book(2023)

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ちぎれた鎖と光の切れ端
(荒木あかね)

図書館78
(742)
76
前作『此の世の果ての殺人』より面白かった。今回の舞台は熊本(天草)と大阪、どちらも馴染みの地名が出てくるので興味深い。二部構成。一部ではクローズドサークルと密室での殺人事件、二部では家族の絆や一部では描かれなかった作中人物の周辺が描かれる。「天草の孤島、徒島にある海上コテージに集まった8人の男女。その一人、樋藤は自分以外の客を全員殺すつもりでいた。先輩の無念を晴らすためー、しかし・・・。第二部はそれから3年後の大阪、連続殺人事件が起きる。この二つの事件の関連は?」 突っ込みどころはあるにはあるが、それなりに面白い。著者はZ世代のアガサ・クリスティーと言われている。『暴力はまた別の暴力を呼ぶだけ。最後に待っているのは、地獄へと続く道だ。
鈍色幻視行
(恩田陸)


図書館77
(741)
75
650ページを超える長編、初めは曖昧模糊とした感じてとっつきにくかったが、状況が分かってくるにしたがってどんどん面白くなってきた。「撮影中の事故により三たび映像化が頓挫した“呪われた”小説『夜果つるところ』と、その著者・飯合梓の謎を追う小説家の蕗谷梢は、関係者が一堂に会するクルーズ旅行に夫・雅春とともに参加した。船上では、映画監督、映画プロデューサー、編集者、漫画家の姉妹など、この小説にひとかたならぬ思いを持つ面々が、梢の取材に応えて語り出す。」 何とも奥の深い話になっていく。『人生の中には真実はない、あるのは虚構の中だけだ。だから映画館の暗がりに、小説の中に真実を求めていくのさ』。 作中作の“夜果つるところ”が実際この後、刊行されている。

否定しない習慣
(林健太郎)



図書館76
(740)
74
相手のことを否定しない・・・。『褒める』よりも、『肯定する』よりも効果的な人間関係を変える方法です。】と思いあたることばかりで胸が痛くなった。
本著で指摘している『否定』とは①相手の言葉や考え、行動の結果を求めない②相手の話や意見を打ち消す、聞かない、奪って違う話をする。③相手のミス・失敗を責める。④悩みの相談などにたいして真剣に向き合わない。の四つです。
・否定していないという人はいつも無自覚ー自分の意見が先に出る。・相手が100%間違っていても伝え方を工夫すること。
『否定しないマインド』とは①「事実だから否定してもいい」という思考はしない。②「自分は正しい」という思考はしない。③「過剰な期待」はしない。という三つの考え方。
・否定は上から目線が生み出している。『否定する一番の原因』は相手は間違っていて、自分が正しいと思い込んでいることにある。・相手の見解を承認することで否定することなく会話が進む。
『否定を表す態度』①眉間にシワを寄せる②口をへの字にする。③腕を組む④足を組む。
・潤滑油になる魔法の言葉とは『さすが』。・相手の言葉に感情的になったとき「感情の見切り発車」はやらない。
などなど・・確かに無意識に否定的な表現・言動を使ってきたことが実感できる。
サドンデス
(相場英雄)

図書館75
(739)
73
格差と貧困、嫉妬や憎悪によるSNSでの誹謗中傷…などの現代社会の歪みを『震える牛』の著者が描いた社会派ミステリ。「どん底の生活を送っていた21歳の理子はミカコという女性と出会い、人生が好転する。一方、老舗百貨店を解雇された小島は、成り上がる理子に殺意を抱く。東京で相次いで起きた通り魔殺人事件を追う警視庁本部サイバー犯罪対策課の長峰と森谷は、無差別とされる事件にある繋がりがあることに気付く。」 無差別通り魔事件が富裕層のゲームになっていた?格差社会の現状やネットの闇など恐怖を感じる。『ネトウヨのアイコンは旭日旗や日章旗、ネットで保守的で過激な発言をする者達だ。タカ派の議員達を熱狂的に支持し、彼らを激賞する雑誌媒体や言論人たちも存在する』。
レーエンデ国物語
(多崎礼)


図書館74
(738)
72
王道ファンタジー ! 「聖イジョルニ帝国フェデル城。家に縛られてきた貴族の娘・ユリアは、英雄の父と旅に出る。呪われた地・レーエンデで出会ったのは、琥珀の瞳を持つ寡黙な射手・トリスタンだった。空を舞う泡虫、乳白色に天へ伸びる古代樹、湖に建つ孤島城。その数々に魅了されたユリアは、森の民と暮らし始める・・・」 ファンタジー好きな人には面白いでしょう、この後シリーズとして続いていくが第2巻目は100年を経た後の物語となっているが本巻だけでも完結している。『生きるってのは楽じゃない。喜びや幸福は刹那の光、それ以外はずっと闇ん中だ。ヘマして恥かいて失意と絶望の泥沼を這いずり回る。それが人生もんなのさ。だからこそ自分が歩く道は自分で選ばなければいけないんだ』。

(中村文則)


図書館73
(737)
71
“だれも列からは逃れられない―。『銃』や『掏摸』『教団X』につらなる…中村文則の最高傑作誕生”。なんて帯にあったけど、私は完全には理解できなかった。「男が列に並んでいる。先も見えず、最後尾も見えず、遅々として進まず、並ぶ目的すら分からない。並びながら、1人分空けばすぐさま前に詰める・・・。そして男は列を離れ、人生を振り返る。それからまた、いつの間にか列に並んでいる」 難解だが読みごたえがあり、とても深い話とは思うが何とも感想の書きにくいお話。『あらゆるところに、ただ列があふれているだけだ。何かの競争や比較から離れれば、今度は心の平安の競争や比較が始まることになる。私たちはそうやって、互い苦しめ続ける。』 何となく分かったような・・・。
遠火
(今野敏)

図書館72
(736)
70
今回の今野敏は公安ではなく、警視庁強行犯係シリーズ。私はこちらの方が面白い。「奥多摩の山中で他殺体が発見された。警視庁捜査一課の樋口班は調べを進めていくと、殺されたのは渋谷署の係員が職質をしたことがある女子高生で、売春の噂があったことが判明する。樋口顕は被害者の友人である美人女子高生と戸外で面会。すると、その様子を撮影した何者かによってインターネット上に写真を流される・・・」 勧善懲悪そしてハッピーエンドが約束されているシリーズなので安心して読めるが、イャ~何とも、女子高生の商品価値を売り物にして自ら起業、怖いこと。『人間、そう簡単に変わるもんじゃない。変わるんじゃなくて考えを深めるんだ。それが成長ってことだよ』。
さよならの儀式
(宮部みゆき)

図書館71
(735)
69
八つの短編からなる少し不思議なSF作品集!「『母の法律』虐待を受ける子供とその親を救済する奇蹟の法律“マザー法”。『戦闘員』孤独な老人の日常に迫る侵略者(防犯カメラ)の影。『わたしとワタシ』45歳のわたしの前に、高校生のワタシが現れた。『さよならの儀式』長年一緒に暮らしてきたロボットと若い娘の、最後の挨拶。『星に願いを』妹が体調を崩したのも、駅の無差別殺傷事件も、みんなおともだちのせい?『聖痕』過去に犯罪を犯した元〈少年A〉はネット上で、人間を超えた存在になっていた。『海神の裔』明治日本の小さな漁村に、海の向こうから「屍者」のトムさんがやってきた。『保安官の明日』人造擬態の人間が住むタウンでの出来事。」現代社会の歪みをしっかり捉えている、面白かった。
ロータスコンフィデンシャル
(今野敏)

図書館70
(734)
68
『スパイ防止法』のない日本、スパイ天国と呼ばれている。日本を舞台に中国・ロシア・ベトナムのスパイ達が暗躍する物語。「外事一課の倉島は、『ゼロ』の研修帰りのエース公安マン。ロシア外相が来日し、随行員の行動確認を命じられるが、同時期にベトナム人の殺害事件が発生。容疑者にロシア人ヴァイオリニストが浮かび上がる。一方、外事二課で中国担当の盛本もこの事件の情報を集めていることがわかる。倉島は、ベトナム、ロシア、中国が絡む事件の背景を探る…。」。思ったより派手さはなくちょっと物足りなかった。日本の弱腰外交がよく分かる、その中で公安外事課などは苦労するはず。特に今の現実世界でもスパイ活動が激しさを増しているのでは・・・。と思える。
時空旅行者の砂時計
(方丈貴恵)

