジにイライラしますが、ある評に『自民党の二階とか稲田とか杉田とか小野田のヘイト発言製造機と同じ』とありましたが自分だけで周りが全く見えていません。読みながら自分に置き換えると反省しきり。 奥さんを家政婦なんて思ったら大変なことになります。男性陣は読むべき一冊です。
巨悪
(伊兼源太郎)

図書館39(321)
41
東京地検特捜部を舞台にした、元新聞記者の著者が描く検察ミステリー!東日本大震災の復興二次予算の2兆円、まさかこんな使われ方をしたとは・・・(今後30年近く払う税金)。「高校時代野球部のダブルエースだった東京地検特捜部の検事と機動捜査班の事務官、その2人の前に立ちはだかる、政治家、企業、秘密機関・・・」 本当の巨悪とは?息もつかせず一気に読み終えます。『国民の大部分は、日々の生活に追われ、政治に関心を持っている暇はない。政治家が国民の頭をからっぽにするため、経済成長を絶対主義として洗脳したんじゃないのか」。 森友問題を考えた時に地検の中にも巨悪を絶対に許さない、と思う人たちもいると言うのは気持ちが救われる気がします。
充たされざる者(カズオ・イシグロ)
図書館38(320)40
“日の名残り”に続く四作目、文庫本でも900ページを超える長編。『実験的手法を駆使し、悪夢のような不条理を紡ぐ』とありました、ず~っとイライラしながら読み進めることになるが後半になると、言わんとすることが分かってきます。「世界的に有名なピアニストが、中欧のある町に招待される。その町は何か大きな問題を抱えていて、彼の来訪が解決のきっかけとなることを期待されている。しかし、奇妙な相談を次から次へと持ちかけられ物事がスムーズに進まない」 既視感のある町に、登場人物(主人公が他人の形で出てくるようだ)・・・、果たしてこれは? 『“充たされざる者”とは、読後の読者自身であるかも知れない』 と、整合性や辻褄は無視されている、何となくそんな感じです。
検察側の罪人(雫井脩介)
図書館37(319)
39
老夫婦刺殺事件が起き、捜査に立ち会ったベテラン検事は、その容疑者が既に時効となった少女殺人事件の重要参考人だったことに気付き、何としてでも犯人に仕立て上げなければと・・・、それに疑問を持つ若手の検事」 この2人を軸に話は進む。“正義とは何か、裁くのは誰か、冤罪とは何か”と深く考えさせられます。イャ~、面白かった!木村拓哉、二宮和也で映画化されていますが、どんな風に仕上がっているか観てみたいです。(以下ネタバレ)『正義を信じた2人の行く末は?救えないほどの下衆だけがハッピーエンドを迎える』 やりきれないですが、これが今の世の中なのか? 冤罪事件事件を得意とする人権派弁護士と言えども、どこに本音があるのか?
白ゆき姫殺人事件(湊かなえ)
図書館36(318)
38
物語の構成の仕方がとても秀逸。一人称で語られ話は進むが、一方SNSなどネットの書き込み・週刊誌記事・新聞記事的な紙面も取り入れながら話は進む。「化粧品会社の美人OLが殺される。事件の糸口を掴んだ週刊誌のフリー記者、赤星は調査を始める。聞き込みの結果、浮かび上がってきた犯人は行方不明になった被害者の同僚。ネット上では憶測が飛び交う・・・」 。果たして真犯人は? 映画化されていますが、観ていません。ネット上でのやりとりなど、どのように映像化したの自分の気持ちばかりが大事で、他人の気持ちに想像力が及ばない』 と。面白いです!

(中村文則)

図書館35(317)
37
2002年、新潮新人賞を受賞した著者のデビュー作です。「ふとしたことから拳銃を手に入れた大学生が、やがてその魅力に取り付かれ、いつか撃ってみたいと思うようになる」 何となく生きているような若者が銃を手にしたことで段々と深みにはまっていく心の動きがうまく描かれています。衝撃のラストです。著者が『決して後味のいい作品ではないけれど、この小説を偏愛している』と・・・。今年の秋には映画化されます。『歴史の中で億を越える人間達が殺されている。貧困も、原爆も殺人である』。 この本には短編『火」』も併録されています。一人の女性がどんどん墜ちていく話しです。『内容はエキセントリックで、こういう小説を書いてしまう自分もどうかと思う』と著者は言っています。
わたしたちが(カズオ・イシグロ)
図書館34(316)36
タイトルは『わたしたちが孤児だったころ』(長編五作目)。2000年に発表、アヘン戦争を背景に1920年代~30年代二つの大戦にはさまれ不安にさいなまされていた時代を、1958年に回想しながら描いています。「上海の租界に暮らしていた10歳の主人公イギリス人クリストファーの両親が次々と失踪してしまう。ロンドンに帰された彼は探偵になり、18年後両親を探すため上海へと渡るが…」 日本始め列強の国々が上海で何をしていたか、アヘン戦争の実態もよく分かります。愛する恋人よりも、自分を愛してくれた母親を命がげで探しに行く。人の幸せとは・・・。ラストはやはり胸が苦しくなるくらい切ないです。(ネタバレ)母親の美貌と潔癖さが悲劇を生んでいくのです。
ハピネス
(桐野夏生)

