book(2019)

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民王(池井戸潤)
図書館73(426)
74
麻生政権末期の2009年に連載開始。漢字の読めない首相、二世議員、政権が転がり込んできたとか、数々のエピソードが太郎さんとソックリ。でも、麻生政権風刺小説ではなく、政治とは何かを捉えています。総理大臣と、息子(大学生)の人格が突然入れ替わってしまうという荒唐無稽な話しから始まります「漢字の読めない政治家、酔っぱらい大臣、揚げ足取りのマスコミ、バカ大学生が入り乱れ、巨大な陰謀が・・・。」 何ともぁ、こんな話しを思いつく者だと思いますが、著者は『1億2000万人も国民がいるのに、なんでそのリーダーが漢字を読み間違えるのか、誰かと脳波が入れ替わっているのでは」と思ったそうです。その後も、民主党政権、安倍政権と政治の世界では何一つまともなことはありません。
思わず考えちゃう(ヨシタケシンスケ)
図書館72(425)
73
絵本作家ヨシタケシンスケの初エッセイ集です。電車で、カフェで、自分の家で、ついつい考えたことがイラストと共に描かれていて、読んだ後気持ちがホッとします。楽しい本です。『明日すごいよ、明日すごいやるからね、っていう。でも、今日はもう、寝るけどね、っていう。自分を甘やかすときに、とっても便利な言葉です』 『日日、生きていると、その99%は“どうでもいいこと”であって、いちいちおぼえている意味も価値もないのですが・・・』 『誰か、決めてくれたらいい、そうすると、うまくいかなくても人のせいにできるっていう。自分で責任をとりたくないんです。でも誰か決めてくれたらそれは一生懸命やる』 『相手の“できないこと”によりそうむずかしさ。人の悩みはつまりそういうことではなかろうか』 ・・・。
引き抜き屋2(雫井脩介)
図書館71(424)
72
「ヘッドハンターとして約1年、各業界の経営者との交流を深め、実績を積んで成長している小穂に、元いた父の会社が経営危機に陥っているとの報せが届く。父との確執を乗り越え、ヘッドハンターとして彼女が打った、父の会社を救う起死回生の一手とは?」 父の会社にヘッドハントされて入ってきた常務・大槻との対決も見物。1(上巻)と違い今回は一気読みの面白さです。『仕事と人生に真正面から取り組むすべての人に勇気を与える』 とありました。現実には官僚やメディアの忖度にうんざり、やはり小説の中でしかこのような爽快感は味わえないのでしょうか?いやそうではない、何時か世の中は変わると思いながら読みました。ネタバレでスミマセンが『倍返し』的な結末でスッキリします。
I の悲劇(米澤穂信)
図書館70(423)
71
IとはIターンのこと、何とも不思議な話で連作短篇集の形を取っていますがすべてつながっています。「そして誰もいなくなった、山間の村。六年前に滅びたこの場所に人を呼び戻すため、Iターン支援プロジェクトが実施されることになった。業務にあたるのはこの地区を擁する市役所の“甦り課”の三人。 彼らが出会うのは、一癖ある移住者たちと、次々と発生する“謎”だった・・・。」結末にはアッと驚かされます。地方の衰退が年々酷くなっている今の日本の縮図を見ているような気がします。実際にはこんな問題があり地方切り捨てにつながるんでしょう・・・。『自前でさびた水道管さえ直せないで、中央が稼いで地方が使っている。そんな町は存在するだけで経済的に不合理なんだよ』 と、やりきれませんね。
さざなみのよる(木皿泉)
図書館69(422)
70
“宿り、去って、やがてまたやって来る・・・命をめぐる、祝福と感動の物語”とありました。著者は脚本家、和泉務(いずみ つとむ)と妻鹿時子(めが ときこ)夫妻の共作ペンネームです。「主人公ナスミの死から発生したさざなみが彼女と関わった人々にどう関わっていくか、過去現在未来を通して描かれる」 14話のエピソードの中に、人の心の優しさが心に染み渡ってきて、とってもいい小説です。誠実に人と接することの大切さを教えてくれます。『よいことも悪いことも受けとめて、最善をつくすッ』 『あげたり、もらったり、そういうことを繰りかえしながら、生きてゆくんだ、わたしは。そうか、お金にかえられないことって、そういうことか』 2017年、NHKで“富士ファミリー”といいうタイトルでドラマ化されていたのですね。
引き抜き屋1(雫井脩介)
図書館68(421)
69
“ヘッドハンター”という仕事があるなんて初めて知りました。「アウトドア用品メーカーの創業者の娘、鹿子小穂は次期社長と目されていたが、再建のためヘッドハントされてきた常務と衝突し、父親の会長から武者修行をと会社を追われる。そしてひょんなことから自らがヘッドハンターとなることに・・・」 “ヘッドハンター”の仕事は『会社に新しい風を取り入れたい等いろんな理由からそれに合う人材を探して欲しいという依頼を受け、要望にかなう人材をヘッドハンティングし紹介する』というものです。実際にニュースなどで社長や役員の交代などを見ていると、裏にはこういう存在があるのかとうなずけます。郵政も公社化・民営化の時、外部から来た経営者はそうだったのでは?WOWOWでドラマ化されています。
壁の男(貫井徳郎)
図書館67(420)
68
栃木県北東部にある田舎町、そこで町全体の家の壁に子供の落書きのような奇妙な絵が描かれていた。これは、その絵を描いた男の物語です。「ノンフィクションライターの私はSNSの呟きで、その町の事は知っていた。なぜ男は壁に絵を描き続けるのか…。現地に行って絵の描き手に会い、描いたきっかけなど本人に取材を試みるが塾の経営者だというその男は“子どもが喜ぶと思って家に書いただけ”と言って取材を拒否する」 登場人物がそれぞれに悲しみを背負って生きている。重くて切なく哀しいけど、心にしみいる話しです。『才能の有無とその人の価値は全く別の問題なの、才能があるからって、ただそれだけで人の価値が決まるわけじゃない。何をしたかが大事なの』 そうですよね。
検事の信義(柚月裕子)
図書館66(419)
67
“佐方貞人シリーズ”最新刊(四作目)、このシリーズ(最後の証人 検事の本懐 検事の死命)全部読んでいます。今回は任官5年目の佐方の四つの事件(『裁きを望む』 『恨みを刻む』 『正義を質す』 『信義ぎを守る』)が描かれる、『信義を守る』が圧巻「認知症だった母親を殺害して逮捕された息子の裁判を担当することに。彼は介護疲れから犯行に及んだと自供、事件は解決するかに見えた。しかし・・・」介護殺人の裁判に佐方が臨むもので、切ないお話しです。“罪はまっとうに裁かれなければならない”という佐方のブレない信念、「秋霜烈日」今の世の中こんな検事がいてくれたらいいのにと思ってしまいます。『介護は大変ね、って声をかけたら、育ててもらった恩返しですよ、って笑っていた』。
このあたりの人たち(川上弘美)図書館65(418)66 川上弘美が8年かけて、創り上げた<このあたり>をめぐる26のショートショートなお話し。「にわとりを飼っている義眼の農家のおじさん、目は笑っていない“犬学校”の謎の校長、朝7時半から夜11時までずっと開店しているが町の誰も行くことのない“スナック愛”、そして連作全体に活躍するかなえちゃん姉妹等々」 と、何とも不思議な話が満載、現実に私たちの周りにもあり得るのかも・・・。編集者の言葉より『〈このあたり〉には団地も公民館もあって郷愁を誘うのですが、どんどんその町は奇妙さを増していき、気づいたときには、読む者はとんでもなく遠いところまでさらわれてしまっているのです』 そうなのです、最初は?と思いながら読み進むうちにしっかりと川上ワールドに引き込まれているのです。
あしたの君へ(柚月裕子)
図書館64(417)
65
家庭裁判所調査官の仕事は、少年事件や離婚問題の背景を調査し、解決に導くこと(初めて知りました)。これは見習いの家裁調査官補が一人前の調査官を目指す話し。「養成課程研修のため、望月は九州の県庁所在地の家裁に配属された。そこで初めて事件を扱うことに。窃盗を犯した少女。ストーカー事案で逮捕された高校生。一見幸せそうに見えた夫婦。親権を争う父と母。心を開かない相談者たちを相手にすることに・・・」 人間うわべだけでは真実はわからないと言うこと、特に第一話は胸が痛みます。『人に迷惑をかけることと、助けを求めることは違うわ。助けを求めることは悪いことじゃない。むしろ、生きていく上で必要なことよ。人は誰かに助けてもらわなければ生きていけないものだもの』。
とっても不幸な・・(畠中恵)
図書館63(416)
64
タイトルは“とっても不幸な幸運”、この著者のものは時代物しか知りませんでしたが現代物も中々面白い。新宿駅東口の近くにある“酒場”という名の酒場、そこに集まる人々に起きる不思議な出来事を描いた短編小説集「酒場の店長の娘が百円ショップで買った『とっても不幸な幸運という』名の缶、それを開けると不思議な現象が起きる第一話から始まり、二話以降も缶を開けることで、それぞれの人生物語が展開していく」 こんな酒場があったらいいなぁ~、と思わせます。ミステリー要素も若干含み、なんかほんのり温かさも感じる本です。『人は一人では生きていけないというけれど、この世の中は、一人で死ぬことも、病気になることもできない仕組みになっているらしい』 そう、人間一人では寂しいのです。
警官の貌(今野敏ほか)
図書館62(415)
63
今野敏、誉田哲也、福田和代、貫井徳郎の4人による警察小説の短編集。「紺野の“常習犯(警視庁捜査三課・職人気質の盗犯担当”、誉田の“三十九番(所轄署留置係の警官)”、福田和代の“シザーズ(警視庁通訳センター・通訳捜査官の活躍)”、貫井徳郎の“見ざる、書かざる、言わざる、ハーシュソサエティ”(近未来もので残酷な犯罪の死刑制度を問う)」、捜査三課、留置係、保安課と通訳捜査官、(未来の)強行犯係と普段あまり馴染みのない部署の話しで面白くも、読むのがキツイものもありました。4人がそれぞれが持ち味を発揮した贅沢な作品集。『冤罪があるかも知れないが犯罪者がきちんと罰せられる世界と、冤罪がない代りに殺人者が社会に戻ってきてしまう世界。どちらが好ましいか』 どう思います?
関西電力・・・(齋藤真)
図書館61(414)
62
タイトルが『関西電力「反原発町長」暗殺指令』、これがノンフクションだと言うから驚き!2011年に出された本ですが、今話題の元助役M(森山)も出てきます。 「14基の原発が立ち並ぶ福井県・若狭湾沿岸の“原発銀座”。反原発を打ち出していた当時の高浜町長への暗殺計画があった・・・」 原発がいかに社会に害毒を流すものであるか関西電力の体質に寒気がします。テーマとしては面白かったのに著者の力量不足か、今一中途半端に終わった気がします。 原発のある自治体の職員は『原発に伴う交付金は、地域活性化のためにも重要な収入だ』と語ります。実際に2017年度の高浜町の原発関連の収入が53億6379万円、歳入の約55%という、これを見ると原発マネーがいかに地方を蝕んでいるか?  
マチネの終りに(平野啓一郎)
図書館60(413)
61
映画化されたが、以前から読みたい本でした。 「天才ギタリスト蒔野は、演奏会後の友人との食事会でフランスの通信社でジャーナリストとして活躍する記者の洋子と出会う。出会った時からお互いに惹かれあった二人、洋子には婚約者がいた。東京、バグダッド、パリ、ニューヨークを舞台に、物語が繰り広げられてゆく』 音楽と戦争と愛についての物語、背景にはイラクをはじめとする中東問題なども絡む。心を揺さぶられます。『人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです』蒔野のこの言葉が物語を貫いています。『他と比べて自分はまだマシだったとか(中略)そういう相対的な見方は、加害者同士の醜い目配せよ』と洋子。映画でこの雰囲気が出るかなぁ~?