図書館69
(733)
67
著者は1984年生まれ京都大学卒。2019年本作で第29回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。「瀕死の妻のために謎の声に従い、2018年から1960年にタイムトラベルした主人公・加茂。妻の祖先・竜泉家の人々が殺害され、後に起こった土砂崩れで一族のほとんどが亡くなった“死野の惨劇”の真相を解明することが、彼女の命を救うことに繋がるという・・・。」 何とも、頭のいい人の書くお話は非常に手が込んでいる、タイムトラベルものは好きですが、これをアリバイ作りに利用した本格ミステリ。読みながら頭が混乱してしまった。でも、面白い!古典風な謎解きミステリにタイムトラベルという設定が絡み読む者を悩ませる。
#真相をお話しします
(結城真一郎)

図書館68
(732)
66
5編からなる短編集、どの話も必ず読者が騙されしまうとう巧みな構成。「“惨者面談”家庭教師の派遣サービス業に従事する大学生が、ある家族の異変に気づく。“ヤリモク”娘のパパ活を案じながらも、マッチングアプリに勤しむ中年男。“パンドラ”不妊に悩んだ末、精子提供を始めた夫婦。“三角奸計”リモート飲み会に興じる学生時代の腐れ縁“#拡散希望”人気YouTuberを夢見る、島育ちの小学生四人組。」日常に潜む、違和感、そして狂気、どれもゾクッとくる。随所に仕掛けられた罠、罠、読者は見破ることができるか?私は(一部には、う~んこれはと思うところもあったが)、やはり騙された。初読み作家、著者は東大法学部卒とのこと。
可燃物
(米澤穂信)


図書館67)
(731)
65
著者初の警察ミステリ(4大ミステリランキング1位の作品)。余計なことは喋らない、上司から疎まれる、部下にもよい上司とは思われていない。しかし、捜査能力は卓越している群馬県警捜査一課の葛警部が主人公。5編の短編からなる。「“崖の下”(スキー場で起きた殺人事件)“ねむけ”(ある交通事故)“命の恩”(榛名山麓で発見されたバラバラ死体)“可燃物”(連続放火事件)“本物か”(ファミリーレストランでの立てこもり事件)」 。普通の刑事ものとは違い、『犯人は誰か?』ではなく、『なぜその犯罪が起きてしまったのか?』という視点から、地道に事実を積み上げる警部のやり方が見どころ。短編にまとめるのではなく、中編くらいがなお面白そう。

BT’63(上・下)
(池井戸潤)


図書館65・66)
(729・730)
64
2003年に刊行された池井戸潤初期の頃の作品、銀行が舞台ではないが面白かった。すごいボリュームだが、後半は物語に入り込めてスイスイ読めた「精神を壊して仕事も家庭も失った大間木琢磨は、亡くなった父の遺品から古い鍵と派手な制服を見つける。制服に袖を通すと40年前、父の史郎が働いていた運送会社の風景が目の前に広がる。そして琢磨は何かに引き寄せられるように父の時代に行き来するようになり、そこには自分の知らなかった父の人生をみることに。倒産寸前の運送会社を立て直すために新規事業に奔走しながら、薄幸な女性との恋。そして会社を倒産に追い込む凶悪事件・・・。琢磨は史郎の人生を追いかけながら、父を、そして自分を見つめなおしていく・・・」物語の初めは浅田次郎の『地下鉄に乗って』を思い起こすが、話が進むにつれて凶暴な深い闇が広がってくる。タイトルのBT’63は“Back to ”の意味?で物語の中で出てくるBTは“ボンネットトラック”をさす。昭和63年当時の描写がなんとも懐かしい。
クスノキの番人
(東野圭吾)

図書館64
(728)
63
東野圭吾と言えば殺人事件が起きるミステリーを想像するが、珍しく誰も死なない、事件も起きない、ちょいと不思議なお話。著者が“読み終えて人が明日に希望を持てるように、と思いながら書いた”と言っている。「幼い頃父母を亡くした直井玲斗は窃盗事件の示談金と引き換えに、企業の顧問をしている叔母の柳澤千舟にクスノキの番人になるように言われる。様々な人々が祈念に訪れる中で、玲斗はその不思議な力、クスノキのある機能を徐々に理解していく」 心の中で思っていることを大切な人に遺せたら…との思いがしっかりと伝わってくる心があたたかくなるお話。こんなクスノキが実在したらいいのにな、と思った。
合理的にあり得ない2
(柚月裕子)

図書館63
(727)
62
シリーズ2作目、“あの美人探偵・上水流涼子が帰ってきた”と言っても1作目の方が面白かった。 『あり得ない話』連作短篇 「上水流エージェンシーに持ち込まれた3つの案件、謎の積み荷を乗せた車の捜索、親権トラブル、心を閉ざした女子大生の救済と、いずれも一筋縄では行かない」 今回の事件は3件とも稼ぎにはつながらなかった、大丈夫かな?この事務所。“孤狼の血”のような男臭い作品を書けて、こんな軽いものもかける、同じ作家の作品とは思えない。『人はね、常に悩みを抱えているの、自分は幸せだって思うこともあるだろうけど、それはずっとは続かない。生きている限り、問題や不安はつきないの。それが一つずつやってくればいいけど、悪いことって重なったりするのよね』。
蒼天の鳥
(三上幸四郎)

図書館62
(726)
61
第69回江戸川乱歩賞受賞作。鳥取出身の実在の作家・田中古代子をモデルに、友人の女流作家・尾崎翠や鳥取に流れてきた過激アナキスト集団『露亜党』、関東大震災など、大正期を舞台に歴史活劇ミステリー!ストーリーはもちろん完全なフィクション。「大正13年鳥取、“新しい女”の潮流を訴える女流作家田中古代子は、娘の千鳥と内縁の夫の3人で、友人の尾崎翠もいる東京に引っ越しをする予定だった。移住直前、活動写真『兇賊ジゴマ』の観劇中、場内で火事が。そこで古代子と千鳥が目にしたのは、舞台上に立つ本物の『ジゴマ』だった!目の前でジゴマは躊躇なく、人を殺す。やがて二人にも―」 ミステリー要素は少ないものの、この時代の女性達の生き様もよく分かる。
手紙
(ミハイル・シーシキン)

図書館61
(725)

カウントせず
現代ロシアの作家、ミハイル・シーシキンの2012年に発売された長編。426ページの半分でダウン。物語は「現代のモスクワに住むサーシャ、そしてワロージャは1900年の中国でロシア兵として義和団事件の鎮圧に参加している。この二人が手紙のやりとりをしている。それには、別離の悲しみ、初めて結ばれた夏の思い出、子供時代の記憶や家族のことが綴られる・・・」 時代も場所も超えて手紙は続く。二人はそれぞれ別の時代を生きている、再び出会う日まで・・・。こんな話なのですが理解できなかった。
長い長い殺人
(宮部みゆき)

図書館60
(724)

60
財布が語り手をつとめるミステリー(1997年刊)、今読んでも実に面白い。登場する財布は、刑事の財布、強請屋の財布、少年の財布、探偵の財布、目撃者の財布など10個の財布が自分の持ち主の行動を物語る話、最後は合わさって一つの長編となる。「轢き逃げは、じつは惨殺事件だった。被害者は森元隆一。事情聴取を始めた刑事は、森元の妻・法子に不審を持つ。夫を轢いた人物はどうなったのか、一度も聞こうとしないのだ。隆一には八千万円の生命保険がかけられていた。しかし、受取人の法子には完璧なアリバイが…。」 人間、もちろん自分も含めて“自分はこんなところで終わる人間じゃない、という気持ち”があると思う、それがこんな風にゆがんだら怖いという話。
屋上のテロリスト
(知念実希人)

図書館59
(723)

59
広島、長崎に原爆を落とされてもポツダム宣言を受諾しなかった日本は新潟にも原爆を落とされ、戦後東西に分断された。「それから70数年たった今、福島を境に壁が作られ、東西の行き来が出来ない国になっていた。 ある高校に転向してきた彰人が、学校の屋上で出会ったのは同じ学校に通う不思議な少女、沙希だった。 沙希からのバイトの依頼で、彼女のテロ計画の手伝いをすることになった彰人・・・」。韓国と北朝鮮を連想させる資本主義国家と社会主義国家の戦い、二・二六事件のような思想の陸軍もいる。そんな中で日本の統一を目指す女子高校生、その発想がなかなか面白い。この著者の本は当たり外れが多いが、今回は当たりだった。
イクサガミ 天
(今村翔吾)

図書館58
(722)

58
3巻で完結するシリーズものとは知らずに読んだ(2巻が出たばかりで図書館にはまだ1巻のみ)。「明治11年、京都・天龍寺。『武技ニ優レタル者に金十万円ヲ得ル機会を与える』との怪文書によって、腕に覚えがある292人が集められた。告げられたのは、〈こどく〉という名の“遊び”の開始と、七つの奇妙な掟。点数を集めながら、東海道を辿って東京を目指せという・・・。剣客・嵯峨愁二郎は、命懸けの戦いに巻き込まれた12歳の少女・双葉を守りながら道を進むも、強敵たちが立ちはだかる」 まさにエンターテインメント直木賞作家が描く、滅び行く侍達の死闘。次が読みたくてあっという間に読み終えた。とにかく面白い!。
霜月記
(砂原浩太朗)

