book(2022)

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誰かがこの町で(佐野広実)
図書館54(628)
53
誘拐事件と一家失踪事件、2つの異なる視点から物語は進む、“同調圧力に従い、自ら考えるのを止めて、事なかれ主義、長いものに巻かれるのが一番楽”という生き方をしているといつかこんなになるという怖い話。「人もうらやむ瀟洒な住宅街。その裏側は、忖度と同調圧力が渦巻いていた。やがて誰も理由を知らない村八分が行われ、誰も指示していない犯罪が起きる。外界から隔絶された町で、19年前に何が起きていたのか・・・」 学校でのいじめも、職場での隠蔽など、いつもどこか日本で起きている問題。強いものは巻かれろ?今、世間を騒がせている怪しげな宗教団体(統一教会)も、このような人間の弱さにつけ込んでいるんだろうな思わせる。
ミカエルの鼓動(柚木裕子)
図書館53(627)
52
天才心臓外科医の正義と葛藤を描く、この著者は何を書かせても面白い!「手術支援ロボット“ミカエル”を推進する心臓外科医・西條とドイツ帰りの天才医師・真木。難病の少年をめぐり二人は対立。“ミカエル”を用いた最先端医療か、従来の術式による開胸手術か。一方、大学病院の闇を暴こうとする記者は、“ミカエル”は人を救う天使じゃない。偽物だと言う・・・」 医者の良心、医療機器メーカーと大病院の癒着など、長編ながら一気読み。『人は自分だけでは生きられない。誰かに支えられて生きている。ならば、自分の命は自分だけのものではない。自分が望まずとも生きることが誰かを救うことになるのではないか』 プロローグとエピローグは雪の朝日岳登山、しっかりと繋がっている。
春のこわいもの(川上未映子)
図書館52(626)
51
6つの短編集。人のうす暗い部分描いたら天下一品と言われる著者。「青かける青(短編と言うより掌篇、入院している女性の孤独)、あなたの鼻がもう少し高ければ(ギャラ飲み志願の女性)、花瓶(寝たきりのベッドで人生を振り返る老女)、淋しくなったら電話をかけて(女性の内面が描かれている)ブルー・インク(深夜の学校へ忍び込む高校生)娘について( 親友をひそかに裏切りつづけた作家)」 日本語なのに意味不明な単語(イエベ・ブルベ。骨格ウェーブなど)もたくさん出てきて戸惑った。コロナ禍初期の話でジワ~っと怖さが沁みてくる。どの話も“希望が見いだせない物語”だけど、しっかりと胸の中に落ちてくる。収束の見えないコロナも怖いが本当に怖いのは人間!純文学とはこう言うもの・・・。
十三階の仇(ユダ)
(吉川英梨)

図書館51(625)
50
警察庁には“十三階”と呼ばれる、非合法活動も厭わない直轄の公安秘密組織がある。「その組織は天方美月議員によって解体させられた。工作員だった黒江律子と古池慎一夫婦は息子を連れてインドに逃亡するが、古池は過去の殺人容疑で逮捕。そしてコロンビア大使館に左遷させられたかつての上官が過激派に誘拐されてしまう。そんな中、律子は十三階の窮地を救うべくひとりで・・・」 読んでいて著者が女性とは思わなかった。すごい!現実はここまでハードとは思わないが裏の世界では何が起きていても不思議ではない。『中国側と真正面から衝突するのは日本にとって得策ではない。表面上は知らぬ振りをしてスパイ同士の“陰の戦争”が始まるのみだ』 シリーズ第5弾って知らなかった。
えにしや春秋(あさのあつこ)
図書館50(624)
49
人と人との縁をつないだり、つながれていた縁を切ることを商売とする“えにし屋“。「油屋・利根屋の娘お玉に、本所髄一の大店の主人との縁談が持ち上がった。しかし見合いの前日、お玉は置手紙を残して姿を消した。利根屋の体面と命運を賭して身代わりとなったのは、奉公人のおまい。当日、〈えにし屋〉を名乗る謎めいた女の元で、おまいは美しく着飾らせてもらい見合いに向かう。しかしその後もお玉の行方は一向に摑めない…」 。一話と二話の違いにビックリ、ほんわかしたお話かと思いきや二話はなかなかハードになってくる。『病は気からって言うでしょう。気持ちがくじけると身体のあちこちに不具合が生じます。反対に身体の具合が悪いと気持ちも沈んで憂いが多くなったりするでしょう』 。
不審者
(伊岡瞬)

図書館49(623)
48
“ゾワミス”『悪寒』に続く家庭崩壊三部作の2作目(3作目が最近刊行)。初めからラストまでウン何?と言う感覚がずっと続く、やはり一気読み。「会社員の夫・秀嗣、五歳の息子・洸太、義母の治子と都内に暮らす折尾里佳子は、主婦業のかたわら、フリーの校閲者として仕事をこなす日々を送っていた。ある日、秀嗣がサプライズで一人の客を家に招く。その人物は、二十年間以上行方知れずだった、秀嗣の兄・優平だという・・・。夫の一存で彼を居候させることになるが、それ以降、里佳子の周囲では不可解な出来事が多発する」。ネタバレになると困るのでこれくらいに・・・。読み終えるとあれもこれも伏線がいっぱい、面白かった。
黛家の兄弟
(砂原浩太朗)