9月1日/母からのバトン
(樹木希林/内田也哉子)


図書館59(412)
60
樹木希林がなくなる二週間前の病室で『今日は9月1日だね。死なないでね、死なないでね』と窓の外に向かって語りかけていた。それは“今日は、大勢の子どもが自殺してしまう日”と、娘の也哉子さんは知った。その思いを引き継いでこの本ができました。「9月1日が嫌だなと思ったら、自殺するよりはもうちょっと待って、必要のない人なんていないんだから。年をとれば、必ずがんとか脳卒中とか心臓病とかで死ねるんだから、無理して死なないでいい』と訴えたのです。この本は第一部『樹木希林が語ったこと』と第2部『内田也哉子が考えたこと』の2部構成でインタビューを中心に構成されています。このような本を読んでいたら自分たちの子育てももっと違っていたのにと反省させられます。それと子育てだけではなく人(配偶者・子ども・他人)との接し方生き方にも感じるものがあります。
・大人が改めた方がいいと思うことふたつ。“ちゃんとしなければいけない”“恥をかいてはいけない”。
・『こうじゃないといけない』という思い込みは親にも子にもある。
・許すってことは、自由になることなんだね。
あとがきで也哉子さんが「私はどこか周りと違うふるまいをしている母を敬遠していました。母は人との比較ではなく、自分の心がよしと決めたことに真摯に向き合い、また、そのことで生じる摩擦も含め人の営みを面白がっていた』と・・・。心に沁みる本です。
トリガー・下(真山仁)
図書館58(411)
59-2
「元内閣情報調査室長の冴木は、北朝鮮の潜伏工作員・和仁と手を組み、真相に迫る。一方、暗殺された韓国選手のSPを務めた巡査部長の藤田は、彼女を守れなかった悔恨の思いを胸に、彼女が遺した“あるデータ”の行方を追っていた。」真相は・・・、 アメリカの身勝手で在日・在韓米軍が民営化される日が来るのか?『民間軍事会社の傭兵どもは戦争をした方が儲かる。米国の言いなりのバカ総理の顔が浮かんだ』 実際、自国民の死亡者を少なくするため米国は民間軍事会社を使い世界で戦争をしている。トランプが日本に駐留費の増額を求めているのもここに狙いがあるのかも?冷え込む日韓関係や来年開催のオリンピックを意識したストーリー。房長官、首相の人物造形はリアリティがあり興味深い!
トリガー・上(真山仁)
図書館57(410)
59-1
“東京五輪で放たれた、一発の銃弾。凶弾に倒れた選手は、日米韓の安全保障を揺るがす情報をつかんでいた”となると絶対に読みます。「舞台は2020年東京オリンピック。金メダル候補と目される馬術競技の韓国の女性選手が、競技中に暗殺される。彼女は検察官で伯父は大統領、五輪直前に不正に関する極秘捜査をやめるように脅されていた。また、在日米軍女性将校と北朝鮮の潜伏工作員の変死事件も相次いで発生・・・」 警視庁、国家安全保障局、内閣情報調査室、検察庁、韓国国家情報院、米国国家情報局など、それに北朝鮮の潜伏工作員と手に汗握る展開です。『アメリカは軍の撤退をちらつかせ、正規軍の代りに民間軍事会社を我が国に駐留させようといている』 ありそうな話しです。下巻へ続く。
果鋭(黒川博行)
図書館56(409)
58
舞台は関西、登場する人物たちも悪い奴らばかり。元刑事のワルでタフなコンビがクズどもを蹴散らす悪漢小説です「刑事時代の相棒から、パチンコ屋のオーナーが半グレに恐喝されてトラブルになっているので、収めるために手伝った欲しいとの依頼が来る。調べてみると、そこにはパチンコの業界団体、暴力団や元エリート警官が絡んだ、大きな事件が浮きがってくる。その事件を餌に、大金をせしめようとする2人・・・」 舞台はパチンコ業界、パチンコをしない私ですが『全国に1万2千店あるといわれるパチンコ・スロット店。ホールコンの遠隔操作や出玉機の細工がネタになっている』 ということは、こんな不正は本当にあるのでしょう。 損するのは客ばかり・・・。そうですよね、だから業界は成り立っているのです。
我らが少女A(高村薫)
図書館55(408)
57
合田雄一郎シリーズ。この著者のものは奥が深い、単なる刑事物ではありません。「池袋で同棲相手に撲殺された女性。犯人は彼女が12年前の未解決事件(元中学美術教師の老女殺し)に関わっていたのではと思わせる供述をする。警察(特命班)は騒然となる、当時の捜査責任者の合田の頭には、ある少女の姿が蘇る“あの少女Aが本ボシなら自分たちは何を見落としていたのだろう?”再び関係者を訪ねる」 事件により日常を失い、静かに狂っていく人の様が怖い。心を病んだ人の気持ちに、読みながら少し重いものを感じます。直接面識のない人間とSNSでつながる怖さや、モンスト、ドラクエ、ぷよぷよなどのゲームが出てくるが、SNSやゲームに強くない私には少しわかりにくかった。濃密な人間ドラマです。
ゆけ、おりょう(門井慶喜)
図書館54(407)
56
『竜馬がゆく』に対して『ゆけ、おりょう』なのでしょう。幕末の京都で出会った龍馬と結婚したおりょうの物語寺田屋事件のおりょうの機転や日本初のハネムーンの話とかは有名ですが、大酒飲みで思ったことはずばずば言うおりょうの人となりがとても興味深く面白いです。「命に替えても龍馬とは一緒にならんと思っていた。龍馬いう男、夫だと頼りないが、世話のやける弟がふえると思えば“これど後愛しい人はおらん”と夫婦になる決心をする。剣の腕が立ち、脱藩という死生の線をあえて超え、多数の子分を引き連れるくらいだから凡庸な男ではないのだが、“ああ、頼りな”と思うことも。しかし、次第にその大きさに自分は必要ないのでは・・・と」。龍馬の死後、おりょうの生き方がが切ないです。
宝島(真藤順丈)
図書館53(406)
55
第60回直木賞&第9回山田風太郎賞&第5回沖縄書店大賞など多数受賞!第二次世界大戦後の沖縄を舞台に、1972年沖縄返還までの20年間を若者たちを軸に描いた群像ドラマ。実際に起きた事件を元に、戦後の沖縄の混沌とした雰囲気が見事に出ています「1952年、戦果アギャーであったオンちゃんを中心に、グスク、レイ、ヤマコの3人は深い絆で結ばれていた。しかし、嘉手納基地の強奪未遂事件でオンちゃんは消息不明に。残された3人は、それぞれの人生を歩み始める・・・」この時代から現代まで沖縄に対するアメリカ・日本の姿勢は変わっていない事がよく分る。『この島の人達が何を望んでいるかを政権も日本人もわかっていなかった。いや、知らん振りを決め込んだ。二国の関係強化のため、アメリカとの一体化のため、この島に基地を残しておきたいのは日本人だ』 今でも沖縄は日本ではない?
さらばスペインの日日(逢坂剛)
図書館52(405)54
イベリアシリーズ、ついに完結。日本の無条件降伏、第二次世界大戦の終結。戦争が終わって諜報員たちの闘いが始まる。「大戦が終結。北都は、戦犯指定の危機にさらされる。一方、ヴァジニアは、英国秘密情報部(MI6)第九課長キム・フィルビーがソ連の二重スパイである事実を暴こうと動き出す。だが、二人は同時に拘束され、別々に勾留される・・・」 この2人の運命は? 著者が『太平洋戦争を描いた小説は多いが、同時期ヨーロッパでの日本人がどう戦ったかという小説はない。そこでスペイン内戦が終了した半年後から始まったヨーロッパ戦争、更に2年後に勃発した太平洋戦争をスペインから見た目で描きたかった』 と言っています。主役の3人以外はほとんど実在した人物と事件をもとに書かれています。
暗殺者の森(逢坂剛)
図書館51(404)53
イベリアシリーズ第6弾、1994年ドイツが追い込まれヴァレキュール作戦の失敗、敗戦の濃くなるドイツ、そしてヒトラーの自殺。無条件降伏を受け入れる1945年5月までを描いています。そんな中、日本は相変わらず大本営発表を続けています。「反ヒトラー派ではあったがヒトラー暗殺には否定的だったカナリス提督がゲシュタポに捕らえられ、時を同じくマドリッドでヴァジニアが拉致されそうになるところを北都が救い出して自分はゲシュタポの手に落ちる・・・」 緊迫したシーンが続きます。今回、ヒトラー対反ヒトラーの内紛がかなりのボリュームで描かれます、当然と言えば当然ですが締め付けがひどいナチに対しても心ある軍人たちがいたのですね。長~いこの物語も次作で完結、いよいよ日本の敗戦です。
鎖された海峡(逢坂剛)
図書館50(403)52
イベリアシリーズ第5弾、史上最大の作戦Dディも間近な頃の英独スペインが舞台。「ムソリーニ失脚後、ヒトラー率いるドイツ軍はさらなる窮地に追い込まれ、連合軍はヨーロッパへの上陸作戦をたてる。一方、ヴァジニアは日本人の女スパイの謀略にかかりロンドンに帰任、そして(最も危険な)ドイツに潜入することに・・・。離ればなれになった北都はどう動く?」 必要な情報が上層部に届かなかったり戦争してるのに内部での権力闘争に明け暮れたりと日本だけではなくどこの国も同じです。戦争を早く終わらせたいと願う者がいる中、戦争遂行組は『無条件降伏』を突きつけられたら・・・。逃げ場がないドイツ、いずれ日本も同じ運命に!(ここからネタバレ)それにしてもペネロペ何のために生かしておいたのか?可哀想すぎる。
暗い国境線(逢坂剛)
図書館49(402)51
イベリアシリーズ第4弾、解説より「英国将校の死体が身につけた“機密文書”の真偽を探れ!無条件降伏を突きつけられたドイツ。ヒトラー最後の望みは、地中海沿岸に上陸する連合軍の返り討ちのみ。枢軸国と連合国、史上最大の欺瞞工作が始まった。時代のうねりに引き裂かれる北都昭平とヴァジニアの愛の行方は?」 1943年ムッソリーニ体制が崩壊を迎えドイツ・日本にも敗戦の色が濃くなる。敵国どうしで愛しあった2人、先行きを考えると切なくなります。もちろんフクションですが、史実を背景に描かれている、スターリングラードの攻防やカティンの森事件、それにゲシュタポまで絡んできます。第一作が発表されたのが1999年、四作目の本著が2005年、まだまだ続くのです。
亥子ころころ(西條奈加)
図書館48(401)50
シリーズ2作目、“まるまるの毬”から(5年ぶりの)続編。「腕を怪我して菓子作りに支障がでた治兵衛を助けるように、都合よく渡り職人雲平が現れた。」 ところから始まります。もちろん登場人物は主の治兵衛に、出戻り娘のお永、孫娘のお君と叔父の五郎、今回七つの話になっています。お永と運平、別れた元夫との関係にやきもきするお君と治兵衛、それぞれが相手を大切に思っている心情が何ともいい。。どんな困難が訪れようとも、常に明るさを忘れず、家族を、人を思いやる・・・。こんな話に泣けるのです。 私はたまたま前作と続けて読みましたが、シリーズ化するには間が空きすぎのような気がします(それだけお菓子作りのシーンは難しいのでしょうね)。気持ちをほっこりしたい人にはお薦めです。
ニワトリは・・(重松清)
図書館47(400)49
タイトルは『ニワトリは一度だけ飛べる』 。「ふとしたきっかけで左遷部署に異動となってしまったサラリーマンが主人公、彼のもとに『ニワトリは一度だけ飛べる』というメールが届くようになる。その部屋に異動してきた3人を“オズの魔法使い”の登場人物になぞらえて、何かメッセージを伝えようとしている・・・」 内部告発を端に企業ぐるみの隠蔽工作が明るみに、その時どう戦うか?一生に一度だけニワトリは飛ぶことができるのです。“臆病なライオン”は「仕事はたいせつだけど、好きなわけじゃない」、“脳のないカカシ”は「会社じゃねぇよ!仕事だろうがよ、大事なのは!」、“心がないブリキの木こり”は「会社との距離の取り方、もっと考えたほうがいいんじゃないですか?」などと、どうです、自分はどのタイプですか?
笑えシャイロック(中山七里)
図書館46(399)48
シャイロックとは『ベニスの商人』に登場するユダヤ人の金貸しのことです。本作は銀行債権回収マン(取り立て屋)の奮闘記 「帝都第一銀行に入行し、都内の大型店舗に配属が決まった結城。そこはリーマン・ショック後に焦げついた債権の取り立て部署、上司となるのは伝説の債権回収マンとして悪名高い山賀だった。百戦錬磨の山賀の背中を見ながら、職人気質の町工場、新興宗教、元政権党の幹事長、地上げ屋など、回収不可能とされた案件に次々と着手せざるを得ない結城。そんなある日、山賀が刺殺体で見つかる。」 池井戸作品を思い浮かべる痛快さがあります。『金貸しの中で一等悪どいのは銀行だ。質屋やサラ金だってもう少し人情味や引き際を知っている』 世の中こんなものでしょう。
燃える蜃気楼(逢坂剛)
図書館45(398)47
イベリアシリーズ第3弾、真珠湾攻撃後の1942年11月から連合軍の北アフリカ上陸まで。チャーチルとルーズベルト、それを裏で支えるスパイたち・・・。混迷を深める第二次世界大戦 「枢軸国側と連合国側の間を揺れ動くフランコ政権下のスペインで繰り広げられる激しい情報戦の焦点は、連合国による北アフリカ上陸作戦。英、米、独、スペインの緊迫は高まる。そんな中、北都の前に日系人女性杉原ナオミが現れる。敵となったヴァジニアは“彼女ではなく自分を信じて”と彼に忠告を与えるが、2人の愛の行方は・・・」 。ジブラルタル海峡をめぐる情報戦が繰り広げられる。日本や独の暗号が解読されていたり、二重スパイの動きなど、何を信じればいい?ラストに新たな事実も出てきてますます目が離せない。
遠かる祖国(逢坂剛)
図書館44(397)46
イベリアシリーズ第2弾、独ソ不可侵条約、三国同盟、日ソ中立条約、そしてドイツのソ連侵攻を経て1941年12月の真珠湾攻撃へと、この間の舞台裏を中立国スペインを中心にスパイたちの暗躍する姿を描いている。「極秘の任務をを持つ北都とイギリスのスパイ・ヴァジニア、2人は愛しあい、諜報員としての微妙な立場に立つことに。イギリス、スペイン、ドイツ、アメリカが絡んでいくが・・。一方、日本軍首脳(というより陸軍)の情勢判断の甘さや、我が道を行くヒトラー政権が第二次大戦へと舵を切っていく」 国家が誇大妄想狂になることの危険さや、情勢を読めない軍人や政治家、何時の時代も同じ。タイトルの意味がよく分かります、歴史を知ることは大切です。600ページを超え長いですが、読み応えがあります。