図書館57
(721)

57
『高瀬庄左衛門御留書』『黛家の兄弟』に続く、“神山藩シリーズ”最新作。「名判官だった祖父・失踪した父・重責に戸惑う息子、町奉行を家職とする三代それぞれの葛藤を描く。18歳の草壁総次郎は、何の前触れもなく致仕して失踪した父・藤右衛門に代わり、町奉行となり、裁きを無難にこなしていたが・・・。やがて大商店の三番番頭夫婦の刺殺事件に出喰わすことに・・・」 。人情味あふれる親子の物語であり時代小説ミステリー。シリーズと言っても続き物ではないので、前作をおさらいしなくても大丈夫。『ひとが二人いて何かが起これば、片方だけの咎と言うことはまずない』。気軽手に取って読めるお話。
コメンテーター
(奥田英朗)
図書館56
(720)

56
直木賞受賞の『伊良部先生シリーズ』、17年ぶりの新刊。相変わらずの面白さ。今回は五つのエピソードからなる「“コメンテーター”コロナ禍の中、伊良部先生がTVのコメンテーターに、言いたい放題。“ラジオ体操第2”『何事に対しても怒れない』車に煽られても文句を言えない人、うっぷんがたまってしまう。“うっかり億万長者”ディトレーディングで儲け10億円持っていていてもお金の使い方を知らない人。“ピアノ・レッスン”パニック障害持ちのピアニスト。“パレード”東京になれない田舎出身者、人と接するのが怖い。」 特に、一話と二話がいい。これくらい気の抜けた感じで生きられればいいなぁ~、『人には器がある。自分の器で生きていくのが、しあわせというものではないか』。ストレス発散にはもってこい!
墨のゆらめき
(三浦しをん)

図書館55
(719)

55
この著者は読みやすくて優しいお話が多い、今回もほんわかと読めた。「老舗ホテル勤務の続力は招待状の宛名書きを新たに引き受けた書家の遠田薫を訪ねたところ、副業の手紙の代筆を手伝うはめに。この代筆は依頼者に代わって手紙の文面を考え、依頼者の筆跡を模写するというものだった。」全く正反対のキャラがだんだんと心を通わせていくところがなんともいい。 『文字の黒と紙の白、硯に筆を持っていく曲線までが音楽を奏でるよう』という描写があるが『書』の奥深さが分かる。切ないけど、少し救いのある終わりかた。筆耕士という言葉を初めて知った。『娘の頬を愛おしげに撫でる。親ばかにとどまらず、一族ばかと化しているが、かまうまい。赤ちゃんの愛らしさの威力にはかなわないのだ。』
魔女と過ごした七日間
(東野圭吾)

図書館54
(718)

54
『ラプラスの魔女』(16)→『魔力の胎動』(23)→『魔女と過ごした七日間』とシリーズ3作目、今回が一番面白かった。相変わらずサクッと読める。「AIによる監視システムが強化された日本。指名手配犯捜しのスペシャリストだった元刑事が殺された。不思議な女性・円華に導かれ、父を亡くした少年の犯人捜しが始まる」 円華が言う『法律は国家にとって都合のいいように作られている。国民なんて二の次だし、ましてや正義なんてものは無関係。昨日までは無罪だったものが。ある日突然有罪になる。そんなものに振り回されちゃだめ。何が正しいかは、自分で考えなきゃいけない』 と、国家がDNAなど個人情報を管理して、マイナンバーカードですぐに情報が分かる時代が来るだろうと言うことを予感させる。
街とその不確かな壁
(村上春樹)

図書館53
(717)

53
村上春樹、6年ぶりの長編(650ページ超)相変わらずの村上ワールド、やはり難解。「第一部:『壁に囲まれた街』での夢読み(街の中で主人公に与えられた職業)の生活と、現実世界における10代の『ぼく』と『きみ』の青春時代の恋愛模様。第二部:現実世界の主人公が40歳を過ぎ、勤めていた会社をやめ、福島県の山奥のひっそりとした図書館で館長として生活をしていくことに。その中で出会った少年があるとき、ふと失踪してしまう。第三部:『壁に囲まれた街』がまた描かれる。主人公はその街にたどりつき、失踪した少年の姿を見かける・・・」 現実と虚構が織りなすパラレルワールド!理解できなくても読み終えると不思議な気持ちになる。何度か読むとわかるのかな?
変な絵
(雨穴)

図書館52
(716)

52
前作『変な家』(21年book紹介)よりこちらが面白かった!一見関係なさそうな短編が最後につながってくる。「とあるブログに投稿された『風に立つ女の絵』、消えた男児が描いた『灰色に塗りつぶされたマンションの絵』、山奥で見つかった遺体が残した『震えた線で描かれた山並みの絵』…。いったい、彼らは何を伝えたかったのか?」9枚の奇妙な絵に秘められた衝撃の真実とは!? その謎が解けたとき、すべての事件が一つに繋がる!といったもの。サクッと気軽に読める。著者はウェブライター、ホラー作家、YouTuberであり。本名や素顔だけでなく、地声も非公開の覆面作家ということ。
ノウイットオール
(森バジル)

図書館51
(715)

51
第30回松本清張賞受賞作と言うことで読んだ。ただ、小松左京賞あるいは山田太郎賞と言ってもいいようなお話。「同じ町で同じ時期に繰り広げられる5つの物語。第一章は推理小説、第二章は医学部を目指す少年と母を亡くし一人で暮らす少女がコンビを組みM1を目指す青春小説。少しずつ人物を重ねながら、物語は三章・科学小説、四章・幻想小説、五章・恋愛小説と進んでいく。」一つ一つがそれぞれ綺麗に完結しているのに、しっかりとつながっている。エピローグにも仕掛けを残してくれている。第三章の科学小説はちょっと飛ばし読みだったが全体にはよくまとまって面白かった。著者のデビュー作。タイトルの『ノウイットオール』はあなただけが知っているの意味。
しろがねの葉
(千早茜)

図書館50
(714)

50
前回の直木賞受賞作。関ヶ原の戦い前後の石見銀山を舞台にした一人の女性の数奇な運命と銀堀たちの生き方、寄り添う女たちの情念を描いた物語。「家族と生き別れ、逃げ延びた先の石見銀山で山師の喜兵衛に拾われたウメは女ながら間歩(坑道)に入るようになる。夜目がきき闇を恐れぬ彼女は畏れを込めて鬼娘と呼ばれるようになるが、女の身ゆえの苦難も負い、やがて間歩にも入れなくなる。そして、銀山の発展と引き換えに男たちは肺を患い命を落としていく」。 結婚や仕事を自由に選べず、ただその境遇を生き抜くしかない女たち。『生きること選ぶだこと、それがどれほと強靱な選択か』(島本理生評)。
ソニー デジカメ戦記
もがいてつかんだ「弱者の戦略」
(山中浩之)

49
「縮小が続くデジタルカメラの市場で唯一伸びている、レンズ交換式カメラ『ミラーレス一眼』。ソニーは2013年に『α7』シリーズを投入し、当時圧倒的に性能差があったキヤノン、ニコンの「デジタル一眼レフ」に『電機屋のカメラ』と嘲られながら戦いを挑んだ。そして5年後、ソニーはレンズ交換式カメラで世界シェアトップを達成」 元・ソニーグループ副会長の石塚茂樹氏へのインタビュー記事を本にしたもの。彼はソニーのデジカメの草創期からこの分野を担当し、開発の現場、マーケティング、役員として経営資源のミラーレス集中投入決断と、成長・挫折・逆襲のすべてを見てきた人。イメージセンサーの役割、一眼デジカメとミラーレスの違いや仕組みやα7Ⅲの話など勉強になった。一つのものを作り上げる苦労話。
黒石(ヘイシ)
新宿鮫Ⅻ

図書館49
(713)

48
シリーズ12、『黒石』は“ヘイシ”と呼ばれる殺し屋の名前。「地下ネットワーク『金石』の幹部が謎の殺人者“黒石”に殺されると怯える幹部は、新宿署生活安全課の刑事・鮫島と、公安の矢崎と会った。 その数日後に別の幹部と思しき、頭を潰された遺体が発見された。 過去10年間の類似した未解決殺人事件を検討した鮫島らは、知られざる大量殺人の可能性に気付く・・・」 バックに中国残留孤児2世・3世達の日本での生きにくさもある。頁を繰る手が全く停められなくなるくらいこのシリーズは魅力的、全部は読んでいないが『新宿鮫』が出たのは1990年。シリーズ第4弾『無間人形』は直木賞を受賞している。中国名や登場人物が多く少し混乱するが面白い!
木挽町のあだ討ち
(永井紗耶子)

