book(2015)

過ぎ去りし・・・
(宮部みゆき)

図書館49
(190)

59

タイトルは『過ぎ去りし王国の城』といいファンタジーです。「平凡な中学生・真は奇妙な絵を拾う。分身(アバター)を描き込むと、絵に入れることを知った彼は美術部員の珠美の力を借りて2人で絵の中の世界へ。そこで出会ったパクさんと共に絵の謎を探ると、10年前に起きた少女失踪事件との繋がりが…」 異世界を通じて実人生に向き合う中学生の姿を描いています。最初、何というお話しかと思っているうちに段々異世界に引き込まれていきます。親を選べない子供の世界 『悪意と暴力、蔑み、ネグレクト、スクールカースト、孤独や失意・・・。傷ついた彼らの心が異世界へ」 少し物足りない気はしますが、ラストはさすが宮部みゆきでした。
あの家に暮らす四人の女
(三浦しをん)

図書館48
(189)

58
現代版『細雪』って前振りだったのに、とんだ三浦しをんです。「生活感も交友関係も希薄な母・鶴代とその娘・佐知、佐知の知り合いの雪乃と多恵美。杉並の古い洋館に暮らす四人の女性。日々のトラブルを団結して乗り切り、にぎやかに毎日が過ぎてゆく・・・」これがユーモラスに描かれています。谷崎潤一郎の『細雪』へのオマージュとのことですが読んだことがなくても”しをん”ワールドを楽しめる作品です。なんて偉そう言っても私も読んでいません(映画は観ましたが・・・)。本家『細雪』のヒロインの名前は鶴子、幸子、雪子、妙子です、これを見る限り体裁はしっかりと現代版なのです。『舟を編む』や『風が強く吹いている』など、この人の小説は期待を裏切りません、最高です! 読んでいてホンワカ幸せな気持ちになります。
わが心のジェニファー
(浅田次郎)

図書館47
(188)
57
「日本びいきの恋人、ジェニファーから、結婚を承諾する条件として日本へのひとり旅を命じられたニューヨーク育ちのアメリカ人青年のラリー。慣れない日本で、PCも携帯も持たずに・・・。様々な出会いと別れに遭遇し、成長していく。東京、京都、大阪、別府、そして釧路と旅を続ける中、自分の秘密を知ることとなる…」 初めのうちは、こそばゆくなるくらい日本(人)はアメリカ(人)より素敵な国(人)なの?と思いますが、ゆっくりと裏を読むとそうばかりでもないです(日米関係も一つの背景になっています)。アメリカ人の目を通して日本を描いているのですが、著者は日本人なのだから読んでいると変な感じになります(外国人が読むと日本を知るのに役立つのでは?と)。私たちが冷静に今一度、日本人や日本を見つめ直すきっかけになりそうです.。
ボス・イズ・バック
(笹本稜平)

図書館46
(187)

56
「泣く子も黙る悪相の山藤組のボス・山虎。飼い主よりも凶暴で、いったん噛みついたら決して離さない、山虎の愛犬・ベルちゃん。なぜか、山虎以外で唯一ベルちゃんが懐いている探偵事務所の電話番・由子。組の解散騒ぎ、失踪、そしてまさかの殺人事件!悪徳刑事や生臭坊主も巻き込んで、探偵が突き止めた意外な真相とは・・・」 軽快軽妙なハードボイルド、 何となく読みたくなりませんか?。六つの事件(?)短編連作になっています。『恋する組長』シリーズ第2弾だそうですが、この著者がこんな軽いものを書いているとは知りませんでした。ヤクザよりあくどい政治家、そのとおりです。今の世の中、ホント何が正義か分かりませんね。笑いながら読めます、深刻でないものをお望みの方には楽しめると思います。
リバース
(湊かなえ)

図書館45
(186)

55
最後の一行まで目が離せません、間違っても最後のページを開かないでください。やっぱ、結末は哀しいのかな?この著者にしては珍しく爽やかな終わり方をすると思ったのに・・・。ミステリーの要素以上に、エゴイズム、嫉妬心、猜疑心、自己保身、人を思い遣る優しさ、気遣い、など湊ワールド満載という感じです。「主人公はコーヒー好きな平凡なサラリーマンある日『深瀬和久は人殺しだ』と書かれた告発文が届き、それがきっかけとなり物語が始まる。事故死してしまった友人、事件性を匂わせつつ物語は展開。告発文の真相を確かめるべく動き出す深瀬、友人の過去から現在までの人間関係を調べていくが・・・。」 読み終えて、誰が正しくて誰が悪かったのか、何をどうすべきだったのかなど、色々考えさせてくれます。やっぱり、すごい作家です!
犬の掟
(佐々木譲)
図書館44
(185)

54

佐々木譲の最新作です。「かつて籠城事件で死の危険に遭った警官、そして、それを間一髪で救った同期の警官。7年後、所轄の刑事、本庁捜査一課の若手刑事となった2人は同じ事件をオモテからとウラから捜査を行う・・・」 幾つもの不審死、暴力団同士の抗争、半グレグループの暗躍、公安の影とさすが佐々木譲です。ただ、二組の刑事の視点を入れ替え展開するという手法をとっているので、最初戸惑う場面もありますが面白いです。ところで、内容とは関係ないのですが、この本を読んだ感想の中にこんなのがありました 『権力者が憲法を変えようと法律を厳しくしようと、安眠できない殺し屋を登場させられないか?忘れるな弱者の怒りを・・』 最近の社会の動きをみていると何となく納得してしまいました。 
道後温泉・石鎚山・・・
(梓林太郎)

図書館43
(184)
53
タイトルは『道後温泉・石鎚山殺人事件』です。「北アルプスの蝶ヶ岳で遭難した女がその4日後、無事救助された。大きな怪我もなく道後温泉の自宅に戻ったのだが、数日後、何者かに刺殺された!彼女はなぜ、殺されなければならなかったのか? 蝶ヶ岳での遭難は、ただの事故だったのか?」安曇野、道後温泉・石鎚山を舞台にしたミステリーです。山で殺人が起きるのでもないから山岳ミステリーと言えるかどうか・・。でも、安曇野署・道原伝吉が活躍するのでやはり山岳ものでしょう。随分と久し振りに(このHPを作る前以来)梓林太郎を読みました。著者は私より一回り上の82歳です。創作意欲は衰えていないようで、すごい!わかりやすく読みやすい本です。旅のお供にはもってこいです
落英
(黒川博行)