自由思考
(中村文則)


図書館43(396)45
著者初めてのエッセイ集、デビューした2002年から2019年までの分が収められている。大まかに(文学論的なもの)(社会問題や政治)(エッセイと受賞関連の文)となっています。“あとがき”より『については、僕が現在の政治やその背後や周辺にあるものに危機感を持っているので書いた。ある一つのエッセイによって、面倒なことになり警察にも迷惑をかけた。そのことで逆にこういうことを書くようになった。それは、表現の自由、報道の自由が、今こんなにも危険なのだということを改めて知ったからだ。あまりそうは感じない方もいると思うけど、実際、マスコミ内部では、しっかり真実を報道しようとする人達と、政権などを守ろうとする人達とのせめぎ合いがある・・・。徐々に、真実を報道しようとする人達は押されている』 。
・メディアでの「両論併記」が目立つようになった。政府のやることに厳しい目を向けることが当然なのに、「多様な意見を紹介しろ」という「善的」な理由で「政府への批判」が巧妙に弱められる仕組み。
・ヘイトスピーチを表現の自由だと言って擁護したりヘイトスピーチはやめろという言動を、言論弾圧だという風潮がある。表現の自由とは、国家権力に検閲されず、権力に都合の悪い主張でも表現できる自由を指す。
・今世界がおかしな方向に向かっている理由の一つに、当然インターネットの存在がある。
・防衛省の日報隠蔽問題、財務省の文書改ざん問題、厚労省の虚偽データ問題、この国は相当まずい状態まで来てしまった。政権にとって都合の悪い書類が隠蔽や改竄される国。政府発表のあらゆるデータ、数値は政権が気に入りそうに改竄・捏造されたものか信用できなくなった。
・不当な法案の強行採決の連続、モリカケ問題、データの捏造、公文書改竄・破棄、外交の失敗の連続。さすがに無理が来ている。“おごれる人、久しからず”
・子どもの『将来の夢』 僕は官僚になりたいです。国民を見るのではなく、政権の顔色ばかりをうかがうようになりたいです。そのためにはデータを隠蔽し、捏造し、時には男らしく破棄し、強気に嘘をつき、そのことで政権に気に入られ、出世していく官僚になりたいです。退職後の天下り先も、今から大変楽しみにしています。よだれが出そうです。
・僕は何党も支持していないし、普通の政治をしてくれるなら何党でもいい。でも、現在の政権とその背後と周辺にあるものにとても危機感をもっているから選挙に行く。
・憲法9条を少しでも変えたら「平和憲法が変わった」という認識の下、日本の自衛隊は米軍の2軍になる。アメリカから見ると日本国民の中でも憲法が変わった意識が広がり、アメリカの戦争に協力させやすくなる。
・憲法9条を失えば、日本人は決定的にアイデンティティを失う。
著者が好きな作家にドストエフスキー、ジッド、太宰治、安部公房、大江健三郎などをあげていますが、私も若き頃かなりはまった作家たちです、書いていることがほとんど私の感じていることと同じのは(頭のレベルは全く違いますが)何となく思考が似ているのかなとも思います。
※政権支持派で保守の人達の反論を聞きたいものです。
旧友再会(重松清)
図書館42(395)44
離婚、定年、介護などををうまく盛り込んだ短編集、どの作品もジーンときます。いつもこの人の本を読むと心が洗われというか、何となく気持ちが落ち着きます。「ある年の秋、旧友再会、ホームにて、どしゃぶり、ある帰郷」の5編です。タイトルでもある“旧友再会”は、タクシー運転手が旧友を乗せたところから始まる、旧友との気遣い、居心地の悪さを抱えての会話。どの話しも甲乙つけがたいです、“ある年の秋”はしんみりとした懐かしさ、“どしゃぶり”は私の野球部時代(中学生)を思い出しました。『働きどおしだった自分の人生を振り返って後悔することがあるから、若い世代には“休んだっていいんだぞ”と伝えたかったのだろうか』(ホームにて)。“8050問題”って知っていますか?
ファーストラヴ(島本理生)
図書館41(394)43
初読み作家、昨年の直木賞受賞作品!タイトルからするとベタベタの恋愛ものと思ったが、ところがとても重い家族間の問題、性虐待や児童虐待をテーマにしています。幼い頃から子どもに注がれる愛、それが欠落した子供の悲惨さ。「父親を殺した容疑で逮捕された女子大生環菜(かんな)、犯行は認めるが動機は“自分でもわからないので、みつけてほしい”と。臨床心理士の由紀は、この事件を題材としたノンフィクションの執筆を依頼され、事件の真相に迫っていく・・・」 父親を殺した環菜だけでなく、登場人物たちはみな家族について悩みを抱えています、親子・恋人同士、他人に理解することは難しい。『どんな人間にも意思と権利があって、それは声に出していいものだということを裁判を通して初めて経験できた』 。
まるまるの毬(西條奈加)
図書館40(393)42
初読み作家、吉川英治文学賞受賞作品!期待通り人の温かさが心にしみる本でした。八つの連作短編集 「江戸・麹町で親子三代で菓子を商う“南星屋”は、売り切れご免の繁盛店。武家の身分を捨てて職人となった治兵衛を主に、出戻り娘のお永とひと粒種の看板娘お君が切り盛りするこの店には、秘密があった」。3人の他に治兵衛の弟を加えた登場人物の個性が素晴らしい、タイトルは八編ともお菓子の名前。読むほどに頬が落ちます。『“お団子のことをまるまると言うの?”そうだよ、お団子みたく、気持ちのまあるい女の子になりなさい』 『才ある者は己の才のなさを誰よりもよく知っている。だからこそたゆまず努め、ころんでも立ち上がり、時には這ってでも先へ行こうとする。世にいう天分とはそのようなものだ』。
