図書館48
(712)

47
直木賞、山本周五郎を受賞。「芝居小屋の立つ木挽町の裏通りで、美少年菊之助は父親を殺めた下男を斬り、みごとに仇討ちを成し遂げた。 二年後、ある若侍が大事件の顛末を聞きたいと、木挽町を訪れる・・・」 各幕(各話)ごとに、芝居小屋で働く人々の人生が語られる。それぞれがもともとは生まれも育ちも違う中、なぜ現在の芝居小あg屋へと辿り着いたのか? すごく上手く書けている。ラストに真相がわかったときタイトルの『あだ討ち』の意味がわかる、あなたはこの真実を見破られるだろうか。『明るく楽しいだけの奴なんてこの世にはいねえよ。どんな奴も手前の中に暗い闇や泥やらと折り合いを付けて上手いことやっているだけだ』。
水を縫う
(寺地はるな)

図書館47
(711)

46
普通、当たり前、みんな同じ、女なのに、男だから、みっともない…世の中にはびこる、そんな言葉たち。それにNOを突きつけることが著者の作品のテーマ。「一歳の頃に父と母が離婚し、祖母と、市役所勤めの母と、結婚を控えた姉の水青との四人暮らしの松岡清澄、高校一年生。手芸好きをからかわれ、周囲から浮いているが、一方、結婚を控えた姉の水青は、かわいいものや華やかな場が苦手だ。そんな彼女のために、清澄はウェディングドレスを手作りすると宣言する。が、母・さつ子からは反対される」 固定観念に縛られない生き方、読後感がすごくいい。二人の子供の名前『清澄』と『水青』の意味がわかった時爽やかな風が吹き抜けたような感じがした。
小説・日本の長い一日
(本郷矢吹)

図書館46
(710)

45
県警や警察庁で約30年公安・警備に携わった本郷矢吹のデビュー作。著者は『昨年の安倍晋三元首相の銃撃事件をきっかけに執筆した』と語っている。2022年暗殺時から2033年までが舞台。「元首相の小杉が自衛官だった男に群馬県で銃撃され死亡。警察庁外事課長と防衛省情報課長という2人の官僚を軸に、新聞記者や小杉の息子らが事件を経て、自らの信念に基づく“ある計画”へと突き進む」 事件の背後にある国際的謀略や、霞が関・永田町を巡る情報・諜報などが描かれる。文章が硬かったり心情描写が少なく読みづらいく後半は物足りなかった。現実に安倍元首相の襲撃事件も真相は隠されているのかも? 今も昔も一番怖いのはCIA!『自分でものを考える日本人が増えて欲しい』ということを考えさせられた。
小説小野小町
百夜
(高樹のぶ子)

図書館45
(709)

44
平安時代の『六歌仙』のひとり、優れた歌の才に加えて、絶世の美女としても数々の伝説が残る小野小町の一代記。あとがきより「手に入らない高嶺の花を貶めてきたのは、千年を超す男中心の世界で作られた美女零落の物語。罪深きは観阿弥のみならず千年あまりの男たちでしょう・・・。」 これを先駆的に生き抜いた芯の強い歌人であったとして、『古今和歌集』の十八首を中心に小町の人生をたどっている。和歌に疎い私でも平安女流文学に触れた気になる。『うつろうものは、人の心の花』 『この世には、どうにも動かせぬもの在り。されどその動かせぬものに、そのまま従い順ずるを良しとせず』 ひたむきに一途に生きた美しい人生といえるのでは?
囚われの山
(伊東潤)

図書館44
(708)

43
八甲田山遭難事件を題材にしたミステリー、新田次郎の小説や映画とは違いフィクションとして描かれ雪中行軍に参加した兵士が語る事件の経過とその遭難事件を調べる記者の2つの側面から物語は進む。「出版社社員菅原は『八甲田山遭難事件』を取り上げることに、彼は事件の資料を読むうちに、ある疑問に行き当たる。最初の報告書には『死者数200』とされていたのに、後日『199』となっている。軍隊が概数を書くとは思えない・・・。」 軍部による人体実験があったのか?など謎は深まるばかり。雪中行軍のシーンはこちらまで凍えるような迫力がある。どんなときであっても、人間は人間としての尊厳を失わず、どん欲に“生”への渇望を失わないというとことが伝わってくる。
合理的にあり得ない
(柚月裕子)

図書館43
(707)

42
天海祐希主演でTVドラマ化されているが、ドラマを先に観ると先入観が入るので私は原作が先です。「不祥事で弁護士資格を剥奪された上水流涼子はIQ140超の貴山を助手に、探偵エージェントを運営“未来が見える”という人物に経営判断を委ねる二代目社長、賭け将棋で必勝を期すヤクザ・・・など五つのエピソードからなる。明晰な頭脳と美貌を武器に怪人物がらみの『あり得ない』を解決していく」 この著者にしては結構軽くスイスイと読めた。公にはできない揉め事を解決する何でも屋という設定で、裏の仕事を請け負うのは、人を殺めるのではないが“必殺仕事人”を思い出す。面白い!続編も出ている。
荒地の家族
(佐藤厚志)

図書館42
(706)

41
芥川賞を受賞したとは知らずに読みながら何となく芥川賞っぽいなと思ったらやはりだった。東日本大震災から10年後が舞台、残されたものの苦悩を描いている。「あの災厄から十年余り、40歳の植木職人・坂井祐治は、災厄の二年後に妻を病気で喪い、仕事道具もさらわれ苦しい日々を過ごす。地元の友人も、くすぶった境遇には変わりない。誰もが何かを失い、元の生活には決して戻らない。」重苦しい人生の悲しみが伝わり、何か希望はないのか?と思わせる。町の復興だけでは人の心は元に戻らない、『それでも生きていく』という主人公のメッセージがせめてのものj救いなのか・・・。書店勤務の著者は仙台出身で大震災を経験している。
はるか、ブレーメン
(重松清)

図書館41
(705)

40
人生の思い出をめぐる、謎めいた旅行会社に誘われた16歳の少女のひと夏の物語。ちょっと設定が突飛だけれど、読み進むうちにすっかり重松ワールドにはまってしまった。「3歳で母親に捨てられた主人公 16歳の遙香。祖父母に育てられるが、祖父母も亡くなりひとりぼっちに。そんな中、死の直前に見る走馬灯を描き変えることができるという謎めいた会社“ブレーメン ツアーズ”からコンタクトがあり、幼なじみのナンユウ君と一緒にその世界を見ることに・・・」。あたかい物語、テーマは親子。『やってしまったことへの後悔や、やらなかったことへの後悔は誰にでもある。それでいい。人というやつは間違ったことをしてしまったときに、後悔すらしなかったらどうしようもないだろう』。
光のとこにいてね
(一穂ミチ)

図書館40
(704)

39
第168回直木賞候補作・2023年本屋大賞第3位 、=二人が出会った、たった一つの運命、切なくも美しい四半世紀の物語=「本来であれば出会うことのなかった二人 結珠は父親が医者で裕福なお嬢様育ち 一方の果遠は極貧のシングルマザーのもと団地住まい。だが小2で二人は偶然に出会い別れ その後高校で再会しまた別れ そして本州の最南端の地(串本町?)において 30歳手前で3度目の再会を果たす・・・。」 。友情とも愛ともいえない二人の関係性。どうしてみんな一緒に幸せになれなのだろう?ラストは何か切なくて、人生ってこんなものなんだろうかと考えさせれれた。ず~っと心に残るような物語。『好きな色は、夜明けのピンクと夕方のオレンジ』。
罪の境界
(薬丸岳)


図書館39
(703)

38
「渋谷のスクランブル交差点で起きた無差別殺傷事件。突然幸せな生活が一変してしまった被害女性。犯人は母親の育児放棄など劣悪な環境で育ち、母親への復讐目的で事件を起こし、刑務所に入ることを望んでいた・・・」。加害者と被害者の苦悩、ちょっと重いテーマだが一気読み。(犯人に対し被害者が語る)『理不尽な現実に打ちのめされ、自棄になって、意味もなく周りの人を憎んだりもした。だけど罪の境界を越えて私たちはそちら側にはいかなかった。そちら側に行く前にあなたは少しでも頑張りましたか?自分の人生を呪うばかりでなく、何かを変えようとしましたか?』この著者は2冊目だが、人の心の中に潜むのものをうまく描いている。

忍びの副業
上・下
(畠中恵)

図書館
37・38
(702)