図書館33(315)
35
「高級タワーマンションに暮らすセレブな主婦達。ままならぬ子育て、しがらみに満ちたママ友たちとの付き合い・・・」など、華やかな幸せの裏側にある女性の妬み、嫉妬、見栄、優越感など、さらに子供の幼稚園のお受験や、W不倫などてんこ盛りです。都会に暮らすセレブ達の生き様には息が詰まりそうです 『見栄をはって背伸びするのは疲れる、身の程を知ることがやはり大切』だと教えてくれます。ママ友にもボスがいて、弱肉強食の世界?女性でないと書けないだろうな・・・、ただしドロドロ感は少なく今までの桐野作品と違い最後は少し明るくなっていきます。女性必読の書!湊かなえの『ユーピア』と読み比べても面白い。 続編“ロンリネス”が出ました、次はどうなるのだろう?
我が家のヒミツ
(奥田英朗)

図書館32(314)
34
ほっこりするお話し6編、『笑って泣いて、読後に心が晴れわたる家族小説』 とありました、まさにその通り。家族シリーズの三作目、11年に二作目を紹介しています。「自分たち夫婦には子供ができそうにない“虫歯とピアニスト”、同期との昇進レースに敗れた、53歳“正雄の秋”、16歳になって、初めて実の父親に会いに行く“アンナの十二月”、母が急逝、憔悴した父“手紙に乗せて”、隣の謎めいた隣人が気になってしょうがない“妊婦と隣人”、妻が市会議員に立候補“妻と選挙”」。どこにでもいる平凡な家族のもとに訪れるドラマ。『もう50を過ぎたんだから、いろんなことを許そうよ』 『人生経験とは、きっと悲しみの経験のことなのだろう』 さすが奥田英朗、ハズレがありません。
日の名残り
(カズオ・イシグロ)

図書館31(313)
33
1989年に発表され、イギリス文学の最高峰ブッカー賞をもらい、アンソニー・ホプキンス主演で映画にもなっています。私がこのHPを立ち上げcinemaで最初に紹介したのがこの作品です。1956年、執事が旅をしながら回想するシーンが一人称で語られます、「品格ある執事の道を追求してきたスティーブンスは、短い旅に出る。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、女中頭への淡い想い・・・」 失われつつある伝統的な英国を見事に描いています。『人生思い通りにいかないからと言って、後ろばかり向き、自分を責めてみても、それは詮無いことです』 “過去の忘れるべき記憶との決別”切なく格調高いお話しです。
長く高い壁
(浅田次郎)

図書館30(312)
32
著者にしては珍しい戦場ミステリー「万里の長城・張飛嶺。1938年頃、中国に滞在していた日本軍内で起こった不良兵士10名の謎の死事件を従軍附属の推理作家が解き明かす」というもの。軍隊&戦場、人間ってなんと愚かな・・・。宣戦布告なき『支那事変』という名の中国大陸侵略に30万人もの大兵力を投入し、最後まで勝てないという事実。こんな戦争で、個々の人間はどう生きていけばいい? 『日本人は何でもかでもきちんとせねば気がすまぬようだが、それは小さなお国の中でこそできるのであって、中国では悶着の種になるばかりですぞ。しょせん物事に完全はないのです。だいたい、というところで納得しなければ、人間は幸福にはなれません』 実に浅田次郎らしい。
奇跡の人
(原田マハ)

図書館29(311)
31
ヘレン・レラーの日本版、舞台は明治20年の東北、名前は介良れん(けら・れん)・去場安(さりば・あん)となっています(ちょっと笑ってしまいます)。1962年のハリウッド映画を観て印象が強かったことを覚えています。本著もストーリーはほとんど同じですが、やはり読んでいて涙です。「重い障害を背負った少女のためにアメリカ帰りの女教師が自らも弱視でありながら、“けものの子”のように扱われていた少女の眠っていた才能を引き出すべく、戦う姿」 を感動的に描いています。『盲目で、耳が聞こえず、口も利けない』 となると親でさえ引けてしまう困難に最後まで諦めずに挑んでいく姿に感動を覚えます。“waterr”がラストに“水”として出てきます。
風神の手
(道尾秀介)