令和を生きる
(池上彰/
半藤一利)


図書館39(392)
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『“平成の失敗を超えて”政治の劣化、経済大国からの転落、社会の分断・・・。問題は何もリセットされていない!度重なる大災害とデフレに苛まれた30年間に、「日本は経済二流、官僚三流の国」「デマと差別が溢れる国」になってしまった。私たちはどこで道を誤ったのか?どうしたらこの国を建て直すことができるのか?』池上彰さんと半藤一利さんの二人が撤退検証した対談です。
第一章:劣化した政治、最初の岐路
・小選挙区制はヒトラーを生む、ナチスドイツは小選挙区制と比例代表制を利用して党勢を広げた。
・小選挙区比例代表立脚の導入は岐路だった(死に票が山ほど出て民意を伝えるものではなくなった)。
 それに、この選挙制度は当分このままでいくでしょう、その制度で選ばれた国会議員たちが決めることなので変えるのは非常に難しい。
第二章:災害で失われたもの、もたされたもの
・福島の事故で、天皇が「時として人々の傍らに立ち、その声に耳を傾け、思いに寄り添う」といわれた。
 「沖縄の方々に寄り添い」といいながら全く寄り添わない安倍総理、2019年1月の所信表明演説から「寄り添う」を消した。さすがに恥ずかしいと思ったのでしょう。
第三章:原子力政策の大いなる失敗
・1956年に原子力委員会が設立、メンバーに湯川秀樹を引き入れたが、「自分たちで技術を取得してからでいいじゃないか、基礎研究からやるべき」と主張したが委員長の正力松太郎が買えばいいと言い、湯川は委員会を飛び出す。その後、地震や津波のないアメリカのGE社から購入、結果が福島。
・「原発は日本人でさえコントロールできていない」と、他山の石としたドイツもイタリアもえらいもんです。ところが、当事国である日本の政治家どもは福島から全く学んでいない。原発輸出に熱心になっている。
・アベノミクスの柱である、原発輸出はことごとく失敗(安全対策にコストが膨らんで採算が取れない)。
第四章:ネット社会に兆す全体主義
・かつての非国民が今ネット上では『反日』、「中国が民族としておかしいわけではない、共産党の一党独裁が問題だ」といってだけでもそうです。私たち二人とも『反日』と言われています。
・『歴史認識から事実が置き去りにされていく』その世界だけがすべてだと思っている人たちがネットユーザーのなかにはたくさんいるということです。
・情報をユーザーに提供する側から、その人にふさわしい情報というものを勝手に選り分けて提示しているのです。検索の時に使ったキーワードの傾向に合せて関心のある方向にコンピュータが判断して、その傾向の情報だけが届けられる。従って、新聞などのようにすべての情報を見るということはなくなる。
・保守化・右傾化のきっかけは産経新聞のネット全文公開(新聞は売れなくてもネットの広告料が入る)
・全体主義と言うのは国力が弱くなっているとき、社会が混沌としているときに生まれやすい。
第五章:誰がカルトを暴発させたのか
・オウム事件は過去の遺物ではない。ウソにまみれた陰謀論は今もはびこる。
・世紀末の不安、青年の不安に新興宗教が忍び寄った。
第六章:「戦争がない時代」ではなかった
・ちなみにアメリカはPKOには協力していません。ずるいでしょう。
・日韓対立は日本のためにならない、「朝鮮半島を大事に」というだけで反日。やはり産経新聞の影響が大きい、同紙では2014年から『歴史戦』という特集で歴史上韓国との間で何があったか、その論戦で勝たねばならないといっているんです。
・日本は戦争中いかに国民を騙すために言い換えをやったか(撤退→転進、全滅→玉砕)安倍首相が今同じ事を盛んにやっている(戦闘→武力衝突、共謀罪→テロ等準備罪、情報公開を阻む法律→特定秘密保護法、武器輸出→防衛装備移転、カジノ法→統合型リゾート実施法、移民→外国人材、単純労働者→特定技能者、護衛艦を空母化しても→多用途運用護衛艦、安全保障関連法→平和安全法)積極的平和主義って一体なんですか?
第七章:日本経済、失われたつづけた30年
・内閣官房が各省庁の要の人事を握ることになった。安倍政権はできるものはなんでもやろうとした、「内閣官房からニラまれたら将来がない」とひたすら忖度するようになった。官僚も情けない。
・前のバブルがはじけてから30年の年が2020年、オリンピックなんかやっている場合じゃない。
・平成の始め非正規社員880万人、平成30年2120万人(小泉内閣の時に始まり技能職に限っていたものを竹中平蔵が製造業へ広げた=ところが、竹中は人材派遣会社の取締役会長です、いくら何でもモラルに反する)
・アベノミクス下での給与水水準上昇は大本営発表だったのか?(毎月勤労統計調査など)
・中国・共産党が膨大な個人情報を握って国民を監視する。
・麻生さんは口からでまかせの万事に半可通大臣ですからね。まあ、何に限らずあの人は、自分が何をしゃべっているかのかさえ、わかっていいない人のようですからね。
第八章:平成から令和へ=日本人に天皇制は必要か
・平成天皇の根っこには「平和が大事だ」「言論の自由が大切」とう思いがある。
・天皇の「憲法を守る」発言が政治的批判とされる不思議な構図
・「公益と秩序」のためには言論の自由はないとする自民党改憲草案(戦前の治安維持法よりひどい)
・「個人」を「人」と一般化することによって個人より国家を優先させた。
・自民党改憲草案は『日本会議』が狙った七項目をぴしっと盛り込んでいる。
・若い世代が、ネットの産経新聞の影響かどうか、改正のほうに傾いているというのでしょう。
・平成天皇のお言葉に「歴史を正しく伝えていくことが大切であると思ってきました」 この『正しく』はネトウヨのことを意識した言葉ともとれますね。
最後に「国のトップがものごとを単純化し、早手回しに二者択一を迫るのが好きときたから、世のことはすべて白か黒で決まる。中身がよく分からないから、少々疑義を呈しようものなら、たちまち造反やら抵抗勢力の烙印を捺されて排除される。


一切なりゆき
~ 樹木希林のことば~
(樹木希林)


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2018年9月に亡くなった樹木希林の遺した言葉を集めたものです。『目次:第1章 生きること、第2章 家族のこと、第3章 病のこと、カラダのこと、第4章 仕事のこと、第5章 女のこと、男のこと、第6章 出演作品のこと・・・』。“病気がきっかけでぐわんとかわった”と言っています、「求めすぎない。欲なんてきりなくあるんですから」と言う彼女流の生き方が心に沁みます。
・お金や地位や名声もなく、傍からは地味でつまらない人生に見えたとしても、本人が本当に好きなことができていて「ああ、幸せだなあ」と思っていれば、その人の人生はキラキラ輝いていますよ。
・子どもの声を楽しいと思わないなんて、いつから日本はこんな国になったのかなあ、寂しいなあ。
・日常生活では、手を抜くことがいちばん。そのためには、徹底してものを増やさず無駄を出さない暮らしをしています。まず買わない。
・いつまでも後を振り返るより、前に向かって歩いたほうがいいじゃありませんか。
・存在をそのままに、あるがままに認める。そうしたらずいぶん楽になりました。
・『万引き家族』がパルムドール賞を受賞したのは、個々の人間がどうやってそこまで生きてきたかを、丹念に見ながら積み重ねていった結果なんじゃないかと思うの。どの役もみんな生きているでしょう。
・おごらず、他人と比べず、面白がって、平気に生きればいい。
読んでいくうちに自分の気持ちが軽くなる感じがします。“座右の書”にしておきたい本です。
イベリアの雷鳴(逢坂剛)
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イベリアシリーズ(1999年~2013年、全7作)、これはその1作目。、著者はスペイン近代史の研究をしているだけあって、しっかりと時代考証を踏まえていて面白い。第二次世界大戦を背景に、ヨーロッパ、特に戦争中は中立国だったスペインを舞台に、連合国と日独伊枢軸国側との諜報戦がテーマになっています。「1940年。内戦の痛手いまだ癒えぬスペインでは、フランコ殺害を企む一派が活動を続けていた。ジブラルタルを巡り、日英独の諜報戦が熾烈を極めるマドリードに現れた日系ペルー人の宝石商・北都昭平は、やがて激動する歴史の渦へと・・・」 軍人、新聞記者、女スパイ、殺し屋、地下運動家など魅力ある人物が繰り広げる戦争裏話。続きを早く読みたい。馴染みのある地名がたくさん出てきます。
平場の月(朝倉かすみ)
図書館36(389)38
山本周五郎賞受賞と言えば、どんな内容か想像つくと思います。とても切なくて、心に沁みる本でした。『好きな人が死を迎えてしまう』それは泣ける恋愛小説の定石パターンと言えるでしょうが、これはひと味違います。「転職、親の介護、離婚を経て今は地元で一人暮らしの50歳の青砥健将。彼は検査に訪れた病院の売店で、中学時代の同級生、須藤葉子に再会。実は、かつて青砥がふられた相手だ。葉子も離婚歴があり「今は一人暮らしで、二人は“互助会”と称して近所で酒を飲む仲となる」 お互いが相手を大事に思う気持ちが、時には歯がゆくもあります。『後始末をするひとにやさしい部屋づくり』 考えたことがありますか? "平場"とは、ごく一般の人々のいる場といった意味で、等身大の二人に好感が持てます。