37-1・2
忍びは再び輝ける?いつの間に我らは、ただの警護になっていたのだ?滝川弥九郎は甲賀忍びの末裔。かつて戦国の世では、伊賀者と並び勝敗の鍵を握る者だったのに、今や日がな一日、江戸城の警護をするために番所に座っているだけ。忍びの技はひっそりと伝えられているが、それを使って何かをなす機会もない。おまけに上がらない禄を傘張りの内職などで補わなければならぬ始末…。「甲賀いち美人な吉乃の嫁入りが決まり、弟の蔵人(火薬使い)と友人の十郎(曲玉占い師)と弥九郎(四本打鉤使い)の3人をはじめ甲賀の者は婚礼品を買う為金稼ぎをしていた所、次期将軍家基より声をかけられ家基の警護をすることになった。忍の技を使い周りを探り大奥にまで手を伸ばすが、そんな甲賀を良く思わない人達も居て甲賀は家基から手を引きなければならないのか…」 上下二巻にわたる長いお話だが、ダラダラと長いばかりでまとまりがない感じ。狐と狸の化かしあいのような心理戦もあったりして歴史が好きで分かっている人ならもっと面白く読めるかもしれない。
夜が暗いとはかぎらない
(寺地はるな)

図書館36
(700)
36
さまざまな葛藤を抱えながら今日も頑張る人たちに寄りそう、心にやさしい明かりをともす13の物語、2019年の作品。「閉店が決まったあかつきマーケットのマスコット“あかつきん”が突然失踪した。 かと思いきや、町のあちこちに出没し、人助けをしているという。 いったいなぜ?・・・」 。主人公が次々と替わり登場人物があちこちリンクしてるので『コレ誰だったっけ?』 と何度も戻りながら読んだ。生きていくのに順風満帆なんてない、 みんな何かしら苦しみながら生きている。読む人の心に訴えかけてくるようなお話。『誰かの涙を拭いてあげられる子は、きっとだいじょうぶ。生きていけます」。
刑事の子
(宮部みゆき)

図書館35
(699)

35
何となく手に取ったみた。1990年に刊行された宮部みゆきの長編3作目、昭和の推理小説のような本。「13歳の八木沢順は、刑事の父・道雄と東京の下町に引っ越した。友人もでき新しい生活に慣れたころ、町内で『ある家で人殺しがあった』という噂が流れる。そんな矢先、荒川でバラバラ死体の一部が発見される…」 。少年法を逃げ道に使う悪ガキのとんでもない事件。スマホもない時代の話だが古さを感じさせない。想像力を伸ばすことが大切ではないか?これからを担う若い世代に想像力を持てる大人になってもらうにはどうすればいいか?と、問いかけもある。都合のいい展開にはなるが、ライトでサクッと読める。
大人は泣かないと思っていた(寺地はるな)
図書館34
(698)
34
恋愛や結婚、家族の『あるべき形』に傷つけられてきた大人たちが、もう一度、自分の足で歩き出す・・、色とりどりの涙が織りなす連作短編集。とあったら絶対読みたくなる、“川のほとりに立つ・・・”に続きこの著者は二作目だが見つめる目が優しい。「時田翼32歳、農協勤務。九州の田舎町で、大酒呑みの父と二人で暮らしている。趣味は休日の菓子作りだが、父は『男のくせに』といつも不機嫌だ。そんな翼の日常が、真夜中の庭に現れた“ゆず泥棒”との出会いで動き出していく・・・、表題作他6編」、全ての話が繋がっている。『どうせ頭を使うなら、あの時こうしていたらどうなったかな、なんてことじゃなくて、今いるこの場所をどうやったら楽しくするかってことを考えたいのよね』 。
田舎のポルシェ
(篠田節子)

図書館33
(697)

33
ロードノベル3篇、軽トラに20年落ちのボルボそれロケバスの3台が織りなす人生ドラマ 「“田舎のポルシェ”:実家の米を引き取るため大型台風が迫る中、強面ヤンキーの運転する軽トラで東京を目指す女性。“ボルボ”:不本意な形で大企業勤務の肩書を失った二人の男性が意気投合、廃車寸前のボルボで北海道へ旅行することになったが・・・。“ロケバスアリア”:憧れの歌手が歌った会場に立ちたいと、女性の願いを叶えるため、コロナで一変した日本をロケバスが走る」。 『リアエンジン・リアドライブはポルシェとこの車(軽トラ)だけです』と、因みにスバルサンバーらしい(よく調べている)。『ロケバス』は高度成長期の集団就職に触れて最後に哀しみと希望を・・・。どの話ももグッとくる。


天路の旅人
(沢木耕太郎)

32
第74回読売文学賞随筆・紀行賞を受賞。「第二次世界大戦末期、ひとりの日本人の若者が、敵国である中国大陸の奥深くまで潜入した。彼はラマ教の巡礼者に分した“密偵”だった。しかし彼は日本が敗れたあともなおラマ僧に扮し続けチベット、ネパール、インドと、実に8年に及ぶ旅を続けることになる」 強靭な体力と精神力、ラマ教の経典や現地の諸言語を短期間に覚える記憶力、どこへ行っても周りから信頼される人徳、そして何より未知の土地を見てみたいという飽くなき好奇心、一人の人間の力のすごさに圧倒される。
・「日本に還れ」と言う命令に何故そむくことにしたか。それは漢人によって痛めつけれている蒙古続やチベット族やウイグル族を糾合し、中国の奥地に新しい秩序を生み出すという自分の役割がボンヤリと見え始めていたのだ。
・未知の土地に赴き、その最も低いところで暮らしている人々の仲間に入り、働き、生活の資を得る。それができる限りはどこへ行っても生きていけるはずだ。そして自分はそれができる・・・。それは日本の敗戦を知り、深い喪失感を抱いていた西川に、国家という後ろ盾がなくても、一人の人間として存在していけるとう確信が生まれた瞬間でもあった。
西川一三の旅も長かったが、その彼を書こうとする著者の旅も長かった。発端から集結まで25年の時を費やしている。
【蛇足】私のスペイン800k、四国1200kとは比較すべくもないが、自分の足で歩きたくさん人と触れ合うことには何か通じるものがある。
川のほとりに立つ者は
(寺地はるな)

図書館32
(696)
 31
描かれている以上のことを考えさせられる。障害者に対する思い、知らぬ間に誰かを傷つけていること、世の中常に黒か白ではないこと・・など、果たして今までの自分は?「カフェの若き店長・清瀬は、ある日、恋人の松木が怪我をして意識が戻らないと病院から連絡を受ける。松木の部屋を訪れた清瀬は、彼が隠していたノートを見つけたことで、恋人が自分に隠していた秘密を少しずつ知ることに・・・」 見た目からはわからない障害、生きづらさを抱える人たち。人と交わる痛みとその先の希望を描いている。 『みんなが同じ速さでは歩けないということを心から理解できる人になりたい』と。『川のほとりに立つ者は、水底に沈む石の数や形はわからない』 “あなたの明日がよい日でありますように!”
MR
(久坂部羊)

図書館31
(695)

30
タイトルの『MR』とはMedical Representatives(医療情報担当者)のこと、つまり製薬会社の営業である。この仕事がいかに大変なものかを現役の医者が書いている。少し長すぎるが、患者ファーストのMR、儲けしか頭にないMR、医薬業界の裏が透けて面白い。「大阪の中堅製薬会社。その堺営業所所長であるMRの紀尾中は、新薬が高脂血症の『診療ガイドライン』第一選択Aグレードに決定するべく奔走していた。ところが、MR泣かせの医科大学学長からようやく内定を得た矢先、外資のライバル会社による妨害工作が・・」 。『降圧剤には不要なものが多すぎる血圧の基準値を下げたり、無理に動脈硬化の危険をあおったりして薬を飲まそうとするのは製薬会社の社会的責務に反するのではないか』と 。
魔力の胎動
(東野圭吾)

図書館30
(694)

29
『ラプラスの魔女』シリーズの三作目が出たので、二作目が気になった。一作目は2016年に読んでいるが、これはそれの前日譚。「成績不振に苦しむスポーツ選手、息子が植物状態になった水難事故から立ち直れない父親、同性愛者への偏見に悩むミュージシャン。彼等の悩みを知る鍼灸師・工藤ナユタの前に、物理現象を予測する力を持つ不思議な娘・円華が現れる。挫けかけた人々は彼女の力と助言によって光を取り戻せるか?」 そして最後の話が次へと繋がっていく。一作目よりこちらが面白かった。さすが工学部出身の著者、化科学的要素を取り入れうまく不思議な話を作っていく。肩のこらないお話!
クロコダイル・ティアーズ
(雫井脩介)

図書館29
(693)

