book(2022)

(推薦ランキングを下の方に掲載しています:クリックしてください 
教場X
(長岡弘樹)

図書館90(664)
90
副題が『刑事指導官・風間公親』となっているように今回は風間が新人刑事を指導しながら実際の事件を解決していく。教場シリーズでは第5作だが、時系列としては、2作目になるらしい。先に犯人が判明している倒叙形式で あり、新人刑事が何を手掛かりにして 真相に辿り着くかが見所となっている「・硝薬の裁き ・妄信の果て ・橋上の残影 ・孤独の胎衣 ・闇中の白霧 ・仏罰の報い」 どの話も犯人に同情したくなるような話、それでも冷静に風間は犯人を追い詰めていく。『赤ちゃんの顔は左右対称なのに、作り笑いやごまかしを重ねるうち、どんどん歪んでいく』 という台詞が出てるが真実?気軽に読めていろいろと勉強になる。
風間教場
(長岡弘樹)

図書館89(663)
89
シリーズ第四弾(第三弾は読んでいない)。このシリーズまだ続くようだが、終わり方が何となく“今回で終わり?”と思わせるようなラストだった。『不適合者は排除する。 それが警察学校という所だ』というお話が今回は逆、「校長の命により、退校者を出すな、できなければ風間教官が馘となる。あの手この手を使い退校者を出さないようにする風間教官、更に助教の教育、更にいつもは地域警察だけ担当していた教科が2つ増える・・・。」 今までより、少し学園めいた気がするが風間のキレは相変わらずすごい。異質の警察もの面白い!以前ドラマ化されたが来年4月からフジ系列で再びドラマ化される、主演は木村拓哉。乞うご期待!
本と鍵の季節
(米澤穂信)

図書館88(662)
88
高校図書委員の次郎と詩門。放課後の図書室から湧き出る謎の事件ミステリ六編。「利用者のあまりいない放課後の図書室で、図書委員の雑務をこなしながら、たわいもない話をしている堀川次郎と松倉詩門。そんな二人のもとに、彼らを頼って相談が持ち込まれ、さまざまな謎解きに巻き込まれていく…」 初めはちょいと乗らないが後半になると、次を読みたくなる、最終話は少し切ない。山本周五郎賞受賞の『満願』直木賞受賞の『黒牢城』と全く違い気軽に読める。新刊が出たのでその前にこちらの前作を読んだが私的にはちょいと物足りなかった。でも新刊も一応読む予定。
朽ちゆく庭
(伊岡瞬)

図書館87(661)
87
壊れゆく家庭を描く“危険”なサスペンス長編。“悪寒”“不審者”に続く家庭崩壊三部作の集大成。「会社でトラブルを抱える父。上司と不倫関係にある母。不登校を続ける中学生の息子は、近所の『訳アリ』少女と言葉を交わすようになる。やがて一家の運命を変える事件が・・・。」 絶対に言えない“秘密”を抱える家族の行く末とは?ゾワミス、ページをめくる手が止まらない。が、クズな人間ばかり登場する。息子・真佐也の両親も同級生にも腹が立つ、ただ弁護士と警視庁刑事の登場だけが救われた。親たる者自分のことばかりではなく、子供を突き放してはいけない“貴方が大切”というメッセージを発信し続けることが大事だ! 『人生とは蒔いた種を刈ること』って妙に納得!。
月の満ち欠け
(佐藤正午)

図書館86(660)
86
直木賞受賞作 「この娘が、今はなき我が子?今は亡き妻?今はなき恋人?そうでないなら果たしてこの子は何ものなのか? 自分が命を落とすようなことがあったら、もう一度生まれ変わる。月のように。一度欠けた月がもう一度満ちるように・・・。そしてあなたの前に現れる」 4つの時代でそれぞれ取り巻きの家族や友人や同僚がいて登場人物が多く、時系列に話が進まないどころかいくつもの回想シーンがバラバラに語られるので頭がこんがらがる(私だけかと思ったら結構読んだ人の感想にも多かった)。今映画が公開されているがどうまとめたのか気になる、逆に2時間程度にまとめてわかりやすくなっているかも・・・。愛する人を想う気持ちが生まれ変わっても続くというラブストーリー!
「大炊介始末」他
(山本周五郎)


85
『山本周五郎全集第26巻』より、“大炊介始末”“釣忍”“ほたる放生”“かあちゃん”の短編四話。「大炊介始末:自分の出生の秘密を知った大炊介が、狂態を装って藩の衆望を故意に裏切らねばならなかった悲劇。釣忍 :軒下には釣忍を下げて毎日水をやり、定次郎とおはんは幸せな暮らしをしていたが、ある日異母兄佐太郎が訪ねてきて、定次郎が日本橋呉服商の正式な跡取り息子だと告げる…。ほたる放生:お秋は、村次という悪い男にだまされて遊女に身を落とし、みつぐ毎日。年もいって、自分に惚れた男もふり、それでも村次を信じていたが、お店に新しい娘が入ったことで情況は一変してしまう。かあちゃん:かあちゃんを中心に兄弟5人が人助けをする。」 悲劇とは?、愛しい人の献身に応えるため、哀しい生き方、不器用なバカ正直な生き方。周五郎の世界にどっぷり。
ぼくの死体をよろしくたのむ(川上弘美)
図書館85(659)84
表題作を含め18篇のお話。“恋愛小説?ファンタジー?SF?ジャンル分け不能、ちょっと奇妙で愛しい物語の玉手箱”とあったが、妙にホッコリさせられる。この著者は芥川賞作家だけど『センンセイの鞄』以来好きな作家です。「うしろ姿が美しい男に恋をし、銀色のダンベルをもらう。掌大の小さな人を救うため、銀座で猫と死闘。きれいな魂の匂いをかぎ、夜には天罰を科す儀式に勤しむ。精神年齢の外見で暮らし、一晩中ワルツを踊っては、味の安定しないお茶を飲む。きっちり半分まで食べ進めて交換する駅弁、日曜日のお昼のそうめん。恋でも恋じゃなくても、大切な誰かを思う熱情がそっと心に染み渡る」など、不思議なお話がいっぱい。変わった人達をぎゅっと集めたような短編集!
十三階の母
(吉川英梨)
図書館84(658)83
母、父になった律子と古池がアメリカで隠遁生活しているところから始まる、相変わらずの展開 「夫婦となった律子と上司の古池慎一は首相の娘・天方美月に狙われてアメリカに逃亡し、束の間の平和を味わっていた。 だが、十三階のトップのもとに時限爆弾が届き、事態は一変する。 十三階を潰そうとするテロリストは、黒幕は誰なのか―」 いわゆる国家の犬としてテロ対策に当たっているのだが、まさにドロドロの世界。何故このシリーズを読むのか?人間としての誇りや、時には人生も棄ててまで国家に尽くす?理解できない。今回は母となった律子の心の動きが今までと少し違う。次回作の“十三階の仇(ユダ)”へと続くのだが、このシリーズ読みたい人は順番に読んだ方がいい。
方舟
(夕木晴央)

図書館83(657)82
イャ~、怖かった!とんでもないどんでん返し、犯人が分かってからが油断禁物。「友人達と従兄と一緒に山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った三人家族とともに地下建築の中で夜を越すことになった。翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれ地盤に異変が起き水が流入し始めた。いずれ地下建築は水没する。そんな時に殺人が起こる。誰か一人を犠牲にすれば脱出できる。生贄には、その犯人がなるべきだ。犯人以外の全員が、そう思った。タイムリミットは1週間・・・」 極限状態におかれた時、人は自分が助かるためなら他人を犠牲にしてまで助かりたいと思うのか?『愛する人を残して死ぬ人と、誰にも愛されないで死ぬ人と、どっちが不幸かは他人が決めていいことではない』。
あずかりやさん5
(大山淳子)
図書館82(656)81
ほっこり切ない人気シリーズ第5弾。四つのあずけ物「“金魚”あずかりやさんに忍び込んだ男、店主の誰に対しても変わらぬ落ち着いた誠実な対応で、男の心境に変化が…。“太郎パン”忘れられそうになっていた一日経ったパンは…。“ルイの涙”ルイ(わんこ)のママを思う一途な思い。“シンデレラ”店主を案じる祖父(霊)が語り手で、ある女性が預けたガラスの靴の物語」 相変わらずの語り手が人生を見つめている。ただ、今回は切なかったり辛かったり寂しくなったりしたが、底にはやはり救いがある。このシリーズ、公募したあずけたいものを物語の中で使うということもあってこれからも期待できそう。
星屑
(村山由佳)

図書館81(655)80
“スター”がきらめいた時代、昭和54年を舞台に、星になるべく、迷い、足掻き葛藤する二人の少女を描くド・エンタメのスター誕生物語!「大手芸能プロ桐絵は、博多のライブハウスで歌う16歳の少女・ミチルに惚れ込み、上京させる。鳳プロでは、専務の14歳の娘・真由を大型新人としてデビューさせることが決まっており、ミチルに芽はないはずだった。しかし彼女のまっすぐな情熱と声は周囲を動かしてゆく。反りが合わずに喧嘩ばかりの二人。妨害、挫折、出生の秘密、スキャンダル…」 イャ~、まさにエンタメ面白かった!あの頃を連想させるスターも多く登場し懐かしい。この著者の『風よ、あらしよ』を以前紹介したが、今回は毛色が違う。何故か心が揺さぶられる、一気読み!
あずかりやさん4
(大山淳子)
図書館80(654)79
何故かこののシリーズには心惹かれる。「『半年後に引き取りにこなかったらポストに投函して』と店主に託された手紙の行方は? 突然店にかかってきた電話の相手は、意外な女性で…。心次第で味が変わる『まぼろしのチャーハン』。高倉健、緒形拳、石原裕次郎の三人が預けた『ある物』とは? 日本屈指の盆栽の名人が遺した名木を、不肖の孫が受け継いだことから巻き起こる大騒動…」。最初の手紙はラブレターだった、これは前作3からの後日談になっている。また、ついに声まで預かる黒電話の話もなかなか・・・。ホッコリとした幸せな気分になるお話ばかり。
乱鴉(らんあ)の空
(あさのあつこ)

図書館79(653)78
シーズ11作目、最新刊。「小暮新次郎の役宅にいきなり取り方が探索に押しかけ、新次郎が失踪したことが判明。一方、岡っ引きの伊佐治も大番屋に連れ出される。伊佐治は遠野清之介の働きにより大番屋から釈放される。親分と清之助による探索も新次郎が居ないため真相が全く見えず探索も行き詰まる・・・」 今回、終盤まで信次郎不在のまま話が進む珍しい展開、不在なのに今までと変わらない信次郎の存在感が凄い。このシリーズの雰囲気が好き、次巻が出るまでまた少し時間がかかるだろうけれど、楽しみ!
あずかりやさん3
(大山淳子)

