全国ロープレ大会 小柳 麻里子 小春日和の温かい日でした。渋谷駅から表参道に向かう宮益坂には、流行の先端を行くカフェやショップが多く、当世風の若者たちが集まる場所として知られています。 赤毛や金茶髪の若者たちで賑わうそんな大都会の真っ直中に、平安朝の女官が出現!!! 桃色の和服に身を包み、薄緑色の紗のベールを頭からすっぽりかぶっています。まるで、絵物語から抜け出てきたような装いです。これほど場違いないでたちもありませんが、同時に、人目を引くという点で、こんなに効果的なこともないでしょう。 近づいてみると、その女官、宮益坂のちょうど真ん中にあるS郵便局の前で、通行人にさかんに声をかけています。 「秋田県の大館市です。大館市をよろしくお願いしまぁす」 選挙運動?違いました。 どうやら秋田県大館市の物産展を、S郵便局の四階で開催しているらしい。 平安朝の雅ないでたちの彼女はそのキャンペーンガールでした。華やかな彼女の側に、屋台のようなカウンターがこしらえてあり、そこで郵便局の職員さんが記念切手を売っていました。 思わず彼に尋ねました。 「ねぇ、みなさんは大館市の郵便局の方なの?」 「ええ、そうです。私ら、みんな今朝早く東京に着いたばかりなんです」と、彼はいかにも嬉しそう。 「へー。そうなの。じゃ、彼女も郵便局の人なの?」と、平安美人を指すと、「いえ、一緒に大館から来たんですが、彼女はミス大館市。郵便局の職員じゃないんですよ」 な〜んだ。郵便局の職員さんが扮した方がウケルのにぃ・・・。 おっと。横を見ると、大きな犬がごろりと横になって寝ているのに気が付きました。 こんなところに、こんな大きな犬が・・・と、びっくりしている私に、職員さんがすかさず「この犬たちも、僕らと一緒に大館市から来たんですよ」 「???」 「ほら、秋田犬ですよ。『忠犬ハチ公』で有名じゃありませんか」 ふ〜む、納得。そう言えば渋谷駅前には『忠犬ハチ公』の銅像がありましたっけ。 この犬たち、てっきり職員さんたちの飼犬かと思いきや、大館市在住の飼主から借りてきたとのこと。 秋田犬といえば精悍な犬というイメージを抱いていたのですが、このワン君たち、おとなしくて利巧なこと。集まって来たカップルやビジネスマンたちに盛んにしっぽを振ったりお手をしたりと、意外とカワユイ。 「四階のホールで大館市の物産を展示即売していま〜す。どうぞ四階にお越しくださ〜い」 ミス大館市と職員さんの笑顔に誘われて、四階に上がってみることにしました。 あるある。四階には、大館市直送の名品が所狭しと並べられていました。お米、お菓子、お酒、伝統工芸品、それに新鮮な野菜くだものがた〜くさん。 物産展のことを聞きつけられたのでしょう、大館市出身らしいお客さまと売り場の職員さんが、大館市独特のイントネーション(多分)で話をしています。故郷の家族のこと、天候のことなど。 東京生まれ、東京育ちの私までも、何だか『ふるさと』に戻って来たような、ほのぼのとした気持ちになるから不思議です。 それにしても、平安朝といい、秋田犬といい、意表をつかれました。 郵便局もなかなかやるじゃん! ***** 実は、このS郵便局、いろんなイベントを開催するんです。 昨年の暮れ。その日は特別に寒い日でした。 S郵便局の郵便窓口は、エレベーターを上がった二階にあります。 冊子小包を出しに行った時のことでした。 「ン?」何だかいい匂いがします。 余程、鼻をひくつかせていたのでしょう。窓口の職員さんはニコニコしながら「一階のロビーで四国宇和島の物産展をしているんです。いい匂いですよね。いわしつみれを煮こんでいるんじゃないかな。お時間がありましたら、ちょっと寄ってやって下さいね」 勿論、行ってみました。 やっていましたっ。ATMが整然と並んでいるS郵便局の一階ロビーの片隅で、お鍋が湯気をたてているではありませんか。 ぐつぐつぐつ。 うわぁ。温かそう、美味しそう・・・。 「おねえさん。どう?宇和島名物いわしつみれ。美味いよ」 半纏を着た威勢の良いお兄さんが、つまようじにつみれをさしてこちらへ差し出しています。 久しぶりに(おねえさん)と呼ばれてすっかり気を良くした私、思わず受け取って口へ。 美味しい! 買いましたよ、いわしつみれ。三袋も。 おもしろーい、S郵便局。 次はどこの物産展をやってくれるんだろう? そして、抱いた素朴な疑問。どうして郵便局のイベントは、『どこか懐かしい感じ』がするんだろう。 ***** さて、今年もやってきました。 何が?って、簡易保険の全国ロープレ大会の季節が。 物見高い私。さっそく会場の「ゆうぽうと」へはせさんじました。 なにしろ参加者は、全国十三管内から選抜された二十六チーム。つわもの揃いです。 加えて、この大会に備え、おそらく何度もやり直したり、練習を重ねて来られたに違いありません。 きちんとした丁寧な言葉遣いやお客さまの立場に立った説明のしかた、地域に根ざした様々な情報やデータの使い方に、皆さん方の知恵と工夫が光っていました。 そして、私、やっと気付いたのでした。セールステクニックや知識だけでなく、皆さん方の対応の随所に、お一人おひとりのこころの温かさや人懐っこさ、人情味があふれていることに。 同時に、私は、知らず知らずのうちに、S郵便局の物産展で感じた「ふるさとに帰って来たようなほのぼのとしたふしぎな感じ」を思い出していました。 終わり
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