対談 戦争とこの国の150年
保阪正康、浅田次郎ほか)

図書館35(388)37
作家、エッセイスト、文学者たちが考えた『明治から平成』の日本のかたち。保阪正康と5人の対談です。
・浅田次郎:戦前も戦後も日本人は“既成事実の追認”だけ。それは明治以降この国にはグランドプランがないからです。『戦前の日本も戦後の日本も突き詰めていくと、国家としての正体がない』
・西村京太郎:死ぬことは怖くなかった。“どうせ俺たちも死ぬんだ”という気持ちでした。『“アメリカと北朝鮮が戦争になったらどうなる”とか“尖閣諸島に中国が攻めてきたら自衛隊はどう戦う”こんな記事が盛んに読まれるようになってきたというのが怖い。国民全般に何となく“戦争やむなし”の気分が醸成されつつある。(ホントの戦争の怖さを知らないままに・・・)
・池内紀:太平洋戦争期の日本の言論と熱狂は、第一次大戦のドイツとソックリです。『朝鮮戦争が始まると提灯行列で“戦争はいいね、これで儲かる”とそういう大人たちの態度が理解できませんでした。』
・逢坂剛:赤紙がきたとき、隻眼の父は“俺のところにくるようじゃこの戦争はもうダメだ”と思ったそうです。『個々の作家の蔵書を残すことに価値がある』=日本の政治には歴史に対する無理解という文化がある。単なる責任逃れから終戦直前に軍部の資料を焼却させるような閣議決定をしている。今も、記録隠蔽、改ざんが問題になりましたが、戦争から70年も過ぎたのに、全く恥ずかしい。
・半藤一利:明治150年がおめでたいなんて、“何をぬかすか”ですよ。『平成末期と昭和ヒトケタ時代の共通点』=国際連盟が機能しなくなって、ヨーロッパの国々もサーッとひいて“自国ファースト”になり満州事変を起こした時代。それと同じように今国連は力がないし、トランプ以降、難民問題をきっかけにヨーロッパも自国ファーストを主張する勢力が増えている。中国もしかり。
・保阪正康:『従軍慰安婦問題でも、終戦のドサクサで私たちの国が戦争中の資料類を燃やしてしまったという基本的な問題、最近のモリカケの問題にも通じる重大な問題があるのに天に唾するようなことを平気でやっている。
明治以降の歴史を見ながら考えると今の日本、政治家が真剣に考えているとは思えません。『メルケルが安倍と会ったときあまりにも何にも知らないので、以後目をあわさないそうですが、すぐに分かったんでしょう。どんな人物か・・・』 まさにそうでしょう。
ノースライト(横山秀夫)
図書館34(387)36
『64』以来久々の横山ミステリー、と言っても警察も刑事も出てこないし、殺人事件も起きない建築家を主人公にした小説です。が、謎を追いながら、人間ドラマとして仕上がっている。「建築家の青瀬は、自分が住みたい家をテーマにY邸を建築する。絶賛され、建築業界紙で200選の一つに選ばれる。しかし、依頼主は住むことなく邸を放棄し一家蒸発してしまう。残された一脚の椅子を手がかりに一家の行方を追うことに」。 建築家ブルーノタウトは知りませんでしたが、人(建築家)が家を建てることへの思い入れや大変さはよく分かります。「家がもし、人を幸せにしたり不幸にしたりするのだとしたら、建築家は神にも悪魔にもなれる」。 “ノースライト”とは『北からの光』で部屋をやさしく包み込む家の意味も。
沈黙する教室(大川珠季訳)図書館33(386)35 映画『僕たちは希望という名の列車に乗った』の原作本で、著者はディートリッヒ・ガルスカ(その時の高校生)2007年に体験を元に書いた話です。この映画を観た時にその後の彼らが気になっていた、亡命後の西ドイツでの出来事から40年後の同窓会までの再会が描かれています。社会主義、共産主義か資本主義とかは関係なく普通の市民はいつの時代も犠牲者だと言うことを強く感じます。「逃亡後保護者の説得や捜査が行われるも、5年後に壁が建設、簡単に行き来も出ずに33年が経ち壁が崩壊・・・」。現実はイデオロギーの妄想的絡まりの外側で起っていたのだった、と。『今年金生活をしている、たまに倹約するのがしんどい。多くはないけど足りている。でも、ヘルメットを被せられているみたいなのは耐えられない』。


あれよ星屑 1~7
(山田参助)


