血統書つきのニワトリ

人材開発コンサルタント 小柳麻里子

 

修学旅行かしら?
ミッキーマウスの帽子をかぶった、いかにも健康そうなほっぺたをした中学生が三人。キャッキャッと楽しそうにおしゃべりしながら地下鉄A駅のプラットホームにたむろしていました。

その中の一人が何か探しているような様子をしています。飲み終わったジュースの缶を捨てたいのでしょう、きっと。駅員さんを見つけた彼、走って行きました。今時珍しい子です。感心、感心。

「あのー、ゴミ箱どこですか?」その駅員さん、気の毒そうに「この駅には無いんだよー」。その子困ったような顔をして、空缶を片手に仲間のところへ戻っていきました。

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そうです。この駅には何故かゴミ箱が無いんです。聞いたところによると、駅員さんがゴミ処理を嫌がるので、例のサリン事件をきっかけに、ゴミ箱を置かないことにしたのだとか。

ヒトの集まるところに、ゴミが出るのは当たり前でしょう。トイレはあるのに・・・。私鉄の駅にはちゃんと種類別のゴミ箱が置いてあるというのに。

A駅だけかしら、ゴミ箱がないのは?素朴な疑問を持ちました。誰かおしえて・・・。

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つい、こんな話を思い出しました。

とても身持ちのよい独身のおばあちゃんの話です。彼女、大変珍しい血統書つきのニワトリを飼っていて、それはそれは大切に育てています。

ある日友だちが彼女のウチを訪ねて仰天しました。大変!

何とその大切なニワトリがどこにでもいるごく普通のニワトリと一緒に庭を走り廻っているではありませんか!

万一その高価な血統に、他のニワトリの血が入ってしまったら、元も子もなくなってしまいます。

肝を潰したその友人は、大騒ぎ。「大変!あなたの大切なニワトリが他のニワトリと一緒にいるワ!」

すると、そのおばあちゃん、ニッコリ笑って、「大丈夫よ。夜はちゃんと別々にしているから」

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これってゴミ箱を置かなければ、誰も捨てないだろう・・・という発想に似ていなくもない。

営団とはいえ、やっぱり体質は国営だからかなぁ。イイエそんなハズは無い。だって郵便局は完全な国営ですが、ゼッタイそんなことはないもの。

ゴミの処理を嫌がるどころか、9時の開局前には、局員さん自ら、外の道路までキレイに掃除している姿を良く目にするんだもんっ。

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人間年をとると人恋しくなるんでしょうか。

千葉に嫁いだ中学時代の友人に会いに行きました。久しぶりの再会。久しぶりのオンナ一人旅。うふ。ワクワク。

宿泊先は勿論、簡保の宿。だって、設備は整っている上に、ロケーションも抜群。安全で、キレイ。おまけに、感じが良くて、安いのですもの。人気があるのも当然です。

その日はついはしゃいでしまい、気がついたら、すでに外は真っ黒。宿に帰ったのは、もう9時を過ぎていました。

勿論食堂はとっくに閉まっています。でも、コーヒーを飲みたくなった私。(どこかでコーヒーを飲めないかしら)とウロウロ。

アキラめかけて、自動販売機のコーナーに行きました。ん?あれっ。喫茶店にまだ灯りがついている・・・。

恐る恐るドアを開けました。年輩のおばさんが二人、カウンターの中にいました。

「あのー。コーヒー、まだ飲めます?」

おばさん、洗いものの手を休めて、「どうぞ、どうぞ。今、美味しいコーヒーを入れますから。だーれもいませんから、お好きな席にどうぞ」ワォ。すごい。やっと、ありつけました。一人淋しくて(多分)おばさんが淹れてくれたコーヒーを飲んでいると、声をかけられました。

「どくだみ茶、飲んでみます?」私きょとん。

「イエねぇ、ウチで作ったものだけどサ、身体にいいよー。飲んでみる?」

嬉しいじゃありませんか。勿論、頂ました。

美味しかった、実に。部屋でお飲みなさいと言って、紙コップに入れてくれたお茶も。

あのどくだみ茶、おばさん達のあったかーい優しい気持ちの味がしましたっけ。

郵便局だけでなく、簡保の宿で働いている人たちまで、本当に暖かい。

これって郵政事業の風土かしらん・・・・。   ほのぼの。

先月の日経新聞、こんな記事が載っていました。

「簡保の宿,JALホテルズ・帝国ホテルに運営を委託」

民間ホテルのノウハウを取り入れて、サービスの向上を目指すという内容だったと記憶しています。う〜ん。

民間の優れた知識やノウハウを取り入れること自体は素晴らしいことですが。

民間のサービス業界、特にリテイルを標榜している企業では、今、お客様対応を見直そうという動きがあるのはご存知ととおりです。

今までマニュアル的且つカタチにこだわりすぎた対応を見直し、より人間的で血の通った対応をしよう・・・というものです。

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郵便局は正にその点で、先頭をきっていると思うのは私だけかしら。

                                終わり