図書館48(622)
47
前作に引き続き“高山藩”が舞台、しかし主人公も年代も違うので続き物ではないが、統一された世界観で物語が紡がれる。「神山藩で代々筆頭家老の黛家。三男の新三郎は、道場仲間の圭蔵と穏やかな青春の日々を過ごしている。しかし人生の転機を迎え、大目付を務める黒沢家に婿入りし、政務を学び始めていた。そんな中、黛家の未来を揺るがす大事件が起こる。その理不尽な顛末に、三兄弟は翻弄されていく」 二部構成になっていて、至る所に伏線が張り巡られ400ページをあっと馬に読み終える。『世をいとなむ上で、やはり法は欠くべからざるもの。が、そこで掬い取れぬものも多かろう。』 淡々と語るこういう時代物はいい。一作目も好きだけどこちらが上回った、山本周五郎賞を受章。
高瀬庄左衛門御留書(砂原浩太朗)
図書館47(621)46
著者2作目にして第165回直木賞候補作、『本の雑誌』2021年上半期ベスト10で第1位となる。藤沢周平、葉室麟らに連なる新星誕生。「神山藩で、郡方を務める高瀬庄左衛門。50歳を前にして妻を亡くし、さらに息子をも事故で失い、ただ倹しく老いてゆく身。残された嫁の志穂とともに、手慰みに絵を描きながら、寂寥と悔恨の中に生きていた。しかしゆっくりと確実に、藩の政争の嵐が庄左衛門を襲う。」 ある評に“美しい物語だ。穏やかで、静かで、そして強い物語だ”とあったがまさにその通り『心が洗われる』という読後感。『選んだ以外の生き方があった、とは思わぬことだ』 人はどう生き、どう老いていくべきかの指針とも・・。
捜査線上の夕映え(有栖川有栖
図書館46(620)
45
「大阪の場末のマンションの一室で、男が鈍器で殴り殺された。金銭の貸し借りや異性関係のトラブルで、容疑者が浮上するも…。コロナ禍を生きる火村とアリスが瀬戸内の島で見た夕景は、佳き日の終わりか、明日への希望か・・・」 “臨床犯罪学者 火村英生シリーズ”誕生から30年の記念作品。幼馴染忖度ミステリ、事件は地味だが、舞台となる島の夕陽は綺麗だったんだろうねと思わせる。最初、少し回りくどい感じがするが、後半瀬戸内の島に旅する当たりから旅情を誘う展開になる。コロナの第三波の頃の話だがうまく取り入れている。著者が自分の名前のままワトソン役をやっているが30年も経つと主人公たちも年をとらないといけないのでは・・・。
ミス・サンシャイン
(吉田修一)

図書館45(619)
44
20代の大学院生が恋をしたのは、80代の伝説の女優だった・・・。「大学院生の岡田一心は、伝説の映画女優“和楽京子”こと、鈴さんの家で荷物整理のアルバイトをするようになった。鈴さんは一心と同じ長崎出身で、かつてはハリウッドでも活躍していた銀幕のスターだった」 。著者が『長崎の原爆の話を書きたいと思った』と言っている。切ないラブストーリーの中に、長崎に生まれ生きた人の心の葛藤が胸に迫ってくる。心地よい余韻の残る素敵な話、読み終わったあと、無性に泣きたいような気持ちになる。『人ってね、失敗した人から何かを学ぶのよ、決して成功した人からではない。・・・成功した人に聞いてみればいいわ、何かを得た人の言葉と、何かを失った人の言葉だったらどっちを信じますかって』。



戦争は女の顔をしていない
(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ)


図書館44(618)
43
著者は1948年ウクライナ生まれ、2015年にノーベル文学賞を受章。この本には勝利のために国民が払った犠牲が、従軍少女達、娘や姉妹、母親たちが流した血や涙が描かれている。第二次世界大戦の独ソ戦に従軍した(100万人を超えると言われる)女性、看護婦や軍医のみならず兵士として武器を手にして戦った。しかし、戦後は世間から白い目で見られ、自らの体験をひた隠しにしなければならなかった。その彼女ら一人ひとりの体験を(1978~2004年にかけて)聞き書きした話。
・兵隊の一人が銃を撃つのを嫌がったのです。恐ろしい時代だった。彼は軍事裁判にかけられ二日後には銃殺でした。
・毎日30k進む。私たちが通った後には赤いしみが砂に残った。女性のあれです。恥ずかしいって気持ちは死ぬことより強かった。
・一つだけ分かっているのは戦争で人間はすごく怖いものに、理解できないものになる。それをどうやって理解するというの?
・「ヒトラーが悪い」 「ヒトラーが自分で決めたわけではないわ。あんたたちの息子や夫たちがやったこと・・・」。
・戦場で知り合った大尉と結婚、でも夫の母親が夫に「何だって戦場の花嫁なんかを?お前は妹が二人もいるのにもう買い手はないよ」
・飛行機とか戦車とか、誰がこんなものを思いついただろ?兵器のオモチャなんて買ったことはない、誰かが家に持ってきたけどすぐに棄てたよ。だって、人間の命って、天の恵みなんだよ。偉大な恵さ。人間でどうにかなるようなものじゃないんだから」
・スターリングラードでのこと・・・。一番恐ろしい戦だった。あんた、一つは憎しみのための心、もう一つは愛情のための心ってあり得ないんだよ。人間に心は一つしかない、自分の心をどうやって救うかって、そのことだけを考えてきた。

戦争は、たとえ祖国や家族を守るためのものであっても、参加した人の心に一生消せない傷を残すということを痛感する。そういうことから考えると、嘗ての日本軍兵士もまた、そうだっただろうと思わさせる。
解説より『アフガニスタンよりソ連が敗退し、タリバンが政権を取った後アメリカがアフガンを攻める。アフガニスタンに水路を作った中村医師の命がけの事業を顧慮することなく、日本政府は旧ソ連と米軍の前轍から何も学ぼうとしていない。アレクシエーヴィチの仕事も完全無視というのが集団的自衛権を強行採決した日本政府ということになる。』 と。
因みに、ルカシェンコ大統領が統治するベラルーシでは彼女の本は出版されていないそうだ。
脱北航路
(月村了衛)
図書館43(617)
42
「北朝鮮という国に嫌悪感を抱く軍人たちが45年前に拉致された日本人女性を連れて潜水艦で日本へ。北朝鮮の人を人とも思わぬ酷い内情、面倒ごとは握りつぶす事なかれ主義の日本の警察、政府、立場の曖昧な自衛隊・・・」 このままで良いのかという問題提起が伝わってくる。まさに横田めぐみさん、極限状況ゆえに生まれる感涙の人間ドラマ。『一昔前なら大きな社会問題となったはずの事件も、今や政府与党にとっては何の脅威でもなくなっている。政治家は不正を堂々と隠蔽し、恥じることなく虚偽答弁を繰り返す。まるで私物の日記であるかのように公文書を無造作に改竄し、法律どころか憲法まで無視して政権を維持してきた。司法さえまともに機能せず権力者による犯罪も裁かれることすらない』今の日本!
臨床の砦
(夏川草介)