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手塚治虫文化賞、日本漫画家協会賞・大賞を受賞。理由は、戦争による人間の業と欲を正面から力強く描いたことが高く評価されたことによります。単行本全7巻(50話)、漫画をまとめて読んだのは何年ぶりでしょうか、圧倒的な傑作です。「空襲で焼け野原となった敗戦直後の東京が舞台。復員兵の黒田門松と、その上官だった川島徳太郎が、闇市で再会。死に損なったことで先に逝った戦友に詫びながらもたくましく生きようとする門松に対し、戦地での体験に引きずられて“闇”に沈んでしまいそうになる川島。一方、慰安婦、パンパンやストリッパー、孤児たち・・・、 厳しい現実のなかで翻弄されながも懸命に生きていく」 必死に生きる人間のたくましさが素晴らしい、ラストに赤ん坊を女たちが可愛がる描写にとても気持ちが救われます。反戦とか、戦争美化とかではありません『戦争を知らない子供たち』と呼ばれた世に代伝えていくべき本だと思います。著者は46歳、なのに戦中・戦後の描写がすごい、当時を描いた映画や本・報道写真などが役だったとのこと。朝日新聞に『各章各ページから占領下の怒声や泣き声、笑いが聞こえる。復員兵の葛藤を軸に実写化されそうな気がするものの、できればこの漫画の質感のまま作品世界に浸かり続けたい』 と、また、俳優の瑛大も『どうか、この作品だけは実写化されませんように』 と、それだけこの漫画の持つ雰囲気が素晴らしいのです。
坂の途中の家(角田光代)
図書館32(385)33
女性でないと書けない。女性脚本家が『子育てという密室でもがいている全ての母親への救いでした。小さな命を預かる重圧。善良で無理解な助言。弱った心を刺す正しい言葉…』 と言っていますが、子育てで苦しんでいる母親の心の内が読んでいて辛くなります。「裁判員制度を題材に、補充裁判員に選出され30代母親による乳児虐待死事件を担当することとなった2歳の女児を持つ専業主婦の追い詰められていく心理」を描いたサスペンス。結婚後、変貌していく夫、昔はこうだったと夫の肩を持つ義母、両親の言葉に傷つき、ついつい子どもに当たってしまう。『良き親であろう、善き人であろうと思いつつ余裕がなくなるとすぐにかっとして、その怒りをコントロールできなくなる、思いやりや気遣いが出来なくなる』 と。
父からの手紙(小杉健治)
図書館31(384)32
“2006年から売れ続け、重版12回。脅威のロングセラー”とありました。著者が『決して無償の愛ではありません。自分の子として生まれてきた娘への感謝の念。いざという時、父はいかに娘を守るのか。娘の仕合せをひたすら願い続けた父親の物語です』と言っています。「失踪した父親から誕生日毎に手紙が姉弟に届く。10年が経ち結婚をひかえた姉、しかし、婚約者が死体で発見され弟が容疑者として逮捕される。また、義姉のために殺人を犯した男。この二つの物語が交わるとき・・・」 ミステリー仕立てで次が気になりグングン進みます、人と人、親と子の強い絆・相手を思う心に胸を締め付けられます。特に最後の手紙のシーンはじーんと きます、こんなに強い親になれるかな…。
傲慢と善良(辻村深月)
図書館30(383)31
40前の男(架・カケル)と30代半ばの女(真実・マミ)の自立の話でもあり恋愛小説です。第一部は架側から、第2部が真実側からの話し、一部は冗長過ぎて少し退屈しますが二部になると俄然面白くなります。「婚活で出会い婚約した真実が失踪、婚約者・架が捜索する中で失踪の本当の意味と架が知らなかった真実の姿が明らかになる」。母子、友人、それに女子たちの人間関係。知らぬ間に人を傷つける傲慢さ、善良さ、人間の本質を描いています。『現代の日本では、一人一人が自分の価値観に重きを置きすぎていて傲慢です。その一方で、善良に生きている人ほど、親の言いつけを守り、誰かに決めてもらうことが多すぎて、自分がないということになってしまう。傲慢さと善良さが同じ人の中に存在してしまう』。
とめどなく・・(桐野夏生)
図書館29(382)30
著者の最新刊 『とめどなく囁く』 タイトルから毒があるかな?と思って身構えましたが、さらりと読めて読後感も良かった。「8年前に釣りに出た夫はボートの上で消えた。遺体は上がらず、生死不明。事故か故意か?今は、再婚して70過ぎの資産家と相模湾を望む超高級分譲地で暮らす早樹。しかし、元夫の姿が目撃されたと義母からの連絡。そして、無言電話。 夫は生きていたのか・・・」 伏線が多数張り巡らされているのですが、早く真相を知りたくなり、先へ先へと進みたくなる。上下に段組で400ページを超えますがアッという間に読んでしまう面白さ!夫婦、家族のあり方を考えさせられます。普通の夫婦でも『家事の分担から、映画の感想や、政治のことまで、言い争っている場面をみることがある』 そうなのです。
機捜235(今野敏)
図書館28(384)29
軽くサッと読めます、機捜の覆面パトカーで渋谷を密行する二人の刑事の活躍を描いた連作短編。「警視庁第二機動捜査隊に新しくやってきたのは髪が白くなった、皺の目立つ男だった。機捜にこんなロートルがきて大丈夫か…。しかし、彼は独特の能力と経験を秘めた刑事だった」 。警視庁に“捜査共助課見当たり捜査班”(指名手配犯を見つけることに特化した捜査班)というのを初めて知った、捜査員たちは500人もの指名手配犯の顔を記憶しているそうです。また、機動捜査隊がどんな仕事をしているのかも面白かった。警察っていろんな部署があるのですね。『メディアとは、本来政府を監視して批判しなければならないのだろうが、それほどの気概も根性もないから権力の末端である警察を批判したがるんだよ』 。
無実はさいなむ(アガサ)図書館27(383)28 “ねじれた家”と共にが著者が『最も満足している二作』のもう一つの作品です。1958年作品ですが、今読んでも全く色あせません。「慈善家の老婦人が殺され、養子のジャッコが逮捕された。彼はアリバイを主張したものの有罪となり、獄中で死んだ。それから二年後ある男が訪ねてくる、ジャッコにはアリバイがあったのだ。では、真犯人は?」 外部からの犯人は考えられない中、誰が犯人なのか疑心暗鬼になる家族、人の弱さや脆さが浮き彫りになる。人間の奥深い心理を描いた傑作、よく計算された物語に脱帽です。『人の気持ちって他人にはわからなものなのね。顔の後ろにかくれた気持ち、ありきたりの言葉の裏の気持ちって、絶対にわからないのね。憎しみや、愛や、絶望に煮えたぎったいるかもしれないのに』 。
Kの日々(大沢在昌)
図書館26(382)27
2006年に刊行された本ですが、今回新装版が出ました。帯に『闇に葬られた3年前の暴力団組長誘拐事件。消えた身代金8000万円。事件の鍵を握るのは謎の女・京(ケイ)、調査を依頼された裏の探偵・木(モク)。女は、恋人を殺し金を独り占めした悪女なのか、それとも、亡き恋人を今も思いつづける聖女なのか・・・』 やくざ、悪徳刑事、中国人マフィア、死体処理業者等が絡み話が二転三転どころか七転八起して途中はわけわからなくなったりもするけど、一気読みです。“新宿鮫”の作家ですが、それと違い動きの少ないハードボイルという感じです。ホントにこんな世界があるのかな?政治の世界も同じで私たちの知らないところでいろんなことが起きているのでしょう。
海の・・・(荻原浩)
図書館25(381)26
直木賞受賞作『海の見える理髪店』。父(母)と息子、夫と妻、家出して海を目指す小学生、亡くなった父の形見から父を想う、今は亡き娘の代わりに成人式に出る夫婦。近くて遠い、儚い家族の日々を描いて、心が温かくなる六編が収められています。表題作の“海の見える理髪店”は「有名俳優や大物政治家が通う伝説の店だった。ひとりの男がある思いを秘めて、その店を訪れる・・・」 この著者は初めてでした渡辺謙主演で映画化された『明日の記憶』を書いた人です、それを思うとなるほどとうなずけます。自分の人生を後悔しないためにも、毎日を大切に家族と過ごしていきたいと思える本です。年をとったせいか、こんな切ない話しに弱くなりました。お薦めです!
信州・・・(梓林太郎)
図書館24(380)25
タイトルは“信州・善光寺殺人事件”、何とも安っぽく推理小説としては偶然ばかりの中で犯人に辿り着くというお粗末なものでした。著者も86歳、あらすじだけ考えて後は弟子に書かせたのでは?と思ってしまいました、もう少し緻密に書いたら面白かったのにぃ!松本署の刑事・道原伝吉シリーズです 「新潟県の三条署管内で、松本在住の戸板の変死体が見つかった。道原伝吉は相棒の吉村巡査と捜査に当たる、戸板について調べを進めるうち、昨年、娘の婚約者が北穂高岳からの下山中に滑落死していることが判明する。二つの事件はつながっているのか?」 と面白そうですね。ところが、この後関係の無いような事件や関係者が出てくるのですがラストはつながります。もうちょいと一工夫欲しかった!
あちらにいる鬼(井上荒野)図書館23(379)24 直木賞作家井上荒野の父・井上光晴と母、そして光晴と長年、恋愛関係にあった瀬戸内寂聴をモデルに、彼らの三角関係を描いたお話しです。寂聴の不倫相手の娘が書いていると言うことで何となく興味本位に手に取ったのですが、愛とはなにか、夫婦とは何かを考えさせられる本でした。こんな話を昇華させた著者の筆力がすごい(という評もあった)「作家の父には同業の愛人がいて、父の没後は、愛人と母が心を通い合わせていた。」 人間ってなんだろう・・・・。寂聴が何故出家したのか、現在97歳になった彼女にも興味がわきます。『どんな物語も始まれば終わるしかなくて、血を吐くような恋をした女も、歴史を動かした男も、やがて死んでしまい、そうなればただの物語の一部になってしまう』
KID(相場英雄)
図書館22(378)23
元陸上自衛隊員(レンジャー)VS.政府が秘密裏に構築する巨大監視網。現代日本の超監視社会、ここまで来たかと空恐ろしくなる。「香港で中古カメラ店を営みながら、ボディーガードを副業としている元自衛官の城戸。警護を引き受けた上海の商社マン王作民とともに日本に帰国したところ、王が殺されなぜか捜査当局に追われるはめに。これはワナなのか…」 息もつかせぬ展開、まるで映画を観ているようです。現政権の管官房長官を思い浮かべながら読むと直面白い。『公安警察は、固定、携帯電話のほか、インターネット上のメールのやり取り、SNSを通じたメッセージも一気に吸い上げる巨大監視網という仕組みを運用している』 安倍政権になって政府に都合のいい法律を作ったことを思うと、さもありなん!
ある男(平野啓一郎)
図書館21(377)22
平野啓一郎って難解と思っていましたが、本作はミステリー仕立てでありながら、ヘイトスピーチから死刑制度まで、現代社会の差別や社会問題を巧みに盛り込んでいます。が、読みやすいです。「離婚歴のある里枝は、夫と別れた後長男を引き取って14年ぶりに故郷・宮崎に戻ったあと、大祐と再婚して、新しく生まれた女の子と4人で幸せな家庭を築いていた。しかし、ある日大祐は、事故で命を落とす。一年後に大祐が全くの別人だったということがわかる…。里枝が頼れるのは、弁護士の城戸だけだった。過去の自分を消すために戸籍を交換していたということがわかる」 ラストの母と息子の会話には気持ちが和みます。『人生、良いことだらけじゃないから、いつも“三勝四敗”くらいでいいかなと思っているんです』
木曜日の子ども(重松清)
図書館20(376)21
重松清にしては何とも怖い。タイトルはマザーグースの『生まれた曜日による占いの歌から』“木曜日の子どもは遠くに行くって”からとってあります。親と子、日常の闇をのぞき込むような重くて深いテーマ 「7年前、中学校で起きたクラスメイト9人の無差別毒殺事件。 結婚を機にその地に越してきた一家、夫は妻の連れ子である14歳の息子との距離をつかみかねていた。幸せな家族をつくりたいと願い引越してきた父親に対してジワジワと明かされる町の負の遺産と義理の息子の本当の姿 ... 」 いじめや虐待などよくニュースになります。何でこんな社会になったのだろうと考えさせられます。私たち年代には理解しかねますがこんな中学生がいたらホント怖い!サスペンスがみなぎり怖いながら読み進みます。
国宝・下
(吉田修一)

図書館19(375)
20-2
花道編!「喜久雄は三代目花井半二郎を襲名、しかし、順風満帆といかず田舎回りの日々が続く。一方俊介は失意のもと行方知れずに・・・、日雇いをしたり薬におぼれたりそれでも舞台に立つことを夢見て。この2人がいつかは・・・、歌舞伎界に復帰できるのか?」 役者というものは業の深い生き物、そして役者の妻としてどんな苦境にあっても夫にほれぼれする女たち、登場人物たちがみんな素晴らしい。『男なんてどいつもこいつも甲斐性無しで意気地の無しのアホばっかりや。でも、生まれてくる子には、何の罪もないねん』 歌舞伎を観たこともない私が歌舞伎を観ている気になります。上下合せて全698ページ一気読みです、ラストは切ない!
国宝・上
(吉田修一)

図書館18(374)
20-1
青春編!歌舞伎俳優の話です。極道の跡取り息子が、全てを失い飛び込む梨園の世界。そこで出会うもう一人の跡取り息子。血か才能か。ただひたすらに上手くなりたいと稽古に励んでいく二人・・・。 信頼と裏切り、1964年の長崎から、大阪そしてオリンピック後の東京へと。「ヤクザ(当時は任侠)の新年会で主人公・立花喜久雄が父親を殺されるところから始まる。仇討ちをしようとするも上手くいかず、喜久雄は歌舞伎役者・二代目花井半二郎の元に引き取られることになるのだが、そこで生涯のライバルとなる半二郎の息子・俊介と出会う」 何の知識も無く読み始めたのですが、いきなりやくざの出入り。しかしその後歌舞伎の世界へ・・・。始めちょいと物足りないのですが段々と引き込まれていきます。(下巻へ続く)

柳橋物語
/むかしも今も
(山本周五郎)


19
この二作は別々に発表された(昭和21年と24年)小説ですが、レコードにたとえるならA面とB面に似た関係と言われています。そこで二つの物語を一緒に紹介します。『柳橋物語』は「気丈で働き者のおせん。彼女はおとなしく控えめな庄吉と、乱暴者だが闊達な幸太の2人から相次いで求愛を受ける。幼さゆえに同情と愛とを取り違えて・・・」ここから数奇な運眼をたどることになる、『むかしも今も』は「愚直だけが取り柄の直吉。彼は幼い時に両親を亡くし、紀六という指物師の家に世話になり、娘・まきの子守役となる。しかし、まきが結婚したのは弟弟子の清次(美男で大店の出)。清次は博打を辞めることが出来ずにおちていく・・・」。男の言葉を一途に信じ待ち続け、降りかかる苦難と酷薄な世間に抗するおせんの健気さ。一方、一人の女を守り切ろうとした直吉の愚直さ。この哀しい心情には胸が痛くなります。『金があって好き勝手な暮らしができたとしても、それだけで仕合わせとはきまらないものだ、人間どっちにしても苦労するようにできているんだから』 『誰が悪いのではなく不運なめぐり合わせだろうが、世の中にちょうど善いということは少ないものだ』 人間性溢れる、名もなき庶民の世界を舞台に描かれたこの二作、悲劇の連続の中にも希望を見いだすことで気持ちが救われます。天災地変に人々が翻弄されるシーンがよく出てきますが著者が体験した洪水や関東大震災、東京空襲などが消化し描かれているそうです。
小説日本婦道記
(山本周五郎)