図書館78(652)77
どんなものでも1日100円で預かるという商いをするあずかりやさんシリーズ3“彼女の青い鳥”。「13年前に封筒を預けた老女の真実、鳴かず飛ばずの中年作家はなぜか渾身の一作を預けようとし、半年分の料金を払って手紙を預けた少女と店主が交わした約束とは…」 人がいろんな思いを込めて『あずかりやさん』に預けに来る。淡々と何でもないことを描いてるのにこのシリーズを読むと心がすーっと澄む感じがする。盲目の店主と語り手が物や動物だったりするところにも面白さがある、今回蚤が語り手になっている章もある。13年前に封筒を預けた老女の話“スーパーボール”が良かった。
子宝船
(宮部みゆき)

図書館77(651)76
きたきた捕物帖(二) 、小物を入れる文庫を売りつつ岡っ引き修業に励む北一が、風呂屋の釜焚きの相棒・喜多次の力を借りながら、不可解な事件を解決していく物語「一話“子宝”赤子を亡くした家の宝船の絵から弁財天が消えていた。大騒動が起きるなか、北一が、絵を描いたという男の家へ行ってみると…。二話“おでこの中身”弁当屋の一家三人が殺された。悲惨な現場を見ていられず、外に出た北一は、見物人のなかに怪しげな女がいるのに気づく。三話“人魚の毒”北一が、検視の与力・栗山のもとで弁当屋の事件の真相を探っていると、木更津湊でお上の御用を務めているという男が訪ねてくる・・・。」このシリーズは特段のヒーローがいるわけではなく、みんなで事件を解決という感じ。
レッドゾーン
(夏川 草介)

図書館76(650)75
第三波を題材とした『臨床の砦』、今回は長い戦いの始まりとなったコロナ第一波を迎え苦悩する医師たちの話。ニュース等でしか知らない医療現場の過酷さ・・・。著者が「『レッドゾーン』は現場の悲鳴を伝える作品ではない。それが皆無だとは言わないが、悲鳴や非難や、他者を攻撃する声が、人間に真の勇気を与えてくれることはない。これは私なりのささやかな哲学なのである」 と語っているが、医師も病院という組織も人が人を支えている。マスクや防護服、消毒薬がなくなっていく恐怖、医療従事者や感染してしまった人達の苦悩を考えさせられる。治療薬もワクチンもない中で闘ってくれた方達に感謝!
向田理髪店
(奥田 英朗)
図書館75(649)74
高橋克実主演で映画化された。「北海道の僻地の集落で、理髪店を営む康彦。都会に就職に出たはずの息子が戻ってきたり、R指定の映画のロケ地に選ばれたり、狭い人間関係で築かれる日常にはいろいろな事件が起こる。放っておかれる自由気ままな都会の生活もいいけれど、世間話を通じて喜びや悲しみを町人全員で共有できる田舎の閉鎖的な人間関係も、悪くない」 と思わせてくれる、ほんわかした作品。映画は大牟田や荒尾などでロケしたとのこと。
掌に眠る舞台
(小川洋子)

図書館74(648)73
やはり芥川賞作家、『博士の愛した数式』は面白かったけど、これは今一理解しきれなかった。さまざまな“舞台”にまつわる、美しく恐ろしい8編の短編。「金属加工工場の片隅、工具箱の上でペンチやスパナたちが演じるバレー“ラ・シルフィード”。交通事故の保険金で帝国劇場の“レ・ミゼラブル”の全公演に通い始めた私が出会った、劇場に暮らす『失敗係』の彼女。お金持ちの老人が自分のためだけに屋敷の奥に建てた小さな劇場で、装飾用の役者として生活することになった私・・・」 など幻想的で 耽美の匂いを放つお話。『演じること、観ること、観られること。ステージの彼方と此方で生まれる特別な関係性を描き出す』とあったが、う~ん!
愚者の階梯
(松井今朝子)

図書館73(647)72
昭和10年、あの戦争へ日本が最後の舵を切った時代を背景に描く“劇場×時代ミステリー”「昭和10年の東京。満州国皇帝溥儀が来日し、亀鶴興行は奉迎式典で歌舞伎の名作“勧進帳”を上演。無事成功するが、台詞が不敬にあたると国粋主義者が糾弾。脅迫状が殺到した直後、亀鶴興行関係者が舞台装置に首を吊った姿で発見・・・」 映画は無声からトーキーへ関東大震災があり、特高がバッコし住みにくい時代だった。90年近くも前の時代のお話でも、官憲の横暴、言論の統制など、現代の空気と重なる部分が多く見られ読みながら恐ろしくなった。『戦争というのは常にあっけなく始まるんだよ。始まったら最後誰も止められない。始める連中は、あとのことなど何も考えちゃおらんのさ』。時代が逆行?
死神と天使の円舞曲(知念実希人)
図書館72(646)71
B級っぽいタイトルだが、結構面白い、シリーズ物と知らずに第3弾からの初読みとなった。死神(天使)が猫と犬の姿で人間の世界に、力を合わせて、地縛霊化しそうな魂を救うという話。「黒猫のクロは、今まさに自殺しようとする料理人に出会う。婚約者に拒絶され、さらにその彼女を喪い、絶望の淵に追い詰められたのだ。一方、ゴールデンレトリバーのレオもまた、この世に“未練”を残している魂を救おうと動き出した。“人魂”の噂が飛び交い、不審火事件が続く街で、何が起きているのか・・・」 人間の世界と死神の世界、初め何の話かなと思いながら読んだが、段々はまってしまう。『人間は醜く悪意に満ちている。この地上を我が物顔で蹂躙する。寄生虫のような存在だ。その一方で優しく温かい生物でもある』。
百花
(川村元気)
図書館71(645)
70
映画版が2022年9月9日に公開されたが、これはその原作です。「たった2人で生きてきた母と息子。68歳になる母・百合子はアルツハイマー型認知症と診断され、どんどん息子である泉の記憶を失っていくが、2人の間にはどうしても忘れられない“事件”があった。息子の記憶が薄れながらも息子に執着し必死で許しを請う母と、再び母が遠くへ行ってしまう恐怖と闘う息子の、切ない愛の記憶の物語」 人の優しさが身に沁みる。ある施設長が言う『見舞いに来る家族も帰りたくなるような場所に、認知症の方が住みたいと思うはずがありませんよね』って。著者はアルツハイマー型認知症になった祖母や、様々な認知症患者やその家族、さらに医療・介護関係者などに話を聞いて書いたという、映画も自ら監督をしている。
タラント
(角田光代)

図書館70(644)
69
学生時代の仲間とのことや、ボランティア活動、戦争、パラスポーツ、途上国の貧困、様々なテーマが盛り込まれている。「大学進学を機に香川県から上京したみのり。学生時代はボランティアサークルに入り、途上国を訪れ現地を視察するなどの活動をしていた。その頃、香川に住む祖父の清美がみのりの元を訪れることがあった。それから20年。みのりは、学生時代からの活動を続けているわけでも、やりたい仕事をしているわけでもない。そんな折、清美宛に女性からの手紙が届いているのを知るー」。途上国に対する支援、大震災、パラと内容の重さとベージ数の多さに読み終えるまで時間がかかったが、支援に対する甘い考えや、パラリンピックに対する見方は随分と変わった。“タラント”意味は?
アナベル・リイ(小池真理子)
図書館69(643)68
“怯え続けることが私の人生だった。 私は今も、彼女の亡霊から逃れることができないのだ”とそんな書き出しで始まる、怪しいゴーストストーリー。「1978年、悦子はアルバイト先のバーで、舞台女優の夢を持つ若い女・千佳代と出会った。特別な友人となった悦子に、彼女は強く心を寄せてくる。しかし、千佳代は恋人のライター・飯沼と入籍して間もなく、予兆もなく病に倒れ、他界してしまった。千佳代亡きあと、悦子やアルバイト先のママ多恵子など飯沼に関係する者に彼女の亡霊が現れるようになる・・・」 時々背筋が寒くなる、ただの女の執念というだけではない怖さがある。この著者はやはり一筋縄ではいかない。


夕暮れに夜明けの歌を
(奈倉有里)

図書館68(642)
67
著者の専門は、『ロシア詩、現代ロシア文学』で翻訳書多数。『同志少女よ、敵を撃て』の著者逢坂冬馬は実の弟。本著はロシア文学者の留学記という感じだが、凄く爽やかで感動的。「2008年、日本人で初めてロシア国立ゴーリキー文学大学を卒業。教科書を使わない先生の授業や旧ソ連圏からの留学生との交流。それにクリミアやウクライナなど、ロシアと近隣諸国との関係。テロ・貧富・宗教により分断が進み、状況が激変していくロシアのリアル」を描いている。タイトルはアレクサンドル・ブロークと言う詩人の言葉からきている。
(以下本文より)
・ベラルーシの人々は権力によってまたもやあの手この手で昏睡状態にさせられようとしている。
・ソ連崩壊後に復権したロシア正教は事実上の国教となり、ソ連時代の闇が暴かれていくのと同時に、まるで国家の黒幕が“無宗教”とう悪の権化であるかのような風潮が強まっていく。
・宗教が権力と強く結びつけばつくほど、信仰そのものについて語るのは難しくなる。
・時代ごとに変わりゆく思想の流れに惑わされず、私たちが自ら本を読み考え続けること。
・人類の歴史の中で、いったい『国を愛せ』という呼びかけの末に、どれほどの命が犠牲になっただろう。そして今、ロシア人が、ウクライナ人が、同じ犠牲のもとに立たされようとしている。
・大国主義、領土問題、軍事力による解決、独裁政治、排他的民族主義など数々の問題が40年も前の小説「クリミア島」の中にも書かれている。
・文学の存在意義さえわからない政治家や批評家もどきが世界中で文学を軽視し始める時代というものがある。歴史の中で繰り返されてきた現象なのに、さも新しいことを言うかのように文学不要論を披露する彼らは、本を丁寧に読まないがゆえに知らないのだーーどれほど陳腐な主張をしているのかも。
これを読むと、今のロシアによるウクライナへの侵攻も長い歴史の中で起きていること、それに全く解決していないこともよく分かる。
朱色の化身
(塩田武士)