図書館42(616)
41
現役の医者が第3波で見た現場があまりに衝撃的で執筆したと言っている。著者が『現実そのままではないが、嘘は書いていない』と、ベッドがなく自宅待機となったり、涙を浮かべて入院を懇願したりする患者たち、家族の面会もかなわず袋に詰められて運び出される遺体、周辺の医療機関や行政の遅れた対応、医療はすでに崩壊しているのではないか・・・。政治家やマスメディアがどんなことを言っても現場の実態は地獄だったことを思い知らされた(隔離病棟に入る前に遺書を書いた医者もいたという)。『コロナは肺を壊すだけではなく、心も壊すのでしょう。コロナと聞いただけで、誰もが心の落ち着きをなくし、軽薄な言動で人を傷つけるようになる』 “一番の敵はウィルスではなく人の心の中にある”。
爆弾
(呉 勝浩)
図書館41(615)
40
「都民1400万人を人質にとる無差別爆破テロ。爆弾の在り処の手がかりは、容疑者と思しき中年男が出す“クイズ”のみ。取調室の中で、正体不明の容疑者と警察の戦いが始まる。」 警察官vs容疑者、禅問答みたいな会話、心理戦が繰り広げられる…。容疑者の男のみならず、警察、市民、色々な角度から垣間見える無意識の悪意、取調室で交わされる言葉遊びの数々、果たして犯人は?交わされる言葉をしっかりと読み取っていかないと自分も迷路にはまりそう。『他人の本音なんて知らない方がいいんです。だって人はひとり残らず汚い部分を持っています。身勝手な支配欲、嫉妬、破壊衝動。全部当たり前に持っています』 人間の醜さを考えさせられた。今回で3回目の直木賞候補、今回は選ばれるかも・・。
ボーダーズ(堂場瞬一)
図書館40(614)
39
警視庁特殊捜査班SCU 特殊な能力を持つものが集まった部署で、とんな事件でも捜査できる権限が与えられている、という架空の部署のお話 「銀行立て籠り事件が発生。男性客が刺殺された後、犯人は逮捕されたが、被害者は40年前に機動隊員を殺して手配されていた男だった。この事件を追いかけると安保闘争に行き着き、スパイとして匿っていた男が裏ネットで情報を拡散して、脅迫していた。その裏に公安がいた」。公安が絡むと面白い!新シリーズ、今後の活躍に期待。『よりよい政治、社会を実現して欲しい、そのためにこそ批判をするのですが、それを“クレーム”だと捉える人も多い。ネットが普及してから、答えは白か黒しかないと思い込んでいる人が多数派なんです。自分と違う意見の人の話は封殺する』 。
渚の螢火
(坂上泉)

図書館39(613)
38
「舞台は50年前の沖縄、1972年5月15日を2週間後に控えたある日琉球銀行の輸送車が襲われ、現金100万ドルが奪われる強盗事件が起きる。ドルが円に切り替わる瞬間を狙いすました犯行。そして半月後には解散する琉球警察の威信もかかった事件を前に、八重山出身で、本土や沖縄にも馴染めない琉球警察本部・本土復帰特別対策室班に極秘の捜査が命じられる」 沖縄の人の苦しみ・悲劇、アメリカ、日本の思惑が絡み合った読み応えのある警察小説。“昭和史×警察小説”というところ。『この島は嘘みたいなことばかりだ。日本の言葉を使い、米国の文化や経済の恩恵を受け、しかもそのどちらでもないと言われる。何一つ自分で決められず、日本と米国に振り回され・・』 著者は東大出の兵庫県出身。
呪護
(今野敏)

図書館38(612)
37
今野敏に『鬼龍シリーズ』があるとは知らなかった。まるで“陰陽師”、警察小説と言っても異色。「私立高校で、傷害事件が発生。実験準備室のなか、男子生徒が教師を刺したという。警視庁少年事件課の富野が取り調べを行ったところ、加害少年は教師に教われていた女子生徒を助けようとしたと供述した。ところが、女子生徒の口からは全く異なる事実が語られる。捜査を進めるなかで、富野はお祓い師の鬼龍と再会。事件は思わぬ方向へ」オカルトかな?“天海僧正が江戸に配した北斗七星の結界、それを封じた明治政府の魔方陣、将門の霊力を活性化させるために元妙道が発現させた法力”何とも分かったような分からないようなお話。私には突拍子もない話だった、この著者はこんな話も書くんだ。
小隊
(砂川文次)

図書館37(611)
36
第164回芥川賞候補作。著者は元自衛官の新鋭作家。「突如ロシア軍が北海道に侵攻、自衛隊第1中隊第1小隊長安達三尉は小隊を指揮、迎え撃つ任務に就く、住民への避難誘導や塹壕での食事、会議と淡々と職務をこなす安達、そして唐突に起こる戦闘・・・」 ロシアが侵攻した理由は描かれていない。戦争が起きたとき本当の戦争を知らない自衛隊はどう対処するか? 自衛隊内部の統制や日本政府の動きも最悪。ほぼ全編に亘り戦闘描写、味方が死に、敵を殺し、逃げ回るシーンは地獄そのもの。著者は何を言いたかったのか?戦争の悲惨さなのか?理解できなかった。ウクライナでの惨状をTVや新聞で目にするが、想像を絶するような過酷な状況が続いているのだろうと思わされる本だった。


暁の宇品

陸軍船舶司令官たちのヒロシマ

(堀川恵子)

図書館36(610)
35
第48回大佛次郎賞を受賞。作品のテーマは人類初の原子爆弾はなぜ広島に投下されなくてはならなかったのか?広島に生まれ育った著者、原爆の惨禍を様々に伝えてきただけに、軍人を描くことは当初ためらいもあった。だがイデオロギーによらず、史実を忠実に発掘し、歴史と人間に誠実に向き合うことを自身に課して取材を続けたとのこと。詳細な取材に基づいた最高のノンフィクション、読み応えのある逸品に出会えた。「広島は他の都市にはない重要な陸軍の船舶司令部(通称“暁舞台”)があった。米軍は宇品に目をつけ計画していた。“船舶の神“”と呼ばれた田尻昌次司令官は上層部に船舶輸送の危機的状況を伝えるものの更迭された・・・。」第二次世界大戦を陸軍兵士の海上輸送という視点で追体験することに、教科書にも載っていない田尻と佐伯という司令官の生きざまが描かれている。恐らく 田尻の開戦前の決死の具申(原文がそのまま残っている)はもみ消された。 信念を持つ人間が上層部に追い詰められ大きな組織が間違った方向へ進んだ時、現場はどう振る舞うのか。国家がリスクを正視せず、対応を先送りするとき、そのツケは国民に回る。今の時代も全く同じ。戦争のシーンはあまりにリアルで悲しい、ガダルカナル島のくだりは腹が立って仕方がない。また、敗戦が濃くなった時期ベニヤ板で作った『特攻艇 レ』、大半の若い命が暗い海に沈んだ。しかし残っていた特攻隊員は原爆投下後のヒロシマを救うために火の海へ身を投じていく。戦争とは何だろう・・・。「ポイント・オブ・ノー・リターン」と呼ばれる関東軍による満州事変、この頃から日本はおかしくなったのか?最後に『戦前戦中と強大な陸軍に依存し、膨大な軍事予算を受けて発展した町は一転、非道な原爆投下すら“軍部の代償”として引き受けた。平和都市として生まれ変わるには、旧日本軍の最大の輸送基地・宇品の記憶は負の遺産以外何ものでもなくなった』。