図書館28(310)
30
から始まるお話しです。小さく悪意もない嘘、それがひとたび世に放たれると、当人も知らないところで多大な影響を与え、人生を思わぬ方向に変えてしまう。「ささいな嘘が、女子高校生と若き漁師の運命を変える第1章“心中花”。まめ&でっかち、小学5年生の2人が遭遇した事件第2章“口笛鳥”。死を前にして、老女は自らの罪を打ち明ける第3章“無常風”。各章の登場人物たちが、意外なかたちで集うエピローグ“待宵月”」 数十年にわたる歳月をミステリー風に仕上げた素晴らしい小説です。ある評に『言葉が人を幸福にも不幸にもする現実を突き付ける。これは誰もが簡単に情報発信できる一方、発信への責任が軽くなった現代への警鐘に感じられた』とありました。その通り!
アンダーカバー
(麻生幾)

図書館27(309)
29
サブタイトルは“秘録・公安調査庁”。公安調査庁ってどんな役所か知っていますか?『破壊活動防止法、団体規制法などの法令に基づき、公共の安全の確保を図ることを任務とする』ところです、CIAやMI5(6)などと共同工作を行ってますが警察・自衛隊とは違う。物語は「集団的自衛権の行使を認める憲法解釈の変更を閣議決定で行うとともに具体的事例を15事例にまとめたが、それには公表されていない“裏事例”があった。中国の漁船・潜水艦が尖閣諸島を6日後に実効支配するとの情報が入る。公安調査庁の分析官・吉野綾は現場調査官などからのあらゆる情報を分析して、信じられない結論を出す」。現職大臣の情報提供や、二重スパイなど裏の外交がとてもよく描かれている。
遠い山なみの光(カズオ・イシグロ)
図書館26(308)
28
1984年に刊行された著者デビュー長編です、英国・王立文学協会賞を受賞しています。「イギリスに暮らす悦子は、娘を自殺で失った。喪失感に苛まれる中、戦後混乱期の長崎で微かな希望を胸に懸命に生きぬいた若き日々を振り返る。新たな人生を求め、犠牲にしたものに想いを馳せる」 まるで日本文学と思わせるが、著者はほとんど日本語が読めないのです。訳者の力に寄るところも大きいのでは・・・。人の生きる姿を端正に描いている素晴らしい小説です。『漫然と生きている人たちなんてみんな馬鹿だ。女の人生はただ結婚して子供をじゃかすか産むだけじゃない。亭主とうるさいちびをうじゃうじゃ抱えてどこかに押し込められるなんて真っ平・・』 小津映画を観ているみたい!
ユートピア
(湊かなえ)

図書館25(307)
27
“心理サスペンスの決定版”2016年に山本周五郎賞を受賞。 『誰かを妬む/羨む』 という人間・特に女性が持ちやすい感情が全編を貫いています。コメントにもありました『うわべだけの関係というのか、仲間だけど自分が追い込まれた状況下では仲間を責める。人間っぽいいやらしさが不快感を増す』と、物語は「海辺の町で出会った3人の女性は、ボランティア基金“クララの”を立ち上げた。そこの広告塔となったのは、車椅子で生活する少女。活動はうまくいくかに思えたが、ある日『彼女は歩けるのではないか?』と疑惑の目が向けられ、歯車は狂いだしてゆく・・・」 人間の心の醜さを描く『イヤミス』 の本流です、誰の心の中にもこんな思いはあります。<善意は悪意より恐ろしい>
永遠の狩人
(森村誠一)

図書館24(306)
26
棟居刑事シリーズです。『2011年、米海軍特殊部隊25人はパキスタン国内に発見したタリバンのイサム・アリ・ジャマールを急襲し殺害したと発表した。作戦をパキスタン政府に通告せずに、しかし殺されたのは影武者で、実行部隊は戦争請負会社の特殊戦闘チームだったと・・・』 これが物語の根底にあります。「戦場カメラマンの大城は、留守中に妻子を惨殺され、熱海に隠棲。しかし、助けを求めてきた少女を保護し能登に、そこで自殺防止ボランティアとなる。その彼の前に現れたのはあの犯人なのか?」 戦場カメラマンの過酷な活動と、能登、東京を舞台に話は進んでいきます。『人間が人間たる尊厳を失うと効率中心に利益至上主義に暴走していきます』
ふたご
藤崎彩織

図書館23(305)
25
第158回直木賞候補作、著者は4人組バンド“SEKAI NO OWARI”のピアノ演奏とライブ演出を担当している1986年生まれの新鋭です。執筆に5年かかったというが実話なのか小説なのか?『エッ、こんな男すぐに別れたらいいのに』と私の年代の人は思うのでは・・・、何とも歯がゆい中に一つの光を見つけていく少女の話。「いつも一人ぼっちでピアノだけが友達だった夏子と、不良っぽく見えるけれども人一倍感受性の強い、月島。彼は自分たちのことを“ふたごのようだと思っている”と言いますが、いつも滅茶苦茶な行動で夏子を困惑させる・・・」芸能人が書いた小説と言うことでも評判になっているようです。 私は“SEKAI NO OWARI”と言うバンドは知りませんでした。
オリジン・下
(ダン・ブラウン)