図書館67(641)
66
性差別の中で息苦しかった時代に生きた三代の女性たちを追う話「ライターの大路亨は、元新聞記者の父から辻珠緒という女性に会えないかと依頼を受ける。京大を出て大手銀行に勤めゲームプランナーとして成功していた珠緒だったが、突如姿を消していた。珠緒の元夫や大学の学友、銀行時代の同僚等を通じて取材を重ねる亨は、彼女の人生に昭和31年に起きた芦原大火が大きな影響を及ぼしていることに気づく・・」 。実際に起きた出来事を題材にしていて、登場人物が多く頭が混乱するが読み進むうちにはまっていく。才能があっても実力があっても、自分の生い立ちでどうにもならないと言うやり場のない悲しみは“砂の器”を思い出す。『五十路が視界にはいってくると、人生を逆算で捉える時間が多くなる』。
標的
(真山仁)

図書館66(640)
65
『売国』につづく冨永検事シリーズの二作目。「上司の羽瀬から厚生労働大臣の越村みやびの受託収賄の捜査を命じられた東京地検特捜部冨永真一と藤山あゆみ。越村みやびは、清廉潔白が売りの次期総裁選の有力候補で、日本初の女性総理になると言われる人気絶大な女性議員だ。しかし、投資会社代表の楽田恭平から得た賄賂を社会福祉改革の法案成立のために、反対する議員に金をばら撒いた疑惑があるという・・・。裏には永田町の策謀が潜んでいた」 権力や圧力にも屈せずに突き進む富永の活躍が羨ましい。『政治家連中の精神構造は情けない程幼稚だ。何より守りたいのは己のメンツだから』。“巨悪は眠らせない特捜検事の標的”としてTVドラマ化もされている。
希望の糸
(東野圭吾)

図書館65(639)
64
加賀恭一郎シリーズと言っても今回は脇役、従兄弟の若き刑事が主人公の“家族”の物語。「小さな喫茶店を営む花塚弥生が殺される。警視庁の松宮が事件の捜査を行う。捜査線上に浮上した常連客だったひとりの男性、災害で二人の子供を失った彼は、深い悩みを抱えていた。容疑者たちの複雑な運命、松宮がその秘密を明らかにしていく・・・。また、松宮自らも死んだはずの父が生きていることが発覚。」 事件が中心ではなく登場する人物それぞれの心情とかが中心となったお話。最初無関係に思える出来事が最後、しっかりと繋がっていくところはさすが。このにシリーズは人の心に触れる話が多くて好き、タイトルの“希望の糸”は納得!。
聖女の救済
(東野圭吾)

図書館64(638)
63
ガリレオシリーズ第5作目で、2作目の長編となる作品。「資産家の男が自宅で毒殺された。毒物混入方法は不明、男から一方的に離婚を切り出されていた妻には鉄壁のアリバイがあった。難航する捜査のさなか、草薙刑事が美貌の妻に魅かれていることを察した内海刑事は、独断でガリレオこと湯川学に協力を依頼するが…」 草薙刑事が恋に落ちた。内海刑事もまだ初々しいが女のカンを働かせていい仕事をする。ちょっと前のガリレオシリーズ、現在10作まで出ているが未読は2作目の『予知夢』だけになった。福山雅治人気もあり映画もドラマもヒットしている、肩がこらず、スッと読めるので気分転換にはもってこい。
石礫
(今野敏)

図書館63(637)
62
前作『機捜235』(20019年紹介)は短編集だったが今回は長編。タイトルの“石礫”は石ころみたいな一介の捜査員たちの意味で、彼らの普段の活躍を爽やかに描いている。「警察の中でも初動捜査だけを行う、機捜。“流し”の途中で立ち寄ったコンビニで、元見当たり捜査官だった縞長が、長年の指名手配犯を見つける。それは過去にテロ事件を起こした犯人だった。しかし、犯人はタクシーを人質に建設現場に立てこもってしまう。」 通常はここでお役目ごめんだが、今回、SITはもちろん、捜査一課、自ら隊も総出で犯人を追うことになる。著者が『読後感が悪い小説って嫌なんです』 と言っています、読んだ後スッキリとする警察物。前作より面白かった、前作『機捜235』はドラマにもなっている。
墜落
(真山仁)

図書館62(636)
61
沖縄本土復帰50年、何も変わっていない。貧困、基地、軍用地主…“沖縄の闇”に踏み込み、沖縄の姿を描いた富永検事シリーズ第三弾 「DVに耐えかねた妻が夫を刺殺。時を同じくしてスクランブル発進した航空自衛隊の戦闘機が墜落する。民間人が巻き込まれ死亡したことから、抗議デモが起こる。しかも自衛隊きってのパイロットによる事故は操縦ミスとは考えられない、しかし、原因究明には米国の軍事機密の厚い壁が・・」 米国から購入させられた戦闘機の内部にもブラックボックスがあり、製造元しか手を出せないとか、事故が起きも日本では調査ができず最後は政治判断とは酷い。日本が未だ米国の占領下にあることを痛感!どうしようもない現実と二つの事件の繋がりが今一だったため消化不良の感が残った。
ガリレオの苦悩
(東野圭吾)

図書館61(635)
60
シリーズ第四弾、読み残していた巻を読んだ。『落下る(おちる)』『操縦る(あやつる)』『密室る(とじる)』『指標す(しめす)』『攪乱す(みだす)』の短編、全5編。特に『攪乱す』が面白かった「“悪魔の手"と名のる人物から、警視庁に送りつけられた怪文書。そこには、連続殺人の犯行予告と、帝都大学准教授・湯川学を名指して挑発する文面が記されていた。湯川を標的とする犯人の狙いは何か?常識を超えた恐るべき殺人方法とは?邪悪な犯罪者と天才物理学者の対決」 このシリーズ初めて女性刑事・内海薫が登場、面白くなった。今回トリック要素よりも人間関係とか心理的な描写が多かったような気がする。軽く読めて面白い!
十三階の血
(吉川英梨)

図書館60(634)
59
“十三階”シリーズ第3弾!自分の命も人間性を捨ててまで、権力者を守ろうとする“十三階”の住人、今回は成田闘争から辺野古闘争までを背景に徹底的にテロと戦う物語。考え方に違和感を覚えながらもエンタメと思えばそれなりに面白い。「黒江律子が去った十三階だったが、古池は辺野古基地移設に反対する過激派団『第七セクト』の内偵に奮闘していた。 上司に頼まれて官房長外交パーティーに行くと、そこにはドレスにスニーカーの女、律子の姿が・・・」 相変わらずのバイオレンスとエロスなお話、よくこんなのが描けるなって感じ。ちょいと痛ましすぎる。現実離れが加速しているし、過激描写も激しくて次作を読むかどうか悩むが後1冊で終わる。頑張ってみよう!
透明な螺旋
(東野圭吾)

図書館59(633)
58
シリーズ第10弾「50年前のとある男女のエピソードから始まり。そして現代、房総沖で男性の他殺死体が見つかる。行方不明届が出された人物と一致したため、警察は届けを出した恋人島内園香に連絡を取るが彼女は自ら行方をくらませた後だった。捜査を進めると園香と亡き母が親しくしていた絵本作家・松永奈江の書いた絵本の参考文献には、湯川学の名前があった。」 このシリーズを評して“シリーズには共通する特徴がある。動機の悲しさだ。どの話も『誰かのために』というやるせない思いが底にある”と。まさにその通り、今回は科学的アプローチから事件を解決するという〈理〉のではなく、哀しい親と子のの物語〈情〉、珍しい展開だった。湯川教授の違った一面と出生が明かされる。
あずかりやさん2
(大山淳子)

図書館58(632)
57
サブタイトルに『霧島くんの青春』と付いているとおり、今回、謎だった店主・桐島くんの少年時代や、店においてある文机、本、オルゴールなどの過去も明らかになる。「あくりゅうのブン(不器用な生き方をしてきた人の話)、青い鉛筆(友人の鉛筆を盗んでしまった話)、夢見心地(オルゴールがあずかりやに来るまでの話)、海を見に行く(桐島くんの過去)」のエピソード4編からなる。前作同様、それぞれの物語が独立しているようで、相互(前作とも)に関わりがあるのがいい。前作をまた読み返したくなる、このシリーズ1巻から順に読んだ方がいい。『心はひとつじゃない。星の数ほどあって、全部嘘じゃない』。
あずかりやさん
(大山淳子)
図書館57(631)
56
一日百円で何でもあずかってくれる不思議な店を舞台に、切なくも心あたたまる物語、シリーズ第1弾。「目の見えない店主・桐島透が1日100円、期日が過ぎたら店主のものになるという約束で『あずかりやさん』を営んでいる。語り部は店内の物、最初は入口の暖簾。次は自転車屋の自転車、その次は店内の文机、それに猫など・・。預ける時には名前と期間しか聞かれない」 エピソード5編からなる、読み終わった後ほっこりとした温かさが心に灯るような好作品。少しづつお話がつながっている部分があり次を期待したくなる。今、シリーズ第5弾まで出ているようで順番に挑戦しよう。
十三階の神(メシア)
吉川英梨

図書館56(630)
55
ヒロインに感情移入できない部分はあるが、このシリーズ気になって読んだ。「“十三階”の女スパイ・黒江律子の新たな任務が始まる。かつて地下鉄サリン事件や、VXガスによる殺人など、日本中を震撼させたカルト教団を相手に奮闘する主人公に対して、極秘の指令が出される。そんなとき、母親がカルト教団・カイラスの分派団体に入信してしまい、律子は単独捜査に乗り出す・・・」 一気読みしないと何を信じていいか分からないくらいの展開で話は進む。微かに漂うB級感が話を面白くさせているのかも・・・。しかし、女性が描く女性ってグロいって感じがする。オウム真理教をテーマに描いているが今の『統一教会』も怖い!
十三階の女
(吉川英梨)