丘の上の賢人/ 旅屋おかえり
(原田マハ)


図書館35(609)
34
『旅屋おかえり』未収録の札幌・小樽編と“北海道旅エッセイ”&“おかえりデビュー前夜を描いた”漫画『おかえりの島』も収録!相変わらず面白くて泣ける。礼文島出身のおかえりの今回依頼された旅行地は北海道。故郷にいくばくかの屈託を抱えた彼女は、以前から北海道での仕事は一切NG。そのマイルールを破って今回引き受けたのはなぜ?「秋田での初仕事を終えた次なる旅先は北海道──ある動画に映っている人物が、かつての恋人か確かめてほしいという依頼だった。依頼人には、初恋を巡るほろ苦い過去があって…。」 自分が一番したいことは何か?旅をしながらその人の人生にふれ、おかえり自身も自分の人生を振り返ることになる。『ふるさとっていうのは、生まれ育った場所のことだけを言うんじゃない。“おかえり”って言ってくれる人がいるところ』 コロナ禍も2年目が過ぎてもなかなか旅をするということが難しい時代になっているが、本の中での旅、記憶の中での旅、空想の中だけの旅などといくらでも方法はあるのかも・・・。著者が旅大好きと言うだけあって一緒に旅しているような感じになる。ラストはじんわりと心に沁み入る。
相剋(笹本稜平)
図書館34(608)
33
昨年なくなった著者の2020年の作品、越境シリーズ第8弾。警視庁捜査一課継続捜査班の鷺沼を中心としたタスクフォースが、政界や経済界の闇に挑む物語 「神奈川県警管内で発見された腐乱死体が碌な捜査もされず自殺として処理された。不審に思った宮野が独自捜査をすると、その直後、何者かに襲われてしまう。鷺沼たちはカりスマ投資家の男に目を付けるが、その裏には政官界の巨大な権力が控えていた。」 “警察という役所は、政治家を相手にすると、蛇に睨まれた蛙みたいなもんだからな”という台詞が出てくるが、官僚である警察上層部には時の政権に対しては大いに忖度があるのが現実でしょう、内閣府の直轄機関は警察庁だけだから・・・。この物語のようにないことを祈るばかり。
サン&ムーン(鈴峯紅也)
図書館33(607)32
サブタイトルは『警視庁特別捜査係』。エリートキャリアで警視監の母、警視庁刑事部警部補の父(二人は20数年前に離婚)と湾岸署刑事の息子の3人を軸に物語は進む。「東京湾に接する野鳥公園と東海ふ頭公園で連続放火事件が発生。同時にその付近で連続殺人事件が勃発。捜査本部が設置され、湾岸署に勤める月形涼真巡査も応援要員に狩り出された。が、警察学校の同期で、恋人・美緒の兄でもある中嶋が、被害者の一人だった。しかも涼真がコンビを組むことになったのは、なんと、突然現れた警視庁警部補・父の日向英生・・・。」 『警視庁公安』シリーズなどは人気らしいが、初読み作家です。面白いが警察ものとしては少し緩い感じがした。規格外の警察小説といった感じ。
新章神様のカルテ(夏川草介)
図書館32(606)
31
『神様のカルテ』から10年、物語も5冊目で舞台は地域医療支援病院から大学病院へ。「栗原は信濃大学医学部・消化器内科医として勤務する傍ら、大学院生としての研究も進めている。2年が過ぎ、矛盾だらけの大学病院という組織にも順応しているつもりであったが、29歳の膵癌患者の治療方法をめぐり、局内の実権を掌握している准教授と激しく衝突・・・」 前5作品は読んでいない、が『勿忘草の咲く町で』 よりまだリアルに過酷な医療界を描いている。特に大学病院の組織、役割そして権力と・・・。面白い!『医療というものは人が人の命を左右するという無茶な使命を背負わされている。その上に理不尽と不条理と矛盾の三本柱を立て、権威という大きな屋根をかけたのが大学病院だ』 。
あやかし草紙
(宮部みゆき)

図書館31(605)
30
百物語シリーズ5作目(第一期完結編、タイトルは“あやかし草紙 三島屋変調百物語伍之続”。2作目“あんじゅう”を2011年に読んでいる。「塩断ちが元凶で行き逢い神を呼び込んでしまい、家族が次々と不幸に見舞われる『開けずの間』。 亡者を起こす“もんも声”を持った女中が、もの言わぬ姫の付き人になって理由を突き止める『だんまり姫』。屋敷の封じられた面の監視役として雇われた女中の告白『面の家』。百両という大金で写本を請けた男の運命が語られる『あやかし草紙』。三島屋の長男・伊一郎が幼い頃に遭遇した椿事『金目の猫』」の五編、ぞくりときながらも引き込まれていく。特に『面の家』に出てくる面の話が凄い『面の正体はこの世に災いや悪事をもたらす魑魅だ』だって。
暴虎の牙
(柚月裕子)
図書館30(604)
29
『孤狼の血』シリーズ、三作目(完結編)。一作目の大上が生きていた昭和57年を前編とし後編を日岡の平成16年を舞台とした話になっている。「和57年の広島県呉原。愚連隊“呉寅会”を率いる沖虎彦は、ヤクザも恐れぬ圧倒的な暴力とそのカリスマ性で勢力を拡大していた。広島北署の刑事・大上は、沖と呉原最大の暴力団・五十子会との抗争の匂いを嗅ぎ取り、沖を食い止めようとする。時は移り平成16年、懲役刑を受けて出所した沖はふたたび暴走を始めた。かつて大上の薫陶を受けた呉原東署の刑事・日岡が沖に接近する…」 大上に再び会えると思わず、一作目を思い出しながら懐かしく読んだ。500頁超だけど2日で読み終えた、それだけ面白い(2年前に刊行されていた)。
任侠シネマ
(今野敏)