図書館42
(183)
52
「大阪府警の薬対課刑事、桐尾と上坂は覚醒剤捜査中に迷宮入りしていた和歌山の南紀銀行副頭取射殺事件で使用された拳銃を発見。二人は事件当時の担当者和歌山県警の満井と特命捜査をすることになるが、満井は悪徳刑事だった・・・。桐尾と上坂は、事件当時に犯人と目されていた暴力団幹部に、発見した拳銃と同じものを売りつけるよう満井に持ちかけられる」 ひと味違った警察ものです。現実に未解決となった「阪和銀行副頭取射殺事件」がモデルになっているそうです。登場人物のキャラクターがいいです、後半になれば適度な緊張感もあって更にのめり込んでいきます。 『官の工事には必ず政治家が絡んでくるから総請負額の3、4%を政治家へ、地元の裏組織へ3%前後の金を上納する。・・・日本の建設・土建はそういう利権の構図で回ってきたんや』 と、そうだろうな~。
抱く女
(桐野夏生)

図書館41
(182)
51
著者は今回”紫綬褒章”を受賞しましたが、本人は『反社会的な作品を書いてきたので受賞には驚いた』と言っています。この作品は自らの体験をもとに、1972年の9月から12月までの4ヶ月間に焦点を当て、”政治の季節”が過ぎ去った直後の内ゲバの嵐が吹きすさぶ時代を、主人公の直子(年齢も著者と一致する)という女子大学生の体験を通して描いたもので「わがまま勝手に生きている直子だが、ヒリヒリするような生きづらさを感じ。内ゲバを繰り返す過激派を嫌悪し、ウーマンリブにもなじめない。ひっきりなしにたばこを吸い、酒を飲み、気の向くままに男友達と寝る」。舞台も著者の出身大学の成蹊大学、吉祥寺の当時が描かれていて、私より7年後の時代ですが懐かしく思い出されます。タイトルの『抱く女』は、『抱かれる女から抱く女へ』という当時流行ったスローガンでもあります。
新しい十五匹のネズミ・・・
(島田荘司)
図書館40
(181)
50
タイトルは『新しい十五匹のネズミのフライ』といい、ホームズの友人ワトソン博士を主人公にしたパスティ-シュ(文学の模倣)です。ホームズファンならご存知の『赤毛組合』その後の話で事件は未解決だったというもの。コナン・ドイルが亡くなって85年経っているからこんな話が書けるのですかね?話は「赤毛組合の犯人一味が脱獄した。だが、肝心のホームズは重度のコカイン中毒で幻覚を見る状態。ワトソン博士は独りでどうする・・・。犯人達の仰天の計画、その中で囁かれる秘密の言葉”新しい十五匹のネズミのフライ”とは?ホームズは復活するのか・・」 副題が『ジョン・H・ワトソンの冒険』となっています、そのとおりワトソンの冒険活劇の様相を呈していますが、やはりホームズの活躍が気になります。読んでいると日本人が書いたとは思えなくなり、ホームズの世界にはまります。
虚人の星
(島田雅彦)
図書館39
(180)
49
舞台設定は今から2年後。安倍総理をモデルにした世襲政治家松平総理と、外交官にして中国のスパイとなる青年・星新一。2人を軸に話は進みます。2人は、解離性人格障害つまりは多重人格者というところから描かれているのが『なるほど』と思わせます。通り一遍の政権批判ものよりはるかに面白い。納得することばかり、結末はホッとしました。『憲法を遵守すると言いながら、確信犯として違憲行為を繰り返している。平和主義を唱えながら、戦争準備に余念がない。言論の自由を守ると言いながら、自分に批判的な言論人の仕事を干し、平等な社会を実現すると謳いながら富裕層を優遇し格差を広げている。富の再配分と利益還元を呼びかけながら福祉を削っている。災害対策を徹底し安全な生活を優先すると公約しながら、原発を稼働し津波や土砂災害の危険地区を放置している。情報公開を進めると言いながら不都合な事実を秘密情報に指定している』 今こそ読むべき本です。
砂の街路図
(佐々木譲)

図書館38
(179)

48
佐々木譲の全く新たな表現スタイルの本です。北海道の架空の町を舞台に、失踪した父の死の謎を追う物語です。事件が起こるでも無いのですが、ミステリーに満ちています。「なぜ父は幼い息子と母を捨てて失踪し、この街で溺死したのか。母の四十九日を終えた岩崎俊也は、父の死の真相を知るために、北海道の運河町へと旅立つ。そこで、昔の父を知る人たちに話を聞こうとする。だが、彼らは堅く口を閉ざし、なかなか話そうとはしなかった」 街の様子の描写が多く少々うんざりしましす。ラストもちょいとありふれた感じで、雰囲気はいいのですが・・・、今一という感じでした。この著者はやはり警察ものがいいかな。
銀翼のイカロス
(池井戸潤)

図書館37
(178)

47
半沢直樹シリーズ4弾、さすがに面白いあっと言う間に読み終えました「営業第二部へ復帰した半沢の仕事は、帝国航空の経営再建を手掛けることだった。が・・・、難題が降りかかる、再生タスクフォースに債権放棄の圧力をかけられたり、政治家の不正融資を暴いたり、もちろん行内の派閥争い」と、挽回不可能な困難に立ち向かっていきます。2009年9月に自由民主党から民主党へ政権交代、国土交通大臣が前政権の『日本航空の経営改善のための有識者会議』を廃止、『JAL再生タスクフォース』を設置し政治主導で再生計画を策定、債権放棄をめぐって銀行団の反発を招く等、現実に起きたことがそのまま小説になっています。相変わらずの倍返しに胸のすくこと請け合いです。
贖い
(五十嵐貴久)

図書館36
(177)

46
2段組で450ページ、読み応え十分。ただ、前半は慣れるまで時間がかかるが、後半の急な展開で一気読み。読後はずしりときます。「東京、埼玉、愛知で小学生、中学生、幼児が殺される事件が起きる。無関係に思われた3つの殺人事件だが、その接点に…。すべての謎が明かされたとき『贖い』というタイトルの意味がグッと増します」 管轄の違う警察どおしの争いや性質、上下関係や女性蔑視など困難な中一人の捜査員がしつこく追っていきます。前半慣れるまで時間がかかるというのは3つの事件が章ごとに変わって物語が進むため、話がちょいと混乱します。  犯人が分かっていながら、何故そうなのか?20年もの長きにわたる〇〇心、子を想う親の気持ちがずしりとくるのです。
豹変
(今野敏)