図書館55(629)
54
先日シリーズ最新の第5作を読んだので、1作目から読んでみたくて手に取った。ヒロインの黒江律子が採用から6年、北陸新幹線爆破時間から始まる。「律子は北陸新幹線爆破テロを起こした“名もなき戦士団”を殲滅するため、女を使ってまで捜査にまい進する。接触したテロリストを愛してしまったかもしれない・・・」 ISISと日本赤軍の末裔まで出てくる、愛も性も投げ売ってしまう律子の凄まじさ。『不快感もあり、やるせなさもあり、おまけに複雑な心境の読後感』と言う感想があった。最後の最後、生理の尊厳を踏みにじられる事の深く耐えがたい人格への攻撃力、ここまで・・・。女性でないとないと書けないかも。現実にはあり得ないだろうなと思いながら引き込まれた。
誰かがこの町で(佐野広実)
図書館54(628)
53
誘拐事件と一家失踪事件、2つの異なる視点から物語は進む、“同調圧力に従い、自ら考えるのを止めて、事なかれ主義、長いものに巻かれるのが一番楽”という生き方をしているといつかこんなになるという怖い話。「人もうらやむ瀟洒な住宅街。その裏側は、忖度と同調圧力が渦巻いていた。やがて誰も理由を知らない村八分が行われ、誰も指示していない犯罪が起きる。外界から隔絶された町で、19年前に何が起きていたのか・・・」 学校でのいじめも、職場での隠蔽など、いつもどこか日本で起きている問題。強いものは巻かれろ?今、世間を騒がせている怪しげな宗教団体(統一教会)も、このような人間の弱さにつけ込んでいるんだろうな思わせる。
ミカエルの鼓動(柚木裕子)
図書館53(627)
52
天才心臓外科医の正義と葛藤を描く、この著者は何を書かせても面白い!「手術支援ロボット“ミカエル”を推進する心臓外科医・西條とドイツ帰りの天才医師・真木。難病の少年をめぐり二人は対立。“ミカエル”を用いた最先端医療か、従来の術式による開胸手術か。一方、大学病院の闇を暴こうとする記者は、“ミカエル”は人を救う天使じゃない。偽物だと言う・・・」 医者の良心、医療機器メーカーと大病院の癒着など、長編ながら一気読み。『人は自分だけでは生きられない。誰かに支えられて生きている。ならば、自分の命は自分だけのものではない。自分が望まずとも生きることが誰かを救うことになるのではないか』 プロローグとエピローグは雪の朝日岳登山、しっかりと繋がっている。
春のこわいもの(川上未映子)
図書館52(626)
51
6つの短編集。人のうす暗い部分描いたら天下一品と言われる著者。「青かける青(短編と言うより掌篇、入院している女性の孤独)、あなたの鼻がもう少し高ければ(ギャラ飲み志願の女性)、花瓶(寝たきりのベッドで人生を振り返る老女)、淋しくなったら電話をかけて(女性の内面が描かれている)ブルー・インク(深夜の学校へ忍び込む高校生)娘について( 親友をひそかに裏切りつづけた作家)」 日本語なのに意味不明な単語(イエベ・ブルベ。骨格ウェーブなど)もたくさん出てきて戸惑った。コロナ禍初期の話でジワ~っと怖さが沁みてくる。どの話も“希望が見いだせない物語”だけど、しっかりと胸の中に落ちてくる。収束の見えないコロナも怖いが本当に怖いのは人間!純文学とはこう言うもの・・・。
十三階の仇(ユダ)
(吉川英梨)

図書館51(625)
50
警察庁には“十三階”と呼ばれる、非合法活動も厭わない直轄の公安秘密組織がある。「その組織は天方美月議員によって解体させられた。工作員だった黒江律子と古池慎一夫婦は息子を連れてインドに逃亡するが、古池は過去の殺人容疑で逮捕。そしてコロンビア大使館に左遷させられたかつての上官が過激派に誘拐されてしまう。そんな中、律子は十三階の窮地を救うべくひとりで・・・」 読んでいて著者が女性とは思わなかった。すごい!現実はここまでハードとは思わないが裏の世界では何が起きていても不思議ではない。『中国側と真正面から衝突するのは日本にとって得策ではない。表面上は知らぬ振りをしてスパイ同士の“陰の戦争”が始まるのみだ』 シリーズ第5弾って知らなかった。
えにしや春秋(あさのあつこ)
図書館50(624)
49
人と人との縁をつないだり、つながれていた縁を切ることを商売とする“えにし屋“。「油屋・利根屋の娘お玉に、本所髄一の大店の主人との縁談が持ち上がった。しかし見合いの前日、お玉は置手紙を残して姿を消した。利根屋の体面と命運を賭して身代わりとなったのは、奉公人のおまい。当日、〈えにし屋〉を名乗る謎めいた女の元で、おまいは美しく着飾らせてもらい見合いに向かう。しかしその後もお玉の行方は一向に摑めない…」 。一話と二話の違いにビックリ、ほんわかしたお話かと思いきや二話はなかなかハードになってくる。『病は気からって言うでしょう。気持ちがくじけると身体のあちこちに不具合が生じます。反対に身体の具合が悪いと気持ちも沈んで憂いが多くなったりするでしょう』 。
不審者
(伊岡瞬)

図書館49(623)
48
“ゾワミス”『悪寒』に続く家庭崩壊三部作の2作目(3作目が最近刊行)。初めからラストまでウン何?と言う感覚がずっと続く、やはり一気読み。「会社員の夫・秀嗣、五歳の息子・洸太、義母の治子と都内に暮らす折尾里佳子は、主婦業のかたわら、フリーの校閲者として仕事をこなす日々を送っていた。ある日、秀嗣がサプライズで一人の客を家に招く。その人物は、二十年間以上行方知れずだった、秀嗣の兄・優平だという・・・。夫の一存で彼を居候させることになるが、それ以降、里佳子の周囲では不可解な出来事が多発する」。ネタバレになると困るのでこれくらいに・・・。読み終えるとあれもこれも伏線がいっぱい、面白かった。
黛家の兄弟
(砂原浩太朗)

図書館48(622)
47
前作に引き続き“高山藩”が舞台、しかし主人公も年代も違うので続き物ではないが、統一された世界観で物語が紡がれる。「神山藩で代々筆頭家老の黛家。三男の新三郎は、道場仲間の圭蔵と穏やかな青春の日々を過ごしている。しかし人生の転機を迎え、大目付を務める黒沢家に婿入りし、政務を学び始めていた。そんな中、黛家の未来を揺るがす大事件が起こる。その理不尽な顛末に、三兄弟は翻弄されていく」 二部構成になっていて、至る所に伏線が張り巡られ400ページをあっと馬に読み終える。『世をいとなむ上で、やはり法は欠くべからざるもの。が、そこで掬い取れぬものも多かろう。』 淡々と語るこういう時代物はいい。一作目も好きだけどこちらが上回った、山本周五郎賞を受章。
高瀬庄左衛門御留書(砂原浩太朗)
図書館47(621)46
著者2作目にして第165回直木賞候補作、『本の雑誌』2021年上半期ベスト10で第1位となる。藤沢周平、葉室麟らに連なる新星誕生。「神山藩で、郡方を務める高瀬庄左衛門。50歳を前にして妻を亡くし、さらに息子をも事故で失い、ただ倹しく老いてゆく身。残された嫁の志穂とともに、手慰みに絵を描きながら、寂寥と悔恨の中に生きていた。しかしゆっくりと確実に、藩の政争の嵐が庄左衛門を襲う。」 ある評に“美しい物語だ。穏やかで、静かで、そして強い物語だ”とあったがまさにその通り『心が洗われる』という読後感。『選んだ以外の生き方があった、とは思わぬことだ』 人はどう生き、どう老いていくべきかの指針とも・・。
捜査線上の夕映え(有栖川有栖
図書館46(620)
45
「大阪の場末のマンションの一室で、男が鈍器で殴り殺された。金銭の貸し借りや異性関係のトラブルで、容疑者が浮上するも…。コロナ禍を生きる火村とアリスが瀬戸内の島で見た夕景は、佳き日の終わりか、明日への希望か・・・」 “臨床犯罪学者 火村英生シリーズ”誕生から30年の記念作品。幼馴染忖度ミステリ、事件は地味だが、舞台となる島の夕陽は綺麗だったんだろうねと思わせる。最初、少し回りくどい感じがするが、後半瀬戸内の島に旅する当たりから旅情を誘う展開になる。コロナの第三波の頃の話だがうまく取り入れている。著者が自分の名前のままワトソン役をやっているが30年も経つと主人公たちも年をとらないといけないのでは・・・。
ミス・サンシャイン
(吉田修一)

図書館45(619)
44
20代の大学院生が恋をしたのは、80代の伝説の女優だった・・・。「大学院生の岡田一心は、伝説の映画女優“和楽京子”こと、鈴さんの家で荷物整理のアルバイトをするようになった。鈴さんは一心と同じ長崎出身で、かつてはハリウッドでも活躍していた銀幕のスターだった」 。著者が『長崎の原爆の話を書きたいと思った』と言っている。切ないラブストーリーの中に、長崎に生まれ生きた人の心の葛藤が胸に迫ってくる。心地よい余韻の残る素敵な話、読み終わったあと、無性に泣きたいような気持ちになる。『人ってね、失敗した人から何かを学ぶのよ、決して成功した人からではない。・・・成功した人に聞いてみればいいわ、何かを得た人の言葉と、何かを失った人の言葉だったらどっちを信じますかって』。



戦争は女の顔をしていない
(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ)


図書館44(618)
43
著者は1948年ウクライナ生まれ、2015年にノーベル文学賞を受章。この本には勝利のために国民が払った犠牲が、従軍少女達、娘や姉妹、母親たちが流した血や涙が描かれている。第二次世界大戦の独ソ戦に従軍した(100万人を超えると言われる)女性、看護婦や軍医のみならず兵士として武器を手にして戦った。しかし、戦後は世間から白い目で見られ、自らの体験をひた隠しにしなければならなかった。その彼女ら一人ひとりの体験を(1978~2004年にかけて)聞き書きした話。
・兵隊の一人が銃を撃つのを嫌がったのです。恐ろしい時代だった。彼は軍事裁判にかけられ二日後には銃殺でした。
・毎日30k進む。私たちが通った後には赤いしみが砂に残った。女性のあれです。恥ずかしいって気持ちは死ぬことより強かった。
・一つだけ分かっているのは戦争で人間はすごく怖いものに、理解できないものになる。それをどうやって理解するというの?
・「ヒトラーが悪い」 「ヒトラーが自分で決めたわけではないわ。あんたたちの息子や夫たちがやったこと・・・」。
・戦場で知り合った大尉と結婚、でも夫の母親が夫に「何だって戦場の花嫁なんかを?お前は妹が二人もいるのにもう買い手はないよ」
・飛行機とか戦車とか、誰がこんなものを思いついただろ?兵器のオモチャなんて買ったことはない、誰かが家に持ってきたけどすぐに棄てたよ。だって、人間の命って、天の恵みなんだよ。偉大な恵さ。人間でどうにかなるようなものじゃないんだから」
・スターリングラードでのこと・・・。一番恐ろしい戦だった。あんた、一つは憎しみのための心、もう一つは愛情のための心ってあり得ないんだよ。人間に心は一つしかない、自分の心をどうやって救うかって、そのことだけを考えてきた。