図書館29(603)
28
笑いあり、涙ありの“任侠”シリーズ第5弾!義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵が今度は何を救う。「北千住にある古い映画館。TVやネットに押されて客足が落ち、映画館の社長も閉館を覚悟。その上、存続を願う“ファンの会”へ嫌がらせをしている輩の存在まで浮上する...。マル暴に監視されながら、阿岐本組の面々は、存続危機の映画館をどう守る?」 今の世知辛い世の中にこんな親分がいてくれたらなぁ~と思わせます。『ニューシネマパラダイス』 健さんの映画『日本俠客伝』など懐かしい映画も出てる。映画と義理人情が好きな方はぜひお読みください。読み終わったら映画館で映画を見たくる本です。
騒がしい楽園(中山七里)
図書館28(602)
27
「埼玉県から都内の幼稚園へ赴任してきた神尾舞子。待っていたのは、無責任、事なかれ主義の権化とも言える三笠野園長とそこで起きる数々の出来事。騒音や待機児童、親同士の対立などさまざまな問題を抱える中、幼稚園の生き物が何者かに惨殺される事件が立て続けに起きる。やがて事態は最悪の方向へ―」 ほんわか物語かと思いきや楽園で起きる数々のできごと、まさか殺人事件まで・・・。『大人だからって子供より勝っている部分なんて言葉と経験値と世渡りくらいじゃないか。誰でも感情に走る時って、精神年齢は五歳に戻っているもの』 それと納得したのが『適材適所という単語、優秀だとされた人間が、楽な仕事を与えられるはずもない』 と言うこと。
フェイクフィクション(誉田哲也)
図書館27(601)
26
読みたい本ランキング1位。「男性の首なし死体が発見された。刑事の鵜飼は地取り捜査を開始する。死因は頸椎断裂。“斬首”によって殺害されていたことが判明。一方、プロのキックボクサーだった河野は引退後、都内にある製餡所で従業員として働いていた。ある日、同じ職場に入ってきた有川美祈に一目惚れするが、彼女が新興宗教『サダイの家』に関係していることを知ってしまう…」 警察組織、ヤクザ、カルト集団、元キックボクサーの四つ巴の闘い。カルト集団の不気味さ、怖さ、また警察との癒着など、最後まで飽きさせません。『小説でも聖書でも勝手に書き換えちゃダメなんだって・・・』 “エホバの証人”がモデルかな?
さよならも言えないうちに(川口俊和)
図書館26(600)25
3年ぶりの新刊(シリーズ4作目)、今回は1作目『コーヒーが冷めないうちに』から一年後のストーリー。「第1話 大事なことを伝えていなかった夫の話 第2話 愛犬にさよならが言えなかった女の話 第3話 プロポーズの返事ができなかった女の話 第4話 父を追い返してしまった娘の話」 パターンは分かっていても、つい泣けてしまう…。 後悔を引きずり過去に戻る人たち。過去に戻っても現実は変えられないとはわかってはいても、会いたい人と会う事で、未来を前向きに歩めるようになるのなら戻る価値はあるのでしょう。ところで、今回過去から物って持って帰れるんだけど、持って帰ったらどうなるんだろう?
ムーンライト・イン(中島京子)
図書館25(599)24
著者は『小さいおうち』で直木賞を受章しているが、本著が受賞対象となり今年度の芸術選奨文部科学大臣賞を受章。「穏やかな老人がかつてペンションを営んでいた“ムーンライト・イン”には、三人の女性(施設に入りたくない80代女性、ハラスメントに抵抗して不慮の事故を起こし逃げてきた50代女性、日本でまだ見ぬ実の父を探す27歳のフィリピン女性)が、過ごしていた。 そこに一人の青年が転がり込んでくる。 人生の曲がり角、遅れてやってきた夏休みのような時間に巡り合った男女の、奇妙な共同生活が始まる」。 先ほど読んだ『オオルリ流星群』も大人が悩む話だけど、こちらの方が地に足がついている感じがした。ただ、この先が知りたいとも思わせる終わり方だった。
きたきた捕物帖(宮部みゆき)
図書館24(598)
23
「お江戸深川。主人公は16歳の北一。育ての親の岡っ引き千吉親分が急に亡くなってしまう。北一は親分の本業だった文庫売りをして日銭を稼ぐ日々、いろいろな事件に出会う。故親分の盲目のおかみさんや、差配の富勘さん、それに湯屋の窯焚きの少年喜多次と共に知恵と機転で事件を解決」していくというお話。主人公の北一が頼りないが、二人の“きたさん”が事件に翻弄されつつ成長していく優しさあふれる捕物帖。著者が『生涯、書き続けたい捕物帖です』と言っている。『我が子なら何でもかんでも可愛いわけじゃねえ。人の心はそんな便利な作りにはなっちゃいないからな。不幸な経緯(ゆくたて)で、情が薄れっちまうこともあるんだよ』。5月には続編が出るらしい。
勿忘草の咲く町で(夏川草介)
図書館23(597)
22
-安曇野診療記-、高齢者医療や人間の尊厳といったテーマを扱いながら心の中を春風が通り過ぎて行くような気持ちになる連作短編集(話はつながっている)。「美琴は梓川病院に勤めて3年目の看護師。風変わりな研修医・桂と、地域医療ならではの患者との関わりを通じて、悩みながらも進む毎日だ。口から物が食べられなくなったら寿命という常識を変えた“胃瘻”の登場、『できることは全部やってほしい』という患者の家族…」 老人医療とは何か、生きることと死んでいることの差は何か? 『幼い子供の命を救うことに迷う医者はいないだろうが、それとは対極に位置するのが現代の医療現場だ』 著者は現役の医者。舞台は憧れの北アルプスを見渡せる安曇野。
オオルリ流星群(伊与原新)
図書館22(596)
21
45歳になった高校時代の同級生が地元に集まって青春を振り返りながら手作りで天文台を建てるというお話。「彗子が故郷へ帰ってきた。太陽系の果ての星を探すため、手作りで天文台を建てるというのだ。彼女に協力することになった久志ら旧友たちは、28年前の青春の日々に思いを馳せる。、だが、やがて高校最後の夏の青春が明らかになり・・・。」 大人になると誰しも抱えながら、決して人には見せることのない内面の翳りや苦悩を巧みにすくい上げて、行き詰まった人生の中で隠された幸せに気付かせてくれる、静かな感動の物語。天体に関する専門用語に少し取っつきにくい点もあるが、読後感は凄くいい。
山狩
(笹本稜平)

図書館21(595)
20
著者は単行本作業中に急逝したとのことで遺作になる。「伊予ヶ岳の山頂付近で発見された若い女性の死体。事故死あるいは自殺と思われたが、彼女がストーカー被害に遭っていたことがわかる。千葉県警生活安全捜査隊の山下は、彼女の死への関与を疑うが、ストーカー加害者は名家の御曹司で、事情聴取にも妨害が入る・・・」 初めは話が進まず読むのに時間がかかったが、後半、どんどんとペースが増していく。警察内部の対立や不正など、相変わらずの展開ですが警察上部もここまで腐ってくると救いようがない。『子供より物わかりの悪い人間が世間にいてね。政治家や役人というのは概ねそうで、偉くなるほどこの傾向が強い。警察官僚も例外じゃない』 スッキリした結末!
母の待つ里
(浅田次郎)