図書館22(304)24-2
『“アダムとイブ”から人間は始まった、“進化論”は事実である』これが宗教と科学の対立です。本作はラングドンシリーズ第一作『天使と悪魔』と同じテーマですが、時代の流れと共に違うとらえ方で描かれています。宗教と科学、芸術、建造物などの歴史的事実に基づき壮大なスケールで話は進むのです。「銃殺されたカーシュの“人類最大の謎”を解き明かした映像を探すために2人はサグラダ・ファミリアへと向かう。迫り来る暗殺者や正体不明の情報提供者・・・」 。手助けしてくれるのは人工知能のウィンストン(=チャーチルではありません)、いつかこのような時代が来るのでしょうか?ラストは怖いものがありました。宗教と科学は相容れるのか?
オリジン・上
(ダン・ブラウン)

図書館21(303)24-1
『ダ・ヴィンチ・コード』のダン・ブラウンの最新作。発売されると同時に図書館に予約しました、出版社は彼の“最高傑作”と宣伝しています、あまりこねくり回さず読みやすく仕上がっています。中心となるテーマは宗教と科学の対立、今回の舞台はスペイン、懐かしい場所も出てきます。人はどこから来て、どこに行くのか?おきまりの逃亡劇 「ラングドンは、スペインのビルバオ・グッゲンハイム美術館で行われる元教え子のエドモンド・カーシュが主催するイベントに招待されていた。人類最大の謎を解き明かす映像を発表しようとしている矢先カーシュが壇上で銃殺される・・。かくして、美貌の美術館長と逃亡しながら謎に迫っていく」というもの。面白くて一気読み!(下巻へ続く)
おらおらでひとりいぐも(若竹千佐子)図書館20(302)23 第158回芥川賞受賞、著者は55歳から小説講座に通い、8年経って本作を執筆しています。前年に文藝賞も受賞。タイトルは宮沢賢治の詩に出てくる言葉で、”私は私でひとりで行くよ”、的な意味でしょう。主人公の桃子さんは74歳「結婚を3日後に控えた24歳の秋、故郷を飛び出した。身ひとつで上野駅に降り立ってから50年・・、住み込みのアルバイト、周造との出会いと結婚、二児の誕生と成長、そして夫の死。“この先一人でどやって暮らす。こまったぁどうすんべぇ・・』 私たち年代(特に女性)には納得できる話しではないでしょうか?『子供も育て上げたし、亭主も見送ったし。世間から必要とされる役割はすべて終えた。さっぱり用済みの人間であるのだ・・』 これからどう生きましょう?
鹿の王・下
(上橋菜穂子)

図書館19(301)
22-2
下巻(還って行く者)、単なるファンタ-ジーではありません。「狼(犬)が原因とされる病に移住民だけが罹ると噂される中。ヴァンとホッサル、ふたりの男たちが出合い、愛する人々を守るため選んだ道は・・・」 命・連鎖・細菌(兵器)がテーマですが、片方のテーマは『家族』、面白くて実に深い本でした。 『群れが危機に陥ったとき、己の命を張って群れを逃がす鹿が現れる。こういう鹿を“鹿の王”と呼ぶ、決して支配者ではない』 『政治、権力、宗教、信念、忠義、名誉、欲・・そういう、人を強く縛る動機のすべてを、吹っ飛ばしてしまえるものがあるとすれば、自分と、自分が愛する者の命だけ』 ラストに救いがあり、読後感は最高でした。人が迷い苦しむ時の、生きるためのヒントにもなるのでは?
鹿の王・上
(上橋菜穂子)

図書館18(300)
22-1
著者は『精霊の守り人』の上橋菜穂子、この人は〈児童文学のノーベル賞〉国際アンデルセン賞を受賞した作家で文化人類学者でもあります。女優片桐はいりと中学・高校時代の同級生だそうです。2015年本屋大賞を受賞(他にも色々)。養老孟司が『冒険小説を読んでるうちに、医学を勉強し、さらに社会を学ぶ。一回で三冊分』と言っています。上巻(生き残った者)は「独角として戦いアカファ岩塩坑で奴隷として囚われていたヴァンは狼の襲撃がもたらした病から生き残り、同じく生き残った幼子ユナと逃亡する。一方オタワル人医師ホッサルは突然現れた病の原因を辿っていく・・・」 ファンタジーながら政治、宗教、医療、といろんなテーマが絡み合って話は進みます。
忘れられた巨人(カズオ・イシグロ)図書館17(299)21 2017年に、ノーベル文学賞を取った日系英国人のカズオ・イシグロ。現在日本語で読める、彼の最新作です。『私を離さないで』(2009年紹介)から10年、淡々とした雰囲気の中にファンタジー的要素も加わりとても気持ちよく読めます。テーマは『記憶は完璧に思い出さず、ぼやけて曖昧にしておく方が、実は平和なのではないか』というところにありそうな気がします。「舞台は面白くて実にアーサー時代が終わった後、老夫婦が遠い地で暮らす息子に会うため長年暮らした村を後に、 若い戦士、鬼に襲われた少年、老騎士…さまざまな人々に出会いながら荒れ野を旅をする」 余韻を残して物語は終わります、村上春樹みたいに謎は謎のまま放置されます。文章のうまさは流石です。
銀河鉄道の父(門井慶喜)図書館16(298)20 第158回直木賞受賞。宮沢賢治については、童話や『雨ニモマケズ』の作品から得るイメージくらいいしかありませんでしたが、彼を支えていたのは父の深い愛情と経済力だったのです。「父の信念とは異なる信仰への目覚めや最愛の妹トシとの死別など、決して長くはないが紆余曲折に満ちた宮沢賢治の生涯」 を、父・政次郎の視点から描いたものです。子を持つ親としては考えさせられる作品です、ダメな息子ほど可愛い、無心されればお金を渡してしまう。この父がいなければ、死後に作品が世に出ることもなかったのでしょう。それにしても生前に評価されなかったことは寂しいですね。「雨ニモマケズ」が人生ラストに近い、あんな状態で書かれたとは・・・。
海と空の軍略100年史
(竜口英幸)