18
このような本をまさに名作というのでしょうね。武家の良人(おっと)や妻子達の二十一の短編に、どれも凜とした清々しい女性の生き様が描かれていて一話一話読む毎に心にジ~ンとくる感動が残ります。現代人には武家の時代と違うのでこのような生き方は出来ないと思いますが、強い信念を持って夫や子供を支え、時には導いていく女性の姿には背筋がしゃんと伸びます。最後になると切なくなってもいきます・・・。なお、直木賞を固辞して受けなかった(他の賞なども)とのこと。これは著者の関心事が『政治にも道徳にも法律にもかまってもらえない“最低ギリギリの庶民”が持つまごころや愛情だったからである。従って賞に付きものの権威や権力を嫌った』のでは言われているそうです。座右の書となる一冊です。
インソムニア(辻 寛之)
図書館17(373)17
安全保障関連法の成立でPKO部隊に『駆け付け警護』の任務が加わった。第一陣として南スーダンに派遣された部隊の悲劇を描いた、第22回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。「陸上自衛官7名。1人は現地で死亡、1人は帰国後自殺。現地で起きたことについて、残された5名の証言はすべて食い違っていた・・」 著者が『着想は自衛隊の日報問題、そして帰国隊員のPTSDの問題である。隠蔽、改ざんで塗りこめられ、真相は藪の中。その自衛隊員たちの苦悩と悲劇を書いた」と。『危険を背負って現場に行くのは自分たち自衛隊員だ。議員も大臣も現地がいかに危険かを語らず国際貢献というきれい事のために送り出している』 “災害救助の現場を見て、国民を助けるために自衛隊に入った”という隊員のジレンマ。


安倍政治100のファクトチェック
(南彰/望月衣塑子)


図書館16(372)16
『ファクトチェックとは、首相、閣僚、与野党議員、官僚らが国会などで行った発言について、各種資料から事実関係を確認し、正しいかどうかを評価するもの。トランプ政権下の米国メディアで盛んになった、ジャーナリズムの新しい手法である』そこで今回2人のジャーナリストが“森友・加計学園問題”“アベノミクス”“安全保障法制”“憲法・人権・民主主義”“官房長官会見”の分野で総計100のチェックを行っています。(正しければ〇、部分的に正しくても誇張があったり本質からずれていれば△、間違いは×)
・安倍首相(×=17、△=18、〇=3) ・管官房長官(×=8、△=2) ・麻生(×=3) ・佐川(×=5、△=1)
・岡本財務官房長(×=1) ・土生内閣審議官(△=1)・籠池理事長(×=1)・稲田防衛相(×=3、△=3)
・松井大阪府知事(△=1) ・維新・足立(×=1) ・山本地方創生相(×=2) ・松野文科相(×=1)
・佐々木内閣府地方創生事務局長(×=1) ・白間文科省官房審議官(×=1) ・民進・木内(×=1)
・柳瀬秘書官(×=2)・加計学園(△=1)・民主・海江田(×=1)・民進・連坊(×=1)・加藤厚労相(×=1)
・勝田東京労働局長(×=1) ・野田政権・安倍政権(△=1)・高市政調会長(×=1)・丸川環境相(×=2)
・オリンピック組織委員会(△=1) ・岸田外相(×=1) ・横畑法制局長官(×=1) ・中元防衛相(×=1)
・防衛省(×=1) ・小野寺防衛相(×=1) ・自民党(△=1) ・維新・片山(×=1) ・自民・丸山(×=1)
・下村文科相(×=1) ・自民・石破(×=1) ・籾井NHK会長(△=1) ・福田財務事務次官(×=1)。
以上100のうち、×=66、△=31、〇=3 という結果でした。
『言った者が勝ち』がはびこる今の政治、誰もがアクセスできる公開情報を用いて検証しています。
著者の南彰さんが事実の基づかない情報により有権者の判断が歪められている言っています。『アメリカ大統領選挙』『EU離脱の英国の国民投票』『大阪都構想の住民投票』など・・・。怖いですね。
帰去来(大沢在昌)
図書館15(371)15
新宿鮫の著者がこんな本を、守備範囲外のSFサスペンスミステリーとでも言うのか?とても面白かった!「警視庁捜査一課の志麻由子は、連続殺人事件の囮捜査中に、犯人に首を絞められ意識を失う。ところが、意識を取り戻した彼女がいたのは、パラレルワールドと思われる別の世界(光和27年のアジア連邦・日本共和国・東京市)だった。その世界での由子はエリート警視、混乱の中で捜査を開始する」果たして元の世界に帰ることは出来るのか?こちらとあちらの事件が絡み合って一気に読ませます。『どの世界でも、エネルギー源が国家間の主導権を争う鍵となっている。資源を持つ国と、それを欲しがる国がいつも争いの中心にいる』 。パラレルワールド的な話は大好きです。



権力と新聞の大問題
(望月衣塑子&マーティン・ファクラー)



図書館14(370)14
『菅官房長官会見で記者として当然の質問を重ねることで、なぜか日本の既存メディアから異端視される東京新聞の望月記者。そんな「不思議の国・日本」のメディア状況を、彼女とニューヨーク・タイムズ前東京支局長マーティン・ファクラー記者がタブーなしで語りあった』本です。安倍政権は第二次安倍政権になってからメディアコントロールを強化してきているそうですが、日本のジャーナリズムがこんなことなのかと怖くなります。
・日本ではネット右翼のように扇情的で感情的な情報を盛んに流そうとする人たちがいます。嫌中、嫌韓とか、極端な改憲論とか、極端なナショナリズムに惹かれる人たちが、安倍政権のナショナリズム志向に同調したりするのです。
・管官房長官は問題が起きても秘書官や官僚の準備したものを読み、誰が質問しても「そのような指摘は当たりません」「政府としてコメントすべき事ではありません」「まったく問題ありません」という答え。
・日本にしかない記者クラブ、これがアクセスジャーナリズムの主要舞台となっています。いつも当局の発表を待って、それを伝えるだけの受け身なジャーナリズムを生み、権力に都合のいい情報だけを国民に伝える役割をしてしまいがちなのです。(日本では自ら調べる調査報道が弱い)。
・安倍政権お気に入りのメディア、NHK、日本テレビ、フジテレビ、読売、サンケイなどはもともと政権を敵に回すような報道はしないし、首相の単独インタビューも出来る。いわゆる安倍政権のご用メディア。(サンケイのWebサイトはネット右翼が喜ぶ記事を書くとアクセスを稼げると言っています)。
・巡航ミサイル導入が意味する国防の重大な変化=当然北朝鮮、中国は警戒する。いわゆる専守防衛ではなくなると言うこと(国民には知らせることなく始まっている)
・安倍政権による司法コンロール=沖縄基地反対問題や籠池夫妻の長期拘留、最高裁の人事・・・。
など、憂鬱になってきます。安倍政権は報道の自由や国民の知る権利の束縛をどこまでやるつもりなのか?
ピーク(堂場瞬一)
図書館13(369)13
「40歳になった2人の男、社会部の新聞記者永尾と入団後わずか1年で野球界を永久追放された幻のエース竹藤」野球賭博事件で大スクープを放った永尾も、その後はパッとせず最近は一発屋と呼ばれていた。23歳、その時が人生のピークだったのか・・・。17年の時が過ぎた、そんな永尾の目の前に殺人罪で裁かれようとしている竹藤が法廷にいた。永尾は裁判を傍聴しながら不審な点に気付き独自に取材を開始する。テーマとしては面白いのですが、少しまだるいきがします。それに何とも切なくて、2人の男にもっと救いがあってよかったのではと思います。正義として書いた記事が人の人生を(また、自分も)狂わせたり苦しめたりするものなのですね。(実際に高校野球にブローカーっているのかな?)
未来(湊かなえ)
図書館12(368)12
DV、イジメ、虐待、性的暴行など目を覆いたくなるような不幸なことがこれでもかと出てきて、読むのが辛いと思ったけど、ラストが未来への希望につながっていく(?)ところが恒例のイヤミスではありません。「ある日、10歳の章子のもとに、未来の自分からだという一通の手紙が届く。つらい境遇にある章子は、その手紙に半信半疑の思いを抱きつつ、未来の自分に向かって返事を書き始めるのですが…」 さすが湊かなえ、物語の構成が絶妙で巧いです。最近毎日のように報道されている現実がこの物語の中にはあります。『一人で抱えちゃいけない。分担すればいい。自分にとっては重い荷物でも当事者以外にとってはそれ程重くない、分ける相手がいるのなら、互いの荷物を交換し合ってもいい』 と。
戒名探偵・・(高殿円)
図書館11(367)11
タイトルは“戒名探偵 卒塔婆くん”です。何これは?という感じですが、とても興味深く面白かった。戒名でいろんなことが分かります、70年以上生きても知らないことばかり。お話しは「仏教に異様に詳しい高校生の外場くん、墓石の写真を見ただけですらすらと身元を言い当てたり、檀家のルーツ探し、お寺のイメージアップ大作戦、最後は巨大コンテンツメーカー創始者の生前戒名を巡る骨肉の遺産争い…」など謎を解き明かしていきます。戒名のルールなんて知りませんでした、『院(殿)号、道号、法号・戒名、位号』とう順番になっているそうです(ただし、浄土真宗では戒名といわず法名と言い、位号は用いない)。『薬師如来は東方に住む瑠璃光浄土に住む如来様で、反対側の西方極楽浄土に住むのが阿弥陀如来だ』

安倍官邸VS.NHK(相澤冬樹)
図書館10(366)
10
著者は“森友事件”の発覚当初から事件を追い続けたNHK大阪放送局の司法担当キャップだった。次々に特ダネをつかむも、書いた原稿は「安倍官邸とのつながり」を薄めるように書き換えられていく。ついに異動を命じられ、記者であり続けるために職を辞することに・・・。“森友事件”の実際の姿が浮き彫りになります。『この問題の本質は森友学園ではなく①国が、国有地を安値でたたき売ったこと。しかも分割払いで。②大阪府が、経営基盤の定かでない小学校を、無理矢理認可しようとしたこと。』 『国有地の格安価格は、財務省、近畿財務局の背任行為の疑いがある。ところが検察の捜査は当初こそ背任を認識していたものの、次第に詐欺優先に切り替わっていく。・・・これは大阪府も大阪市もトップは維新の会、維新と安倍官邸が近いのは周知の事実。つまり維新が訴えた詐欺事件は陽動作戦』 『森友事件とは国と大阪府の事件だ。責任があるのは、国と大阪府なのだ。国の最高責任者は安倍総理大臣。大阪府の最高責任者は松井大阪府知事である。二人には説明責任があるが、それを果たされたと思わない人は大勢いる。』 記者が真相を究明するしかないと言って著者はNHKをやめることになる。ひとつの報道番組がNHKの内部でどういう風に作られていくか(特に、安倍官邸に近い小池報道局長の 言動に問題あり)、また、検察の捜査もいかに上からの圧力があるかなど、とても興味深く読みました。政権の嘘に多くの人が騙されていることがよく分かります。なお、著者は自分のことを“真性右翼”の記者と言っています。
罪の声(塩田武士)
図書館9(365)9