図書館20(594)
19
“家庭も故郷もない還暦世代の男女3人に届いた”ふるさとへの招待状、「上京して40年、一度も帰ろうとしなかった郷里で温かく迎えてくれたのは、名前も知らない〈母〉でした・・・。カード会社から舞い込んだ〈理想のふるさと〉への招待。半信半疑で向かった先には奇跡の出会いが待っていた」 母の抱く無限の愛情とその人生、細りゆく山村と最先端ビジネスの組合せ・・、読み始めて何?と度肝を抜かれた。著者5年ぶりの現代小説。東北弁には少し難儀するが読みながら胸にじ~っと染みこむ。『人生の幸不幸について考えた。過疎化した村の住人達を不幸だと思うのは、都会人の偏見なのではあるまいか。幸福の基準は“便利”と“不便”ではない』。
ムゲンのi・下(知念実希人)
図書館19(593)18-2
上巻でばら撒かれた伏線がどんどん回収されていく、心と魂と、愛のお話し。 「愛衣の家族と、大量殺人を犯した少年Xと、突然現れた謎の少年ケント君と、ずっと寄り添ってくれていた愛衣の主治医の先生・・・。最近都内西部で起きている連続殺人事件、23年前の通り魔事件...すべての謎が解けた時に世界は一変する」 話が進んで段々面白くなると同時に、読む方は現実と潜在意識の中の世界とがこんがらかってくる。全体に人の愛があふれている、タイトルの『ムゲンのi(アイ)』にも深い意味が・・・。ラストのどんでん返し、種明かしにはビックリ!著者が医者だからこんな話が書けるのでしょうか?
ムゲンのi・上(知念実希人)
図書館18(592)18
“医療×ミステリー×ファンタジー。眠りから醒めない4人の患者、猟奇殺人、少年Xの正体は・・・”上下2巻で700ページを超える長編、ミステリーとファンタジーが合わさった小説。 上巻ではファンタジー部分が過ぎて、ちょいとだれたが我慢して読む進むうちに、はまっていく「イレス患者(眠り続ける病)の担当主治医者の識名愛衣は、祖母から受け継いだユタの力を使いイレス患者を癒し永遠の眠りから解放する。患者達がイレスに発症したのには辛すぎる過去が原因だった・・・」 上巻だけでは何がどうつながるのか全く分からない、下巻に期待が持てる展開になっていく。
尾根を渡る風(笹本稜平)
図書館17(591)17
『駐在刑事』と付いているが、ギラギラした刑事物ではない 「青梅警察署水根駐在所へと降格された元一課の刑事・江波。奥多摩の穏やかな暮らしにも慣れたそんなある日、御前山でいなくなったペット犬捜しを頼まれた彼は、山で何者かが仕掛けた罠を発見。それは隣県で発生した殺人事件の証拠だった・・・」 “花曇りの朝”など5編の連作短編集。シリーズ第2弾とのこと、シリーズものとは知らなかった。肩のこらない気軽に読める“山岳+警察”小説といったところ。『山にはエスカレーターもエレベーターもありません。しかし苦しみながらの一歩一歩が、登り終えたとき自分の宝になっています。・・・、それは自分の魂にとってとても贅沢な贈り物だと思います。』 著者は昨年11、70歳で亡くなっている。
隠居すごろく(西條奈加)
図書館16(590)16
“ほっこり笑えてジーンと泣ける江戸人情物語”とあれば読まないわけにはいかない。「巣鴨で六代続く糸問屋の主人を務めた徳兵衛。還暦を機に引退し、悠々自適な隠居生活を楽しもうとしていたが、孫の千代太訪れたことで予想外に忙しい日々が始まった! 千代太が連れてくる数々の“厄介事”に、徳兵衛はてんてこまいの日々を送ることに・・・」 清々しい読後感の素敵なお話、この著者のものはいつもほっこりさせられる。『思いやりとは、決して安い同情ではない。考えも性質も環境も異なる相手と、共に生きようとする精神にほかならない』『意地だの恥だのはこのさい横に置いといて、一歩を踏み出さなければ何も変わらない』。

夜が明ける
(西加奈子)

図書館15(589)15
著者が『ハッピーエンドじゃないというのは、私の小説の中で、唯一かもしれない。人間は変われる、ということを(登場人物たちに)託したかった』と・・・。現代日本に確実に存在する貧困、虐待、過酷な労働環境、性差別。ロストジェネレーションと呼ばれる世代の2人の男性が高校で出会ってから30歳を過ぎるまでのそれぞれの人生が描かれる。「15歳の時、 高校で“俺”は身長191センチのアキと出会った。普通の家 庭で育った“俺”と、 母親にネグレクトされていた吃音のアキは、 共有できる ことなんてないのに、 かけがえのない存在になっていった。 大学卒業後、 ”俺“はテレビ制作会社に就職し、 アキは劇団に所属する。 しかし、 焦がれて飛び込んだ世界は理不尽に満ちていて、 俺たちは少しずつ、 心も身体 も、 壊していった...。」 本当にこの夜は明けるのか。何度も読むのをためらい、どうしてこんなに苦しいものを書くの?と感じた。ラストに“俺”の後輩が切々と語る言葉『頑張ってもダメな時はありますよね。生きよ そして 苦しかったら助けを求めよ』に救われた。
『自業自得だとか、自己責任だとかいう言葉をよく聞くよね、それは大切な現実を見ないようにする楯になっている気がする』 『世界に目を向けてみろよ。どれだけの不幸がある?飢えと貧困に苦しんでいる子供達。身体を売らなければならない女達。戦争で命を落とす男達。俺たちは、そんな人間たちの不幸の上にあぐらをかいているんだ』。
冷たい檻
(伊岡瞬)