19
著者は小郡時代知り合った(元)西日本新聞記者です。著者から『中国が航空母艦の建造に取りかかる時期の内外の報道のありように疑問を抱き、一世紀に及ぶ航空機と航空母艦の発展の歴史をたどり、技術と政治・経済・軍事軍略の相関のダイナミズムを俯瞰したものです』と・・。危機と対立が続く21世紀、日本がいかに進むべきかを示唆しています。『日本に必要なのは世界の歴史への幅広い洞察力、異文化を尊重し共感するやわらかい感性と、自由と民主主義の理念を守り抜く決意・・』 一方『“憲法9条に守られた”というほかに平和外交を支え平和を守ったのは日米安全保障態勢であったことも世界情勢を考えれば理解できる』とも。空母、原潜、兵器の変遷から平和を考えた本です。


苦海浄土
全三部
(石牟礼道子)


図書館15
(297)
18
暗くて重い感じがしてなかなかこの本を読む勇気がありませんでした、著者が今年2月に亡くなったことを聴き挑戦。1054ページの長さ、でも読み始めるとやめられません。全三部完結まで足かけ40年以上かけて完成したこの大作 『戦後日本文学第一の傑作』といわれ、また、“アジアのノーベル賞”とも呼ばれる『マグサイサイ賞』を受賞しています。著者はもともと一介の主婦でした。しかし自らの故郷を襲った惨禍に出会い、やむにやまれない気持ちから水俣病患者からの聞き書きを始めたのです。水俣病の悲劇は周知のことですが、これを読むと、発生から患者の苦しみ、企業や国の対応など水俣病がどんな経緯を辿ったのか理解できます。しかし、単にドキュメンタリーとしてではなく『文学(ものがたり)』として読む者を引きつけます。やり場のない哀しみや怒りや嘆きも読み終わると不思議に心温かくなります。「昭和28年に公式に発生したとされ、34年に見舞金契約(これが後々問題となる)、43年に政府見解が出て原因はチッソの配水と認め、45年に和解契約。が、その後天草や鹿児島など新たな患者が認定され訴訟派、一任派、自主訴訟派と分かれ交渉はまとまらず、。国・政治家・企業の詐術と民衆の悪意(密告や差別がすごい)の中で、患者は追い込まれ苦しくなるばかり・・・」 。足尾銅山、イタイイタイ病、福島、沖縄、原発問題など被害者はいつも弱い立場の人々。“人間の尊厳”が浮かび上がってきます。『水俣病を告発する会』が発足したとき本田代表が“一切のイデオロギーを抜きにして、だだ、義によって助太刀します”といっています。本著もイデオロギーに囚われることなく経済成長に酔いしれる日本人に警告を与える書となっています。著者は父親から『昔なら、寝首をかかれるところぞ、獄門磔ぞ。おかみにたてついて、目にみえんもんにたてついて、おなごが』 と言われながらも生涯をかけて水俣病患者の心の声に耳をかたむけ続けていきます。 『東京まで行ってみたが、国はなかった。あれが国ならば、水俣病なんの、見殺しにするつもりばい。国ちゅう所は、おとろしか所ぞ。私共は何処の国民じゃろうか』 『人間な、なんのために、生まれてくるのか、何のために生まれてきたか』 想像を絶する惨禍に見舞われたとき、人はどう再生し、生きていくことができるか? 私の今までの人生で最良の書となりました。
盤上の向日葵(柚月裕子)図書館14(296)17 藤井聡太四段の快進撃で将棋ブームの今、しかし新聞の連載が始まったのは2015年8月です。将棋がモチーフのミステリーですが、読み始めてすぐに『砂の器』を思い出しました。「山中で発見された白骨死体が持っていたのは希少価値のある将棋の駒。持ち主を辿っていくと、その先に現れたのは実業界で成功し今や天才棋士として活躍する上条桂介だった・・・」 警察パートと上条を巡る過去パートが交互に描かれていきます。虐待や裏切りの過去を持つ桂介と、真剣師として壮絶な生き様をみせる東明重慶、将棋の魔力とはこのようなものなのか?将棋に詳しい人にはたまらないでしょうね。500ページを超える長編ですが人間ドラマとして読み応えがあります。
アンカー
(今野敏)

