賢者の贈り物

O.ヘンリー

(小柳麻里子)

舞台はニューヨーク。貧しい若い夫婦ジムとデラの物語です。

若い二人は互いに深く愛し合っていましたが、もうすぐクリスマスだというのに、プレゼントを買うお金がありません。

愛し合っている二人だけに、相手を喜ばすような贈り物をすることができないことを、二人ともとても悲しく思っていました。

ところで、この貧しい二人には、ひどく自慢にしている品物が二つありました。一つは、ジムの懐中時計で、祖父から父へ、父から彼へと譲られたものでした。

もう一つは、デラの髪の毛でした。その髪は褐色の滝のようにキラキラと波打ちながら、彼女の腰の下まで垂れているのでした。

デラは、しばらくの間、鏡の中で自分の美しい髪をじっと眺めていましたが、意を決したように、ドアの外へ飛び出していきました。彼女の目的は、かつらを売るお店でした。

「あたしの髪を買っていただけますか」

「帽子を脱いでちょっと見せてごらんなさい」と店主。「買いましょう」

その2時間後、デラは店から店へとジムに贈るプレゼントを探して歩きました。

やっと見つかりました。

それはあっさりした上品なデザインのプラチナの時計の鎖で、ジムの自慢の懐中時計にいかにも相応しいように思えました。

「あの時計にこの鎖をつけたら、ジムは誰の前でも大威張りで時間を見ることができるわ」

時計こそ大したものでしたが、鎖の代わりに革の紐を使っていたので、ジムは時々人目を避けて時計を覗いていることをデラは知っていましたから。

さて、クリスマスイブ。

デラは心尽くしの料理を用意してジムの帰りを待っていました。ジムが帰ってきました。痩せてきまじめそうな青年です。

一歩部屋の中へ足を踏み入れたジムは、ぴたりと動かなくなりました。眼はデラの上に釘付けになり、穴のあくほどデラを見つめています。

「ジム」と彼女は涙声で言いました。「そんなに見つめないでちょうだい。あなたに何もプレゼントをあげないクリスマスを迎える訳にはいかなかったの。髪を売ったの。ちょうど髪型も変えたかったし。この髪型が気に入らなくても、髪はまたすぐ伸びるわ。それより、このプレゼントを見てちょうだい。メリークリスマス!あたしがどんな素敵な贈り物を買ったのか、ご存じないでしょう」と言ってデラは自慢の髪を売って手に入れた高価な時計の鎖を見せました。

「・・・。髪を売ったんだって?」ジムはやっとこう聞き返しました。

「切って売っちゃったの。髪は短くなっても、同じように私のことを好きでいてくださるでしょう?」

ジムはようやく我に返った様子で、着古したオーバーのポケットから包みを取りだしてテーブルの上に置きました。

「デラ。髪を切った位で僕の愛情がちょっとでも減るなんて。だけど、その包みを開けてみたら、なぜ僕がちょっとばかり驚いたかが分かるよ」

その包みの中にデラが見たのは、櫛でした。長いことブロードウエイのショウウインドウにあった宝石をあしらったべっ甲の美しい櫛・・・。今はなきデラの髪を飾るにはもってこいの色合い。とびきり高価なものであることは分かっていましたし、単に熱望するだけで、まさか自分のものになるなんて夢にも思わずにあこがれていたあの櫛。

今、それはデラのものでしたが、飾るべき豊かな髪はどこにもありません。

「君の素晴らしい髪にぴったりだと思って。この櫛を買うために、あの時計を売っちまったんだよ。メリークリスマス!デラ。さぁ、君の上手い料理でクリスマスを祝おう」

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作者O.ヘンリーはこう書いています。

「この二人のプレゼントは両方とも無駄になりましたが。しかし、この二人が支払った以上の素晴らしいプレゼントはあるだろうか」と。

                            終わり