図書館35
(176)
45
警官が主人公とは言え『隠蔽捜査』からすると趣が違います。”鬼龍光一シリーズが新作で登場”とあった、読んでいませんが前作があるそうです。警察小説と思って読んでいたら刑事らしい活躍がなかったので肩すかしを食った感じ「狐憑きという不可解な現象。 14歳が起こした事件が3件。老人のようなしわがれた声を出し、超人のような力をふるう。事件時の記憶なし。 2人の祓い師が刑事に協力しながら事件の謎を解くという」もので軽めではありますが、狐憑きを科学的に解明するミステリーを楽しめました。今の時代、コンピューターを使ってこんなことも起きるようになるのかなぁ~、とちょっぴり思いました。400ページ近い本ですがさらっと読めます。心霊現象などに興味ある方はどうぞ!
ぬしさまへ
(畠中恵)

44
『しゃばけ』(2010年book紹介)シリーズ第二弾。短編集で六つの短編です。今日も元気に若旦那は寝込んでいます♪ 特に「ぬしさまへ」「栄吉の菓子」「四布の布団」では若旦那こと一a太郎の推理が冴えます。また「仁吉の思い人」は仁吉の失恋話を題材にしていて、妖(あやかし)の寿命は長く、話の発端となるのは千年前の平安時代。妖が人間を好きになると相手が自分よりも先に死んでしまう。だが、時を経ると再び思いの相手は生まれ変わって、互いにすぐに相手のことがわかる。それが何度も続くのです。何とまぁ~、悠久の恋!こんなのいいですね。ほかに、「空のビードロ」がとてもしんみりとした泣ける話です。私もこんな可愛い妖が側にいてくれるといいな~と思った一冊でした。
死の臓器
(麻野涼)


43
「熊本県A市の日野誠一郎は聖徳会日野病院の医師で、泌尿器科の部長をしている。ある日、日野医師は、A警察より、任意の取り調べを受ける。容疑は、臓器売買の疑いだった。手をこまねいて、死を待つばかりの患者に、日野医師は、レストア・キッドニ(修復腎)、がん患者から摘出した腎臓の移植手術を何度か行っていた─。臓器移植をめぐる医療サスペンスの傑作!」 とあると面白そうですよね。確かに面白く興味を持って読みましたが、筋の運びが何となく安直な感じがしました。青木ヶ原樹海で死体が発見されるところから始まり舞台は熊本、福岡、上海と広がっていきます。WOWOWでドラマ化されているようです。著者はノンフィクション作家としてスタートしているためか、結構真実があり『こんなことが現実にあるんだろうな』ということを」感じさせられます。
下山事件
暗殺者たちの夏

(柴田哲孝)
図書館34
(175)

42
戦後間もない昭和24年7月GHQ占領下の日本で、下山国鉄総裁の轢死体が発見されると、後に”昭和史最大の謎”といわれた下山事件を小説の形で描いたものです。背景は「当時、国鉄は運輸省から独立し日本国有鉄道として生まれ変わったばかり。初代総裁に就任して1ヶ月の下山は10万人規模の人員整理の渦中にあり、労組との団体交渉の矢面に立たされていた。こうした世相の中“自殺”だったのか”他殺”だったのか他殺なら労組か、GHQか又は秘密機関による破壊工作なのか?様々な憶測を呼んだ』 この謎を”日本の財界に巣くう利権人脈”か、”GHQ内部の熾烈な権力闘争”があったのではと解いています。あとがきで分かるのですが著者は、『自分の祖父が下山事件の実行犯だったのではないか』と考えて下山事件のに関わるようになったと言っています。
深夜特急1
香港・マカオ
(沢木耕太郎)

41
昭和22年生まれの著者が27歳の時、インドのデリーからロンドン(ユーラシア大陸を陸路で)へ乗合バスを使って行こうと決心。デーリーに行くためにインド航空の格安チケット(香港・バンコックとストップ・オーバーできる)を手に入れて出発、その第一作(全六作)です。内容は『海外旅行』ではなく『放浪の旅』です。私も若い頃影響を受けた小田実(予備校で授業を受けたこともある)の『何でも見てやろう』にも影響を受けています。私は日本を飛び出すまでの実行力がありませんでしたが、著者は「地図やガイドブックなど何も無しに、しかも一人が自由に動けると・・・。徐々にその町や人になじんでいきます」 私もこの年になっても少しの冒険心を持ってスペインを歩けたと言うことを感慨深く思い出しています。年齢を重ねてくると『いつかは・・・』という思いではなく『今』と言うことだと思います。
物語のおわり
(湊かなえ)

図書館33
(174)

40
北海道を舞台に、結末の書かれていない物語が人から人へとつながって読まれていきます。「妊娠三ヶ月で癌が発覚した女性、父親の死を機にプロカメラマンになる夢をあきらめようとする男性、恋人との別れを悩む女性…様々な人生の岐路に立たされた人々が北海道へひとり旅をするなかで受けとるのはひとつの紙の束。それは、”空の彼方”という結末の書かれていない物語だった」 この物語を読んだ人々は自分の人生の決断へと一歩を踏み出していくのです。初め短編集だなぁと思い、2作目、連作かなぁと思い、3作目、きっと最後には元に返るかな?と、こんな話のつなぎ方もあるんですね、さすがにうまいです。ラストでは全てのパズルのピースがぴたりとはまり、『物語のおわり』となります。読後感の良い作品になっています。
モンローが死んだ日
(小池真理子)

図書館32
(173)

39
素晴らしいです!端正な文章で、先へ先へ読みたくなります。秘密があり、謎があり、解がある。そういう意味では、ミステリーの世界ですが、それ以上に文学だと思いました。実はこの著者のものは前から読みたかったのですが、今回初めてです。文章もうまいし、主人公の女性の心理が手に取るようにわかります。風景描写も、人物描写もいいです。「鏡子は還暦間近の未亡人、軽井沢の外れにある花折町で小さな文学館の管理人兼案内人の仕事をしながら独りで暮らしている。夫を亡くしてから心身のバランスを崩していた鏡子は、町内の精神科クリニックで高橋医師の診療を受けはじめる。やがて鏡子と高橋は恋に落ちるが・・・」 女性が心の病に襲われかけたときどう戦い、再生していくか?。『人の心は脆いかもしれませんが、その脆さこそが何にも負けない強烈な輝きを放つときがある』 文学好きな人にはたまらないと思います。
億男
(川村元気)

図書館31
(172)


38
『人生に必要なもの。それは勇気と想像力と、ほんの少しのお金さ』(ライムライトより) 。「宝くじで3億円を当てた図書館司書の男が、不安に襲われる。”お金と幸せの答え”を求めて15年前に去って行った親友の元を訪れる」ところから物語は始まります。古典落語「芝浜」をモチーフにしています。お金持ちになることがホントに幸せなのか? 友が『金が増えていくと、よう分からん親戚や友達や女がやたらと集まってくるようになった。そうなると悲惨や、ぼくのところに来る奴全てが金目当てに見える。本物の友情があるはずなのに、裏切られることにおびえ。また恋も出来ない・・・』 離れていった妻が『お金によって奪われたもの、それは明日を生きるために何かを欲する“欲”よ』 お金があれば何でも手に入るわけでも、幸せになれるわけでもない・・・。お金持ちでなくてよかったぁ~!
孤島の鬼
(江戸川乱歩)

