でこぼこ石みっけ! イラストレーター・絵本作家 永田萌 昨日、新しい絵本の入稿をすませたばかりだ。もう何冊目になるのかな。私の公式プロフィールには「百冊を超える絵本を出版し」とあるから、今度の絵本は百何番目かの本になるんだと思う。 本のタイトルは「でこぼこ石みっけ!」。文章の作家は山内玲乃(アキノ)ちゃんという小学校六年生の少女だ。アンデルセンのような過去の作家から現代の作家まで、たくさんの童話作家とコンビを組んで本を作ってきたけれど、玲乃ちゃんは最年少パートナーだ。しかも驚いたことにこの作品は人権をテーマにした童話の公募の最優秀作だとか。 お話しの主人公はおそらく作者と同年齢くらいの洋子ちゃんという女の子。洋子ちゃんは悩んでいた。 それは学校で水玉もようのリュックが大流行になって、あっという間に「水玉グループ」ができあがってしまったことが事件のはじまり。洋子ちゃんは実は水玉もようのリュックがあまり好きじゃなかったのだけど、仲間はずれになるのがこわくて、なんとなくみんなといっしょになっていた。そんなときミチちゃんという女の子が「わたしは花もようが好きなの」ときっぱり言い切ったものだからたちまち仲間はずれにされてしまった。 洋子ちゃんはミチちゃんの力になってあげる勇気もなくて、そのことがずっと心にひっかかってユーウツだった。 夜空を見上げてためいきをついていると流れ星がすーつと尾を引いて飛んで行く。あわてて「デザイナーになれますように」と願い事をすると、あら不思議、洋子ちゃんは記念の番号、七七七七人目の「流れ星に願いをかけた人」だったらしく宇宙船に乗ってのクローン星ご招待の券が当たってしまった。 クローン星はその名の通り誰も彼も同じ洋服を着て、同じ家に住んでいる。 「こんなの変だわ」洋子ちゃんは指導者のダイヤさんに抗議をして、ファッションショーを開いてみんなにそれぞれ似合う服を着てもらうことになった。さてショーの当日、みんなはびっくり、そして大喜び。「ひとと違うってこんなにすてきなことだったんだ」それに気付いたダイヤさんは洋子ちゃんにお礼を言ってこう宣言した。 「これからはクローン星をコ星に改めましょう」 わたしが思うにこの一行が審査員一同の心をキャッチしたんだろうな。だってわたしもはじめて読んだとき、この箇所でプッと吹き出したもの。のどかでいいユーモアセンスだ。 さておみやげにキラキラ輝く宝石をもらって洋子ちゃんたちは地球にもどって来るのだが、部屋に着くとなんということでしょ、あの宝石はただのでこぼこ石に変わってしまった! でも洋子ちゃんは自分に大切な思い出をくれた記念の石としてこのでこぼこ石をだいじにしようと思う。そして明日は自分の好きな星もようのリュックを背負って、ミチちゃんといっしょに登校しようと決心して眠りについたのだった。おしまい。 わたしは自分で文章も書いて絵も描くという絵本作りを何度もしてきたけれど、こんな風にさし絵だけ担当する機会もけっこう多い。 アンデルセンのような名作童話から今回のような創作童話まで、たとえ歴史上の大作家であろうと、小学生の少女であろうとさし絵画家であるわたしの姿勢は同じ。いかに文章のすばらしさ楽しさに絵が寄り添えるか、そのことだけに力を尽くす。 文章には文章でなくては表現できない世界がある。そこに絵が添えられるなら、やはり絵でしか伝えられない部分をになう覚悟を求められる。 わたしはさし絵が得意な画家ではないけれど文章のすばらしさをより強調できるような絵を描こうとすることは好きだ。 今回でも主人公の洋子ちゃんはどんな顔立ちでどんな髪型で、どんな洋服を着ているのだろう。クローン星人はどんな姿をしているのだろう?クローン星はどんな風景なのだろう?そんなことをずっと考えながら絵を描いてきた。毎日毎日同じ世界にいて絵を描き続け、それが最後の一枚になる頃、ふと「このままやめたくないな」と思う。 楽しい遊びを「もうやめなさい」と止められるようで「いやだ」と駄々をこねる子どもみたいな心境になる。そんなことをくりかえして、百冊以上の絵本を描いてきた。 つくづく幸せな仕事をさせてもらっているなと思う。 終わり |