戦争は、たとえ祖国や家族を守るためのものであっても、参加した人の心に一生消せない傷を残すということを痛感する。そういうことから考えると、嘗ての日本軍兵士もまた、そうだっただろうと思わさせる。
解説より『アフガニスタンよりソ連が敗退し、タリバンが政権を取った後アメリカがアフガンを攻める。アフガニスタンに水路を作った中村医師の命がけの事業を顧慮することなく、日本政府は旧ソ連と米軍の前轍から何も学ぼうとしていない。アレクシエーヴィチの仕事も完全無視というのが集団的自衛権を強行採決した日本政府ということになる。』 と。
因みに、ルカシェンコ大統領が統治するベラルーシでは彼女の本は出版されていないそうだ。
脱北航路
(月村了衛)
図書館43(617)
42
「北朝鮮という国に嫌悪感を抱く軍人たちが45年前に拉致された日本人女性を連れて潜水艦で日本へ。北朝鮮の人を人とも思わぬ酷い内情、面倒ごとは握りつぶす事なかれ主義の日本の警察、政府、立場の曖昧な自衛隊・・・」 このままで良いのかという問題提起が伝わってくる。まさに横田めぐみさん、極限状況ゆえに生まれる感涙の人間ドラマ。『一昔前なら大きな社会問題となったはずの事件も、今や政府与党にとっては何の脅威でもなくなっている。政治家は不正を堂々と隠蔽し、恥じることなく虚偽答弁を繰り返す。まるで私物の日記であるかのように公文書を無造作に改竄し、法律どころか憲法まで無視して政権を維持してきた。司法さえまともに機能せず権力者による犯罪も裁かれることすらない』今の日本!
臨床の砦
(夏川草介)

図書館42(616)
41
現役の医者が第3波で見た現場があまりに衝撃的で執筆したと言っている。著者が『現実そのままではないが、嘘は書いていない』と、ベッドがなく自宅待機となったり、涙を浮かべて入院を懇願したりする患者たち、家族の面会もかなわず袋に詰められて運び出される遺体、周辺の医療機関や行政の遅れた対応、医療はすでに崩壊しているのではないか・・・。政治家やマスメディアがどんなことを言っても現場の実態は地獄だったことを思い知らされた(隔離病棟に入る前に遺書を書いた医者もいたという)。『コロナは肺を壊すだけではなく、心も壊すのでしょう。コロナと聞いただけで、誰もが心の落ち着きをなくし、軽薄な言動で人を傷つけるようになる』 “一番の敵はウィルスではなく人の心の中にある”。
爆弾
(呉 勝浩)
図書館41(615)
40
「都民1400万人を人質にとる無差別爆破テロ。爆弾の在り処の手がかりは、容疑者と思しき中年男が出す“クイズ”のみ。取調室の中で、正体不明の容疑者と警察の戦いが始まる。」 警察官vs容疑者、禅問答みたいな会話、心理戦が繰り広げられる…。容疑者の男のみならず、警察、市民、色々な角度から垣間見える無意識の悪意、取調室で交わされる言葉遊びの数々、果たして犯人は?交わされる言葉をしっかりと読み取っていかないと自分も迷路にはまりそう。『他人の本音なんて知らない方がいいんです。だって人はひとり残らず汚い部分を持っています。身勝手な支配欲、嫉妬、破壊衝動。全部当たり前に持っています』 人間の醜さを考えさせられた。今回で3回目の直木賞候補、今回は選ばれるかも・・。
ボーダーズ(堂場瞬一)
図書館40(614)
39
警視庁特殊捜査班SCU 特殊な能力を持つものが集まった部署で、とんな事件でも捜査できる権限が与えられている、という架空の部署のお話 「銀行立て籠り事件が発生。男性客が刺殺された後、犯人は逮捕されたが、被害者は40年前に機動隊員を殺して手配されていた男だった。この事件を追いかけると安保闘争に行き着き、スパイとして匿っていた男が裏ネットで情報を拡散して、脅迫していた。その裏に公安がいた」。公安が絡むと面白い!新シリーズ、今後の活躍に期待。『よりよい政治、社会を実現して欲しい、そのためにこそ批判をするのですが、それを“クレーム”だと捉える人も多い。ネットが普及してから、答えは白か黒しかないと思い込んでいる人が多数派なんです。自分と違う意見の人の話は封殺する』 。
渚の螢火
(坂上泉)

図書館39(613)
38
「舞台は50年前の沖縄、1972年5月15日を2週間後に控えたある日琉球銀行の輸送車が襲われ、現金100万ドルが奪われる強盗事件が起きる。ドルが円に切り替わる瞬間を狙いすました犯行。そして半月後には解散する琉球警察の威信もかかった事件を前に、八重山出身で、本土や沖縄にも馴染めない琉球警察本部・本土復帰特別対策室班に極秘の捜査が命じられる」 沖縄の人の苦しみ・悲劇、アメリカ、日本の思惑が絡み合った読み応えのある警察小説。“昭和史×警察小説”というところ。『この島は嘘みたいなことばかりだ。日本の言葉を使い、米国の文化や経済の恩恵を受け、しかもそのどちらでもないと言われる。何一つ自分で決められず、日本と米国に振り回され・・』 著者は東大出の兵庫県出身。
呪護
(今野敏)

図書館38(612)
37
今野敏に『鬼龍シリーズ』があるとは知らなかった。まるで“陰陽師”、警察小説と言っても異色。「私立高校で、傷害事件が発生。実験準備室のなか、男子生徒が教師を刺したという。警視庁少年事件課の富野が取り調べを行ったところ、加害少年は教師に教われていた女子生徒を助けようとしたと供述した。ところが、女子生徒の口からは全く異なる事実が語られる。捜査を進めるなかで、富野はお祓い師の鬼龍と再会。事件は思わぬ方向へ」オカルトかな?“天海僧正が江戸に配した北斗七星の結界、それを封じた明治政府の魔方陣、将門の霊力を活性化させるために元妙道が発現させた法力”何とも分かったような分からないようなお話。私には突拍子もない話だった、この著者はこんな話も書くんだ。
小隊
(砂川文次)

図書館37(611)
36
第164回芥川賞候補作。著者は元自衛官の新鋭作家。「突如ロシア軍が北海道に侵攻、自衛隊第1中隊第1小隊長安達三尉は小隊を指揮、迎え撃つ任務に就く、住民への避難誘導や塹壕での食事、会議と淡々と職務をこなす安達、そして唐突に起こる戦闘・・・」 ロシアが侵攻した理由は描かれていない。戦争が起きたとき本当の戦争を知らない自衛隊はどう対処するか? 自衛隊内部の統制や日本政府の動きも最悪。ほぼ全編に亘り戦闘描写、味方が死に、敵を殺し、逃げ回るシーンは地獄そのもの。著者は何を言いたかったのか?戦争の悲惨さなのか?理解できなかった。ウクライナでの惨状をTVや新聞で目にするが、想像を絶するような過酷な状況が続いているのだろうと思わされる本だった。


暁の宇品

陸軍船舶司令官たちのヒロシマ

(堀川恵子)

図書館36(610)
35
第48回大佛次郎賞を受賞。作品のテーマは人類初の原子爆弾はなぜ広島に投下されなくてはならなかったのか?広島に生まれ育った著者、原爆の惨禍を様々に伝えてきただけに、軍人を描くことは当初ためらいもあった。だがイデオロギーによらず、史実を忠実に発掘し、歴史と人間に誠実に向き合うことを自身に課して取材を続けたとのこと。詳細な取材に基づいた最高のノンフィクション、読み応えのある逸品に出会えた。「広島は他の都市にはない重要な陸軍の船舶司令部(通称“暁部隊”)があった。米軍は宇品に目をつけ計画していた。“船舶の神“”と呼ばれた田尻昌次司令官は上層部に船舶輸送の危機的状況を伝えるものの更迭された・・・。」第二次世界大戦を陸軍兵士の海上輸送という視点で追体験することに、教科書にも載っていない田尻と佐伯という司令官の生きざまが描かれている。恐らく 田尻の開戦前の決死の具申(原文がそのまま残っている)はもみ消された。 信念を持つ人間が上層部に追い詰められ大きな組織が間違った方向へ進んだ時、現場はどう振る舞うのか。国家がリスクを正視せず、対応を先送りするとき、そのツケは国民に回る。今の時代も全く同じ。戦争のシーンはあまりにリアルで悲しい、ガダルカナル島のくだりは腹が立って仕方がない。また、敗戦が濃くなった時期ベニヤ板で作った『特攻艇 レ』、大半の若い命が暗い海に沈んだ。しかし残っていた特攻隊員は原爆投下後のヒロシマを救うために火の海へ身を投じていく。戦争とは何だろう・・・。「ポイント・オブ・ノー・リターン」と呼ばれる関東軍による満州事変、この頃から日本はおかしくなったのか?最後に『戦前戦中と強大な陸軍に依存し、膨大な軍事予算を受けて発展した町は一転、非道な原爆投下すら“軍部の代償”として引き受けた。平和都市として生まれ変わるには、旧日本軍の最大の輸送基地・宇品の記憶は負の遺産以外何ものでもなくなった』。

丘の上の賢人/ 旅屋おかえり
(原田マハ)