28
直木賞候補作、『この美しき妻は、夫の殺害を企んだのか?』家族にまつわる“疑心暗鬼の闇”を描く、サスペンス。「老舗の陶磁器屋を営む家族、一人息子の康平が殺された。犯人は、嫁である想代子のかつての恋人。事件の判決直後、被告となった男は、裁判で想代子から“夫殺し”を依頼されたと主張する。犯人の一言で、残された家族の間に、疑念が広がってしまう。未亡人となった想代子を疑う母親と、信じたい父親・・・」 最後まで目が離せない。嫁と姑、人を疑いだしたらきりがない、よくまとまったお話。因みに『クロコダイル・ティアーズ』とは“偽の涙、ウソ泣き”と言う意味。
スキマワラシ
(恩田陸)
図書館28
(692)
カウントせず
462ページのものを206ページまで読んでダウン!何とも話が進展しなくて退屈きわまりなかった、こんなことは初めて。以下、内容を紹介しますので、読んだ人がいたら結末を教えてください。
「古道具を営む兄と、物に触れると過去が見える弟。ある日二人は解体現場で目撃された少女の噂を耳にする。」地方都市を舞台にしたファンタジックミステリー。
夜に星を放つ
(窪 美澄)

図書館27
(691)
27
直木賞受賞作。哀しく切ないながらも『人の心の揺らぎが輝きを放つ五編』とあった。「“真夜中のアボカド”婚活アプリで出会った恋人との関係・・・、人が人と別れることの哀しみ。“銀紙色のアンタレス”16歳になった真は田舎のおばあちゃんの家で幼馴染みの朝日と夏休みを過ごす。“真珠星スピカ”学校でいじめを受けている女子中学生と亡くなった母親の幽霊との奇妙な同居生活。“湿りの海”離婚した妻と娘はアメリカにわたった、傷心の沢渡はシングルマザーと出会い・・・。“星の随に”父の再婚相手との微妙な溝を埋められない小学生の寄る辺なさ」。ハッピーエンドじゃないけど最後は少し前向きになれる、どれも胸に沁みる物語。
覇王の轍
(相場英雄)

図書館26
(690)
26
『震える舌(2012)』『ガラパゴス(2016)』『アンダークラス(2021)』に続くシリーズのスピンオフ。「警察キャリアの樫山順子は、北海道警捜査二課長に着任。歓楽街ススキノで起きた国交省技官の転落事故と道内の病院を舞台とした贈収賄事件を並行して捜査するなか、“独立王国”とも称される道警の悪慣習、そして両事件の背景に、この国の鉄道行政の闇が広がっていることも知る・・・」 今まで食品偽装、非正規労働の闇を暴いた筆者が、今回は鉄道行政のタブーに踏み込んだ。政治家、官僚、企業、利権に群がる蟻たちの話。官房副長官に警察官僚出身をあてるとこんなことに・・・、安倍政権が何故杉田官房副長官を優遇したか?ホントに怖い話。
教誨
(柚月裕子)

図書館25
(689)
25
女優の黒木瞳が『哀しい物語ではあるけれど、罪と罰の神髄を見た気がしてこころが震えた』と言っている。まさに魂が震えるとはこんなことかと思った、読後しばらくボーッとなった。「幼女二人を殺害した女性死刑囚が最期に遺した言葉――“約束は守ったよ、褒めて” 吉沢香純と母の静江は、遠縁の死刑囚三原響子から身柄引受人に指名され、刑の執行後に東京拘置所で遺骨と遺品を受け取った。響子は10年前、我が子も含む女児二人を殺めていた。」 真実と事実は違う。響子が犯人であることは事実だが、事件の真実はどこに・・・。響子の生い立ちは同情する点が多くて何ともやりきれない気持ちになる、切ないお話。
わかれ縁
(西條奈加)

図書館24
(688)
24
この著者の人情ものはいい、ホッコリする。物語は、今で言う、弁護士・行政書士の類か?公事宿を中心に展開。「浮気と金の無心ばかり繰り返す亭主と別れたい絵乃は、亭主が離縁に応じず行き詰まっていたところ公事宿の椋郎と出会う。依頼人として彼の勤める狸穴屋に駆け込むが、成り行きで手代として働くことに。親の離婚を望む幼い兄弟や嫁姑の板挟みの侍、子を取り合う両親など様々な客の依頼を受けて解決するなかで、絵乃は手代として成長していく。やがて・・・」 女の人からは離縁できなかった時代の話、虐げられた女性がどうしたら安心して暮らせるようになるか、公事宿の活躍で安心して生きていけるように、読みながら思った。
悲愁の花/
仕立屋お竜
(岡本さとる)
図書館23
(687)
23
シリーズ第2作“地獄への案内人”、今回は「①隠居の文左衛門が恨んでいる功助という男の探索とその後の人生。功助が育てる娘を狙う人攫い②ならず者の長太と粂三の更生と大物盗人逮捕、盗品密売の悪党の壊滅③文左衛門が日光街道で目撃したレイプ犯の成敗④勝之助の元同門・北原雄三郎との再会と純情・・・」 前作同様肩がこらず、都合よく話が進むので安心して読める。お竜が男の気持ちはわからないと言うが、それが事件を複雑にするところも興味深い。刃傷沙汰もあれば人情ものもあって面白いお話。シリーズ化されるのかな?
鷹の系譜
(堂場 瞬一)

図書館22
(686)
22
“日本の警察”平成編。前3作で活躍した二人の刑事の道を継いだ息子たちの物語。「昭和天皇が崩御し、昭和の時代が終わりを告げた日に起きた殺人事件。 高級マンションに住みポルシェを乗り回す被害者に見え隠れする、極左の過去。 バブル景気の拝金主義に浮かれる世で、思想活動は衰退の一途をたどる。 その交錯点で起きた事件を、二人の刑事が追う」 このシリーズの特徴、捜査一課と公安との確執。その息子たちが全く同じ道を歩いているので時々父親たちと重なってしまう。時代と共に極左の世界というか、日本人たちの考え方も変わって行くのがよく分かる。『刑事は地べたを歩き回る仕事だけど、実際は空から全体を見る視点を持たなければいけない。鷹になれってさ。』
ロスト・ケア
(葉真中顕)

図書館21
(685)
21
2012年にミステリー文学大賞新人賞受賞を受章、映画化される。単なるミステリーものではない、介護現場の有り様を余すところなく描いた群像劇・社会派ミステリー。彼は何故42人を殺したのか?「大量殺人を犯した犯人が、死刑を宣告される場面から始まる。なぜ“彼”は殺人を犯したのか、そして“彼”とは誰なのか。介護をめぐって物語は進む。介護する側とされる側、一部の者だけの安全地帯。地獄のような介護の現状・・・」。すごい!以下ネタバレ『介護の負担が重く本人も家族も苦しんでいる者を殺した“ロスト・ケア”と名付け、殺人であると同時に介護であり本人と家族のために殺した』と、尊厳死、安楽死を含んだ高齢化社会の仕組み・・・、介護保険法いったい誰のためなの?
リバー
(奥田英朗)

図書館20
(684)
20
650ページの長編、しかも群像劇ときているから登場人物が多いし、舞台も二つの県をを行ったり来たりで大変、それでも一気読み。「群馬県と栃木県の県境を流れる渡良瀬川の河川敷で相次いで女性の死体が発見される。10年前の未解決事件と酷似した手口が街を凍らせていく。かつて容疑者だった男。乗り調べをした元刑事。娘を殺され、執念深く犯人捜しを続ける父親。若手新聞記者。一風変わった犯罪心理学者。新たな容疑者たち・・・」 。多種多様な登場人物に人間の業と情を見せつけられる。『ネットの話になると全員が暗くなった。そこに書きもまれる文言や、アップされた猟奇的な画像に人間の悪意と心の闇を見せつけられ気分がめいるのである』。
仕立屋お竜
(岡本さとる)

図書館19
(683)
19
著者は『新必殺仕事人』などの脚本を書いている。と言うことで本作もその系列 、表の顔は腕の良い仕立職人、裏の顔は達人に仕込まれた剣術で悪を成敗する“地獄への案内人”シリーズ第一弾 「暗い過去を持つお竜が老舗の呉服屋鶴屋の仕立屋として長屋で暮らす。ここに辿り着く前、怪我を負った竜を救い、武芸の素質を見出し指南してくれた師匠により新しく生まれ変わったのだ。女を食い物にする悪人を始末する地獄の案内人とし文左衛門、勝之助と共に仕事をしていくことに」 まるでテレビを観ているような展開でわかりやすい。今回は登場人物紹介という感じ次回作に期待。
栞と噓の季節
図書館18
(682)
18
『本と鍵の季節』の続編、今度は長編。「高校図書委員の次郎と詩門、二人は図書室の返却本の中に、トリカブトの花の栞を見つける。校舎裏でトリカブトが栽培されているのを発見する。そして、ついに男性教師が中毒で救急搬送されてしまった。誰が教師を殺そうとしたのか。次は誰が狙われるのか?嘘をついて近づいてきた同学年の女子・瀬野とともに、二人は真相を追うことに・・・」 登場人物の語る話に嘘が混ざってるから、一瞬たりとも気が抜けなくて、見落とさないように必死に読まねばならない。それなりに面白く読めたが、トリカブトを閉じ込めた栞を“切り札”として、身を守る最後の手段としたという設定はちょいとよく分からなかった。
沃野の刑事
(堂場瞬一)