図書館30
(171)

37
昭和4年から5年にかけて書かれたものです。何故今頃乱歩?先日ラジオの読書番組で乱歩研究者の人が『最も推薦する』と語ったのがこの本でした。推理・怪奇・冒険と三つの要素がたっぷりと味わえます。やっぱりすごい作家だったのだなぁと思わせる1冊です。ただ、内容と時代を考えると『気違い、志那、乞食、畸形、白痴、低脳、片輪、不具、小人、傴瘻、唖・・・』 など現代の表現にしては不適当な表現がたくさん出てきますが、これがキーワードなのです(変換しても出てこないものもあります)。「密室殺人によって恋人初代を失った”わたし”は、友人探偵に事件の捜査を依頼するが彼も謎の死を遂げる。自ら真相解明のために動く・・・、自分に恋心を抱く親友(同姓)とともに南紀の孤島へと向かう。そこには人工的に奇形を作る男がいた」 乱歩の代表作と言う人もいます。
あなたが消えた夜に
(中村文則)

図書館29
(170)
36
”あなた”とは神のこと、単なるミステリーかと思えばとんでもない人間ドラマです。少し、遠藤周作の『沈黙』を感じさせる部分もあります。『神にも愛にも見捨てられた人間を、人は救うことができるのか・・・』 前半は引き込まれるように読み進めていたが、中盤辺りから、展開が難しくなって追い付けないところも、 それでも、読了したが 読解力のなさを感じました。少し、時間をおいて再読すればしっかり読み取れるかな・・・。しかし、これを読んだ何人かの人が、複雑な人間関係にわからなくなり前を読み直した。とあったので少しはホッとしました。「ある町で突如発生した連続通り魔殺人事件。所轄の刑事と捜査一課の女刑事は“コートの男”を追う。しかし事件は、さらなる悲劇の序章に過ぎなかった・・・」と罪深き男女の話です。警察小説?ミステリー?純文学?読んでみてください。
日本の「運命」について語ろう
図書館28
(169)

35
講演録を再構成したものです。『あまり政治向きな話はやめましょう。小説家が政治を語るのはちょっと興ざめですから』と書いているとおり政治批判ではなく歴史から”何故、こんなことが起きている”といった視線で語っています。「歴史を学ぶ意味は二つあります。ひとつは現代につながる考え方や社会のありようを知ること。そしてもうひとつが、平和な時代が続けられなくなった理由について考えることです。すなわち、それは国家と国民の運命を知ることなのです」と・・・ 『終わらざる夏』 『地下鉄に乗って』 『壬生義伝』 『蒼穹の昴』 『一路』などテーマになった理由もわかります。「特に近現代史を日本は教えてこなかった、中学でも高校でも明治時代の条約改正までで、その先はほとんど教えていない。大学入試で出題頻度が低いこともあり、しかも日本史が選択科目、自国の歴史を教えないのは世界で一国という恐ろしさ・・・」。
インデックス
(誉田哲也)

図書館27
(168)

34
姫川玲子シリーズ(自分としては3作目)、2年ぶりで連作短編集になっています。後半になるとつながりが出て面白いですが、やはり長編の方がいいかな・・・。「池袋署強行犯捜査係担当係長・姫川玲子。所轄に異動したことで、扱う事件の幅は拡がった。行方不明の暴力団関係者。巧妙に正体を隠す詐欺犯。売春疑惑。路上での刺殺事件など」 事件に向かう玲子の奔走ぶりは相変らずで、痛快です。その玲子が『目標を持ち、達成しようとすることは素晴らしいことであり、人はそうあるべきと思ってきた。しかし、その意欲が知らず知らずのうちに、自分の精神や肉が体を壊死させる危険性があるとしたら、・・・何を道標に生きればいいのだろう。頑張らないのは駄目、でも頑張りすぎても駄目・・・。』 う~ん!
鸚鵡楼の惨劇
(真梨幸子)

図書館26
(167)
33
1962年に起きた殺人事件から半世紀にわたり脈々と続く負の連鎖的な物語。完全にミスリードさせられてしまった。伏線があちこちにはめられているのに・・・。「西新宿、十二社。惨殺事件の現場となった料亭・鸚鵡楼の跡地に建つ高級マンション”ベルヴェデーレ・パロット”。その地に漂う忌まわしい記憶が新たな惨劇を呼び寄せる=私の息子は犯罪者になるに違いない=」 この著者の長編は初めて読みましたが、女性目線の性描写はハードなものがあり、中でも文中の『手記』があまりにもあけっぴろげで気持ち悪かったです。面白いけれど人に勧めにくいかな・・。担当編集者が『花街、ママ友、ツイン・ピークス、超高級マンション、SM、スピリチュアリズム、嫁姑、バブルの"闇"――ひとつでも気になる単語はありますか?』と言っています。気になったら読んでみて・・。
ながい坂
(山本周五郎)


32
今から50年前、東京は代々木上原で間借り生活をしていた学生時代、古本屋で買った本を読み終えて、又古本屋に売る様な貧しい生活をしていた時に出会ったのがこの本でした。その時に強烈な印象を受け、自分の生き方に影響を与えた言葉 『この姉妹は泣いたり絶望したりするようなことはないだろう。外側の条件によって左右されない、仕合わせ不仕合わせも自分の内部で処理をし、自分の望ましいように変えてしまう。幸不幸は現象であって、不動のものではない』 この後、日本文学に引き込まれていきました(50年ぶりの再読)。かなりの長編です、話の骨子は「身分の低い者が己の才覚だけで立身出世をしていく」というものですが、人間の人生そのものが描かれていて。主人公の理不尽な物事に対する怒り、どうしようもない挫折、生きることの苦しみ、愛の喜びと・・。
確証
(今野敏)
図書館25
(166)
31

2年前にTVドラマ化されていたのですね、知りませんでしたが今野敏で面白そうだから読みました(TV版はネットでちょこっと観ましたが、原作からすると軽すぎで、しかもシリーズ化してあるようで?)。「盗犯を担当する警視庁捜査三課のベテラン刑事・萩尾と、その部下で、捜査一課に憧れを抱きつつも萩尾を慕う女性刑事・秋穂が都内で起きた強盗事件と窃盗事件を追う。ふたつの事件には繋がりがあるとして捜査を進める2人と、傲慢丸出しの捜査一課との軋轢や駆け引きの中で、果たして・・・」 著者らしい語り口で読みやすいです、肩も凝らず1~2日で読んでしまいます。2冊続けて考えさせられる本を読んだので気分転換によかったです。
イノセントデイズ
(早見和真)