図書館35(609)
34
『旅屋おかえり』未収録の札幌・小樽編と“北海道旅エッセイ”&“おかえりデビュー前夜を描いた”漫画『おかえりの島』も収録!相変わらず面白くて泣ける。礼文島出身のおかえりの今回依頼された旅行地は北海道。故郷にいくばくかの屈託を抱えた彼女は、以前から北海道での仕事は一切NG。そのマイルールを破って今回引き受けたのはなぜ?「秋田での初仕事を終えた次なる旅先は北海道──ある動画に映っている人物が、かつての恋人か確かめてほしいという依頼だった。依頼人には、初恋を巡るほろ苦い過去があって…。」 自分が一番したいことは何か?旅をしながらその人の人生にふれ、おかえり自身も自分の人生を振り返ることになる。『ふるさとっていうのは、生まれ育った場所のことだけを言うんじゃない。“おかえり”って言ってくれる人がいるところ』 コロナ禍も2年目が過ぎてもなかなか旅をするということが難しい時代になっているが、本の中での旅、記憶の中での旅、空想の中だけの旅などといくらでも方法はあるのかも・・・。著者が旅大好きと言うだけあって一緒に旅しているような感じになる。ラストはじんわりと心に沁み入る。
相剋(笹本稜平)
図書館34(608)
33
昨年なくなった著者の2020年の作品、越境シリーズ第8弾。警視庁捜査一課継続捜査班の鷺沼を中心としたタスクフォースが、政界や経済界の闇に挑む物語 「神奈川県警管内で発見された腐乱死体が碌な捜査もされず自殺として処理された。不審に思った宮野が独自捜査をすると、その直後、何者かに襲われてしまう。鷺沼たちはカりスマ投資家の男に目を付けるが、その裏には政官界の巨大な権力が控えていた。」 “警察という役所は、政治家を相手にすると、蛇に睨まれた蛙みたいなもんだからな”という台詞が出てくるが、官僚である警察上層部には時の政権に対しては大いに忖度があるのが現実でしょう、内閣府の直轄機関は警察庁だけだから・・・。この物語のようにないことを祈るばかり。
サン&ムーン(鈴峯紅也)
図書館33(607)32
サブタイトルは『警視庁特別捜査係』。エリートキャリアで警視監の母、警視庁刑事部警部補の父(二人は20数年前に離婚)と湾岸署刑事の息子の3人を軸に物語は進む。「東京湾に接する野鳥公園と東海ふ頭公園で連続放火事件が発生。同時にその付近で連続殺人事件が勃発。捜査本部が設置され、湾岸署に勤める月形涼真巡査も応援要員に狩り出された。が、警察学校の同期で、恋人・美緒の兄でもある中嶋が、被害者の一人だった。しかも涼真がコンビを組むことになったのは、なんと、突然現れた警視庁警部補・父の日向英生・・・。」 『警視庁公安』シリーズなどは人気らしいが、初読み作家です。面白いが警察ものとしては少し緩い感じがした。規格外の警察小説といった感じ。
新章神様のカルテ(夏川草介)
図書館32(606)
31
『神様のカルテ』から10年、物語も5冊目で舞台は地域医療支援病院から大学病院へ。「栗原は信濃大学医学部・消化器内科医として勤務する傍ら、大学院生としての研究も進めている。2年が過ぎ、矛盾だらけの大学病院という組織にも順応しているつもりであったが、29歳の膵癌患者の治療方法をめぐり、局内の実権を掌握している准教授と激しく衝突・・・」 前5作品は読んでいない、が『勿忘草の咲く町で』 よりまだリアルに過酷な医療界を描いている。特に大学病院の組織、役割そして権力と・・・。面白い!『医療というものは人が人の命を左右するという無茶な使命を背負わされている。その上に理不尽と不条理と矛盾の三本柱を立て、権威という大きな屋根をかけたのが大学病院だ』 。
あやかし草紙
(宮部みゆき)

図書館31(605)
30
百物語シリーズ5作目(第一期完結編、タイトルは“あやかし草紙 三島屋変調百物語伍之続”。2作目“あんじゅう”を2011年に読んでいる。「塩断ちが元凶で行き逢い神を呼び込んでしまい、家族が次々と不幸に見舞われる『開けずの間』。 亡者を起こす“もんも声”を持った女中が、もの言わぬ姫の付き人になって理由を突き止める『だんまり姫』。屋敷の封じられた面の監視役として雇われた女中の告白『面の家』。百両という大金で写本を請けた男の運命が語られる『あやかし草紙』。三島屋の長男・伊一郎が幼い頃に遭遇した椿事『金目の猫』」の五編、ぞくりときながらも引き込まれていく。特に『面の家』に出てくる面の話が凄い『面の正体はこの世に災いや悪事をもたらす魑魅だ』だって。
暴虎の牙
(柚月裕子)
図書館30(604)
29
『孤狼の血』シリーズ、三作目(完結編)。一作目の大上が生きていた昭和57年を前編とし後編を日岡の平成16年を舞台とした話になっている。「和57年の広島県呉原。愚連隊“呉寅会”を率いる沖虎彦は、ヤクザも恐れぬ圧倒的な暴力とそのカリスマ性で勢力を拡大していた。広島北署の刑事・大上は、沖と呉原最大の暴力団・五十子会との抗争の匂いを嗅ぎ取り、沖を食い止めようとする。時は移り平成16年、懲役刑を受けて出所した沖はふたたび暴走を始めた。かつて大上の薫陶を受けた呉原東署の刑事・日岡が沖に接近する…」 大上に再び会えると思わず、一作目を思い出しながら懐かしく読んだ。500頁超だけど2日で読み終えた、それだけ面白い(2年前に刊行されていた)。
任侠シネマ
(今野敏)

図書館29(603)
28
笑いあり、涙ありの“任侠”シリーズ第5弾!義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵が今度は何を救う。「北千住にある古い映画館。TVやネットに押されて客足が落ち、映画館の社長も閉館を覚悟。その上、存続を願う“ファンの会”へ嫌がらせをしている輩の存在まで浮上する...。マル暴に監視されながら、阿岐本組の面々は、存続危機の映画館をどう守る?」 今の世知辛い世の中にこんな親分がいてくれたらなぁ~と思わせます。『ニューシネマパラダイス』 健さんの映画『日本俠客伝』など懐かしい映画も出てる。映画と義理人情が好きな方はぜひお読みください。読み終わったら映画館で映画を見たくる本です。
騒がしい楽園(中山七里)
図書館28(602)
27
「埼玉県から都内の幼稚園へ赴任してきた神尾舞子。待っていたのは、無責任、事なかれ主義の権化とも言える三笠野園長とそこで起きる数々の出来事。騒音や待機児童、親同士の対立などさまざまな問題を抱える中、幼稚園の生き物が何者かに惨殺される事件が立て続けに起きる。やがて事態は最悪の方向へ―」 ほんわか物語かと思いきや楽園で起きる数々のできごと、まさか殺人事件まで・・・。『大人だからって子供より勝っている部分なんて言葉と経験値と世渡りくらいじゃないか。誰でも感情に走る時って、精神年齢は五歳に戻っているもの』 それと納得したのが『適材適所という単語、優秀だとされた人間が、楽な仕事を与えられるはずもない』 と言うこと。
フェイクフィクション(誉田哲也)
図書館27(601)
26
読みたい本ランキング1位。「男性の首なし死体が発見された。刑事の鵜飼は地取り捜査を開始する。死因は頸椎断裂。“斬首”によって殺害されていたことが判明。一方、プロのキックボクサーだった河野は引退後、都内にある製餡所で従業員として働いていた。ある日、同じ職場に入ってきた有川美祈に一目惚れするが、彼女が新興宗教『サダイの家』に関係していることを知ってしまう…」 警察組織、ヤクザ、カルト集団、元キックボクサーの四つ巴の闘い。カルト集団の不気味さ、怖さ、また警察との癒着など、最後まで飽きさせません。『小説でも聖書でも勝手に書き換えちゃダメなんだって・・・』 “エホバの証人”がモデルかな?
さよならも言えないうちに(川口俊和)
図書館26(600)25
3年ぶりの新刊(シリーズ4作目)、今回は1作目『コーヒーが冷めないうちに』から一年後のストーリー。「第1話 大事なことを伝えていなかった夫の話 第2話 愛犬にさよならが言えなかった女の話 第3話 プロポーズの返事ができなかった女の話 第4話 父を追い返してしまった娘の話」 パターンは分かっていても、つい泣けてしまう…。 後悔を引きずり過去に戻る人たち。過去に戻っても現実は変えられないとはわかってはいても、会いたい人と会う事で、未来を前向きに歩めるようになるのなら戻る価値はあるのでしょう。ところで、今回過去から物って持って帰れるんだけど、持って帰ったらどうなるんだろう?
ムーンライト・イン(中島京子)
図書館25(599)24
著者は『小さいおうち』で直木賞を受章しているが、本著が受賞対象となり今年度の芸術選奨文部科学大臣賞を受章。「穏やかな老人がかつてペンションを営んでいた“ムーンライト・イン”には、三人の女性(施設に入りたくない80代女性、ハラスメントに抵抗して不慮の事故を起こし逃げてきた50代女性、日本でまだ見ぬ実の父を探す27歳のフィリピン女性)が、過ごしていた。 そこに一人の青年が転がり込んでくる。 人生の曲がり角、遅れてやってきた夏休みのような時間に巡り合った男女の、奇妙な共同生活が始まる」。 先ほど読んだ『オオルリ流星群』も大人が悩む話だけど、こちらの方が地に足がついている感じがした。ただ、この先が知りたいとも思わせる終わり方だった。
きたきた捕物帖(宮部みゆき)
図書館24(598)
23
「お江戸深川。主人公は16歳の北一。育ての親の岡っ引き千吉親分が急に亡くなってしまう。北一は親分の本業だった文庫売りをして日銭を稼ぐ日々、いろいろな事件に出会う。故親分の盲目のおかみさんや、差配の富勘さん、それに湯屋の窯焚きの少年喜多次と共に知恵と機転で事件を解決」していくというお話。主人公の北一が頼りないが、二人の“きたさん”が事件に翻弄されつつ成長していく優しさあふれる捕物帖。著者が『生涯、書き続けたい捕物帖です』と言っている。『我が子なら何でもかんでも可愛いわけじゃねえ。人の心はそんな便利な作りにはなっちゃいないからな。不幸な経緯(ゆくたて)で、情が薄れっちまうこともあるんだよ』。5月には続編が出るらしい。
勿忘草の咲く町で(夏川草介)
図書館23(597)
22
-安曇野診療記-、高齢者医療や人間の尊厳といったテーマを扱いながら心の中を春風が通り過ぎて行くような気持ちになる連作短編集(話はつながっている)。「美琴は梓川病院に勤めて3年目の看護師。風変わりな研修医・桂と、地域医療ならではの患者との関わりを通じて、悩みながらも進む毎日だ。口から物が食べられなくなったら寿命という常識を変えた“胃瘻”の登場、『できることは全部やってほしい』という患者の家族…」 老人医療とは何か、生きることと死んでいることの差は何か? 『幼い子供の命を救うことに迷う医者はいないだろうが、それとは対極に位置するのが現代の医療現場だ』 著者は現役の医者。舞台は憧れの北アルプスを見渡せる安曇野。
オオルリ流星群(伊与原新)
図書館22(596)
21
45歳になった高校時代の同級生が地元に集まって青春を振り返りながら手作りで天文台を建てるというお話。「彗子が故郷へ帰ってきた。太陽系の果ての星を探すため、手作りで天文台を建てるというのだ。彼女に協力することになった久志ら旧友たちは、28年前の青春の日々に思いを馳せる。、だが、やがて高校最後の夏の青春が明らかになり・・・。」 大人になると誰しも抱えながら、決して人には見せることのない内面の翳りや苦悩を巧みにすくい上げて、行き詰まった人生の中で隠された幸せに気付かせてくれる、静かな感動の物語。天体に関する専門用語に少し取っつきにくい点もあるが、読後感は凄くいい。
山狩
(笹本稜平)