1984年に発生した“グリコ・森永事件”は、戦後最大級の未解決事件として知られている。この事件をモデルにしたフィクションです。『身代金取引の声』が幼少期の自分の声であることに気づいた男性と、事件から31年後に企画された新聞社の取材に駆り出された新聞記者の2人が事件を調べていきます。少し長すぎる気もしますが面白い。このような事件、家族にとっては時効もなく残酷だと言うことに胸を打たれます。『戦後、幸福を求めては社会民主主義を標榜し、うまくいかなくなると、対極の思想を持つ政治家が国の施策をひっくり返す。そして、副作用にあえぐ国民たちの反発を鎮め、曲がりなりにも国をまとめたものは戦争だ』 いつの時代も同じです。綿密な取材によって書かれたとのこと。

フーガはユーガ(伊坂幸太郎)図書館8(364)8 whoが?youが。著者一年ぶりの新作長編。今回は双子が主人公、誕生日に瞬間移動する不思議なお話しでラストはちょっぴり切ないです。「双子の兄弟、優我と風我。父親からDVを受け絶望的な少年時代を過ごしていた2人、5歳の誕生日に突然然授かったパワー。そのパワーを持って彼らは人生を歩み始める」。児童虐待がテーマですが、さすが伊坂ワールド、サスペンス・ストーリーとしての展開の巧さで不可思議な世界へと誘ってくれます。ラスト数十ページなるとやめられません、まさに一気読み!『二人は2時間おきに体ごと入れ替わるのですが、中身が入れ替わるのではなく、体ごと物理的に入れ替わる(お互いの場所に瞬間移動する)という』がミソです。ぜひ、ご覧あれ!
スマホを落とした(志駕晃)図書館7(363)7 タイトルは最近映画にもなりましたが“スマホを落としただけなのに”です。映画は観ていませんがこういうお話しはやはり本で読む方が面白いと思います。「麻美の彼氏がタクシーの中にスマホをとしたことかがすべての始まり、拾った男はハッカー、セキュリティを丸裸にされSNSを介して段々と自分に危機が迫ってくる」 スマホをあまりにも無造作に扱う怖さを思い知らされます(私もそこまで考えていませんでした)。よくよく考えると人個人情報がすべてスマホに入っているわけですから、セキュリティのかかっていないスマホを落としたり忘れたりしたら本人だけでなく、中に登録している人の情報も筒抜けということになります、せめてパスワードくらいは設定してください。また、Facebookも怖いですね。
冥界からの電話(佐藤愛子)図書館6(362)6 『“九十歳。何がめでたい”を読んでくださった皆さまへ。この本は、私からの最後のメッセージです、ぜひ読んでください』と言うことで読みました。「これまで数々の超常現象を経験してきた著者が、友人の医師から聞き巻き込まれた不思議な出来事・・・。ある日、死んだはずの少女から電話がかかってきます。一体これは何なのか?」 “肉体は消滅しても魂は滅びることはない。死は人生の終着点ではない”と、死後の世界があるのか?または、経験した医師は病気なのか?不思議な話。95歳の著者からのメッセージ信じるか信じないか、読み手次第でしょう。『怒りや憎しみ、恨み、心配、イライラ、クヨクヨ、不平不満、人の悪口を言うなどの時は心の波動が低下する』
献灯使(多和田葉子)
図書館5(361)
5
“全米図書賞”受賞、『大震災と原発事故に見舞われた後、鎖国を続ける日本。100歳を過ぎても健康な老人と、学校まで歩く体力もない子どもたち・・』 デストピア文学の傑作とありました。表題作の他、5編が収録。次の震災後放射能汚染された我が国はこんなになるんでしょうか?(10年後・50年後が怖い)政府さえ民営化されていて問題に対処できない、 現実の日本の末路を 描いています。2014年に刊行、現実に希望はあるのか?読みこなすには少々難解ですが、最終的には言いたいことはこうなんだと分かってきます。『生きのびる方法は日本を離れることだ。この列島にはもう住むことが出来ない。頭をかち割られた原発という名前の怪物の怒りは、この先何千年も人間の肌を焼き続けるだろう』
家族の言い訳(森浩美)
図書館4(360)4
2006年に刊行された本、売れています。著者は作詞家です。“夫が蒸発した妻、妻に別れを切り出された夫、母に捨てられた息子、死期が迫る母.・・・”など八つのお話し、著者が「薄情で軽薄な世の中になったとはいえ、華族との絆は深く重く、そして厄介で面倒な代物ある。淡々とした悲しみや切なさ、ささやかな幸せの確認。そんな場面を切りとってみたかった」と述べています。人生の一部分を切りとった短い話しばかりなのですが、さすがに作詞家です。コピーに『上を向いて読んでください。涙がこぼれてしまいます』 とありましたがホント!特に“おかあちゃんの口紅”には参りました。『人は死んだ後、善人は天国へ悪人は地獄へ行くと申しますでしょう。でも私はどんな人も天国へ行くのだと思います』 。
雪の階
(奥泉光)

図書館3(359)3
階=“きざはし”と読みます、第31回柴田錬三郎賞を受賞。「二・二六事件の前年。華族の娘・惟佐子は親友の心中事件に疑問を抱き、新米カメラマンの牧村千代子と共に、ドイツ人ピアニスト、新聞記者、兄である軍人も絡まりながら真相を追う」 ミステリーロマンです。松本清張を思わせる話しの運びに引き込まれます。天皇機関説をめぐる華族と軍部の対立、ドイツや日本における民族至上主義的な言説、心霊音楽協会、神的人種、霊視能力などオカルト的な要素も、少し冗長過ぎるところもありますが、ラストの二・二六事件まで一気に読ませます。『軍隊が存在感を増すために戦争をされちゃかなわないわ』 『戦争が国民を創成していく、戦争が人民大衆をして国民に鍛え上げていく』 と、怖いです!
神の火
(高村薫)

図書館2(358)2
本書は1991年に刊行、その後全面的に改稿されたものですが、この時代に原子力の怖さを描いていたのですね。「元・原発技師が福井の原発を武力占拠して圧力容器のフタを開けて禁断の神の火を外界に解き放つ」という衝撃的な話しですが、当時は安全神話の中にある原発、荒唐無稽と取られたのでは・・・。と思いますが綿密な取材と知識には圧倒されます。ソ連、アメリカ、北それに日本政府が絡み事件の裏にあるものが見えにくい。高村作品は苦行を伴うと言われますが読み終えた時の感慨はすごいです。『事故は百万分の一の確率であっても、起ったら最後なのだから、故障もテロも、事故は事故だ』 現実に地震でメルトダウンしたのですから、ホントの怖さを私たちは分かっていないのでは?
浮世の画家(カズオ・イシグロ)図書館1(357)1 1987年ウイットブレッド賞を受賞。終戦から数年経った日本を舞台に、高名な初老の画家の生活を綴りながら、人の心の弱さや思い違いから生まれる悲劇や日常をを描いています。「戦時中、日本精神を鼓舞する画風で名をなした芸術家の小野。弟子たちに囲まれ、大いに尊敬を集める身分だったが、終戦を迎えたとたん周囲の目は冷たくなった・・・」読むほどにじっくりと伝わってきます。『過去の人生を振り返り、そこに傷があるのを見て、いまだにくよくよ気に病んでいるのは俺たちみたいな人間だけだよ』 著者は小津安二郎や成瀬巳喜男といった1950年代の日本映画のような、穏やかな家族ドラマを描いてみたかったそうです。今年年3月にNHKでドラマ化、 BS8KおよびNHK総合で放送されるそうです。

2019年book ランキング 
 1 位 宝島 (HERO’ ISLAND)
 2 位 マチネの終りに
 3 位 ある男
 4 位 小説日本婦道記
 5 位 柳橋物語/むかしも今も
 6 位 さざなみのよる
 7 位 平場の月
 8 位 トリガー(上・下)
 9 位 (1)イベリアの雷鳴 (2)遠ざかる祖国 (3)燃える蜃気楼
(4)暗い国境線 (5)鎖された海峡(6)暗殺者の森)
(7)さらばスペインの日日 (総ページ数:4154ページ)
10 位 我らが少女A
11 位 あしたの君へ
12 位 あれよ星屑1~7(漫画)
13 位 とめどなく囁く
14 位 思わず考えちゃう
15 位 旧友再会
16 位  海の見える理髪店
17 位 献灯使
18 位 検事の信義
19 位 ファーストラヴ
20 位 父からの手紙
21 位 まるまるの毬
22 位 亥子ころころ
23 位 引き抜き屋1 引き抜き屋2
24 位 このあたりの人たち
25 位 とっても不幸な幸運
26 位 警官の貌
27 位 ノースライト
28 位 無実はさいなむ
29 位 あちらにいる鬼
30 位 神の火
31 位 KID(キッド)
32 位 国宝
33 位 坂の途中の家
34 位  ニワトリは一度だけ飛べる
35 位 傲慢と善良
36 位 民王
37 位 ゆけ、おりょう
38 位 インソムニア
39 位  木曜日の子ども
40 位 浮き世の画家
41 位 帰去来
42 位 Kの日々
43 位 家族の言い訳
44 位 未来
45 位 罪の声
46 位 壁の男
47 位 I の悲劇 
48 位 雪の階
49 位 果鋭
50 位 機捜235
51 位 笑えシャイロック
52 位 信州・善光寺殺人事件
53 位 戒名探偵卒塔婆くん
54 位 ピーク
55 位 フーガはユーガ
56 位 スマホを落としただけなのに
57 位 冥界からの電話
  関西電力「反原発町長」暗殺指令
  9月1日 母からのバトン
  自由思考
   令和を生きる
  一切なりゆき
  対談 戦争とこの国この国の150年
  沈黙する教室
  安倍政権100のファクトチェック
  ※ 権力と新聞の大問題
  安倍官邸VS.NHK
※ノンフィクションはランキングから外しています。