図書館14(588)14
北陸の地方都市を舞台に繰り広げられる、政治と官僚と中国資本の巨大企業と日本財界の四つ巴の駆け引き 「表だって警察が動けない仕事の依頼を受ける調査官の元刑事樋口はある村の駐在所から失踪した警察官を探せという指令を受ける。その村では子供から老人までが収容されているある福祉施設で不穏な事件が発生しているのを知る。裏には大きな陰謀が・・・」 この国の抱えている問題が浮き彫りにされ読み応えがあった。一種類の薬を開発するのに研究期間は10年、かかる費用は平均500億円だって、まず動物実験から臨床実験(人体実験ができないから) と言うところがキーワード。『介護人不足、若者の更正、虐待児童の養護、生活支援、地方創世、過疎化限界集落対策』など政治家には甘い汁。
殺した夫が帰ってきました(桜井美奈)図書館13(587)13 タイトルからすると単純なお話かと思いきや、登場人物たちの複雑な生い立ちや、それぞれの思惑、愛憎などが絡んできてちょいと複雑。「アパレルメーカーで働く茉奈は取引先の男に執拗に迫られていた。ある日、茉奈が帰宅しようと家の前に辿り着くと、彼がが待ち伏せていた。勝手に家の中に入ろうとする彼を追い返したのは死んだはずの夫だった。夫の出現に戸惑う茉奈だったが、九死に一生を得た夫は記憶を失ったという。再び夫と一緒に暮らし始めた茉奈の元に謎の手紙が届く…」 ラストのどんでん返し、伏線回収がすごい!(以下ネタバレ)伏線として無戸籍問題や虐待、家族に恵まれなかった子供が大人になり悲しみの連鎖が続く、しかしラストはホッ!
黒牢城
(米澤穂信)

図書館12(586)12
直木賞他4大ミステリランキング完全制覇するなど今話題の本、やはり面白かった。「戦国歴史小説でありながら本格ミステリでもある。「織田信長に叛旗を翻して有岡城に立て籠った荒木村重は、城内で起きる難事件に翻弄される。動揺する人心を落ち着かせるため、村重は、土牢の囚人にして織田方の軍師・黒田官兵衛に謎を解くよう求めた。事件の裏には何が潜むのか。戦と推理の果てに村重は、官兵衛は何を企む」 『神仏の罰は祈りで逸れることもできよう。じゃが、民や家中が下す罰は、何ものにも抗うことはできぬ』 官兵衛の知略の凄さが分かる、こういう軍師がいたらと、各将は思ったことでしょう。ラストはスッキリ!
硝子の塔の殺人(知念実希人)
図書館11(585)11
本格ミステリーとはなんぞや?「雪深き森で、燦然と輝く、硝子の塔。地上11階、地下1階の美しく巨大な尖塔。ミステリを愛する大富豪の呼びかけで、刑事、霊能力者、小説家、名探偵、料理人など、一癖も二癖もあるゲストたちが招かれた。館の主人が毒殺され、この館で次々と惨劇が起こる・・・。」 どんでん返しの連続に驚愕のラスト、(松本清張以来社会派ミステリーに押され気味だった)本格ミステリーの醍醐味を味わってください。ポー、ルブラン、ドイル、クリスティー、クイーン、カー、乱歩、横溝、鮎川、島田、綾辻…。の名作も顔を出す。ミステリーファンにはたまらないかも・・・。初めちょいと中だるみするが後半になると一気読み!
ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人(東野圭吾)図書館10(584)10 シリーズ物ではない東野圭吾作品、“ほとんど人が訪れたことのない平凡で小さな町。寂れた観光地。ようやく射した希望の光をコロナが奪い更に殺人事件が・・・” アメリカ帰りのマジシャンを探偵役に謎解きをたっぷりと楽しめます 「結婚式を控えた真世はある日父が殺されたとの報を受け、急遽故郷に戻る。久方ぶりに再会した元マジシャンの叔父と共に真相究明に乗り出すが、容疑者として浮かんだのは父の教え子だった真世の同級生ばかり・・・」 ちょっと変わったニューヒーロー、マジシャンだけに手先が器用、おまけにショーを生業にしているので口八丁手八丁、警察の手の内を知って警察を手玉にとる、なかなか面白い。
同志少女よ、敵を撃て(逢坂冬馬)
図書館9(583)9
第11回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作、選考委員全員が満点を着けた話題作。「モスクワ近郊の農村で、母子共に狩りをして暮らす、16歳のセラフィマは、2年後の独ソ戦が激化する1942年、ドイツ軍により母親が殺された。その後自ら狙撃兵となり、スターリングラードを皮切りに、独ソ戦の最前線に立ち、目の前で多くの仲間を失い、自らも多くの命を奪いながら、多くの人々の命が惨たらしく奪われていく生き地獄のような中をひた走ることになったのか・・・」 戦時下という極限状態において人間はどういう行動をとるのか、タイトルの“敵を撃て”の敵とは果たして誰なのか?『失った命はもとに戻ることはなく、代わりになる命も存在しない』 戦争が人を変えていく。
滅びの前のシャングリラ
(凪良ゆう)

図書館8(582)8
「“一ヶ月後、小惑星が衝突し、地球は滅びる”学校でいじめを受ける友樹、子供を守る母親、人を殺したヤクザの信士、家族から逃げ出した静香。・・・荒廃していく世界の中で、彼らは生きる意味を見つけられるのか」 こういう時人間はどういう行動をとるのだろう?滅び行く運命の中で、幸せとは何かと問いかけてくる、単なるSFものではない。読み応えがあり!『地球よりも先に人間が壊れ始めている。長い時間をかけて作ってきた法も、常識も,道徳心も安物のメッキみたいにばりばりと剥がれていく』 『ねえ神様、あんたは本当に矛盾の塊だな』 人は生きる意味を失い殺人、略奪が横行する、こんな状況に置かれたら果たして自分は?
砂に埋もれる犬(桐野夏生)
図書館7(581)7
虐待を受けた少年の心がゆがんでいく様子を冷徹な筆致で描く、500ページ近い長編なのに一気読み!「小学校に通わせてもらえず、日々の食事もままならない優真。男にばかり夢中でネグレクトを続ける母との最悪な生活のなか、手を差し伸べるコンビニ店主が現れるが・・・。」 著者が言っています『つぶれてしまった心はなかなか元に戻らない。すでに、単純に愛情を注げば解決する問題でもなくなっている。どうすれば良いのか。突き放すようですが、私にはわからないです』 と、ニュースなどで上辺しか見ていなかったが虐待する方される方、それぞれ奥に潜む闇に根深いものがある。やりきれないがこれが現実か・・・。この著者は凄い!
星落ちて、なお
(澤田瞳子)