図書館21(595)
20
著者は単行本作業中に急逝したとのことで遺作になる。「伊予ヶ岳の山頂付近で発見された若い女性の死体。事故死あるいは自殺と思われたが、彼女がストーカー被害に遭っていたことがわかる。千葉県警生活安全捜査隊の山下は、彼女の死への関与を疑うが、ストーカー加害者は名家の御曹司で、事情聴取にも妨害が入る・・・」 初めは話が進まず読むのに時間がかかったが、後半、どんどんとペースが増していく。警察内部の対立や不正など、相変わらずの展開ですが警察上部もここまで腐ってくると救いようがない。『子供より物わかりの悪い人間が世間にいてね。政治家や役人というのは概ねそうで、偉くなるほどこの傾向が強い。警察官僚も例外じゃない』 スッキリした結末!
母の待つ里
(浅田次郎)

図書館20(594)
19
“家庭も故郷もない還暦世代の男女3人に届いた”ふるさとへの招待状、「上京して40年、一度も帰ろうとしなかった郷里で温かく迎えてくれたのは、名前も知らない〈母〉でした・・・。カード会社から舞い込んだ〈理想のふるさと〉への招待。半信半疑で向かった先には奇跡の出会いが待っていた」 母の抱く無限の愛情とその人生、細りゆく山村と最先端ビジネスの組合せ・・、読み始めて何?と度肝を抜かれた。著者5年ぶりの現代小説。東北弁には少し難儀するが読みながら胸にじ~っと染みこむ。『人生の幸不幸について考えた。過疎化した村の住人達を不幸だと思うのは、都会人の偏見なのではあるまいか。幸福の基準は“便利”と“不便”ではない』。
ムゲンのi・下(知念実希人)
図書館19(593)18-2
上巻でばら撒かれた伏線がどんどん回収されていく、心と魂と、愛のお話し。 「愛衣の家族と、大量殺人を犯した少年Xと、突然現れた謎の少年ケント君と、ずっと寄り添ってくれていた愛衣の主治医の先生・・・。最近都内西部で起きている連続殺人事件、23年前の通り魔事件...すべての謎が解けた時に世界は一変する」 話が進んで段々面白くなると同時に、読む方は現実と潜在意識の中の世界とがこんがらかってくる。全体に人の愛があふれている、タイトルの『ムゲンのi(アイ)』にも深い意味が・・・。ラストのどんでん返し、種明かしにはビックリ!著者が医者だからこんな話が書けるのでしょうか?
ムゲンのi・上(知念実希人)
図書館18(592)18
“医療×ミステリー×ファンタジー。眠りから醒めない4人の患者、猟奇殺人、少年Xの正体は・・・”上下2巻で700ページを超える長編、ミステリーとファンタジーが合わさった小説。 上巻ではファンタジー部分が過ぎて、ちょいとだれたが我慢して読む進むうちに、はまっていく「イレス患者(眠り続ける病)の担当主治医者の識名愛衣は、祖母から受け継いだユタの力を使いイレス患者を癒し永遠の眠りから解放する。患者達がイレスに発症したのには辛すぎる過去が原因だった・・・」 上巻だけでは何がどうつながるのか全く分からない、下巻に期待が持てる展開になっていく。
尾根を渡る風(笹本稜平)
図書館17(591)17
『駐在刑事』と付いているが、ギラギラした刑事物ではない 「青梅警察署水根駐在所へと降格された元一課の刑事・江波。奥多摩の穏やかな暮らしにも慣れたそんなある日、御前山でいなくなったペット犬捜しを頼まれた彼は、山で何者かが仕掛けた罠を発見。それは隣県で発生した殺人事件の証拠だった・・・」 “花曇りの朝”など5編の連作短編集。シリーズ第2弾とのこと、シリーズものとは知らなかった。肩のこらない気軽に読める“山岳+警察”小説といったところ。『山にはエスカレーターもエレベーターもありません。しかし苦しみながらの一歩一歩が、登り終えたとき自分の宝になっています。・・・、それは自分の魂にとってとても贅沢な贈り物だと思います。』 著者は昨年11、70歳で亡くなっている。
隠居すごろく(西條奈加)
図書館16(590)16
“ほっこり笑えてジーンと泣ける江戸人情物語”とあれば読まないわけにはいかない。「巣鴨で六代続く糸問屋の主人を務めた徳兵衛。還暦を機に引退し、悠々自適な隠居生活を楽しもうとしていたが、孫の千代太訪れたことで予想外に忙しい日々が始まった! 千代太が連れてくる数々の“厄介事”に、徳兵衛はてんてこまいの日々を送ることに・・・」 清々しい読後感の素敵なお話、この著者のものはいつもほっこりさせられる。『思いやりとは、決して安い同情ではない。考えも性質も環境も異なる相手と、共に生きようとする精神にほかならない』『意地だの恥だのはこのさい横に置いといて、一歩を踏み出さなければ何も変わらない』。

夜が明ける
(西加奈子)

図書館15(589)15
著者が『ハッピーエンドじゃないというのは、私の小説の中で、唯一かもしれない。人間は変われる、ということを(登場人物たちに)託したかった』と・・・。現代日本に確実に存在する貧困、虐待、過酷な労働環境、性差別。ロストジェネレーションと呼ばれる世代の2人の男性が高校で出会ってから30歳を過ぎるまでのそれぞれの人生が描かれる。「15歳の時、 高校で“俺”は身長191センチのアキと出会った。普通の家 庭で育った“俺”と、 母親にネグレクトされていた吃音のアキは、 共有できる ことなんてないのに、 かけがえのない存在になっていった。 大学卒業後、 ”俺“はテレビ制作会社に就職し、 アキは劇団に所属する。 しかし、 焦がれて飛び込んだ世界は理不尽に満ちていて、 俺たちは少しずつ、 心も身体 も、 壊していった...。」 本当にこの夜は明けるのか。何度も読むのをためらい、どうしてこんなに苦しいものを書くの?と感じた。ラストに“俺”の後輩が切々と語る言葉『頑張ってもダメな時はありますよね。生きよ そして 苦しかったら助けを求めよ』に救われた。
『自業自得だとか、自己責任だとかいう言葉をよく聞くよね、それは大切な現実を見ないようにする楯になっている気がする』 『世界に目を向けてみろよ。どれだけの不幸がある?飢えと貧困に苦しんでいる子供達。身体を売らなければならない女達。戦争で命を落とす男達。俺たちは、そんな人間たちの不幸の上にあぐらをかいているんだ』。
冷たい檻
(伊岡瞬)

図書館14(588)14
北陸の地方都市を舞台に繰り広げられる、政治と官僚と中国資本の巨大企業と日本財界の四つ巴の駆け引き 「表だって警察が動けない仕事の依頼を受ける調査官の元刑事樋口はある村の駐在所から失踪した警察官を探せという指令を受ける。その村では子供から老人までが収容されているある福祉施設で不穏な事件が発生しているのを知る。裏には大きな陰謀が・・・」 この国の抱えている問題が浮き彫りにされ読み応えがあった。一種類の薬を開発するのに研究期間は10年、かかる費用は平均500億円だって、まず動物実験から臨床実験(人体実験ができないから) と言うところがキーワード。『介護人不足、若者の更正、虐待児童の養護、生活支援、地方創世、過疎化限界集落対策』など政治家には甘い汁。
殺した夫が帰ってきました(桜井美奈)図書館13(587)13 タイトルからすると単純なお話かと思いきや、登場人物たちの複雑な生い立ちや、それぞれの思惑、愛憎などが絡んできてちょいと複雑。「アパレルメーカーで働く茉奈は取引先の男に執拗に迫られていた。ある日、茉奈が帰宅しようと家の前に辿り着くと、彼がが待ち伏せていた。勝手に家の中に入ろうとする彼を追い返したのは死んだはずの夫だった。夫の出現に戸惑う茉奈だったが、九死に一生を得た夫は記憶を失ったという。再び夫と一緒に暮らし始めた茉奈の元に謎の手紙が届く…」 ラストのどんでん返し、伏線回収がすごい!(以下ネタバレ)伏線として無戸籍問題や虐待、家族に恵まれなかった子供が大人になり悲しみの連鎖が続く、しかしラストはホッ!
黒牢城
(米澤穂信)

図書館12(586)12
直木賞他4大ミステリランキング完全制覇するなど今話題の本、やはり面白かった。「戦国歴史小説でありながら本格ミステリでもある。「織田信長に叛旗を翻して有岡城に立て籠った荒木村重は、城内で起きる難事件に翻弄される。動揺する人心を落ち着かせるため、村重は、土牢の囚人にして織田方の軍師・黒田官兵衛に謎を解くよう求めた。事件の裏には何が潜むのか。戦と推理の果てに村重は、官兵衛は何を企む」 『神仏の罰は祈りで逸れることもできよう。じゃが、民や家中が下す罰は、何ものにも抗うことはできぬ』 官兵衛の知略の凄さが分かる、こういう軍師がいたらと、各将は思ったことでしょう。ラストはスッキリ!
硝子の塔の殺人(知念実希人)
図書館11(585)11
本格ミステリーとはなんぞや?「雪深き森で、燦然と輝く、硝子の塔。地上11階、地下1階の美しく巨大な尖塔。ミステリを愛する大富豪の呼びかけで、刑事、霊能力者、小説家、名探偵、料理人など、一癖も二癖もあるゲストたちが招かれた。館の主人が毒殺され、この館で次々と惨劇が起こる・・・。」 どんでん返しの連続に驚愕のラスト、(松本清張以来社会派ミステリーに押され気味だった)本格ミステリーの醍醐味を味わってください。ポー、ルブラン、ドイル、クリスティー、クイーン、カー、乱歩、横溝、鮎川、島田、綾辻…。の名作も顔を出す。ミステリーファンにはたまらないかも・・・。初めちょいと中だるみするが後半になると一気読み!
ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人(東野圭吾)図書館10(584)10 シリーズ物ではない東野圭吾作品、“ほとんど人が訪れたことのない平凡で小さな町。寂れた観光地。ようやく射した希望の光をコロナが奪い更に殺人事件が・・・” アメリカ帰りのマジシャンを探偵役に謎解きをたっぷりと楽しめます 「結婚式を控えた真世はある日父が殺されたとの報を受け、急遽故郷に戻る。久方ぶりに再会した元マジシャンの叔父と共に真相究明に乗り出すが、容疑者として浮かんだのは父の教え子だった真世の同級生ばかり・・・」 ちょっと変わったニューヒーロー、マジシャンだけに手先が器用、おまけにショーを生業にしているので口八丁手八丁、警察の手の内を知って警察を手玉にとる、なかなか面白い。
同志少女よ、敵を撃て(逢坂冬馬)
図書館9(583)9
第11回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作、選考委員全員が満点を着けた話題作。「モスクワ近郊の農村で、母子共に狩りをして暮らす、16歳のセラフィマは、2年後の独ソ戦が激化する1942年、ドイツ軍により母親が殺された。その後自ら狙撃兵となり、スターリングラードを皮切りに、独ソ戦の最前線に立ち、目の前で多くの仲間を失い、自らも多くの命を奪いながら、多くの人々の命が惨たらしく奪われていく生き地獄のような中をひた走ることになったのか・・・」 戦時下という極限状態において人間はどういう行動をとるのか、タイトルの“敵を撃て”の敵とは果たして誰なのか?『失った命はもとに戻ることはなく、代わりになる命も存在しない』 戦争が人を変えていく。
滅びの前のシャングリラ
(凪良ゆう)