図書館24
(165)
30
日本推理作家協会賞と新井賞を受賞し山本周五郎賞の候補作にも選ばれています。あまりにも切ない話です、確定死刑囚の女と、その無実を信じ続ける男。彼女は本当に罪を犯したのか・・・。「元恋人だった男の家に放火し、その男の妻と双子の子どもたちを殺害した田中幸乃。死刑判決を受け静かにそれを受け入れ、ただ待つ日々・・・」読むのがつらくなるけど、最後まで一気に読んでしまいます。ヒロインのあまりの孤独に胸を打たれます。『純粋とか、無垢とかって英語でイノセントって言うんだ。で、それと無実という意味もあるんだ』 実際の事件でも、都合のいい面しか報道しないことが多いから、どうしても視聴者側の印象も偏ってしまうんだろうなと思わされてしまいます。”衝撃指数極大値”との評もありました。
暗転
(堂場瞬一)

図書館23
(164)
29
実際にあった脱線事故(福知山線脱線事故?)をモチーフに書かれた作品です。事故の被害者、被害者の家族、捜査員、医療従事者、鉄道会社の社員・・・、事故の関係者それぞれの内面が描かれています。事故の被害者・家族はこんな思いをしていたんだと思うといたたまれない気持ちになります。前半部分の事故の状況やそれを解明しようとする動きなどかなり掘り下げて書かれていますがページ数が少なくなってきて、どうやって終わらせるのかと思っているうちにすっと幕切れ、肩すかしを食った感じです。ただ、作者が言いたかったのは、事故の顛末ではなく、それに関わることとなってしまった人達の心情だったのではないかと思われます。組織を守ると言うことは『嘘をつく』ことなのですね。
BLACK OR WHITE
(浅田次郎)

図書館23
(164)

28
「急死した友人の通夜の帰り、旧友から呼び止められ彼の“夢の話”の話を聞くことに。スイス、パラオ、ジャイプール、北京、そして京都。黒の枕は悪夢を、白の枕は幸福な夢をもたらす。それぞれの夢が与えるものは破滅か、それとも成功の福音か」といった不思議な話の中にバブル全盛期から近代日本の実像を描いています。最初は、何かとりとめの無い夢の話ですが後半になると”さすが~”となります、少し『地下鉄に乗って』に似ているような? 『富国強兵の申し子である軍隊は、とうとう世界を敵に回して戦争をし、壊滅して消えた。ところが、その戦争の元凶とみなされて解体された財閥は、死なずに再生した』 『この世にふたつながら存在する明暗、文明が想定した影と光。人はその我慢ならぬ契約から解き放たれるために夢を見る』
満願
(米澤穂信)

図書館22
(163)

27
第27回山本周五郎賞を受賞。第151回直木賞候補にも挙げられ、他に2015年版「このミステリーがすごい! 第1位,、2014「週刊文春ミステリーベスト10」 第1位、2015年版「ミステリーが読みたい!」 第1位と各賞を総なめです。6つの奇妙な事件を描いたミステリ短篇集ですが、連作短編集のようなシリーズものではなく、それぞれが全く異なる題材で構成されており、どの話も読み応えがあります。「表題作・満願=人を殺め、静かに刑期を終えた妻の本当の動機とは、他に交番勤務の警官や 在外ビジネスマン、美少女姉妹が企む自作自演、フリーライターなど、切実に生きる 人々が遭遇するの奇妙な事件」が読む者を引きずり込んでいきます。こんな短編集は初めてでした、傑作です。
超訳
日本国憲法
(池上彰)


26
今、安倍政権が憲法を改めようと目論んでいます。そこで原点に返り『憲法とは?』と考えるには、いい本が出ました。私のような頭でも十分にわかりやすく解説してくれています。『憲法は権力者が守るべき最高法規』ですが、与党として政権を運営してきた自民党が憲法を改正したがっていて、野党が憲法を守ろうとしているのが今の日本なのです。・子供たちの教育、失業者に支払われる雇用保険、貧困者の生活保護の受給など、全て憲法で国民の権利を守っているからです。・問題となる9条:自民党案によると国防軍の保持を明記し、更に9条の2で軍法会議の創設など。 しかし、9条改正が難しいとなれば96条を先に変えるなど姑息な手段も考えています。その他もろもろ・・・。最後に北朝鮮、中国の憲法のことも出てきますが、時の政権が憲法を都合のいいように解釈することの怖さがわかります.。家庭に一冊、常備本です。
出版禁止
(長江俊和)

図書館21
(162)
25
『王様のブランチ』で紹介され話題になっているとのことで読んだのですが、小説ではなく、文章が幼稚で箇条書きのメモを読まされている感でしたが。ただ、ラストになるといろんな伏線が張られていたことがわかり面白くなります。「社会の暗部を暴き続けるカリスマ・ドキュメンタリー作家の心中事件、相手は妻ではなく、不倫中の女。そして女だけが生き残るが、女は一切の取材に応じなかった。7年後、あるルポライターが保持を明記し、彼女のインタビューに成功し、記事を書き始める・・」 読者の中に登場人物の名前がアナグラムになっていると解いた人がいます、若橋呉成(わかはしくらなり)、新藤七緒(しんどうななお)、わかりますか? 読解力不足の私にはそこまで読みこなせなかった。何となく不思議な本でした。
その女アレックス
(ピエール・ルメートル)

図書館20
(161)
24
海外ミステリ史上初の6冠を達成! 「このミステリーがすごい!」や「週刊文春ミステリーベスト10」など、日本のミステリ・ランキング4つを全制覇。本国フランスでも、イギリスでも高く評価され、賞を受けています。 『初めは単なる監禁誘拐ものかと思いきや・・・、第一部の最後で“えっ!?”そこから第二部、第三部と誰が加害者で、だれが本当の被害者なのか?全く展開の読めず、先が気になって仕方がない、徹夜覚悟の本です』 この本をネタバレにならないよう紹介するのは難しい・・・。描写が映画的だという評がありましたが、まさにその通りで、映画化されるようです。ミステリーファンにはたまらなく面白い本です。ただ、かなりグロな表現が出てくるので覚悟が必要だし、映画化されてもR15指定にはなるでしょう。
ゼロの迎撃
(安生正)

図書館19
(160)