図書館6(580)6
直木賞受賞作!幕末から明治にかけて活躍した天才絵師・河鍋暁斎の娘・とよ(暁翠)の、22歳から56歳までの半生を描いている。「暁斎が死んだあと、残された娘のとよに対し兄・周三郎は事あるごとに難癖をつけてくる。家族の均衡が崩れ、兄はもとより、弟の記六は頼りなく、妹のきくは病弱で、河鍋一門の行末はとよの双肩にかかってくるのだった」 私の全く知らない画家の話でしたが、“家族って何だ?”と思わずにいられない、ずっしりと心に響く物語。『人は喜び、楽しんでいいのだ。生きる苦しみ哀しみと、それは決して矛盾はしない。いや、むしろ人の世が苦悩に満ちていればこそ、たった一瞬の輝きは生涯を照らす灯火となる。』
レインメーカー
(真山仁)

図書館5(579)5
“法律は悲しみを癒やす道具じゃない” 医療過誤裁判を起こされた医師を救おうと奮闘する弁護士が主人公。「急患の2歳児の心肺が停止・・・。慟哭する母。呵責に苦しむ父。医師の無念。糾弾される病院。真相を追うメディア。治療のミスは本当にあったのか?」弁護士、医師、遺族、新聞記者、それぞれの信念と葛藤が交錯する。医療過誤訴訟で明らかになる真実は誰かを救うのか? 今の医療現場や政治の矛盾を着いている。一気読み! 母子手帳は、大切な情報の宝庫であり、子供の病で病院にかかるときの必要性がよくわかった。『レインメーカー』とは、アメリカの法曹界では訴訟で大儲けする弁護士とのこと。
風を結う
(あさのあつこ)

図書館4(578)4
“針と剣 縫箔屋事件帖” シリーズ二作目。「町医者の宗徳は、丸仙で一居の姿を目にした瞬間『亡くなった知人に似ている』と取り乱し、その直後に謎の死を遂げる。宗徳は一居の過去を知っていたのか・・・。」剣術を愛する丸仙の娘・おちえ、刺繡職人を志す一居。ふたりの活躍が一作に引き続きみずみずしく描かれている。『本当に責を負おうとすれば、生きねばならない。揉め事や苦労の横溢する現を生き抜いて生き通して、償いの道を探る。それが人の本道だと思う』 “弥勒シリーズ”や“闇医者おゑんシリーズ”と比べると少しおとなしいが人の心に響いてくるものは同じ、ちょいとこの著者にはまってしまった。
ライト マイ ファイア
(伊東潤)

図書館3(577)3
「川崎簡易宿泊所放火事件でみつかった身元不明の遺体を調べるうち、警察官・寺島は、1冊の古いノートを入手する。そのノートには『1970』 『HJ』の文字と、意味不明の数字が記されていた。やがて放火事件とかつて日本を震撼させた“よど号事件”との関連に気づき、その真相を握る男を追う・・・。過去と現在が結びつくとき、巨大な陰謀が明らかになる。」 ハイジャックの実行犯に公安がいたという大胆な発想。当時の若者たちの情熱と現代日本の情熱のあり方を問うている。『経済成長は豊かさをもたらしたが、日本の若者たちは牙を抜かれた。そこにあるのは欧米に感化された利己主義だった』 と、当時を知る私には今の若者の歯がゆさと今も昔も変わらぬ闇を感じる。
旅屋おかえり
(原田マハ)

図書館2(576)2
TVドラマ化されているとは知らず、原田マハ原作だったので手に取ったらこれが面白かった。「売れない崖っぷちアラサータレント“おかえり”こと丘えりか。 スポンサーの名前を間違えて連呼したことが原因でテレビの旅番組を打ち切られた彼女が始めたのは、人の代わりに旅をする仕事だった。満開の桜を求めて秋田県角館へ、依頼人の姪を探して愛媛県内子町へ・・・。」 行く先々で出会った人々を笑顔に変えていく、まるで女寅さん。笑いあり、涙あり、ラストはしっかりと泣いてしまった。『いいことよりも、きっと、つらいことのほうが多かったに違いない。けれど、みんな、一生けんめいだった。叩かれて叩かれて強くなった。美しい人たち』 。きっと旅に出たくなるよ!
店長がバカすぎて(早見和真)
図書館1(575)1
本を愛する人に送ります。「谷原京子、28歳。吉祥寺の書店の契約社員。超多忙なのに薄給。お客様からのクレームは日常茶飯事。店長は山本猛という名前ばかり勇ましい『非』敏腕。人を苛立たせる天才だ。ああ、店長がバカすぎる!毎日『マジで辞めてやる』と思いながら、しかし仕事を、本を、小説を愛する京子は・・・」 出版社からの報奨金に踊らされる嫌な季節、“カリスマ書店員”の立ち振る舞い、大物作家の来店時、関係者からなる大名行列など…出版社、作家、上司のワガママ、書店員の苦労がよくわかる。どうやって取材したの?というリアルさ。『昔より本が売れなくなったとしても、本はおもしろくなり続けていると思うんです』 お正月休みにゆっくりお読みください。

2022年book ランキング 
 1 位 戦争は女の顔をしていない
 2 位 暁の宇品/陸軍船舶司令官たちのヒロシマ
 3 位 夜が明ける
 4 位 同志少女よ、敵を撃て
 5 位 黛家の兄弟
 6 位 ミカエルの鼓動
 7 位 爆弾
 8 位 高瀬庄左衛門御留書
 9 位 脱北航路
10 位 臨床の砦
11 位 ミス・サンシャイン
12 位 勿忘草の咲く町で
13 位 十三階の仇(ユダ)
14 位 渚の螢火
15 位 新章 神様のカルテ
16 位 暴虎の牙
17 位 母の待つ里
18 位 黒牢城
19 位 旅屋おかえり
  〃 丘の上の賢人/旅屋おかえり
21 位 誰かがこの町で
22 位 えにしや春秋
23 位 ムーンライト・イン
24 位 フェイクフクション
25 位 ボーダーズ
26 位 不審者
27 位 春のこわいもの
28 位 捜査線上の夕映え
29 位 小隊
30 位 相剋
31 位 きたきた捕物帖
32 位 あやかし草紙
33 位 さよならも言えないうちに
34 位 任侠シネマ
35 位 隠居すごろく
36 位   冷たい檻
37 位 オオルリ流星群
38 位 砂に埋もれる犬
39 位 サン&ムーン
40 位 騒がしい楽園
41 位 山狩
42 位 ムゲンのi(上・下)
43 位 ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人
44 位 レインメーカー
45 位 呪護
46 位 尾根を渡る風 駐在刑事
47 位 殺した夫が帰ってきました
48 位 ライト マイ ファイア
49 位 硝子の塔の殺人
50 位 滅びの前のシャングリラ
51 位 星落ちて、なお
52 位 風を結う
53 位 店長がバカすぎて
ランク外

                         ※はノンフィクションです。