行革の教訓NZに学ぶ(「競争」に落とし穴) ・・・「国民の利益」考えて・・・ 元ニュージランド・オタゴ大学 大河内洋佑 ニュージランドで郵便事業の民営化などに代表される行革への取り組みが行われたのが84年の労働党政権時代から。金融自由化、補助金と諸規制の廃止、税制改革がまず最初で、次に87年からは教育改革、医療改革、地方自治改革への取り組みも行われた。 ********** ニュージーランドの行革は「壮大な実験」ともいわれた。市場原理を積極的に導入して新しい社会経済システムを構築したわけだが、要するに公共サービスの民営化と、競争政策の徹底的な導入を実現したのだ。 たとえば、国公有資産の売却だが、国有鉄道、郵便局の貯金業務、銀行、電話、国有航空、林野庁などが、米国、オーストリアなどの外国資本に売却された。 公立病院や国立研究所などは、国や自治体が株を持つ企業として再編され、郵便業務も自由化され7割の郵便局は民間委託された。 通行権を入札制にしたバスは不採算路線が廃止され、人口80万人の南島では高齢者や子どもの足が奪われた。 郵便局の民間委託では、プライバシー保護の問題や、過疎地への配達回数の減少などが問題になった。 ********** また、民営化された団体では「優秀な経営者を雇うため」という名目のもと、経営者の賃金が大幅に引き上げられる一方、公立病院では利益第一の経営方針からさまざまな弊害が生まれた。 「手術数は予算によって制限されたり、緊急でない手術は2年待ちなどということが普通になった。それらの治療を受けたいと思えば、私立病院に行かなければならないが、その私立病院の執刀医が、アルバイトで来ていた公立病院の医者だったという笑えない話もある」 ********** 一方で、税制改革が行われ、所得税の段階の簡素化と引き上げが行われたが、これについても「一見、減税にみえるが消費税が増額されたうえ、各種の控除が無くなったので、低中所得層には事実上の増税になった」それに加え、海外送金などの自由化が進むと、大企業は税金の低い海外のタックスヘイブンに逃避したため、ニュージーランドの企業税収は激減した。 こうした「失敗」の部分はあまり海外には伝えられていない。「80年代のニュージランドの改革は、一言でいえば民意を伴わない、政策上だけのものだった。イデオロギーだけで市場主義を押し進めると、そこから墜ちこぼれた人たちへのケアがおろそかになる。安全ネットの整備が不十分な日本で、似たような行革をこのまま推進すれば、必ずもっと大きな影響が一般の人々の生活に生じるだろう」 ********** こうした指摘はニュージーランド国内でもあった。オークランド大学のジェーン・ケルシー教授は96年に「(今回の行革は)まず改革の理論があって、それにニュージーランドを無理に適合させようとした。その結果、特定の分野、企業家などにはプラスになったが、社会全般には混乱を招いた」と厳しく批判している。 ********** 「ニュージーランドの改革は、経済効率を第一にしており、社会的コストについて全く配慮されていない点が問題だった」。貧困の差が広がることで、犯罪が増えたり、社会の安定が損なわれたが、それはたとえば貿易収支のようなマクロ経済の数字には反映されない。 「大金持ちが100万円損をするのと、私たちが100万円損をするのは全く違うと思いませんか」 ********** 行革は究極には国民の利益となる着地点を目指すものだ。ロードマップ通りに進めようとする今の政府に、果たしてこのような視点はあるのだろうか。 終わり |