図書館17
(681)
17
シリーズ最後、1970年が舞台。定年前に自分達が考えてきた正義に迷う。個人を守る正義か?国家を守る正義か?「公安と捜一、二人の友人の息子が自殺した。戦前戦中戦後と生きた3人。汚職事件に巻き込まれた愛息の自殺を機に自分たちの正義を振り向き、定年間近に迫ったこの時、自分たちの生き様を思う・・・」 。実際に起きた事件も出てきて昭和の様々な事件の歴史を思い出す。『検察が信じる正義は法律なんだ。が法律の意味合いは時代や社会によって変わってくるから、法律に依存する普遍の正義は存在しない。俺たちの信じる正義は人間がいて国家がある以上意識せざるを得ない正義だ』 次回作?はその息子たちが父と同じ道を歩いている。
ザリガニの鳴くところ
図書館16
(680)
16
映画を見た後で原作を読んだのは初めてかな?映画のラストが気になっていたのでどうしても読みたくなった。映画よりはるかに原作の方がよかった(結末は分かっていても引き込まれた)「差別や偏見が大手を振ってまかり通っていた時代に、家族に恵まれず、“湿地の少女”として生きることを余儀なくされた少女が、自らの人生を全うした」 お話(内容は2022年cinemaをごらんください)。ミステリ-、湿地の自然、人種差別、フェミニズム、ケアされない子どもたちなど、いろんなテーマを内包する本。読んだ人がラストをもう一回読み直したと言っているが、ホントに『え~っ』と言いたくなるような驚愕のラスト!かなりの長編、読み応えがあった。
動乱の刑事
(堂場瞬一)
図書館15
(679)
15
シリーズ第二弾。時代は前作から7年後の昭和27年。「東京都内の駐在所が爆破された。死者は二名。ひとりは駐在巡査、もうひとりの身元は不明。刑事の高峰は、共産党過激派の関与を睨むが、秘密主義の公安から情報が流れず、捜査は難航する。高峰は、親友で公安に所属する海老沢に協力を仰ぎ、共同戦線を張って真相に近づこうとするが・・・。」 個人への犯罪として捜査する捜査一課に対し、事件を利用し過激派の瓦解を目論む公安という相反する立場が、ふたりの関係に影を落としていく。二人が寄って立つ正義は個人を守るか?国家を守るか?交わることはあるのか・・・戦後警察の光と闇。すっきりしない終わり方、次に期待しよう。
一人称単数
(村上春樹)
図書館14
(678)
14
春樹ワールド、満開!「石まくら、 クリーム、 チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ、 ヤクルトスワローズ詩集 、ウィズ・ザ・ビートルズ、 謝肉祭、 品川猿の告白一、人称単数」の短編8編からなる。分かったような分からないような・・・。どうしたらこんな話を思いつくのか、と不思議に思ってしまう。ストーリーも、表現も、奥行きがあり、深く心に届いたようで?でも、わからない。『歳をとって奇妙に感じるのは、自分が歳をとったということではない。驚かされるのはむしろ、自分と同年代であった人々がもうすっかり老人になってしまっている・・・。とりわけ美しく溌剌としていた女の子たちが・・・』 因みに一人称単数とは“話し手 ( 自分 ) 自身の こと”を言う。
カケラ
(湊かなえ)

図書館13
(677)
13
明るく運動神経もよかった少女は、何故死んだのか?『美容整形をテーマに、外見にまつわる固定観念や、人の幸せのありかを見つめる、心理ミステリ』と、面白い!「美容外科医の橘久乃は幼馴染みの志保から“痩せたい”という相談を受ける。カウンセリング中に出てきたのは、太っていた同級生・横網八重子の思い出と、その娘が自殺したという情報だった。少女の死をめぐり、食い違う人びとの証言と、見え隠れする自己正当化の声・・・」 人々の証言からなる著者らしいストーリー展開。美容、教育、家庭の有り様を痛烈に描き出している。『全ての人が、他者を外見で判断するのではなく、内面に目を向けるようになれば、もっと生きやすい世の中になるのでは』。
ハヤブサ消防団
(池井戸潤)

図書館12
(676)
12
企業小説でも経済小説でもない、そして舞台は田舎の町(著者の出身の岐阜八百津地区が舞台?)そこで起きる連続放火事件 「ミステリの賞を受賞したものの、あまり売れていない三馬太郎は、亡き父親が住んでいた、中部地方の田舎町の家に引っ越しをする。その八百万町ハヤブサ地区で、誘われるまま消防団に入った太郎。しかし、そこでは不審な火事が続いていた。これは放火なのか、だとしたら誰が何のために?」 。長閑な田舎暮らしから一転、サスペンス・ミステリーへの急展開。初めはダラダラ感があるが後半は一気読み。新興宗教が絡み事件は複雑化するがわかりやすい。今の時勢に合っているのもTVドラマ化される一因かも・・・。
焦土の刑事
(堂場 瞬一)

図書館11
(675)
11
昭和を舞台に『日本の警察』を描くシリーズ第一弾。「1945年。B29による空襲、防空壕の中で女性の遺体が発見される。空襲による無数の遺体と目の前のたったひとつの遺体。捜査を進める京橋署刑事の高峰は署長から殺人事件のもみ消しを言い渡されるが、また殺人が起きる」 8月15日を跨ぐ事件と戦前戦後の混乱期を舞台に、何が正義なのかが問われる。戦争とは戦場に行った人も、残った人も 心を殺してしまうと言う残酷さがひしひしと伝わる。『表現の自由を奪っていたのは間違いない、戦前自分たちは様々な方法で国民を戦争に導いてきた。もちろん警察が戦争をしたわけではないが、国民の“気分”を戦争一色に染め上げる下地を作った』。
とあるひととき
(浅田次郎他)

図書館10
(674)
10
14人の作家が、“朝”“夕暮れ”“午後十一時”のひとときに何を思うかを綴ったエッセ-。14人(三浦しをん、道尾秀介、西加奈子、角田光代、重松清、川上未映子、森絵都、池澤夏樹、綿矢りさ、吉本ばなな、高橋源一郎、村山由佳、小川洋子、浅田次郎) のうち読んだことのない作家は一人だけだった。わずか5ページに各作家の思い出が凝縮されていて、読後はほんわかと幸せな気分になった。年取って朝型になった私には“朝のひととき”が面白かった、作家は夜型と思うがそうではない人もいる。角田光代さんは『朝が短いと損したと思うのである。遅く目覚めたときには大切なものを失った気持ちになる。』と言っているが私もその通り。
麦本三歩の好きなもの/第二集
(住野よる)

図書館9
(673)
9
ほんわか気分になるシリーズ第二集、今回は三歩に後輩ができる。「新しい年になって、麦本三歩にも色んな出会いが訪れた。真面目な後輩、謎めいたお隣さん、三歩に興味がなくもなさそうな合コン相手。そして、怖がりつつも慕ってきたひとりの先輩にはある変化が・・・!」 マイペースな彼女の、相変わらずだけどちょっとだけ新しい日々、それに今回家族の話も出てくる。何とも微笑ましい生き方、気持ちが癒やされる。『明日は今日よりもちょっと頑張れたらいい、もし出来なかったら明後日でいいや。明々後日も恐らくまだ生きているから大丈夫』 と、自分の近くにこんな子がいたら、優しい先輩や後輩たちのように振る舞うことができるかな?
燕は戻ってこない
(桐野夏生)

図書館8
(672)

8
『砂に埋もれる犬』と似てネガティブなタイトル。今回、生殖医療が扱われている 「北海道での介護職を辞し、憧れの東京で病院事務の仕事につくも、非正規雇用ゆえに困窮を極める29歳女性・リキ。心身ともに疲弊する生活の中で、『いい副収入になる』と同僚に卵子提供を勧められ、ためらいながらクリニックに赴くと、代理母になることを持ち掛けられた。代理母を依頼したのは、自分の遺伝子を受け継いだ子が欲しいと望む著名な元バレエダンサーとその妻・・・。」 代理出産したリキの心の動きや回りの反応、社会の中の格差がどんどんひどくなっていく中、女性の生き方が女性の目で描かれている。読みながら少しきつかったけど一気読み。毎日芸術賞受章!
山岳捜査
(笹本稜平)