23
「大型台風の影響で大雨が続く東京を、謎のテロ組織が攻撃する。明確な他国からの侵略と断定できない中、政府は警察権で制圧を図るが、多数の死傷者を出す。首相はついに、自衛隊の出動を決断。しかし・・・」 北朝鮮の脱北者を見捨てる日本、朝鮮人民軍、中国人民解放軍に翻弄されながら迷走する国家安全保障会議.。法治国家である日本はどうしたらこの非常事態を乗り切れるか?『防御より法治を優先せざるを得ない』 『全ての自衛官が命を賭す覚悟緊張を持って入隊したわけではない』 など、いろんなことを見せてくれますが、今の安倍政権の戦争法案に賛成の人は ”だから、戦争できる国にしないといけない”と言いそうです。ラストに『首相の座につくということは人命に対する責任を負うこと。その覚悟ないことこそが私が赦しをこうべき罪だ』 と。テロ集団のリーダーの苦悩が痛い!
夜また夜の深い夜
(桐野夏生)

図書館18
(159)

22
『「OUT」の頃からすると、桐野夏生らしからぬ』と言う評もありますが、十分に強烈で読み応えがあります。「国籍・名前・父親?自分が何者かもわからず、整形を繰り返す母とアジアやヨーロッパを転々としながら、今はナポリのスラム街に住むマイコ・・・」 内戦・難民・殺人・レイプ・無国籍 少女たちの置かれている状況の凄まじさには息をのみます。中でもリベリアから逃げてきたエリスの過去は凄惨すぎて胸が詰まります、『内線なんて簡単に言うけどさ・・。あたしが従軍されられた子供兵の軍隊なんて、みんなラリっているからさ、殺した相手をばらして心臓を食べてたよ。人間を食べれば、特に心臓を食べたら強くなれると信じている賭けるからだ、それだってきっと宗教上の理由。人間食うのだって宗教だよ』 日本ではあり得ないサバイバル小説です。
ぼくが映画ファンだった頃
(和田誠)
図書館17
(158)
21
著者は、1936年生まれの79歳、イラストレーター、エッセイスト、映画監督の和田誠です。生半可な映画ファンではありません、私などとても、とても・・。「どこの町にも映画館があった頃、映画というものは単なる娯楽を超え、20世紀文化の華であった。映画館が激減した現在、シネマ・コンプレックスという今どきのシステムに戸惑う映画ファンは部屋でDVD鑑賞にひたり、劇場に行かなくなり映画ファンであることを放棄した」と言うことからこのタイトルになっています。しかし『「映画ファン』という姿勢は随所にみられる。映画史に残る日本の名士との交流記やジェームス・スチュワートとの対談も希少です。『まさに映画ファンになるための極上の手引書』とありました。表紙の写真は終戦後取り付けられていた『新橋の虹』(映画会社のマーク)です。
夜のピクニック
(恩田陸)


20
2005年に吉川英治文学新人賞を受賞、第2回本屋大賞を受賞しています。
「80キロの道のりを全校生徒(1200人)が夜通し歩く高校最大イベント『歩行祭』。お揃いの白のジャージに身を包んだ生徒たちは、友人と恋の話をしたり、将来の夢を語り合ったりしながら思い思いに歩くのだ」 ただ、それだけの舞台設定ですが、これがなかなか面白い!最初はうまく話に乗れない感じですが、読み進むうちに登場人物たちに感情移入し一緒に歩いているような気持ちになってきます。『俺らみたいなガキの優しさって、プラスの優しさじゃん。何かしてあげるとか、文字通り何かあげるとかさ。でも君らの場合は、何もしないでくれる優しさなんだよな。それって大人だと思うんだ』”永遠の青春小説”青春時代を過ぎた方もお読みください!
村上海賊の娘上・下
(和田竜)

図書館16
(157)

19
比叡山焼き討ちから5年、信長と大阪本願寺の戦いは7年目を迎えていた時代。瀬戸内海を席巻した「海賊王」村上武吉の娘・景(きょう)が、信長に追い詰められ窮地に陥った本願寺を救うため、戦いに身を投じていく姿を描いた歴史小説。上下で1000ページ近い長編ですが、面白すぎて一気に読み終えました。景は『悍婦にして醜女、嫁のもらい手がない当年20歳』とありますが、これが何とも魅力あるヒロインなのです(この時代では醜女という扱いだが、背が高くて細くて顔立ちも彫りが深い外国人的な顔立ちで、現代人から見れば美人?)。登場人物は多いが、敵方も含め一人ひとりが個性的で魅力に溢れています。著者は『のぼうの城(2009年book紹介)』の和田竜、昨年の本屋大賞受賞作。
虚像の道化師
(東野圭吾)

図書館15
(156)

18
ガリレオシリーズ第7弾の短編集です。「指一本触れずに転落死させる術『幻惑す(まどわす)』、他人には聴こえない囁き『心聴る(きこえる)』、家庭の事情が生んだ惨劇、現場写真から偽装工作を見破る『偽装(よそおう)』、女優が仕組んだ罠『演技る(えんじる)』」の4つの不可解な謎解」 このシリーズもいろいろ読んでいます。短編は何となく物足りない気がしないでもないですが、でも謎を解きながらトリックを見破れるかどうか・・・、とぐんぐん引っ張られていきます。気軽に読める本です、頭を使いながら頭がスッキリする本です。疲れた頭の方是非お読みください。
この著者や宮部みゆきとかの頭の中はどうなっているのだろうといつも思います。
ハケンアニメ
(辻村深月)

図書館14
(155)
17

アニメーション制作業界で働く人々が、そのシーズンに放送された作品の頂点(=覇権)を目指す姿やそれぞれの人間関係を描いた群像劇で、内容は「アニメ製作という仕事をプロデューサー、監督、作画マンというそれぞれの役割を持つ女性の視点からみた」お話しです。初めはわからない言葉も出てきて、何でこの本を借りたのか?と思いながら読み進むうちに段々と登場人物たちに感情移入してしまいました。ラストはグッときて一つのことにに一所懸命になる人に拍手したくなります。『仕事と恋愛』参考にしてください。アニメに興味がなくても、十分に楽しめる本です。2015年1月に本屋大賞にもノミネートされています。
祈りの幕が下りる時(東野圭吾)
図書館13
(154)
16
2013年、吉川英治文学賞受賞。切ない話で読みながら『砂の器』を思い浮かべます、やっぱり『東野版”砂の器”』という書評もありました。”麒麟の翼”などの加賀恭一郎シリーズ。今回は、幼きころに家族を離れた恭一郎の母親のその後も描かれています。事件は恭一郎の母親の死から10年以上経った後起きます。「悲劇なんかじゃない これがわたしの人生。極限まで追いつめられた時、人は何を思うのか。夢見た舞台を実現させた女性演出家。彼女を訪ねた幼なじみが、数日後、遺体となって発見された・・・」 。東日本大震災も絡み原発作業員の労働環境にも触れています 『原発はねぇ、燃料だけで動くんじゃないんだ。あいつは、ウランと人間を食って動くんだ』
ナオミとカナコ
(奥田英朗)

