???? 敗者復活のできない日本社会 ???

産経新聞論説委員:石川荘太郎

 

最近、異常とも思えるほど未成年者の凶悪犯罪が立て続けに起きている。佐賀県の西日本鉄道高速バス・ハイジャック事件の犯人は17歳の少年だった。埼玉県狭山市内の雑木林で県立越生高校2年、大山智之君をリンチ殺害したのはいずれも16歳の少年、少女3人だった。

こうした未成年犯罪の原因についてはさまざまな議論が行われている。親の子育てに原因があるとか、暴力シーンがふんだんに出てくるアニメの影響ではないかとか核家族・少子化も無関係ではないとかいった議論である。恐らくいろいろな要因が重なりあって、ティーンエイジャーを凶悪犯罪に走らせているのだろう。現在の日本の教育システムにも、問題があることは確実だ。それについて昨年ユニセフ(国連児童基金)が興味深い報告書を出していることは余り知られていない。

ユニセフでは毎年、「世界子供白書」を発行しているが1999年版は「教育」がテーマになっていた。

ちょっと横道にそれるが現在、世界には読み書きのできない人が8億人以上いるほか、就学年齢に達しても学校に通っていない児童が1億1千3百万人もいる。そのためユニセフでは2015年までに?世界中のすべての児童が学校教育を受けられるようにする?8億人以上いる読み書きのできない人の数を50%減らす・・・ことを目標に掲げている。

その「世界子供白書」1999年版に、世界の三つの悪い教育システムの一つとして日本の例が挙げられているのだ。少し長くなるが引用してみよう。

白書は「明らかに今、基礎教育として通用しているものの多くが不適格である。次の例がその事実を明らかに示している」と前置きして次のように書いている。

「日本では子供は幼稚園のときから、より良い社会的地位を求めて果てしなく厳しい中で成長する。これは教育機関がその名声に従って上から下まで序列をつけられているためで、学校の名声は<より良い><有名>な大学や大企業に入る卒業生の数で決まる。ほとんど非人間的ともいえる忍耐力や克己心を身につけたものものだけが出世することができる。子供は学校を中途退学したら社会的に存在価値がなくなるかもしれないことをよく知っている」

ちなみに他の二つの例はアフリカのザンビアと南米のブラジルだ。ザンビアでは子供は毎日平均数キロを歩いて通学するが、食事もせず、疲れ、栄養不足や栄養不良で学校に着いても学習に集中できないという。またブラジルでは公立小学校の教室は、生徒にやる気をおこさせるような場所ではなく、基本的な教材もなく、無気力な生徒であふれているそうだ。

ワーストスリーに入れられることにはいささか抵抗を覚えるが、日本の偏差値教育がそれだけ悪名高いということなのかもしれない。

西日本鉄道の高速バスをハイジャックした17歳の少年は中学時代にいじめにあい、階段から飛び降りて腰を痛めたため、希望の高校には進めなかったという。また狭山市で大山君をリンチ殺害した3人のうち、16歳の少年二人は高校に進学できずアルバイト工員、アルバイト作業員として働いていた。

そこには「子供は学校を中途退学したら社会的に存在感がなくなることをよく知っている」という「世界子供白書」のいうような事情があったのかも知れない。

日本社会について欧米でよく聞く意見は「日本では敗者復活ができない」というのものだ。一度失敗すると落伍者の烙印が押され、金融機関などからも相手にされなくなるケースが多い。

米国では大学を卒業しても大企業に入らず、数人でベンチャー・ビジネスを興すものが少なくない。そのベンチャー・ビジネスが失敗しても、米国社会にはそれを受け入れる度量があり、若者たちは敗者復活戦に挑むのだ。日本でベンチャー・ビジネスが育たない理由の一つが、この社会風土の違いにあることは間違いない。

前にも書いたように、未成年者の犯罪にはさまざまな要素が絡んでいるはずだ。だが高校に進学できなかったから、希望の高校に入れなかったからというのが理由の一つだとすれば、大いに考えなければならない問題だと思う。

―了―