図書館8(582)8
「“一ヶ月後、小惑星が衝突し、地球は滅びる”学校でいじめを受ける友樹、子供を守る母親、人を殺したヤクザの信士、家族から逃げ出した静香。・・・荒廃していく世界の中で、彼らは生きる意味を見つけられるのか」 こういう時人間はどういう行動をとるのだろう?滅び行く運命の中で、幸せとは何かと問いかけてくる、単なるSFものではない。読み応えがあり!『地球よりも先に人間が壊れ始めている。長い時間をかけて作ってきた法も、常識も,道徳心も安物のメッキみたいにばりばりと剥がれていく』 『ねえ神様、あんたは本当に矛盾の塊だな』 人は生きる意味を失い殺人、略奪が横行する、こんな状況に置かれたら果たして自分は?
砂に埋もれる犬(桐野夏生)
図書館7(581)7
虐待を受けた少年の心がゆがんでいく様子を冷徹な筆致で描く、500ページ近い長編なのに一気読み!「小学校に通わせてもらえず、日々の食事もままならない優真。男にばかり夢中でネグレクトを続ける母との最悪な生活のなか、手を差し伸べるコンビニ店主が現れるが・・・。」 著者が言っています『つぶれてしまった心はなかなか元に戻らない。すでに、単純に愛情を注げば解決する問題でもなくなっている。どうすれば良いのか。突き放すようですが、私にはわからないです』 と、ニュースなどで上辺しか見ていなかったが虐待する方される方、それぞれ奥に潜む闇に根深いものがある。やりきれないがこれが現実か・・・。この著者は凄い!
星落ちて、なお
(澤田瞳子)

図書館6(580)6
直木賞受賞作!幕末から明治にかけて活躍した天才絵師・河鍋暁斎の娘・とよ(暁翠)の、22歳から56歳までの半生を描いている。「暁斎が死んだあと、残された娘のとよに対し兄・周三郎は事あるごとに難癖をつけてくる。家族の均衡が崩れ、兄はもとより、弟の記六は頼りなく、妹のきくは病弱で、河鍋一門の行末はとよの双肩にかかってくるのだった」 私の全く知らない画家の話でしたが、“家族って何だ?”と思わずにいられない、ずっしりと心に響く物語。『人は喜び、楽しんでいいのだ。生きる苦しみ哀しみと、それは決して矛盾はしない。いや、むしろ人の世が苦悩に満ちていればこそ、たった一瞬の輝きは生涯を照らす灯火となる。』
レインメーカー
(真山仁)

図書館5(579)5
“法律は悲しみを癒やす道具じゃない” 医療過誤裁判を起こされた医師を救おうと奮闘する弁護士が主人公。「急患の2歳児の心肺が停止・・・。慟哭する母。呵責に苦しむ父。医師の無念。糾弾される病院。真相を追うメディア。治療のミスは本当にあったのか?」弁護士、医師、遺族、新聞記者、それぞれの信念と葛藤が交錯する。医療過誤訴訟で明らかになる真実は誰かを救うのか? 今の医療現場や政治の矛盾を着いている。一気読み! 母子手帳は、大切な情報の宝庫であり、子供の病で病院にかかるときの必要性がよくわかった。『レインメーカー』とは、アメリカの法曹界では訴訟で大儲けする弁護士とのこと。
風を結う
(あさのあつこ)

図書館4(578)4
“針と剣 縫箔屋事件帖” シリーズ二作目。「町医者の宗徳は、丸仙で一居の姿を目にした瞬間『亡くなった知人に似ている』と取り乱し、その直後に謎の死を遂げる。宗徳は一居の過去を知っていたのか・・・。」剣術を愛する丸仙の娘・おちえ、刺繡職人を志す一居。ふたりの活躍が一作に引き続きみずみずしく描かれている。『本当に責を負おうとすれば、生きねばならない。揉め事や苦労の横溢する現を生き抜いて生き通して、償いの道を探る。それが人の本道だと思う』 “弥勒シリーズ”や“闇医者おゑんシリーズ”と比べると少しおとなしいが人の心に響いてくるものは同じ、ちょいとこの著者にはまってしまった。
ライト マイ ファイア
(伊東潤)

図書館3(577)3
「川崎簡易宿泊所放火事件でみつかった身元不明の遺体を調べるうち、警察官・寺島は、1冊の古いノートを入手する。そのノートには『1970』 『HJ』の文字と、意味不明の数字が記されていた。やがて放火事件とかつて日本を震撼させた“よど号事件”との関連に気づき、その真相を握る男を追う・・・。過去と現在が結びつくとき、巨大な陰謀が明らかになる。」 ハイジャックの実行犯に公安がいたという大胆な発想。当時の若者たちの情熱と現代日本の情熱のあり方を問うている。『経済成長は豊かさをもたらしたが、日本の若者たちは牙を抜かれた。そこにあるのは欧米に感化された利己主義だった』 と、当時を知る私には今の若者の歯がゆさと今も昔も変わらぬ闇を感じる。
旅屋おかえり
(原田マハ)

図書館2(576)2
TVドラマ化されているとは知らず、原田マハ原作だったので手に取ったらこれが面白かった。「売れない崖っぷちアラサータレント“おかえり”こと丘えりか。 スポンサーの名前を間違えて連呼したことが原因でテレビの旅番組を打ち切られた彼女が始めたのは、人の代わりに旅をする仕事だった。満開の桜を求めて秋田県角館へ、依頼人の姪を探して愛媛県内子町へ・・・。」 行く先々で出会った人々を笑顔に変えていく、まるで女寅さん。笑いあり、涙あり、ラストはしっかりと泣いてしまった。『いいことよりも、きっと、つらいことのほうが多かったに違いない。けれど、みんな、一生けんめいだった。叩かれて叩かれて強くなった。美しい人たち』 。きっと旅に出たくなるよ!
店長がバカすぎて(早見和真)
図書館1(575)1
本を愛する人に送ります。「谷原京子、28歳。吉祥寺の書店の契約社員。超多忙なのに薄給。お客様からのクレームは日常茶飯事。店長は山本猛という名前ばかり勇ましい『非』敏腕。人を苛立たせる天才だ。ああ、店長がバカすぎる!毎日『マジで辞めてやる』と思いながら、しかし仕事を、本を、小説を愛する京子は・・・」 出版社からの報奨金に踊らされる嫌な季節、“カリスマ書店員”の立ち振る舞い、大物作家の来店時、関係者からなる大名行列など…出版社、作家、上司のワガママ、書店員の苦労がよくわかる。どうやって取材したの?というリアルさ。『昔より本が売れなくなったとしても、本はおもしろくなり続けていると思うんです』 お正月休みにゆっくりお読みください。

2022年book ランキング 
 1 位 戦争は女の顔をしていない
 2 位 暁の宇品/陸軍船舶司令官たちのヒロシマ
 3 位 夜が明ける
 4 位 夕暮れに夜明けの歌を
 5 位 同志少女よ、敵を撃て
 6 位 黛家の兄弟
 7 位 山本周五郎短編(大炊介始末、釣忍、ほたる放生、かあちゃん)
 8 位 星屑
 9 位 月の満ち欠け
10 位 愚者の階梯
11 位 朱色の化身
12 位 乱鴉の空(弥勒シリーズ11)
13 位 方舟
14 位 透明な螺旋
15 位 希望の糸
16 位  百花
17 位 母の待つ里
18 位 爆弾
19 位 高瀬庄左衛門御留書
20 位 墜落
21 位 標的
22 位 向田理髪店
23 位 教場X 刑事指導官・風間公親
24 位 風間教場
25 位 ぼくの死体をよろしくたのむ
26 位 あずかりやさん(1) あずかりやさん(2) あずかりやさん(3) あずかりやさん(4) あずかりやさん(5)
27 位 朽ちゆく庭
28 位 脱北航路
29 位 レッドゾーン
30位 臨床の砦
31 位 ミス・サンシャイン
32 位 勿忘草の咲く町で
33 位 不審者
34 位 新章 神様のカルテ
35 位 暴虎の牙
36 位 ミカエルの鼓動
37 位 黒牢城
38 位 死に神と天使の円舞曲(ワルツ)
39 位 タラント
40 位 旅屋おかえり
  〃 丘の上の賢人/旅屋おかえり
42 位 誰かがこの町で
43 位 えにしや春秋
44 位 ムーンライト・イン
45 位 アナベル・リイ
46 位 渚の螢火
47 位 石礫
48 位 ガリレオの苦悩
49 位 フェイクフクション
50 位 ボーダーズ
51 位 本と鍵の季節
55 位 聖女の救済
53 位 子宝船
54 位 きたきた捕物帖 
55 位 捜査線上の夕映え
56 位 小隊
57 位 相剋
58 位 春のこわいもの
59 位 あやかし草紙
60 位 さよならも言えないうちに
61 位 掌に眠る舞台
62 位 十三階シリーズ
(5)十三階の仇(ユダ)
  (1)十三階の女 (2)十三回の神(メシア) (3)十三階の血 (4)十三階の母
63 位 任侠シネマ
64 位 隠居すごろく
65 位   冷たい檻
66 位 オオルリ流星群
67 位 砂に埋もれる犬
68 位 サン&ムーン
69 位 騒がしい楽園
70 位 風を結う
71 位 ムゲンのi(上・下)
72 位 ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人
73 位 レインメーカー
74 位 呪護
75 位 尾根を渡る風 駐在刑事
76 位 殺した夫が帰ってきました
77 位 ライト マイ ファイア
78 位 星落ちて、なお
79 位 滅びの前のシャングリラ
80 位 硝子の塔の殺人
81 位 山狩
82 位 店長がバカすぎて
ランク外

                         ※はノンフィクションです。