低インスリンダイエットで大丈夫?

毎日新聞記者 明珍 美紀

低インスリンダイエットをご存じだろうか。血糖の上昇を抑える、つまりインスリンの分泌を抑える食品を食べて太らないようにしよう、というダイエット法だ。この春からさかんに雑誌などで取り上げられるようになり、本の刊行も相次いだ。私も栄養学の専門家に話を聞き、その考え方に納得した一人だ。ところが、最近、疑問に思うことがある。「おいしく食べてやせよう」などのうたい文句が、「食事制限なしでやせられる」というイメージにつながり、そう信じた人が極端な食事に走ってはいないか、との危惧を感じるのだ。

まずはじめに、「それは何だ」というオジサンたちに説明を。

食べ物の中で、炭水化物を中心に、同じ糖質の量でも食品によって食べた後の血糖値の上昇に違いがあることが八十年代はじめ、イギリスの研究者らによって報告された。そして、炭水化物が消化されて血液中に糖として取り込まれた時の血糖値の上がり方を、ブドウ糖(グルコース)を100%ととして表したのが、グリセミッククインデックス(血糖上昇指数、GI)だ。血糖値が急上昇すると、インスリンがたくさん分泌され、血液の中で消費されずに余った糖は脂肪細胞に蓄えられていくが、GI値が高いほど、血糖上昇率が大きく、インスリンの分泌などに影響しやすいと言われている。

ちなみに、GI値が80〜90の食品は、コーンフレーク・にんじん・マッシュポテト。70〜79が白米・ジャガイモ・カブ。60〜69が白パン・玄米・小麦・クラッカー・バナナ・干しぶどう・・・など。一方、GI値が低めの食品は、20〜29がインゲン・そら豆、30〜39がリンゴ・スキムミルク・牛乳・ヨーグルト・トマトスープなど。ヨーロッパではここ数年、グリセミッククインデックスが見直され、糖尿病の食事療法に取り入れる試みがなされているという。

同じパンでも、白パンよりは全粒粉やライ麦入りなどのパンの方がGI値が低い。お米も白米よりは玄米や胚芽米など、やはり精製されていないものの方が低い。専門家に聞くと、「精製されたものは糖分の吸収が早い。精製されていないものは消化に時間がかかるので、急激な血糖値の上昇を抑えられる」という。カロチンが豊富な人参やビタミンCを多く含むジャガイモのGI値が高めなのは意外だったが、「その理由はよく分からない」との答えが返ってきた。

白米よりは玄米を、白パンよりは全粒粉パンを、というのは、自然食品の分野でもよく言われているので、「そうだろうなあ」と私も思った。雑誌に出ていた「夕食の前に牛乳を一杯飲めば、血糖値の上昇を抑えるのに効果的」なんて言葉に従って、私もしばらく実践していたが、「こんなことでいいのか」とはたと思った。

生活習慣病の専門医によると、いくらGI値が低いと言っても、たくさん食べたら、やはり余った糖は脂肪細胞に蓄えられていく。GI値は食品の組み合わせや調理法によっても変化する。また、数値の低いもの、たとえば豆類ばかり食べていると、今度は血液中の糖が減って低血糖になり、基礎代謝が悪くなる。すなわち、太りやすい体質になる、というのだ。

「ココアが健康にいい」と紹介されたら、近所のスーパーマーケットの棚からココアが消えた。「ブラン(ふすま)は食物繊維が豊富で体にいい」となったら、ケロッグの「オールブラン」が「ただいま品切れです」になった。そして今度はGI値への注目が、「低インスリンダイエット」という造語と合わさってメディアで流れ、またたくまに広がった。

私の手元にも関連本が五、六冊届いた。本が次々に出るということは、それを読む人が大勢いることだが、果たしてその趣旨がどこまで理解されているか、心配になる。

夏は何かとダイエットが話題になる。「栄養のバランスがとれた食事と適度な運動」。ヘルシーライフの王道は、これ以外にない、と思うこのごろだ。
                                 
終わり