図書館13(295)16
“アンカー”とは『テレビなどで取材記者の原稿をもとに、最終的にまとめる人』 を意味する。スクープシリーズ第4弾(2弾ヘッドライン、3弾クローズアップはbookで紹介)。相変わらずサクサク読めます、と言うことは軽くて盛り上がりに欠けます。でも読んでしまいます。「報道番組“ニュースイレブン”の記者・布施と警視庁の刑事・黒田は、10年前に大学生が刺殺された未解決殺人事件を追う。関西の系列局から来た栃本も加わり、捜査は意外な展開へ」 テレビや新聞といった従来の媒体は、インターネットに押され、深刻な危機に晒されている中、報道のあり方も問うています。『放送は許認可事業だ。行政がその気になれば何かに理由をつけて免許取り消しをちらつかせる』 と・・。
翔ぶ少女
(原田マハ)
図書館12(294)15
“震災をテーマにした文学作品”第3弾!1995年、神戸市長田区、大震災の朝から物語は始まります。「大震災で両親を失った3人の幼い兄妹。心療内科医の男性に引き取られ暮らす。主人公の少女も兄妹も様々な傷を負いながら、周囲の大人たちに見守られまっすぐ前向きに育っていく・・・」 その姿に涙しながらも、温かくてちょっと不思議なお話に幸せな気持ちになります。この本に出てくるような優しい気持ちを持った人間になりたいと読んだ人は思うでしょう。重松清を読んでいる感じです。『前へ歩くんやぞ、なんでかわかるか?人いうもんはな、前を向いてしか歩いて行けへんのや。後ろ向きに歩いてみ、ひっくり返ってまうやろ』 登場人物の名前にも意味があります。
オペレーションZ(真山仁)図書館11(293)14 財政赤字1000兆円を抱える日本、「国家破綻危機を防ぐべく、総理の密命を帯びたチームOZは、歳出半減という不可能で不可欠なミッションに挑む。官僚の抵抗、世論の反発、メディアの攻撃、内部告発・・・」 社会保障費関係と地方交付税交付金を限りなくゼロにするというこの方針は果たして、国民に受け入れられるのか?現実に起きたらすごく怖いものがあります。多くの国民が、自分が国に払っているお金以上のことをしてもらってて、それが普通だと思っている日本。50万円の収入で100万円の生活をしているのと同じなのです。政治家は現世利益だけを考えいつまでも選挙目当てのバラマキばかり・・・。あ~あ、日本はこのままで大丈夫かしら? ラストは仕方ないのかな~!
贖罪
(湊かなえ)

図書館10(292)
13
アメリカのミステリー小説界で最も権威があるエドガー賞の候補に選ばれたとのことで読みました。「15年前、小学生時代一緒に遊んでいた女の子が目の前で連れ去られ殺された。目撃したはずの犯人の顔を4人の女の子誰もが思い出せず、迷宮入りに。少女の母親の憎しみは友達の小学生達へと向かい、その思いに縛られた女性達が次々と犯罪を犯してしまう・・・」。著者らしい話しの運びです、一人称で語られ、五つの章に分かれています。湊かなえ作品にはいつも賛否両論ありますが、読みだしたら止まらなくなる面白さがありました。2012年に超豪配役でドラマ化(WOWOW)されています。ビデオを借りて観てみたいです。
がん消滅の罠
(岩木一麻)


12
副題に”完全寛解の謎”とある(寛解とは”がんの症状が軽減した状態”のこと)。作者は元がん研究者だけあって医療ミステリーとしてかなりのものです。第15回 『このミス』をもらっています。医療専門用語が多く、がん消滅って言う部分が、ちょっと理系じゃない私には理解しにくいところがありますがトリックは本格ミステリーです。「余命半年の宣告を受けたがん患者が、生命保険の生前給付金を受け取ると、その直後、病巣がきれいに消え去ってしまう、連続して起きるがん消失事件は奇跡か、陰謀か・・・」 ラスト近くになり二転三転、最後の一行で”エッ”とうなってしまいます。 ここに描かれた世界は怖い、背筋が寒くなります。現実にあっても不思議ではない、人体実験嫌だなぁ~!
王国
(中村文則)