図書館12
(153)
15
「望まない職場で憂鬱な日々を送るOLの直美。夫の酷い暴力に耐える専業主婦の加奈子。三十歳を目前にして、受け入れがたい現実に追いつめられた二人が下した究極の選択…。”いっそ、二人で殺そうか。あんたの旦那” すべては、泥沼の日常を抜け出して、人生を取り戻すため。わたしたちは、絶対に捕まらない・・・」そう、ナオミとカナコの祈りにも似た決断に、やがて読んでいる私も二人の“共犯者”になっていきます(何故、犯罪者を応援する?)、何とまぁ面白いこと、続きが気になり仕方がない。まさに一気読みです。 また、百貨店、銀行、チャイナタウンの裏事情もわかります。“奥田ワールド”全開です!
黒部の山賊
アルプスの怪

(伊藤正一)

14
北アルプスの最奥部・黒部原流域のフロンティアとして、長く山小屋(三俣山荘、雲ノ平山荘、水晶小屋、湯俣山荘)の経営に携わってきた伊藤正一と、「山賊」と称された仲間たちによる、北アルプス登山黎明期、驚天動地の昔話。 山小屋でのみ購入できたこの幻の名作が、『定本 黒部の山賊』として、山と溪谷社から刊行されました。話は昭和20年過ぎから39年頃まで『山賊、埋蔵金伝説、山のバケモノ、山岳遭難、山小屋暮らしのあれこれなど』 のお話し。自分も黒部の奥地にいるような気分になります。登山の様相は今とは随分違いますが、山に対する心構えなどしっかりと教えてくれます。山好きなあなた、是非一読を!
約束の森上・下
(沢木冬吾)

図書館11
(152)

13
映像で観てみたいと思わせる本です、面白かった!
「妻を亡くした元刑事の奥野は、かつての上司から指示を受け北の僻地にある別荘の管理人を(疑似家族を演じながら)務めることになる。やがて明らかになる謎の“組織"の存在。一度は死んだ男が、傷ついたドーベルマンと共に再び立ち上がる」 上下2巻の長編だが、読みやすい。ただ組織が分かりにくく、人間関係も複雑、誰が敵で誰が味方なのか分からないまま話は進みますが後半は急展開一気に解決に向かっていきます。ドーベルマンの活躍(存在)が最高です。この著者は初めてでしたが書店員の人が『本屋大賞』に推していたので読みました。
昭和の犬
(姫野カオルコ)

図書館10
(151)

12
第150回直木賞受賞、選考委員の浅田次郎が『読後おそらくすべての人が感ずるにちがいない、青空を見上げるような清潔感は、作者の品性そのものであろうと思う。・・・こうした普遍の感動を喚起せしめることは奇跡と言ってもよい』 と、ホント読み終わって妙にホンワカした気分になります。「昭和33年、滋賀県のある町で生まれた柏木イク。一人の女性の45年余の歳月からセピア色の写真のように、昭和から平成へ日々が移ろう中。ちょっと嬉しいこと、すごく哀しいこと、小さなできごとのそばにそっといる犬と猫・・・」 の物語。『自分はいい時代に生まれたと思う。昭和という時代には暗黒の時期があったのに、日当たりよく溌剌とした時期を子供として過ごした』 著者は姫野嘉兵衛とも表記しますが、女性です。
売国
(真山仁)

図書館9
(150)
11
著者が「本作は東京地検特捜部を舞台にした小説、同時に初めての“謀略小説”でもあります。しかも、敵は日本と最も親密だと思われているアメリカ…。そんな設定で、私が日本の成長産業として注目している宇宙開発の可能性を描きました」。といっています。昭和30年カオスから生まれた光が日本を照らし始めていた時から話は始まります「どこまでも証拠第一主義を貫く特捜検事と夢と希望を持って宇宙開発研究に邁進する若き女性研究者の2人を主人公に物語は展開していきます」 特定秘密保護法の適用や、政界の闇、アメリカの陰謀など息詰まる展開を見せますが・・・。やはり巨悪は闇の中へ!現実と対比しながら読みましたが、結末は仕方ないのかなぁ~.。(ちょい、ネタバレでスミマセン)
私はテレビに・
(松尾スズキ)

図書館8
(149)
10
NHKラジオで、面白い!と紹介された本です。『ただただ、画面に映りたい。公共の電波に乗りたい。誰にも知られず目立ちたい。普通に生きてきた平凡なサラリーマン倉本恭一(43)に突如芽生えたこの衝動、ここから途方もない冒険が始まる』 と、前半はハチャメチャで、何この本は?と思いながら読んでいると後半になると俄然スピード感が増し面白くなります。「外食チェーン店の人事部に勤める倉本は会社のCMに出演することになったのだが、遅刻して大失敗。そこから”テレビに出たい病”に・・・」 娘エリカも絡みとんでもない冒険物語へと発展していきます。芸能界の裏話なども満載、ハラハラドキドキも有り、見事なエンターテインメントでした。
峠うどん物語 上・下
(重松清)

図書館7
(148)

9
市営斎場の前に建つ、一軒のうどん屋”峠うどん”。中学二年生のよっちゃんは、祖父母が営むうどん屋を時々手伝っていた。暖簾をくぐるのは、命の旅立ちを見届けた人たち・・」 10編からなる連作短編の形をとっているが話は続いています。2006年から5年半かけて書き継いだ物語だそうです。 人の出会いと別れに寄り添う暖かい味が心にしみるお話しばかりです。『あの人は希望とか夢とか未来っていう言葉、好きなんだよ・・。うん、つらい思いや大変な苦労をすればするほど、前に向かって進む言葉が好きになるものだ』 『見送る人は死んでいく人に後ろ髪を引かせちゃダメなんだよ。いろんな後悔や、よけいな思い出や、背負いきれないものを、最後の最後に乗っけちゃダメなの』

