仕事に生かす話し言葉ー敬語編ー

                    第4回「内と外の意識を高める」
                                               河路 勝

『その場にいない人』への敬語のルール
 これまで、シリーズの中の例文にも使ってきましたが、私たちは、日常の会話やビジネスのやりとりの中で、『その場にいない人』をひんぱんに話題にしています。そしてそのときも、『その場にいない人』のことについて、敬語を使って話す必要のある場合がきわめて多いものです。そこで今回は『その場にいない人』に対する敬語を考えます。
 『その場にいない人』には、話し手から見て、「話している相手側の人」「自分側の者」「どちらにも属していない人」という位置があり、その位置によって敬語の使い方が決まります。といって特別な敬語の使い方があるわけではありません。相手には尊敬語、自分のことには謙譲語の基本を、そのまま「相手側の人には」「自分側の者には」と読みかえればいいと思ってください。

 【例文・A】
 [お客]「郵便課長さんが、お電話くださるおっしゃったのですね」
 [局員]「はい、課長が,後ほどお電話差し上げる申しておりました
 【例文・B】
 [お客]「郵便課長さんは、何時頃お戻りになるご予定ですか」
 [○○は、午後三時ごろ戻る予定になっています]

 この例文では[郵便課長]が話題になっている『その場にいない人』です。
 [お客]の側からは、『その場にいない人』が話している相手の身内(郵便課長)になるため相手の行為を話すのと同様に「尊敬語」(下線の部分)で話しています。一方[局員]の側から『その場にいない人』(郵便課長)は自分の行為を話すのと同様に「謙譲語」(下線部分)で話しています。これが基本の形でこれを崩してしまうと、相手や相手側の人への敬意が伝わりません。
 例文Bの[局員]の表現は、謙譲語ではなく単なる丁寧語ですが、これは「三時ごろ戻る予定」という話の内容が直接には相手に関係しないため、丁寧表現ですますことができます。もちろん「午後三時ごろ戻ってまいります」という謙譲語も正しい言い方です。

いくつかの応用問題
 次のようなケースもあります。
相手側の『その場にいない人』にかかわる自分のことを話すときは、「その件については、○○さんからお話を承っています(お聞きしています)」のように、「謙譲語表現」(下線部分)で話すことができます。
 一方、自分側の『その場にいない者』にかかわる相手の行為を話すときは、「○○にくわしくご説明くださったそうで、たいへん助かりました」と、「尊敬語表現」(下線部分)で話すこともできます。
つまり、相手側の人にかかわる自分の行為は謙譲語、自分側の者にかかわる相手側の行為は尊敬語で話すことです。
 さらに、「そちら様ご担当の方が、私どもの○○にくわしくご説明くださったそうで、○○もたいへん感謝いたしております」のようにやや複雑に見える敬語も、相手側と自分側に対する使い方のルールを知っておけば、尊敬語と謙譲語を織りまぜて自在に表現でききるものです。
 また、「○○様あてにファックスをお送りしますので、ご覧くださるように、お伝えください」のように、その場にいない人への敬語(お送りします・ご覧くださるよう)と、話している相手への敬語(お伝えください)を連続して使うときには、どちらか一方の敬語がおろそかにならないことが必要です。とくに取次や伝言などを依頼する場合は、話している相手への十分な配慮がいるでしょう。

『その場にいない人』への敬語はどこが違うのか
 では、『その場にいない人』に対する敬語はどんなところで失敗しがちなのか、例をあげてみます。

 1 相手側の『その場にいない人』に対する敬語がおろそかになる
  目の前の相手と、比較的軽い言葉でやりとりしていると、相手側のその場にいない人に対する敬語はさら に曖昧になります。
 「おたくの課長が言っていましたよ」 
 「課長が帰りしだい伝えてください」
 「課長は休んでいるそうですがどうしたんですか

 相手と普段のことばの感覚で話していますから、その影響を受けて、相手の課長への雑な印象はまぬがれません。聞きようではかなり失礼な言い方になりますから注意が必要です。

 2 外部の人に、自分の身内(とくに上司)を敬語表現してしまう。
  外部の人に対しては、自分の身内(会社や組織)のことは、たとえ社長であっても尊敬表現はできないの  が敬語の大原則。しかしその点が徹底していないことがよくあります。
 「あいにく課長は出張されていますが」(身内への尊敬)
 「課長はお食事行っていらっしゃるんですが」(身内への尊敬)」
 「私のほうの課長からお話をお聞きしていましたので」(身内への謙譲)

 最近は丁寧に話すのが敬語だと思っている人が多いため、身内のことにも尊敬語を使う間違いが出てきています。もっとも注意しなければいけない点です。
 外部の来賓を招いた会で、司会者が自分の上司を、「では、○○社長がごあいさつされます」と言ってひんしゅくを買いました。言うまでもなく、外部の人の前で身内を高めた表現をしたからです。この場合は「社長がごあいさついたします(あいさつ申し上げます)」などと謙譲語にしなければ、来賓の方に礼を失したことになります。「外の人に対して内の者」だという意識をしっかり持っていないと、敬語の使い方を誤ってしまうのです。

 3 外部の人の前で身内の上司に敬語を使ってしまう。
  来客の目の前で身内の人に電話で話すことがあります。そのとき電話の相手が上司だったりすると、つい 来客のことを忘れてしまうものです。
  「郵便課の××ですが、いま○○さんがここに来ていて、課長にお目にかかりたい言っていますが、どう されますか
  これはあきらかに、身内の上司への敬語が優先し、来客が舐められています。たとえ来客に来客に聞こえ ない所で話すにしても、なかり表現が乱れています。どんなときにも誰に聞かれても恥ずかしくない話し方で あってほしいものです。

 4 相手に対する敬語のつもりで、結果的に身内に敬語を使っている
  相手に謙譲表現をしているつもりでも、結果的には相手でなく身内の者に謙譲表現をしてしまっていること があります。

 「少々お待ちください、すぐ課長をお呼びしてきます」
 「課長はいま席を空けておりますので、お探ししてきます」

  この下線の部分の謙譲語はいっけん間違いないようですが、じつは正しいとは言えません。たとえば、人  が訪ねてきたとき、「すぐ母をお呼びします」とは言わないはずです。これでは母に敬語を使ったことになるか らです。この場合は、「母を呼んできます」と言います。例文も同じで「(課長)をお呼びして・・・」「(課長)をお 探しして・・・」と敬語の対象は課長になるのです。
  「少々お待ちください、すぐ課長を呼んでまいります」
  「課長はいま席を空けておりますので、探してまいります」

 ビジネスことばから
  最後に『その場にいない人』に対する敬語をいくつかあげておきます
 1 相手側の『その場にいない人』への敬語
  「○○郵便局の××と申します。ご主人様おいでになりますか」
  「営業部長は今日ご出張伺っていますが、もうお出かけになりましたか」
  「人事課の○○さんに、二時のお約束をいただいていますが、お呼び出し願えますか」
  「○○さんに、ご指定の郵便物がお手元に届いたかどうかご確認くださいとお伝えくだ さいませんか」

 2 自分側の『その場にいない人』の行為を相手に伝えるときの敬語
  「いま○○が戻ってまいりましたので、すぐ代わりますからお待ちください」
  「終わりましたら、○○の方からお電話をおかけするように伝えましょうか」
  「○○は外出中ですが、○○あてのファックスは確かに頂いております」
  「部長の○○が、明日そちら様伺いたい申しておりますが、ご都合はいかがですか」
                                             (つづく)