図書館9(291)11
“掏摸”は西村というスリ師の男、王国は 鹿島ユリカという娼婦の女が謎の男木崎と対峙する兄妹作品です。対比して読めば面白い、掏摸は文学色が濃く、王国はサスペンス要素があります。 「社会的要人の弱みを人工的に作ることがユリカの仕事だった。ある日、彼女は見知らぬ男から突然、忠告を受ける。“あの男に関わらない方がいい、何というか化物なんだ ”その男の名は、木崎」 木崎は掏摸でも出てきた絶対悪(もしくは神)の男です。著者が『掏摸のテーマには旧約聖書があるが、王国はキリストが裏切りにあうという新約聖書の世界になるはずだったが・・刃向かい続ける構図に変化した』と言っています、何のことかよく分かりません。ドキドキしながら物語は楽しめはしました。
おもかげ(浅田次郎)
図書館8(290)10
浅田節全開!“地下鉄(メトロ)に乗って”を思い起こします。 「商社マンとして定年を迎えた男は、送別会の帰りに地下鉄の車内で倒れ、集中治療室に運びこまれた。やがて、不思議な体験の中に自らの過去を彷徨っていく・・・。地下鉄でタイムスリップして、母や妻、幼なじみ、学生時代の恋人などとの出会いに、いつしか自分の過去を振り返ることに」 涙がホロっと溢れる。最後に全てが繋がり真実が明らかになる、つらく切ない物語の中に希望が見えます。『つき、ほし、くも、かぜ、やま、かわ、うみ。日本の自然はどうして二文字ばかり?他に、はな、あめ、ゆき、たに、くさ、すな、そして、ほし』浅田次郎に戦後から昭和という時代を書かせたら右に出るものはいないのでは・・・。

教団X
(中村文則)


図書館7(289)
9
2014年に出た本ですが、図書館の順番がようやく回ってきました。米紙WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)年間ベスト10小説、アメリカ・デイヴィッド・グーディス賞を日本人で初受賞しています。567ページにも及ぶ大長編、一気にいきますが、リアルな性的描写には少し参りました。キャッチコピーから「謎のカルト教団と革命の予感。自分の元から去った女性は、公安から身を隠すオカルト教団の中へ消えた。絶対的な悪の教祖と4人の男女の運命が絡まり合い、やがて教団は暴走し、この国を根幹から揺さぶり始める。神とは何か。運命とは何か。絶対的な闇とは、光とは何か・・・」 宇宙、 宗教、腐敗政治、アフリカなど貧しい国の現状、西洋と東洋の考え方、人間の本質・苦しみ、脳科学、戦争、国家のあり方(権力)、裁判、報道、靖国問題、モラルのない企業の利益追求などなど現代社会の抱えている闇に迫ります。今の世界の指導者達や企業がいかに『自分中心』で動いているか・・・。読んでいるうちに哀しくもあり絶望感にも囚われますが、でも、人は光を求めているのです。『神の名を互いにあげ殺し合う人間達。それを利用する人間達』 『西洋は“神(又は運命)の試練”、東洋は“諸行無常”の考え方』『選挙に大勝し、防衛予算や警察関連予算の膨大な増額にも成功し、右傾化を更に進める』 『巨大化した軍需産業が利益を得、戦後の復興で利益を得ようとしている企業も暗躍している』 “日本は天皇教”うなずけます。
絶唱
(湊かなえ)

図書館6(288)
8
“震災をテーマにした文学作品”第2弾、オムニバスになった4つのお話しです。「日本から遠く離れた南の島に逃げてきた女たちが、過去と向き合う。震災から20年が経ち、その日を境に失ったものや、こじれてしまった人生を見つめなおす」 というもので“楽園”“約束”“太陽”“絶唱”とそれぞれの章に別れていますが最後はつながります。舞台はトンガ王国、著者は青年海外協力隊の隊員として2年間この国で暮らした経験があるそうです。その経験を元に書かれています。『子どもたちが輝かない場所に、作物は実らない、人は集まらない、町はできない。だけど、どんな絶望的な出来事が起きても、子どもたちが輝いている限り、そこに未来は必ず訪れる・・・』 ひと味違う湊かなえです。
九十歳。何がめでたい
(佐藤愛子)

7
亥の年生まれの著者“暴れ猪”佐藤節が全開!自ら災難に突進する性癖ゆえの艱難辛苦を乗り越え92年間生きて来た佐藤愛子だから書けたというこのエッセイ、時代の流れに怒り、年老いていく体の故障に悩まされ、今どきの若者の生き方を嘆きと・・・、まぁ、何と面白いこと。私たち年寄りから子供まで、どの世代が読んでも共感すると思います。ラストに『ああ、長生きするということは、全く面倒くさいことだ。耳だけじゃない。眼も悪い。始終、涙がにじみ出て目尻目頭のジクジクが止まらない。膝からは時々力が脱けてよろめく。脳ミソも減ってきた。そのうち歯も抜けるだろう。なのに私はまだ生きている。“まったく、しつこいねエ”」 これを読んで、人生グダグダ悩むのはやめましょう!
震度0
(横山秀夫)