図書館
7(671)

7
後立山を舞台にした山岳ミステリ 「長野県警山岳遭難救助隊に所属する桑崎祐二は、鹿島槍北壁からの下山途中、谷あいに倒れている人物を発見する。すでに死亡していたその女性の首には、索条痕と吉川線があり、他殺死体だと認められた。しかし桑崎らをヘリコプターに収容する直前、雪崩が発生し、死体は飲み込まれてしまう。桑崎は、死体を発見する前日、同じ場所で不審な三人組を目撃していた・・・」 謎解きも面白いが、救助活動の様が凄い迫力で迫ってくる。私には絶対にできないがこんな過酷な世界もあると言うことに納得。『救助隊は生きた人間を救うために全力を尽くし、捜査一課は死んだ人の魂を救うために尽くす』 人間とは?
残照の頂
(湊かなえ)

図書館
6(670)

6
最高!山の好きの人にはたまらない“続・山女日記”。NHK『山女日記3』の原作。「後立山連峰:亡き夫に対して後悔を抱く女性と、人生の選択に迷いが生じる会社員。北アルプス表銀座:失踪した仲間と、ともに登る仲間への、特別な思いを胸に秘める音大生。立山・剱岳:娘の夢を応援できない母親と、母を説得したい山岳部の女子大生。武奈ヶ岳・安達太良山:コロナ禍、30年ぶりの登山をかつての山仲間と報告し合う女性たち。」 どの話も背負う人生の重みを感じジーンとくる、そして山の素晴らしさが身に沁みる。『山は、あそこにも、ここにも、向こうにも、精一杯生きている人がいることを教えてくれる。しんどいのは自分だけじゃない』 と。登った山が舞台になっている。
モナドの領域
(筒井康隆)

図書館
5(669)
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「河川敷で発見された片腕はバラバラ事件の発端と思われた。美貌の警部、不穏なベーカリー、老教授の奇矯な振舞い、錯綜する捜査…」という展開。宗教と神、人間を結ぶ繋がりとは?それにキリスト教国やイスラム教国と違う日本の宗教観とのギャップなど、何ともわかりにくい・・・不思議なお話。『世界中の人間が自分たちと同じものを祈ることを願って戦争をする。自分たちと同じ神を信じるのでなければ、お前達もお前達の神も死んでしまえと殺しあいをする。ところがこの国は今はほとんど無宗教の国だからそんなことはない。もともと八百万の神のいる多神教の国だし、仏教もあればキリスト教もありオウム真理教まであったとうほぼ無宗教に等しい・・』
儚い羊たちの祝宴
(米澤穂信)

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横溝正史、江戸川乱歩それにポーを彷彿とさせる暗黒ミステリー。少しづつ繋がっている五つの物語「身内に不幸がありまして:夢遊病を恐れる使用人の女の子とお嬢様の吹子の話。北の館の罪人:母を亡くし行き場の無くした女の子が母の最後の指示でお金持ちの館へ行き、そこの妾だったことを知る。山荘秘聞:辺鄙な場所にある別荘の管理人をしてる女が人のお世話をしたいがために人殺しする話。玉野五十鈴の誉れ:お嬢様と使用人五十鈴の友情の話。儚い羊たちの晩餐:読書会・バベルの会を除名された女が料理人厨娘にバベルの会の女の子たちを調理するよう命じる」 どれもこれもゾッとする怖い話。よくこんな話を思いつくものだ。
此の世の果ての殺人(荒木あかね)
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著者は九大文学部卒の23歳。“江戸川乱歩賞”史上最年少、満場一致で受章。「2022年9月、小惑星が日本(熊本の阿蘇)に衝突することが発表され、世界は大混乱に陥った。そんなパニックをよそに、小春は淡々とひとり太宰府で自動車の教習を受け続けている。年末も押し迫った頃、教習車のトランクを開けると、滅多刺しにされた女性の死体を発見する。教官で元刑事のイサガワとともに、地球最後の謎解きを始める・・・。」 読んでいて思う、地球が滅ぶって言うのに、何だって自動車学校?殺人?極限状態で生きていく人間たちが何ともおかしい!舞台が太宰府から福岡市内、糸島そして阿蘇と馴染みの場所ばかり。糸島の牡蠣小屋も出てくるよ。
われら闇より天を見る
(クリスウイタカー)

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英国推理作家協会賞最優秀賞ほか、日本でもミステリーベスト三冠を獲得している。「30年前にひとりの少女が命を落とした事件は、今なお町に暗い影を落としている。 自称無法者の少女ダッチェスは、30年前の事件から立ち直れずにいる母親と、まだ幼い弟とともに世の理不尽に抗いながら懸命に日々を送っていた・・。」 翻訳物で500ページを超える長編、読み応えのある物語だった。原題は“We Begin at the End(終わりから始める人々の物語)”となっておりミステリーと言いながら重厚な人間ドラマにもなっている。真相に近づくと切なく哀しい。『人は誰でも過ちを犯す。どうすれば赦されるのか。どうしたら罪の意識から解放されるのか』 。
赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う(青柳碧人)
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『白雪姫』『ハーメルンの笛吹き男』『三匹の子豚』…をベースにした赤ずきんが謎を解く連作ミステリ第二弾。赤ずきんに相棒ができた、その名はピノキオ!「賢い女の子赤ずきんはピノキオの左腕を拾う。攫われてしまったピノキオの体を取り戻し人間にしてあげることは出来るのか?“目撃者は木偶の坊”:おやゆび一座、空飛ぶスイカ。“女たちの毒リンゴ:7人の小人と暮らす白雪姫、鏡が映し出すものとは。”ハーメルンの最終審判”:ブレーメンの音楽隊、ロバ・犬・猫、ハーメルンで遭遇した事件とは。“なかよし子豚の三つの密室”:三匹の子豚、藁の家、木の家、レンガの家で密室殺人事件が・・・」 よくできたお話、前作に続き気軽に読める。

2023年book ランキング 
 1 位 天路の旅人
 2 位 サドンデス
 3 位 川のほとりに立つ者は
 4 位 ザリガニの鳴くところ
 5 位 コメンテーター
 6 位 イクサガミ 天
 7 位 街とその不確かな壁
 8 位 木挽町のあだ討ち
 9 位 しろがねの葉
10 位 覇王の轍
11 位 ロスト・ケア
12 位 魔女と過ごした七日間
13 位 残照の頂 続・山女日記
14 位 われら闇より天を見る
15 位
16 位 BT’63(上・下)
17 位 蒼天の鳥
18 位 水を縫う
19 位 黒石 新宿鮫Ⅻ
20 位 さよならの儀式
21 位 #真相をお話しします
22 位 可燃物
23 位 霜月記
24 位 ちぎれた鎖と光の切れ端
25 位 鈍色幻視行
26 位 囚われの山
27 位 クスノキの番人
28 位 屋上のテロリスト
29 位 長い長い殺人
30 位 はるか、ブレーメン
31 位 小説小野小町 百夜
32 位 墨のゆらめき
33 位 光のとこにいてね
34 位 レーエンデ国物語(1)
35 位 罪の境界
36  教誨
37 位 大人は泣かないと思っていた
38 位 夜が暗いとはかぎらない
39 位 夜に星を放つ
40 位 合理的にあり得ない  合理的にあり得ない2
41 位 ノウイットオール
42 位 変な絵
43 位 田舎のポルシェ
44 位 リバー
45 位 荒れ地の家族
46 位 ハヤブサ消防団
47 位 燕は戻ってこない
48 位 クロコダイル・ティアーズ
49 位 沃野の刑事
50 位 動乱の刑事
51 位 焦土の刑事
52 位 鷹の系譜
53 位 遠火
54 位 ロータスコンフィデンシャル
55 位 時空旅行者の砂時計
56 位 小説・日本の長い一日
57 位 MR
58 位 わかれ5
59 位 カケラ
60 位 魔力の胎動
61 位 仕立屋お竜
62 位 悲愁の花/ 仕立屋お竜
63 位 忍びの副業(上・下)
64 位 一人称単数
65 位 刑事の子
66 位 山岳捜査
67 位 此の世の果ての殺人
68 位 赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。
69 位 栞と嘘の季節
70 位 麦本三歩の好きなもの 第二集
71 位 儚い羊たちの祝宴
72 位 モナドの領域
ランク外 否定しない習慣
とあるひととき(14人の作家)
ソニー デジカメ戦記 もがいてつかんだ「弱者の戦略」
途中で挫折 スキマワラシ(恩田陸)
手紙(ロシアの作家、ミハイル・シーシキン)

                         ※はノンフィクションです。