ナザレ愛
=金龍成
(クムヨンソン)
先生との約束=

8

『ナザレ園』の由来は、キリストの両親ヨセフとマリアの故郷”ナザレ”から来ている。
この本は、今のナザレ園の宋美虎(ソン ミホー:1950年12月生)園長がシェルパに来られた時にいただいた本です。内容はナザレ園創立者の金龍成先生(1952~2003年)がナザレ園を、何故創ったのか~社会福祉に捧げる人生を選んだのかが先生の生い立ちから書かれています。またナザレ園の現状、日本との関わりなど私たちの知らないことも分かります。
『文化国家と言われる国ほど、人間関係が薄くなり、人間が冷たくなるのでしょう。ヨーロッパ文化にアジアで一番近い日本もその例外ではないかもしれません』 『政治では人間は救えない。人間を救うのは、教育か宗教、芸術だと言うことが分かった』 『人間は、この世に生まれると人として生きる権利を持ちます。生きる権利を持つと同時に、人として尽くす義務も併せ持つのです』 『夢を叶えるのは本人の力で、それを支えてくれているのが(亡くなった)両親ではないでしょうか。頼むというのは、言い換えれば本人が努力していないと言うことですから、私は好きではないんですね』 父親を日本の憲兵に殺されながらも抗日の闘志にになることもなく日本人妻たちの保護に人生を掲げた人です。

(下の写真はナザレ園と宋園長です)
慶州ナザレ園
(上坂冬子)

図書館6
(147)

7

今から33年前(昭和57年)に出された本です。『故国を捨て、海を渡り、戦乱を生き抜いた日本人妻たちは”帰国船に乗り遅れた国際迷い子”となって、今、古都慶州のナザレ園の片隅にひっそりと生きている・・・』 この悲劇を丁寧に取材して書かれています。ここの入居者には三つの流れがある①戦前に日本で自ら選んで朝鮮人と結ばれて朝鮮に渡った者 ②戦前に両親に連れられて渡った者 ③徴用され日本に渡った朝鮮人と結ばれ戦後に夫の母国に渡った者など。朝鮮総督府時代から昭和20年の敗戦、そして朝鮮動乱と歴史に翻弄された人達の哀しい物語に胸が痛めつけられます。今は絶版となった本ですがネットで中古本として39円から買えます。
ロスジェネの逆襲
(池井戸潤)

図書館5
(146)

6
就職氷河期に世の中に出た若者たちを『ロストジェネレーション』(ロスジェネ)と呼ぶ。半沢尚樹第三弾です。相変わらず胸のすくエンタテインメント企業小説!一気読みの面白さ、今回は前作で責任をとらされ銀行の系列会社(証券会社)での半沢の活躍です。「半沢の証券会社がIT企業からライバル企業を買収したいと相談を受ける。ビッグチャンスだが、そこに親会社である東京中央銀行から理不尽な横やりが入り、半沢は窮地に陥る・・・」 今度は親会社の銀行が相手、もちろん倍返し。『プレッシャーのない仕事なんかない。仕事に限らず何でもそうだ。嵐もあれば日照りもある。それを乗り越える力があってこそ仕事は成立する。世の中の矛盾や理不尽と戦え・・』スカッとします!
八月の六日間
(北村薫)

図書館4
(145)

5
『生きづらい世の中を生きる全ての人に贈る”働く山女子”小説!心の栄養補給ここにあります』とあったら絶対に読みます。舞台は燕、大天井、槍、常念、蝶、雲ノ平、双六等、私たちが登った山登る予定の山がわんさか出てきます。「自然とか運動とかが好きなわけではなかった。四十を前に突然、山にめざめた主人公の”わたし”は働く女性。休みをとっては登りにいく。基本はひとりで行く。ザックに入れた文庫本を道連れにして三年間に出かけた山の旅」を描いています。山は体力的にはいつもきつく危険もある。主人公が思わずつぶやく「何で、こんなとこ来ちゃったんだろ。引き返せない、逃げられない、自分の足をひたすら運ぶしかない」と、しかし心優しくなる本です。(本をクリックしてください)
お文の影
(宮部みゆき)

図書館3
(144)

4
いずれも江戸・深川舞台の怪談話が6編の短編集。『怪しの者たちは悲しくむごい過去を背負っているようだ。この世に未練を残す他なかった者たちの魂の叫び』が聞こえてくるようなお話しです。この作家のすごさが分かります。中でも表題になっている『お文の影』はホロリときます、これには「ぼんくら」シリーズの政五郎親分とおでこが出てきます。他に『討債鬼』には「三島屋」シリーズの青野利一郎と悪童3人組が出るなど多彩な顔ぶれも楽しめます、この話の中で「おなごの嫉妬というのは恐ろしいですな。仏法の多くが、女人ばかりは救い難しと断じるのも無理はないかと思いましたぞ」って、ふふふ!どうなんでしょう?
木暮荘物語
(三浦しをん)


3
オンボロ木造2階建アパート木暮荘を舞台に、住人や大家さん、住人の関係者がそれぞれ主人公になり繰り広げられる人間模様が七つの話にまとまっています。ホンワカかと思うと『性』に纏わるストーリーばかりなのです。性の悩みが生々しくて、ちょっと苦手ですが、あり得なさそうな話に人生の凝縮を感じさせてくれます。「木暮荘には4人の住人がいる。今彼と前彼との3人での共同生活をする羽目になる花屋に勤めるの女の子、死ぬ前にもう一度セックスがしたいという70過ぎの大家、今時の女子大生、階下の女子大生の生活をのぞき見る若い男。それに彼らとつながる変な人達の物語」 深く人生が語られる話です。
一人っ子同盟
(重松清)
図書館2
(143)
2
両親がいて、子どもは二人。それが家族の『ふつう』だったあの頃。一人っ子で鍵っ子だったぼくとハム子は、仲良しというわけではないけれども、困ったときには助け合い、確かに、一緒に生きていたんだ。昭和40年代の団地で生きる小学校六年生の少年と少女。それぞれの抱える事情に、まっすぐ悩んでいた卒業まで・・・」のお話しで優しさが身にしみます。ラストになると切なくて胸が締め付けられ、やはり涙で終わりました。『だれ一人として悪い人や間違っている人はいなくても、すべてが思いどおりになるわけでもない』 『どうにもならないことって、ある。けっこうたくさんある』 ”THE重松清”という作品でした。
教場
(長岡弘樹)

図書館1
(142)

1
新任の警察官を訓練する警察学校が舞台。風間公親が担任をする教場(学級)で事件が起きる、これを風間が解決に導く6つのエピソードからなっています。警察学校の実態がリアルに描かれていてとても興味深いです。実際に警察学校ってこんなに理不尽で厳しいのかなと思ってしまう。教官による体罰の横行。誰かがミスをすれば、連帯責任ということで生徒はみんな戦々恐々としている。
戦前の旧日本軍と同じではないかと思えます。『警官に人権意識、民主主義的感覚がない理由がここに書いてある』というコメントもありました。ちょいと違う世界をのぞいてください。