図書館5(287)
6
“震災をテーマにした文学作品”の一つです。阪神・淡路大震災に見舞われた日、ある県警での警察官僚たちの実態を描いたもの。腐りきった県警幹部(キャリア、準キャリア、地元ノンキャリアの6人)とその妻達、警察内部の人々の思惑を描いた群像劇です。情報の駆け引きと権力争いが面白く400ページを超えるのにあっと言う間に読めます。「阪神大震災の前日、N県警警務課長が姿を消した。県警の内部事情に通じ、人望も厚い彼が、なぜいなくなったのか?」 まともな警察官はいないのか?そんな気になりますがラストは何となく救われます。『男の本性・野心-自分だけがよければいい、自分の仕事だけうまくいっていれば後のことは知らない。結局は保身と野心だけ』
掏摸
(中村文則)

図書館4(286)
5
大江健三郎賞受賞、世界各国で翻訳され、ウォール・ストリート・ジャーナルで『2012年のベスト10小説』に選ばれています。「東京を仕事場にする天才スリ師。ある日、彼は“最悪”の男と再会する。男は闇社会に生きる男。男は彼に、“これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。逃げれば、あの女と子供を殺すと・・・」運命とはなにか、他人の人生を支配するとはどういうことなのか?反社会的な世界を描がいていますが、その中で日常生活のささやかな幸せに気づくというもの。引き込まれていきます、純文学の香りのする傑作です。『上位にいる人間の些細なことが、下位の人間の致命傷になる』権力を握るものの怖さ! “王国”という兄妹編が出ています。
白磁海岸
(高樹のぶ子)

図書館3(285)
4
高樹のぶ子の最新刊。著者は71歳、何と色っぽいのでしょう。「息子の16年前の不可解な死の謎を追う母、息子の親友だった夫婦、不倫の恋に溺れる20歳の女性、そして、謎の朝鮮白磁を発見した大学講師と陶芸界の黒幕の老人。古都金沢を舞台に・・・」 話は展開します。恋愛小説とミステリが融合したお話し、私的にはとても面白く読めました。世の中には、いくら真実を突き止めようとしても大きな壁が立ちはだかるのですね、この年になっても歯がゆい思いがします。著者が『昨今の北朝鮮問題を身近な危機として感じるたび、ここに描いたものが、進行中の事件であると実感する。美しいものには、恐ろしい過去が宿っているものだと呟きながら』と言っています。
木洩れ日に泳ぐ魚
(恩田陸)

図書館2(284)3
10年前に出された本ですが 「一組の男女が迎えた最後の夜。明らかにされなければならない、ある男の死。それはすべて、あの旅から始まった・・・」 とあれば読みたくなります、しかも恩田陸。でも賛否が分かれるかも、読み方によっては面白いのですが何となく消化不良に終わった感じがします。もちろん著者が何を言いたいかを考えると、こうなんだろうなと思います。一組の男女と言っても恋人同士なのか夫婦なのか、または?これ以上書くとネタバレになるのでやめますが、話しは一夜の男女の語らいの中で過去が色々と明かされていくというもので、ミステリーとも言えるでしょう。作家っていろんなことを考えるものです。少し、湊かなえ風なところもあるかな?
海と毒薬
(遠藤周作)


2
太平洋戦争末期、米軍捕虜を臨床実験の被験者とした事件(九州大学生体解剖事件)を題材に1958年に刊行された問題作。その実験とは①人間は血液をどれほど失えば死ぬか②血液の代わりに塩水をどれほど注入することができるか③肺を切りとって人間は何時間生きるかと言うものだった。二人の医学部生の視点から事件を見ることで権力争いの凄まじさ・弱い立場の人間の無気力さが描かれています。著者の言いたいことは、神を持たない日本人にとって『罪の意識』『倫理』とは何か?ということ。陰鬱な空気に息の詰まるような思いにスイスイとは読めませんが、確かなもののない今こそ読むべき本なのかもしれない。1986年に映画化されています。
勁草
(黒田博行)

図書館1(283)
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『オレ詐欺』年間被害総額407億円。「大阪を舞台に、チンピラ、ヤクザ、老人、刑事が騙し騙され追って追われる・・」悪の道は転がり始めたら止まらない。オレ詐欺の手口を描き出した犯罪サスペンス!業界の符牒“掛け子”“出し子”“受け子”“番頭”“見張り”“リクルーター”“道具屋”“名簿屋”、オーナーと呼ばれる“黒幕” それぞれが細かく役割が分別されていて、ほとんど互いが互いの存在を知らない。これでは、一網打尽が厳しいという捜査の難しさがわかります。また、名簿屋の下調べのやり口には戦慄が走ります。ホント怖いです。『金さえ稼げたら何をしてもええという風潮ですわ。世も末です何でこんなひどい世の中になったんですか』